9 / 44
9
しおりを挟む
「ん……」
すべすべした肌触りに、全身が包まれている。
丸まっていた手足が、のびのびと開いていく。
指の先にも、つま先にも、なめらかな感触。
「シエル?」
「ふぇ……」
名前を呼ばれ、目を開ける。
心配そうな深緑の瞳が、俺の顔を見つめている。
「ああ、気がついたね。気分はどう?悪くない?」
「あ、あ、だだ、大丈夫、です」
「よかった」
シルヴァンの唇が、ゆるく弧を描いた。
あ……、さ、さっき、キスされた、くちびる。
妙に意識してしまって、どきまぎと目を逸らす。
その視線の動きに気がついたシルヴァンが、やんわらと言った。
「すまなかった。倒れたのは私のせいだね」
「あ、えぁ、ごめ、なさ、あの、慣れてなくて、ああいう、の」
「うん」
馬鹿にするふうでもなく、シルヴァンはうなずく。
あー……勢いで、しなくていい童貞の告白をしてしまったことを思い出す。……俺はアホだ。
「水を。飲めるかい?」
シルヴァンはガラスの水差しから水をそそぎ、俺にグラスを手渡した。一連の動作が、流れるように優美だ。
水を汲む、という何の変哲もない動きにさえ、品の良さが漂う。
話し方も、穏やかなのに芯があって、俺みたいな挙動不審者にも動じることがない。
着ているものだって高そうだし、価値がありそうなアクセサリーもつけている。
俺は広いベッドに寝かされていた。起き上がって、指に七色にきらめくリングが嵌まった手からグラスを受け取った。
口の中でもごもごと礼を述べる。
グラスの中身はびっくりするくらい透明だった。
まるで、何も入っていないみたいだ。
おかしな薬とか、入ってないよな?
疑いつつも、恐る恐る口をつける。
水は冷たくて、おいしかった。
喉から一直線に、体の中に落ちていく。そして、全身に染みこんでいく。
あっというまに飲み終えて、息を吐く。
「もっと飲む?」
「は、い、もう一杯、ください」
再び優雅なしぐさで渡された水を、俺は喉を鳴らして飲んだ。
ゴクゴクゴク。こんなに夢中になって水を飲むなんて、初めてだなあと思う。
シルヴァンは柔和な表情で、俺を見ている。
ただ見ている、というより、見守られている、気がする。
俺の勘違いかもしれないけど、そうだったら、ちょっと嬉しい、とか思ってしまう。
シルヴァンのことを疑う気持ちが消えたわけじゃないのに、頼りたいような、甘えたいような気持ちも混ざっている。
なんか、変な感じ。でも、嫌な感じじゃ、ない。
すべすべした肌触りに、全身が包まれている。
丸まっていた手足が、のびのびと開いていく。
指の先にも、つま先にも、なめらかな感触。
「シエル?」
「ふぇ……」
名前を呼ばれ、目を開ける。
心配そうな深緑の瞳が、俺の顔を見つめている。
「ああ、気がついたね。気分はどう?悪くない?」
「あ、あ、だだ、大丈夫、です」
「よかった」
シルヴァンの唇が、ゆるく弧を描いた。
あ……、さ、さっき、キスされた、くちびる。
妙に意識してしまって、どきまぎと目を逸らす。
その視線の動きに気がついたシルヴァンが、やんわらと言った。
「すまなかった。倒れたのは私のせいだね」
「あ、えぁ、ごめ、なさ、あの、慣れてなくて、ああいう、の」
「うん」
馬鹿にするふうでもなく、シルヴァンはうなずく。
あー……勢いで、しなくていい童貞の告白をしてしまったことを思い出す。……俺はアホだ。
「水を。飲めるかい?」
シルヴァンはガラスの水差しから水をそそぎ、俺にグラスを手渡した。一連の動作が、流れるように優美だ。
水を汲む、という何の変哲もない動きにさえ、品の良さが漂う。
話し方も、穏やかなのに芯があって、俺みたいな挙動不審者にも動じることがない。
着ているものだって高そうだし、価値がありそうなアクセサリーもつけている。
俺は広いベッドに寝かされていた。起き上がって、指に七色にきらめくリングが嵌まった手からグラスを受け取った。
口の中でもごもごと礼を述べる。
グラスの中身はびっくりするくらい透明だった。
まるで、何も入っていないみたいだ。
おかしな薬とか、入ってないよな?
疑いつつも、恐る恐る口をつける。
水は冷たくて、おいしかった。
喉から一直線に、体の中に落ちていく。そして、全身に染みこんでいく。
あっというまに飲み終えて、息を吐く。
「もっと飲む?」
「は、い、もう一杯、ください」
再び優雅なしぐさで渡された水を、俺は喉を鳴らして飲んだ。
ゴクゴクゴク。こんなに夢中になって水を飲むなんて、初めてだなあと思う。
シルヴァンは柔和な表情で、俺を見ている。
ただ見ている、というより、見守られている、気がする。
俺の勘違いかもしれないけど、そうだったら、ちょっと嬉しい、とか思ってしまう。
シルヴァンのことを疑う気持ちが消えたわけじゃないのに、頼りたいような、甘えたいような気持ちも混ざっている。
なんか、変な感じ。でも、嫌な感じじゃ、ない。
20
お気に入りに追加
2,842
あなたにおすすめの小説
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について
いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。
ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎
美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる