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第二、第三部番外編
エリオスの恋①
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「そろそろエリオスにも婚約者が必要じゃないかしら?」
ある晴れの日、私は弟にそう聞いてみた。エリオスはと言うと、顔色ひとつ変えずに定型文を返す。
「良い方が見つかったら考えます。」
けれど、そろそろこの定型文も限界だろう。なんせ私が王太女に就任してからはや一年、エリオスも来年には成人が迫っている。
「いつまでもそれでは通用しないわよ。父様も母様もそろそろかと言っていたもの。」
やはり翡翠の瞳は揺らがない。この年頃なら、女性にあんなことやこんなことをしたい欲求が出てくるものじゃないのだろうか。小説なら身分を隠した王子とご令嬢が仮面舞踏会で一夜の過ちを……
「姉上、何か変なことを考えてませんか?」
「あ、バレた?」
大人びた弟は本当に観察眼が鋭い。
「エリオスはどんな女性が好みなの?」
「特にありませんね。」
「いやいや、少しくらいはあるでしょう?」
「………いえ」
困ったことに、エリオスはこの手の話になると、元々多いと言えない口数を更に減らしてしまう。単純に興味が無いのだろうか。
その後もエリオスの鉄壁の防御を崩すことはできず、お茶会はお開きとなった。
数日後、私とエリオスは父様から命を受けた。それは、王国西部の視察だった。
「先日の豪雨災害ですか?」
私が尋ねると、父様は満足そうに頷く。先日、西部広域が豪雨に見舞われ、大きな被害が出たと聞いている。
「その通り。その影響で、西部の各領地から色々と嘆願書が届いている。」
父様から受け取った嘆願書に目を通す。領地の被害を受け、税の減額や支払い延期、復興のための援助などの願いが多く寄せられている。
「だが、この混乱に乗じて不当に援助を受けようとする者がいるかもしれない。そこで、二人には西部の視察に赴き、援助の内容を定めてほしい。」
援助が少ないと民は救われないが、過度に多いと適正に使われない、かもしれない。どうやら私とエリオスの政治手腕を試すようだ。けれど、一歩間違えば王家の信頼を揺るがしてしまう。それだけ信用しているということなのか、圧力なのか。わからないけれど、全力を尽くすことに変わりはない。
「謹んで、お受け致します。」
隣でエリオスも引き受ける。こうして、私たちの西部視察は決定したのだった。
ハルティア王国西部は、険しい山々が広がっている。そのせいで水害だけでなく土砂崩れが多発し、被害は拡大した。今回の視察ではとくに被害の大きかった領地を重点的にまわることになっている。
馬車の窓が西部を写し出す。所々山肌は崩れ、木々は倒れている。民の顔も元気が無い。豪雨の爪痕が残された景色は、私の心を痛ませた。拳を握りしめ、必ず正しい援助を送ると決意した。
ーーーー
お久しぶりです。落ち着いていたのでまた更新を再開します。番外編完結までよろしくお願いします。
ある晴れの日、私は弟にそう聞いてみた。エリオスはと言うと、顔色ひとつ変えずに定型文を返す。
「良い方が見つかったら考えます。」
けれど、そろそろこの定型文も限界だろう。なんせ私が王太女に就任してからはや一年、エリオスも来年には成人が迫っている。
「いつまでもそれでは通用しないわよ。父様も母様もそろそろかと言っていたもの。」
やはり翡翠の瞳は揺らがない。この年頃なら、女性にあんなことやこんなことをしたい欲求が出てくるものじゃないのだろうか。小説なら身分を隠した王子とご令嬢が仮面舞踏会で一夜の過ちを……
「姉上、何か変なことを考えてませんか?」
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大人びた弟は本当に観察眼が鋭い。
「エリオスはどんな女性が好みなの?」
「特にありませんね。」
「いやいや、少しくらいはあるでしょう?」
「………いえ」
困ったことに、エリオスはこの手の話になると、元々多いと言えない口数を更に減らしてしまう。単純に興味が無いのだろうか。
その後もエリオスの鉄壁の防御を崩すことはできず、お茶会はお開きとなった。
数日後、私とエリオスは父様から命を受けた。それは、王国西部の視察だった。
「先日の豪雨災害ですか?」
私が尋ねると、父様は満足そうに頷く。先日、西部広域が豪雨に見舞われ、大きな被害が出たと聞いている。
「その通り。その影響で、西部の各領地から色々と嘆願書が届いている。」
父様から受け取った嘆願書に目を通す。領地の被害を受け、税の減額や支払い延期、復興のための援助などの願いが多く寄せられている。
「だが、この混乱に乗じて不当に援助を受けようとする者がいるかもしれない。そこで、二人には西部の視察に赴き、援助の内容を定めてほしい。」
援助が少ないと民は救われないが、過度に多いと適正に使われない、かもしれない。どうやら私とエリオスの政治手腕を試すようだ。けれど、一歩間違えば王家の信頼を揺るがしてしまう。それだけ信用しているということなのか、圧力なのか。わからないけれど、全力を尽くすことに変わりはない。
「謹んで、お受け致します。」
隣でエリオスも引き受ける。こうして、私たちの西部視察は決定したのだった。
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馬車の窓が西部を写し出す。所々山肌は崩れ、木々は倒れている。民の顔も元気が無い。豪雨の爪痕が残された景色は、私の心を痛ませた。拳を握りしめ、必ず正しい援助を送ると決意した。
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お久しぶりです。落ち着いていたのでまた更新を再開します。番外編完結までよろしくお願いします。
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