【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

第三部 未来

お茶会

　春も終盤になった日。天気は快晴、暑すぎず寒すぎず、絶好のお茶会日和だ。
　今日はいよいよお茶会の日。幼なじみのみんなと会えることもあって、昨日はなかなか寝付けなかった。子供みたいだと思うかもしれないけれど、実際まだ子供なので仕方ないとしよう。

　選んだドレスは、シルクのアフタヌーンドレス。瞳と同じく空色で、腕部分はレースで覆われている。チュールスカートに所々真っ白な造花をあしらった一点物だ。パステルカラーでまとめているので、まだまだ春らしさを感じる。

「綺麗だよ、エレノア。」

　フォルカーから面と向かって言われると、顔が火照るのを感じた。彼はいつもそういうことをさらりと言ってしまう。

「フォルカーも似合ってるわ。」

　今日の彼の装いは私と揃えられた空色だった。お茶会での彼の立場は「侯爵子息」と言うより「王女の婚約者」なので、当然と言えば当然かもしれない。けれどいつも流している前髪をアップにしていて凛々しさを感じる。


　フォルカーのエスコートで、会場の庭園まで歩く。庭園の花は色とりどりに咲き誇っていて、芳しい香りも鼻をぬける。クリーム色のテーブルには既に人が座っていた。

　金髪青眼、いかにも王子様といった風体なのはフェリクス・グレシアナ王太子殿下。その隣に座っているのが婚約者のアメリア・フィルレイク侯爵令嬢。向かいに座るのがクラウド・グレシアナ第二王子殿下だ。エリオスと何か話し込んでいる。三人とも、私たちの幼なじみだ。
　辺りに見当たらない人物が一人。フィーお姉様が来ていない。尋ねてみると、王宮までの道で落石が起こってしまったらしく、遅れるとの言付けがあった。
　視線を横に送ると、母様とクレア王妃が二人で話している。あの二人は互いに王妃でありながら歴戦の友と言った感じだ。過去に色々あったと聞いている。

「みんな、久しぶりね。一年ぶりくらいかしら？」
「そうだね。色々立て込んでて、お茶会が開けてなかったから。」
答えたのはフェリクス殿下だ。

「今日はレイ王妃殿下とエレノアも準備してくださったのでしょう？」
と聞いてきたのはアメリア。彼女にはお茶会を開く先輩として色々勉強させてもらった。

「ええ、たくさんのアドバイスをありがとう。」
このお茶会で、改めてたくさんの人に助けてもらったことを実感した。





◇◇◇





「フェリクス様ったら酷いですわ！わたくしで遊ばないでくださいませ！」
「はは、照れるなぁ。」
「褒めてませんわ！」

　お茶会が始まり一時間程たち、もはや恒例と化したフェリクス殿下の婚約者からかい（私たちの間では夫婦漫才と呼んでいる）を眺める。真っ赤になったアメリアを見てニコニコしている様は、父王レオナルド陛下を彷彿とさせる。

「王女様」
　と、その時。侍女が言付けを運んできた。

　どうやらフィーお姉様が到着したようだ。