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第二、第三部番外編

異端②

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 そこからは、あっという間だった。

 周囲に頼み込んではこっそり離宮付近の街に出て、平民になるための準備を進めた。具体的には服を買ったり、装飾品を少しずつ売ってお金にしたり、生活の様子を観察したり、といった感じに。
 彼らはかつて兄や姉たちが話していたとおり、日々必死に生きていた。決して楽ではないのだろうけれど、誰もがイキイキしていて、自分らしく生活していた。

…あぁ、この人たちは満たされているんだ。

 大抵は心に寂しい風が吹いて、足早に離宮に帰ることになる。


 肝心の宮出先は、隣国ハルティアに決めていた。ハルティアは現在閉鎖的な風潮があり、グレシアナとは最近国交がほとんど無い。そのため、忍び込んでしまえば王家は探しにくい。何せ調査員なんて入国させれば関係悪化待ったなしだからだ。


 半年後に成人を控えた日。離宮の使用人たちは帰宅、もしくは就寝した夜中に、私は作戦を決行した。
 この異端な髪と瞳の色は、街で見つけた魔道具で変える。本来なら無属性の「色替え」魔法で変えられるものだが、生憎私の魔力は弱い。なので魔道具を使う。平民には魔力を持たない人が多いことから、魔力を使わない、魔鉱石などを用いたタイプの魔道具は重宝されている。無闇に魔法を使わない方が怪しまれないだろう。

 服を着替え、街で買い集めた品々を詰め込む。そうすれば、そこには一人の旅する平民がいた。全く王族らしくない顔立ちがこんなところで活きるなんて、と自嘲してしまった。

 さようなら、離宮。
 さようなら、私を育ててくれたみんな。
 さようなら……

 私は月夜にそっと離宮を後にした。







◇◇◇








 離宮を去ってからは、乗合馬車を乗り降りしながら、あてもなく外の世界を旅した。離宮とその周辺しか知らなかった私にとって、行き当たりばったりの旅は想像以上に新鮮で楽しいものだった。とはいえお金も限られているので程々にしながら、三日ほどでハルティアに入った。
 特段何が変わるという訳では無かったが、自分の力だけで外国まで来ることができたことに、大きな満足感を覚えた。



 そこからまた一日、直感的に住みやすそうだと思った街を新天地とすることにした。子爵領の、世間一般的に言うと田舎らしい街。そこでちょうど募集していた針子の仕事を住み込みで始め、私は正真正銘平民の生活をし始めた。

 多少年齢は誤魔化しているけれど、順調過ぎて不安になるくらい、私は平民の生活に馴染んだ。田舎というのは情報が広まりやすいようで、珍しく田舎に越してきた私は一躍有名人になった。そんな時に出会ったのが、アークだった。

「ここに品物置いときますよー」
「いつもありがとうございます」

 アークは、街のパン屋で働いている同い年の青年。いつも食堂のパンを届けに来ていた。平民には珍しいエメラルドのような瞳と、優しく屈託のない笑顔。異性との交流なんてほとんど無かった私は、あっという間に彼に恋をした。彼も私を意識していたらしく、付き合うまでに時間はかからなかった。

 結婚も同じ。恋人になって間もなくプロポーズされ、喜びいっぱいのまま私はそれを了承。気づけば家出から半年で夫婦になった。その時は互いの気持ちが変わるなんて絶対に無く、ずっと幸せなままいられるのだと私もアークも信じきっていた。

 そう、信じていた。
 あの日……お腹に命が宿ってから、ちょうどふた月が過ぎた日までは。
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