【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

文字の大きさ
上 下
168 / 181
第二、第三部番外編

異端①

しおりを挟む
 一体何がどうなっている? あの星の使徒は何故このタイミングでこの場所に現れた? 

 携帯に連絡が来ていないということは、星の使徒が発生する際の微弱な電磁波は出ていないということになる。それに厳正を崩壊させた後、どうして俺達に向ってこない? 最近の奴らの行動パターンだったら、一番近くの人間に襲い掛かるはずだ。

「真姫、体はなんともないのか?」

 俺は前を滑るように進んでいく星の使徒を追いかけながら、真姫に確認する。とにかく助かって良かったが、何が起きたのか理解できない。人間が自力で蘇り、平然と走っているなどあり得ない。あってはならない。

「私はなんともないよ! それより今はアイツを……」

 真姫は息を切らしながら答える。

 途中で窓ガラスを透過してビルの外に飛び出した星の使徒は、そのまま岬町のビル群の間を縫って進んでいく。

 俺達は途中で待機室に戻り、それぞれ拳銃を装備してビルの外へ出る。

 目視できる距離ではないが、今頃になって携帯に移動中の目的地が表示されている。マップで示されている場所は、岬町からやや外れた郊外にある岬山脈に向かって進んでいる。

「なんで山?」

「良いから行きましょう!」

 俺の疑問を遮ると、真姫は運転席の隣に座る。

 俺も運転席に乗って、制星教会のビルを眺める。

 この建物を視界に収めるのは、これが最後な気がした。

 もうここには戻ってこれないだろう。状況だけ見たら、星の使徒と何かしらのつながりがあると思われている俺達が捕まっていた場所に、制星教会の会長が崩壊病で死んでいるのだ。しかも中に捕まっていたはずの二人は脱走。これだけ見てしまえば、完全にクロだ。疑われても仕方がない。

「飛ばすぞ」

 俺はアクセルを力一杯踏む。車が一気に加速する。俺は岬町のビルの間をグングン進んでいく。制星教会から追われる身になるのだ。この風景ともお別れだ。俺達はこの町を離れる決意をしなくてはならない。下手したらずっと追われる生活になるのだから。

「暮人。私がいるから……」

 激しいエンジン音に紛れて、真姫の言葉が耳に届く。

 そうだ。真姫だって分かっているはずだ。もうこれっきりこの場所とはお別れだと。

「しっかり目に焼き付けておこう」

 俺はスピードをさらに上げながら、そう呟いた。




「もう二時間以上走ってるな」

 俺はそう呟く。

 俺達が制星教会を出発してから、すでにそれぐらい経っている。その間、星の使徒は車とほとんど同じ速度で止まることはない。まるで俺達を誘っているかのような動きだ。今までの星の使徒のメカニズムとは明らかに違う動きをしている。

 ここまでの道中、アイツは誰も崩壊させていない。俺が想像していた最悪のケースは、車と同じだけの機動力を持ちながら、通りがかりで無差別に人々を崩壊病にしていくことだったが、それはしないらしい。しないのか出来ないのかは定かではないが。

「ラジオでもつけない?」

 真姫はそう言ってラジオをつけ、夕方のニュースに合わせる。彼女も、星の使徒の目的が俺達の誘導であると分かったからか、幾分と気を抜いている。

 ラジオでは政治家の汚職の話や、芸能人の離婚の話題に紛れて、崩壊病の特集が組まれていた。

「ついに特集を組まれるくらいになったのか」

「前よりも被害者が増えてるもんね……」

 俺の何気ない一言に真姫の声は沈む。

 ラジオの特集では、近頃崩壊病で亡くなった人の近くにいた人までが、崩壊病で亡くなっているという事実にスポットを当てていた。星の使徒の行動パターンの変化によって生じたことだった。特集ではその事実を踏まえ、専門家を名乗る人にインタビューをし、今まで感染しないとされていた崩壊病が、実は感染するのではないかと騒いでいた。

