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シルヴァンも同じようなことを考えたらしい。
シンプルすぎる俺の服を不思議そうに眺め、「異国から来た子なのかな」とひとりごとのようにつぶやいた。
俺はあいまいに首をかしげる。
異国……?でも、言葉は通じるし。てか、その前に俺、死んだはずだし。
「ところで、シエル。きみはどうやってここへ?屋敷の人間でなければ、入れないはずの場所だけれど」
「あ……、えぇ、と、お、俺も、分からなくて、じ、事故……に遭って、死んだはず?なんです、けど、気がついたら、ここにいた、ってゆうか。は、入っちゃいけない場所、だったんですね。すみませ、」
「……かわいそうに。混乱しているんだね」
「へ」
混乱は、確かにしている。
けど、俺、かわいそう、なの?
「泣かなくていいんだよ、シエル。大丈夫、謝らなくていい。咎めているのではないんだよ。落ち着いて、深呼吸してごらん」
「ぁ……え、えぅ……っ」
シルヴァンに言われて、初めて自分が泣いていることに気づいた。
気づいたら、止まらなくなった。
目から涙が勝手にあふれてくる。きっと、今までで一番大粒の涙だ。
ぼろぼろ。ぼろぼろ。こぼれる。
なんで泣いているのか分からない。
死んだはずなのに生きていたから?知らない場所に来てしまったから?
……違う。
優しくしてくれるから。シルヴァンが、俺に優しいからだ。
こうやって、誰かに優しくされるなんて、何年ぶりだろう。
泣いたのだって、久しぶりだ。
無感情に生きてきた。そうしないと壊れてしまいそうだったから。
涙なんてめったに出ないし、ましてや、優しくされて、……嬉しくて泣くなんて、きっと、初めてだ。
「シ、ルヴァン……」
気がつけば、俺は出会ったばかりの男にしがみついていた。
こんな俺でも、この人なら受け止めてくれるんじゃないかと思った。でも、勝手な幻想なんだろうと思ったりもした。
振りほどかれて、迷惑そうにされる、そういう場面が想像できたのに、止められなかった。
だけど、シルヴァンは俺を突き放したりはしなかった。それどころか、抱きしめて頭を撫でてくれる。
「シエル……。大丈夫、大丈夫だよ。よしよし、何があったのか、事情は分からないが、怖かったんだね。平気だよ。もう、怯えなくていい。泣かなくていいんだよ」
ちがう、怖くて泣いてるんじゃない。嬉しくて……。
そう言いたかったけど、ただでさえコミュ力に問題を抱える俺が、泣きながらそれを伝えるのは難しかった。
シルヴァンは、よしよし、いいこいいこ、と耳もとで繰り返した。
子どものようにあやされて、情けないのに、それも嬉しかった。
会話だとか人肌的なものが、俺は恋しくてしかたなかったのかもしれない。コミュ障と童貞を拗らせすぎた結果か?
いくら美形でも、シルヴァンは男なのに……。
けど、あったかくて、いい匂いがして、離れがたい。
その体温が、もっともっと欲しくなる。
シンプルすぎる俺の服を不思議そうに眺め、「異国から来た子なのかな」とひとりごとのようにつぶやいた。
俺はあいまいに首をかしげる。
異国……?でも、言葉は通じるし。てか、その前に俺、死んだはずだし。
「ところで、シエル。きみはどうやってここへ?屋敷の人間でなければ、入れないはずの場所だけれど」
「あ……、えぇ、と、お、俺も、分からなくて、じ、事故……に遭って、死んだはず?なんです、けど、気がついたら、ここにいた、ってゆうか。は、入っちゃいけない場所、だったんですね。すみませ、」
「……かわいそうに。混乱しているんだね」
「へ」
混乱は、確かにしている。
けど、俺、かわいそう、なの?
「泣かなくていいんだよ、シエル。大丈夫、謝らなくていい。咎めているのではないんだよ。落ち着いて、深呼吸してごらん」
「ぁ……え、えぅ……っ」
シルヴァンに言われて、初めて自分が泣いていることに気づいた。
気づいたら、止まらなくなった。
目から涙が勝手にあふれてくる。きっと、今までで一番大粒の涙だ。
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なんで泣いているのか分からない。
死んだはずなのに生きていたから?知らない場所に来てしまったから?
……違う。
優しくしてくれるから。シルヴァンが、俺に優しいからだ。
こうやって、誰かに優しくされるなんて、何年ぶりだろう。
泣いたのだって、久しぶりだ。
無感情に生きてきた。そうしないと壊れてしまいそうだったから。
涙なんてめったに出ないし、ましてや、優しくされて、……嬉しくて泣くなんて、きっと、初めてだ。
「シ、ルヴァン……」
気がつけば、俺は出会ったばかりの男にしがみついていた。
こんな俺でも、この人なら受け止めてくれるんじゃないかと思った。でも、勝手な幻想なんだろうと思ったりもした。
振りほどかれて、迷惑そうにされる、そういう場面が想像できたのに、止められなかった。
だけど、シルヴァンは俺を突き放したりはしなかった。それどころか、抱きしめて頭を撫でてくれる。
「シエル……。大丈夫、大丈夫だよ。よしよし、何があったのか、事情は分からないが、怖かったんだね。平気だよ。もう、怯えなくていい。泣かなくていいんだよ」
ちがう、怖くて泣いてるんじゃない。嬉しくて……。
そう言いたかったけど、ただでさえコミュ力に問題を抱える俺が、泣きながらそれを伝えるのは難しかった。
シルヴァンは、よしよし、いいこいいこ、と耳もとで繰り返した。
子どものようにあやされて、情けないのに、それも嬉しかった。
会話だとか人肌的なものが、俺は恋しくてしかたなかったのかもしれない。コミュ障と童貞を拗らせすぎた結果か?
いくら美形でも、シルヴァンは男なのに……。
けど、あったかくて、いい匂いがして、離れがたい。
その体温が、もっともっと欲しくなる。
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