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第二、第三部番外編
エリオスの恋②
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数日かけていくつかの領地をまわり、被害の状況を確認する。雨による洪水と土砂崩れにより、家屋や農地、人が飲み込まれていた。その影響で食料や資材の不足が顕著に現れ、民の不安も大きい。おおむね報告書通りの被害だったが、それは膨大な民が苦しんでいることも同時に証明する事になる。訪問した際、その場で持ち込んだ食料などは配ったが、それだけでは足りない。それぞれ私が思う支援を書き記し、エリオスと意見を交し、最終的な支援を決定。あとは、それをできるだけ早く届けさせる。
視察四日目、今日はリンジー伯爵領に訪れた。ここは怪しいと睨んでいた地でもある。伯爵領は三つの河川の合流地点なので、洪水の被害は容易に想像できる。しかし、嘆願書はおろか支援要請の一つも来ていなかった。領主が状況を把握できていないのか、後暗いことがあるのかもしれないと考えるのは当然だった。中央には閉鎖的な風潮のある西部の情報は入ってきにくい。そこで、視察の出番となる。
しかし、私の予想はいい意味で裏切られた。足を踏み入れた伯爵領には、ほとんど被害が無かったのだ。山地ではないので土砂崩れが無いのはもちろん、件の川も平静を保っている。民たちに話を聞いてみると、豪雨時は焦ったものの、今は普通の暮らしができているそうだ。特段「言わされている」雰囲気も無く、真実味を感じさせる。
だからこそ、わからなかった。何故ここまで被害が小さかったのか。
私たちはそれを明らかにするため、リンジー伯爵邸を訪れた。伯爵位を持つ貴族であれば一般的な規模の屋敷から、男性が出迎えに現れた。リンジー伯爵だ。隣には娘らしき女性がいる。
「よ、ようこそおいでくださいました。王太女殿下、王子殿下。」
「突然の訪問を快く受け入れてくださり、感謝します。」
リンジー伯爵は王族の突然の来訪に緊張した雰囲気で、私たちに接した。しかし隣のご令嬢は違う。立ち振る舞いや雰囲気、要は何となくだけれど、そう感じた。
「こちらは、娘のシエラです。」
「お初にお目にかかります。シエラ・リンジーと申します。」
リンジー伯爵令嬢は優雅なカーテシーを見せる。いっそ父親より堂々としたその姿は、私たちの目には好意的に感じられた。
「こ、此度はどのようなご要件でしょうか?何か不手際がございましたでしょうか…?」
「いいえ、むしろ賞賛すべきことがあります。」
不手際でなかったことを知り、伯爵はあからさまに安心した様子を見せた。ここまで感情が表に出る貴族も珍しい。至極冷静な娘が隣にいるせいで、余計にそれが際立っている。
「今回、西部で起こった豪雨災害。他の領地は大きな被害が生じましたが、この地はほとんど被害が出ていません。それは何故なのでしょうか?」
私は問いかける。すると、伯爵は固まり、次いで焦り始めた。
「そ、それはですね……」
「どうされました?」
災害に強い領作りは賞賛に値する。しどろもどろになる彼に、私は疑念を込めてもう一度聞いた。
「何故、伯爵領はここまで被害を抑えられたのでしょうか?」
伯爵はやはり答えない。しかし変わって、口を開いた人物がいた。
「そちらについては、私から説明させていただきます。」
シエラ・リンジー伯爵令嬢だった。
視察四日目、今日はリンジー伯爵領に訪れた。ここは怪しいと睨んでいた地でもある。伯爵領は三つの河川の合流地点なので、洪水の被害は容易に想像できる。しかし、嘆願書はおろか支援要請の一つも来ていなかった。領主が状況を把握できていないのか、後暗いことがあるのかもしれないと考えるのは当然だった。中央には閉鎖的な風潮のある西部の情報は入ってきにくい。そこで、視察の出番となる。
しかし、私の予想はいい意味で裏切られた。足を踏み入れた伯爵領には、ほとんど被害が無かったのだ。山地ではないので土砂崩れが無いのはもちろん、件の川も平静を保っている。民たちに話を聞いてみると、豪雨時は焦ったものの、今は普通の暮らしができているそうだ。特段「言わされている」雰囲気も無く、真実味を感じさせる。
だからこそ、わからなかった。何故ここまで被害が小さかったのか。
私たちはそれを明らかにするため、リンジー伯爵邸を訪れた。伯爵位を持つ貴族であれば一般的な規模の屋敷から、男性が出迎えに現れた。リンジー伯爵だ。隣には娘らしき女性がいる。
「よ、ようこそおいでくださいました。王太女殿下、王子殿下。」
「突然の訪問を快く受け入れてくださり、感謝します。」
リンジー伯爵は王族の突然の来訪に緊張した雰囲気で、私たちに接した。しかし隣のご令嬢は違う。立ち振る舞いや雰囲気、要は何となくだけれど、そう感じた。
「こちらは、娘のシエラです。」
「お初にお目にかかります。シエラ・リンジーと申します。」
リンジー伯爵令嬢は優雅なカーテシーを見せる。いっそ父親より堂々としたその姿は、私たちの目には好意的に感じられた。
「こ、此度はどのようなご要件でしょうか?何か不手際がございましたでしょうか…?」
「いいえ、むしろ賞賛すべきことがあります。」
不手際でなかったことを知り、伯爵はあからさまに安心した様子を見せた。ここまで感情が表に出る貴族も珍しい。至極冷静な娘が隣にいるせいで、余計にそれが際立っている。
「今回、西部で起こった豪雨災害。他の領地は大きな被害が生じましたが、この地はほとんど被害が出ていません。それは何故なのでしょうか?」
私は問いかける。すると、伯爵は固まり、次いで焦り始めた。
「そ、それはですね……」
「どうされました?」
災害に強い領作りは賞賛に値する。しどろもどろになる彼に、私は疑念を込めてもう一度聞いた。
「何故、伯爵領はここまで被害を抑えられたのでしょうか?」
伯爵はやはり答えない。しかし変わって、口を開いた人物がいた。
「そちらについては、私から説明させていただきます。」
シエラ・リンジー伯爵令嬢だった。
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