地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる

冷凍湖

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「ん……」

すべすべした肌触りに、全身が包まれている。
丸まっていた手足が、のびのびと開いていく。
指の先にも、つま先にも、なめらかな感触。

「シエル?」
「ふぇ……」

名前を呼ばれ、目を開ける。
心配そうな深緑の瞳が、俺の顔を見つめている。

「ああ、気がついたね。気分はどう?悪くない?」
「あ、あ、だだ、大丈夫、です」
「よかった」

シルヴァンの唇が、ゆるく弧を描いた。
あ……、さ、さっき、キスされた、くちびる。
妙に意識してしまって、どきまぎと目を逸らす。
その視線の動きに気がついたシルヴァンが、やんわらと言った。

「すまなかった。倒れたのは私のせいだね」
「あ、えぁ、ごめ、なさ、あの、慣れてなくて、ああいう、の」
「うん」

馬鹿にするふうでもなく、シルヴァンはうなずく。
あー……勢いで、しなくていい童貞の告白をしてしまったことを思い出す。……俺はアホだ。

「水を。飲めるかい?」

シルヴァンはガラスの水差しから水をそそぎ、俺にグラスを手渡した。一連の動作が、流れるように優美だ。
水を汲む、という何の変哲もない動きにさえ、品の良さが漂う。
話し方も、穏やかなのに芯があって、俺みたいな挙動不審者にも動じることがない。
着ているものだって高そうだし、価値がありそうなアクセサリーもつけている。
俺は広いベッドに寝かされていた。起き上がって、指に七色にきらめくリングが嵌まった手からグラスを受け取った。
口の中でもごもごと礼を述べる。
グラスの中身はびっくりするくらい透明だった。
まるで、何も入っていないみたいだ。
おかしな薬とか、入ってないよな?
疑いつつも、恐る恐る口をつける。
水は冷たくて、おいしかった。
喉から一直線に、体の中に落ちていく。そして、全身に染みこんでいく。
あっというまに飲み終えて、息を吐く。

「もっと飲む?」
「は、い、もう一杯、ください」

再び優雅なしぐさで渡された水を、俺は喉を鳴らして飲んだ。
ゴクゴクゴク。こんなに夢中になって水を飲むなんて、初めてだなあと思う。
シルヴァンは柔和な表情で、俺を見ている。
ただ見ている、というより、見守られている、気がする。
俺の勘違いかもしれないけど、そうだったら、ちょっと嬉しい、とか思ってしまう。
シルヴァンのことを疑う気持ちが消えたわけじゃないのに、頼りたいような、甘えたいような気持ちも混ざっている。
なんか、変な感じ。でも、嫌な感じじゃ、ない。
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