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第二、第三部番外編

異端④

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 身体がふわふわとしている。重力に逆らって浮いている感覚はどこか心地がいいようで違和感がある。あれからどれだけの時間が流れたのだろうか。


……眠たい
 このまま目を閉じ、眠りについてしまえば、楽になれるのだろう。悲しみも苦しみも無くなるのだろう。


 その時、目の前の景色が切り替わった。
 広がるのは、最期を過ごした伯爵邸。けれど伯爵邸は思い出の中の景色より幾分か立派なものになっていた。そこらかしこに埃が溜まり、傷が着き、人気はほとんどない、主人があまり帰らなくなり、財政が傾いた結果、おおよそ貴族の家とは思えなくなっていた屋敷。それがきちんと整備され、趣味の良い装飾品が数置かれている。

 そんな屋敷に、一人の男が佇んでいる。アークに似ているけれど、どこか違う。彼は間違いなくビクター、私の息子だった。大人になった息子が、そこにはいた。

 彼は扉をノックし、部屋に入る。部屋の中にはビクターの妻と思われる、出産を終えたばかりの女性がいた。彼女はビクターの姿を見ると焦り、生まれたばかりの赤子を隠そうとしていた。しかしすぐに見つかり、赤子は父親との対面を果たす。

 赤子の姿を目の当たりにして、私は絶句した。その子は透き通るような水色の瞳と髪をしていたからだ。

 ビクターは激怒し、妻を怒鳴りつける。狼狽える妻は必死に潔白を証明するために言葉を募るが、夫の耳には全く入らない。

 時間が進んでいく。
 私は何度もビクターに触れようとした。誤解を解こうとした。けれど、死人が現実世界に影響を与えることはできなかった。

 そして、伯爵一家は崩壊していった。伯爵夫人レナリシアは不貞を理由に離縁を言い渡され、雑にレイと名付けられた幼子は伯爵令嬢とは思えない暮らしを強要された。ボロボロで、孤独で、王女だったころの私とは比べ物にならないほどに、酷い生活だった。



 映像が消える。辺りは暗闇に包まれ、それ以上何も見えなくなる。
 私はその場で崩れ落ちた。全て私のせいだ。私のせいで、みんなが不幸になった。愛への飢えなんて我慢して、王女の益で満足していれば、こんなことにはならなかったはずだ。アークは相応しい妻を見つけ、ビクターも廃れた家を見る必要は無くなり、レイも奇妙な色に生まれることなく幸せな伯爵令嬢になれたはずだ。

 絶望が頭を支配する。けれどそれは自分への尖だ。欲をかいたせいで多くの人を不幸に陥れた、私への断罪だ。






















 どれだけ時間が流れたか、とっくに考えるのはやめた。私はいつまでも絶望の最中に浮かされ、闇の中に生きていた。否、既に死んでいるのだから生きていたというのは間違いかもしれない。

 ある時、光が差し込んだ。淡い桃色を帯びた、あたたかい光が。
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