【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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第二、第三部番外編

異端⑤

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 桃色の光は私の周囲を舞う。ふわりふわり、掴めそうで掴めない。それを追いかけると、もっと大きな光にたどり着いた。いつの間にか暗闇も消えている。眩しさに目を細めると、桃色の光は私の額に向け直進する。

 すると、大きな光から声が響いてきた。

「シンシア」

落ち着いた、この世の全てを把握しているような、そんな声だった。

「我が愛し子と、愛し子の大切な人間を、救っておくれ。」

断れなかった。否、自然と身体が「はい」と承諾していた。有無を言わさず、それでいて自然と従ってしまう、そんな声。目の前のそれがただの光でないことは分かりきっているのに、それすら詮索する言葉は出てこなかった。
 そもそも、愛し子とは誰だろう。この光が愛する、人。光は人間なのだろうか。

「愛し子とは、聖女クレアのことだ。君の祖国で、陰謀に巻き込まれている。」

 聖女
 久しぶりに聞いた言葉だった。祖国グレシアナで生誕を望まれる、創造神シアンの愛し子。ならばこの光は…


「本来なら干渉はご法度。だが、愛し子たっての望みだ。叶えてやろうと、そなたを呼んだ。」

そう言うと、先程の光が私の額に向け直進する。穏やかな温度を感じると、私の脳内に一気に情報が駆け巡った。

 それは、聖女クレアの生き様だった。

 教皇の養女になり、淑女になり、悪意を知った。国のために身を砕き、そして恋を知った。

 彼女はいつも笑っていた。
 けれど今は、苦しんでいた。創造神様によると、旧聖堂だと言う場所に閉じ込められていた。

 そんな彼女の隣にいたのは、レイだった。彼女もまた、苦しみを乗り越え、愛する人と共に歩もうとしていた。

 その光景に、私は心を揺さぶられた。異端な私の血を受け継いでなお諦めず、必死に、幸せを掴み取る姿勢。そうして得た幸福を、守ってあげなければならない。そう思った。

「干渉は最低限しか許されない。だから導いておくれ、愛し子たちが愛した者たちを。」

今度はきちんと自分の意思で言うことができた。

「創造神様の仰せのままに。」

 すると、身体が光に包まれた。ふと目を開けると、馬車が目の前に迫っていた。急いで停止したそれから、二人の青年が降りてくる。一人は兄に似た雰囲気をした金髪青眼の青年で、もう一人は思慮深い風体をした黒髪碧眼の青年だった。どちらも記憶の中にあった彼女たちの恋人と合致する。

 私がするべきことはただ一つ。レイと聖女クレアの元に二人を導くこと。しかも誘拐犯に気づかれないようにする。そのためには、隠し通路を使うのがいいだろう。王族の教育を受けていて、本当に良かった。
 彼らは王族という尊い身でありながら、未知の道にも果敢に入っていく。それだけ彼女たちを愛しているということだろう。羨ましい反面、もう惨めにはならなかった。私しか守れない、異端な私でも誰かを救える。そうわかったから。

 薄暗かった通路に光が差し込む。それは任務終了の報せだった。

 若き王族たち、これから彼女たちをよろしくね。大切にしてあげてね。

 身体が段々薄くなり、意識が遠のいていく。霧散していく。けれど不思議と、よく眠れそうな気がした。













ーーーーーーー
<お知らせ>
 番外編「異端」は終了となります。
 ですがここで、一旦作品の更新をお休みさせていただきます。更新頻度が激落ちしているのでお察しの方もいらっしゃると思いますが、実生活が忙しくてあまり時間が無いんです……リクエストも答えていないのにすみません。
 再開は七月中旬を予定していますが、前後する可能性もあります。ひとまずリアルの方を一区切りつけてからにしたいと思っていますので、ご理解いただけると幸いです。
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