【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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5章 決着

素顔

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「まず、これまで私を育ててくれたこと、感謝します。」
「王太子妃が罪人に感謝など、してはいけませんよ。」
 声色は優しく落ち着いていて、かつ思考はハッキリしています。それは、慈善行為と銘打って民たちと触れ合っていた時と同じでした。

「いいえ。貴方がいなければ、私は今ここにいなかったでしょう。」
「………」

「誘拐された時、私は聞きましたね。誰でも分け隔てなく幸せになってほしい、その願いは偽りだったのかと。そして貴方は、そうだと言いました。」

 私は思います。彼もまた、仮面を被っていたのではないかと。

「それは、嘘ですよね。」

社交界デビューした私が必死に淑女の仮面を被っていたように。彼は善良な教皇の仮面を被って過ごしていたのだと、思っています。

「貴方は本心から笑っていた。八歳で養女になってから、ずっと貴方の元で過ごしてきました。それくらいわからない筈がありません。」
「それは……」

 全てが偽りでできていたならば、民にも伝わない。私にはそう思えるのです。

 彼が被っていた仮面は、二つ。本心の上から被った、復讐に囚われた青年の仮面。そしてその上から被った、善良な教皇の仮面。ですが、実は本心と二枚目の仮面は同じものだったのです。彼自身、それに気づいていないのかもしれません。もしかすると、目を背けていたのかもしれません。一枚目の復讐鬼が暴れてしまいますから。


 何にしても、私が言いたいのは一つだけです。

「本心だろうが、偽りだろうが、貴方がやってきたことは貴方のものです。全て、貴方です。」

 私が、レイ様に教えられたこと。
 どんなことがあろうと、自分は自分。全てが自分の糧であり、自分が生きた証だということ。

「簡単に偽りなんて言わないで。全て、貴方の軌跡なのですから。」

 そして私は、彼を閉じ込める鉄格子の隙間から手を差し出しました。収監されてから抜け殻のようになってしまったという報告と、今までの彼の様子から、近づいても問題無いと判断しました。

「書類上だけでも、貴方の娘になれて良かったです。」

 少しばかり皮肉を込めて言った言葉は、確かに聞こえたようです。お義父さまは弱々しくも笑い、手を握り返してきました。
「ありがとう……」
かすれた声で、そう言いながら。



 さようなら、お義父さま。

 私はこれから大切な友達の結婚式に行きます。

 貴方と過ごした十年を胸にしまいながら、これからも生きていきます。



 そんなことを思いながら、私は暗い地下を出ました。光の元へ、歩みました。
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