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第三部 未来
お姉様と求婚者
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しばらくして、華奢な人影が現れた。
春風にたなびく銀の髪、淡いグレーの瞳。音を立てずに歩く様は上品で、淑女と冠するに相応しい。
「遅れたこと、謝罪致します。エメリック公爵が長孫、オフィーリアと申します。」
教科書に載せられるような美しいカーテシーを披露すると、周囲がほうとため息をついた。
「お姉様」
「せっかく招待してくれたのに、遅れてごめんね、エレノア。」
お姉様は眉を下げて微笑む。そんな姿すら綺麗だ。私の大好きなオフィーリア・エメリックお姉様が、そこにはいた。
「皆んな待ってたのよ。早く始めましょう!」
「ありがとう」
お姉様の席は私の二つ隣。そこにつこうとすると、人影が躍り出る。少し小柄で、ダークブロンドの髪が光を受けて照っている。クラウド殿下だった。
クラウド殿下はお姉様の前に立つと、さながら舞台役者のように跪き、手を差し出した。
「オフィーリア穣、貴方に一目惚れしました!僕と結婚してください!」
その瞬間、時が止まった。
キラキラと目を輝かせるクラウド殿下に対し、引きつった笑みを浮かべて固まるお姉様。冷たい空気が流れる。
確かにお姉様は美しい。絶世の美女と謳われるお祖母様と、貴婦人の鏡と呼ばれる伯母様の遺伝子を受け継いでいる。一目惚れした、と言うのも相違ないのだろう。
だが、クラウド殿下は王族で、お姉様は公爵家の娘だ。身分の釣り合いは取れているものの、二人が愛だ恋だと言って結婚を決めることは難しい。
「クラウド」
硬派な声が響く。声の主はフェリクス殿下で、青い目は笑っていない。これは本気で怒っている時の殿下だ。
「あ、兄上…」
「説教は後だ。オフィーリア穣、愚弟がいきなり申し訳ない。」
フェリクス殿下は無理やり頭を下げさせ、自身も謝罪を口にする。
「い、いえ…」
「僕は本気です!」
なおも諦めないクラウド殿下。お姉様は熱烈な求婚に少し頬を赤らめた。
「今すぐ決める訳にはいきません。また後日話し合いましょう。」
「は、はい。」
戸惑いながらもお姉様はそれを受け入れた。
筆頭公爵家の娘と隣国の第二王子。両国は友好関係にあるため、この結婚が成立すればまた一段と深い繋がりを得ることができる。幸いと言うべきか、今お姉様には婚約者もいない。そういう面では、クラウド殿下の求婚も全く迷惑という訳ではない。
けれどお姉様にもお姉様の事情がある。婚約者を決めていないのもその事情によるものだ。
貴族の義務
私たちのように持つ者の義務。贅沢を許された代償として、自由を制限され責任を負わされる。
この求婚がどのように転ぶかは、まだ誰にもわからない。
春風にたなびく銀の髪、淡いグレーの瞳。音を立てずに歩く様は上品で、淑女と冠するに相応しい。
「遅れたこと、謝罪致します。エメリック公爵が長孫、オフィーリアと申します。」
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「お姉様」
「せっかく招待してくれたのに、遅れてごめんね、エレノア。」
お姉様は眉を下げて微笑む。そんな姿すら綺麗だ。私の大好きなオフィーリア・エメリックお姉様が、そこにはいた。
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クラウド殿下はお姉様の前に立つと、さながら舞台役者のように跪き、手を差し出した。
「オフィーリア穣、貴方に一目惚れしました!僕と結婚してください!」
その瞬間、時が止まった。
キラキラと目を輝かせるクラウド殿下に対し、引きつった笑みを浮かべて固まるお姉様。冷たい空気が流れる。
確かにお姉様は美しい。絶世の美女と謳われるお祖母様と、貴婦人の鏡と呼ばれる伯母様の遺伝子を受け継いでいる。一目惚れした、と言うのも相違ないのだろう。
だが、クラウド殿下は王族で、お姉様は公爵家の娘だ。身分の釣り合いは取れているものの、二人が愛だ恋だと言って結婚を決めることは難しい。
「クラウド」
硬派な声が響く。声の主はフェリクス殿下で、青い目は笑っていない。これは本気で怒っている時の殿下だ。
「あ、兄上…」
「説教は後だ。オフィーリア穣、愚弟がいきなり申し訳ない。」
フェリクス殿下は無理やり頭を下げさせ、自身も謝罪を口にする。
「い、いえ…」
「僕は本気です!」
なおも諦めないクラウド殿下。お姉様は熱烈な求婚に少し頬を赤らめた。
「今すぐ決める訳にはいきません。また後日話し合いましょう。」
「は、はい。」
戸惑いながらもお姉様はそれを受け入れた。
筆頭公爵家の娘と隣国の第二王子。両国は友好関係にあるため、この結婚が成立すればまた一段と深い繋がりを得ることができる。幸いと言うべきか、今お姉様には婚約者もいない。そういう面では、クラウド殿下の求婚も全く迷惑という訳ではない。
けれどお姉様にもお姉様の事情がある。婚約者を決めていないのもその事情によるものだ。
貴族の義務
私たちのように持つ者の義務。贅沢を許された代償として、自由を制限され責任を負わされる。
この求婚がどのように転ぶかは、まだ誰にもわからない。
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