【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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第二、第三部番外編

エリオスの恋⑥

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 給仕の振りをしつつ、会場を見て回る。令嬢たちのドレスは緑、装飾品もエメラルドや翡翠が多く、会場全体が緑に染まったように見えた。エリオスの気を引きたいと思っていることは確実だ。彼の髪では喪服のようになってしまうから皆、緑を選んだのだろうが、むしろ周囲に溶け込んで目立たなくなってしまっている。


 リンジー伯爵令嬢は、友人らしき令嬢たちと会話に花を咲かせていた。今日の彼女は薄紫のドレスを着て、派手すぎない化粧をし、視察時よりグッと大人びた印象になっている。それでいてケバケバしい感じは無く、スレンダーな彼女の良さを引き立てていた。


「エリオス・ハルティア第一王子殿下、ご入場です。」


 エリオスの入場が告げられると、途端に令嬢たちが目の色を変えた。エリオスはデビュタントのために仕立てたタキシードを身にまとい、堂々たる様子で入場する。それはまるで、絵画に残る若かりし頃の父様のようだった。

 狙いの登場とあり、令嬢たちは一斉にエリオスの方へと足を進める。彼はあっという間に囲まれた。皆が緑に身を包んでいるので、遠目から見ると緑の塊のように見える。令嬢たちの狙いは、婚約者のいないエリオスのファーストダンスの相手を務めることだろう。初めての夜会であるデビュタントのファーストダンスは、正真正銘の「ファースト」である。その相手となれば、どれほどの名誉かわからない。

 ややげんなりした様子のエリオスは、令嬢たちに笑顔を振りまく。あれは完璧に愛想笑いだ。

 令息たちは苦々しい顔でエリオスを見つめている。エリオス自身も、薄紫色の令嬢のことは気がついているようだが、中々そちらに向かうことができない。

 私は歯がゆく思いながら、作戦を立てるためにフォルカーと落ち合わせた。

「どうすれば、エリオスとリンジー伯爵令嬢を自然に二人にできるのかしら?」
「それは……難しいね」

フォルカーの言う通り、王子と伯爵令嬢が「自然に」、つまり偶然的に二人きりになることは難しい。しかしそうでなければ、王子の気を引く者としてリンジー伯爵令嬢はやっかみの対象となってしまう。それが本意でないからこそ、エリオスは彼女に近づけないのだ。




「もし二人きりになっても、周りに誰もいなかったとしたら、どうかしら?」
「それならバレないね。けど、どうやって?」

 ある一つのアイデアが浮かび、フォルカーに相談してみる。後で怒られるかもしれないが、やってみる価値はある。

「相変わらずの発想だね、エレノア。」
「褒め言葉として受け取っておくわ。」


 私の考えた作戦。それはズバリ、二人を誘導してしまうというものだ。

 まず、リンジー伯爵令嬢に飲み物を渡す。その時、メモを忍ばせておいた。『庭園で待っていてほしい』というものだ。
 次に、私とフォルカーでそれとなくエリオスに近づき、こう言う。
『シエラお嬢様はどこへ?』
『休憩と言って庭園を見に行かれたよ。パーティー会場から離れてしまうから、心配だ。』
幸い、令嬢たちはエリオスの目に留まろうと前に立ち塞がっているのみだったので、後ろからなら難なく近づけた。

 あとは二人次第だ。
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