【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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第三部 未来

父と息子

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(エリオス視点)



 「国王」の父上と向かい合うと、いつも形容し難い緊張感に襲われる。自分と同じ色の目から発せられる眼光は、いかにも支配者然としている。しかしその実は稀代の名君だ。

にご挨拶申し上げます。」
「よく来たな、。」

 「家族」として接する時と、「王族」として接する時は、互いの呼び方を変える。これは家族間のルールだ。公私混同せず過ごすためだと言われてきた。


「それで、答えは出たのか?」
「はい。」


 一月ほど前、私は陛下からある課題を出されていた。「ハルティア王国のために、自分はどうすれば良いのか考える」というものだった。

 陛下の意図は分かりきっている。成人を間近に控えた姉上と私、どちらを次期国王に指名するのか。私の意志を、考えを聞くためだ。


 私の選択肢は、主に三つ。

 一つ目は、このまま姉上と王位争いをすること。既に第一王子派と銘打った人々が私を担ぎあげようとしているのは耳に挟んでいる。彼らの力を借りれば王位も夢ではないだろう。

 二つ目は、他家に婿入りすること。東国の王家から婚姻の打診が来ているのも聞いている。これもまた国の利益に繋がるだろう。

 三つ目は、臣籍降下し爵位を賜ること。
 私が選択したのは、これだった。

 厳しさが光る陛下の目を見据え、私はその言葉を口にした。
「私は臣籍に降り、貴族として姉上を支えたいと思っています。」
「それは何故だ?」
間髪入れず陛下は聞く。威圧感で心臓が鷲掴みにされているように、苦しい。

「…今現在、国の権力は王家とエメリック公爵家に集まる状態にあります。」

 大粛清によって反発貴族たちを一斉した王家。
 唯一公爵位を持ち、宰相と王妃を輩出しているエメリック公爵家。

 この二家に、絶大な権力が集まっている。

「今は落ち着いた情勢ですが、このまま限られた家門のみが大きな権力を持ち続けるのは危ういものがあると考えました。」
「ほう?」
「家門の長がどの時代も善良とは限りません。一昔前のように、すぐに腐敗を呼ぶ可能性が高まります。」

 テレネシア公爵家と前王ラウスが良い例だ。絶大な権力と汚い心を持ち、国家を腐敗させた。そして建国の英雄であるテレネシア公爵家が没落した。
 これは、今のエメリック公爵家や王家にも言えるものだと思った。
 革命の英雄であり、王家の信頼厚き公爵家。時が経つにつれて、諸刃の剣と化していく。

「新たに家門を興し、権力を分散させることが必要です。」

 圧倒的なカリスマ性で民と貴族を引きつける。そんな玉座に相応しいのは、姉上だ。私は、国のためこの身を投じる。姉上の影となり、国のバランスを保たせる。

 それが、私の、国の、最も良い未来だ。
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