「確かに最近、ネットニュースでも崩壊病をより多く見るようになったな」

「ええ」

 確実に崩壊病に対する世間のイメージが変わりつつある。今までは、滅多に発生しない恐ろしい病気。だけど人から人へ感染しないし、自身の周りに崩壊病に感染した人がいないため、怖いけどどこか他人事のようなイメージだった。

 それが最近の被害者数の増加。近くにいた人までもが崩壊病で亡くなるという、感染するのではないかと思われるような被害の広がり方によって、より恐ろしい物と認識されるようになってしまった。

 こうなってしまうと、どこまで政府が隠しきれるかがポイントとなる。仮に星の寿命の話、星の使徒の存在、制星教会という組織が明るみになれば、世界はどうなるのだろう。

 星の使徒といういまだかつて人類が体験したことが無い恐怖に対して、俺達人間はどういう反応を示すのだろう? 何もかも分からないが、一つだけ確かなことは大パニックは避けられないという事。そして星の使徒や崩壊病の起源についての追及が始まった時、俺と真姫は世界中から石を投げられる。

 政府も、国民の怒りの捌け口として俺達を利用するだろう。

 アイツらさえ死ねばと……

 大衆をコントロールする時のもっとも簡単な手段は、共通の敵を作ること。これはかなり有効だと分かっているからこそ、その標的に俺達がされる可能性は高い。

「何処に向かってるの?」

 俺は携帯と睨めっこしている真姫に尋ねた。

「ここから六十キロ先の山の中」

 真姫は簡潔に答える。

 今走っている所だって結構な田舎道だ。

 岬町を出発してすでに二時間以上走っている。法定速度を無視して進んでいるため、距離にしておよそ二百キロほどだ。岬町はビルが立ち並ぶ栄えた街だが、少し郊外に抜けてしまえば田舎道が続く。

 今走っているここなんて田んぼ道に毛が生えた程度の場所だ。もう少し西に舵を切れば、海が見られる。

 星の使徒はこの先の山の中。

 もう周囲にひとけはなく、家もほとんどない。それどころか建造物など電信柱ぐらいのもので、スーパーやコンビニすらない。完全なる田舎。窓を開けると、コンクリートジャングルでは味わえない新鮮な空気が肺を一杯にする。

長閑のどかな場所だね」

 真姫は少し嬉しそうにはにかむ。

 俺も真姫もそれどころではないのは分かっているのだが、久しぶりに訪れた平穏な時間に思わず笑みがこぼれる。



「この先か」

 俺達が田舎道のドライブを満喫していると、前方には大きな山。しかし道はなく、ここから車で進むのは不可能だった。

「ええ。反応はここから五キロ先」

 真姫は絶望的な声色だ。

 たかが五キロされど五キロだ。

 普段から山登りに勤しんでいるならいざ知らず、普段町中で生活している身からすると、なんの舗装もされていない山道を五キロ進むのはかなりの重労働だ。

 それもマップでは直線距離で五キロなのだから、実際に歩く距離としてはもっと多いだろう。

「夜の山は危ないな」

「でも夜明けを待つわけにもいかないでしょう?」

「そうなんだよな。ここの情報は制星教会の連中だって掴んでるんだ。追いつかれたら、俺達もどうなるか……」

「じゃあ逃げる?」

 真姫はふざけて笑う。勿論分かってる。逃げられない。俺達を誘うようにここまで飛んできた星の使徒の意図は知っておきたい。

「どこに逃げるんだ?」

 俺は真姫にそう答えた。

 俺達は国のバックアップを受けている組織、制星教会から追われている身だ。当然、なんで追われているのかは言えないため、普通の犯罪者の指名手配のようにはいかないが、隠れるにしろもう居場所が無い。

 ここまで来てしまえば、物事を先に進めるしかないのだ。

しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...