【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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5章 決着

王太子妃の素養

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 次の日、無断欠勤した宮本のスマホに江藤が電話した。いつもなら秒で繋がるのに、残念ながらそれがまったく繋がらないのである。LINEをしても、既読にもならないことを不審に思い、兄である雅輝に連絡を入れた。

「もしもし、雅輝。今大丈夫か?」

「おはよ、江藤ちん。朝からどうした?」

「それがよ、宮本のヤツが無断欠勤していてな。今までそんなことをしたことがないから、なにか知ってるかと思ってさ」

「俺はアイツから、なにも聞いてない。具合が悪くなったとかそういうのも、一切知らないが」

「わかった。ちょっと上にかけ合って、アイツの家にこれから行ってみる。なにかわかったら、また連絡するから」

 江藤は気落ちしながらスマホをオフにし、重たい腰をあげて、宮本の自宅に行くことの許可を得にいく。ダメだと言われたら、有給を使ってでも行こうと考えていたのに、あっさり認められたことにより、大手を振って宮本が住むマンションに向かった。

 恋人から渡されている合鍵を、不安な気持ちで使うことになろうとは、夢にも思わなかった。

「部屋でぶっ倒れて、冷たくなっていたらどうする……」

 震える手でなんとか開錠して、見慣れた扉を勇気を出して開け、奥歯を噛みしめながら中に入ったのだが。

「宮本がいない。どういうことだよ?」

 想像していたことが杞憂になったのはいいが、本人がいないことにふたたびぞわっとするものが、江藤の中に沸き起こった。

 どこかに連れ去られて拉致監禁、身代金の請求。それとも外で誰かと逢ってトラブルに巻き込まれて、怪我をして病院に搬送されている。それとも――。

 悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく現状を打破すべく頭を振って、散らばっているメモ帳をテーブルの上にかき集めた。なにか証拠が残っている可能性を、すべて潰していくために。

 真っ白なメモ帳の中に、ひとつだけ筆圧で凹んだものを見つけた。それを探るために、テーブルに置きっぱなしになっている鉛筆を使って、メモ紙の表面を薄く塗ってみる。

「パワースポット・みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水・ドジを直すべし・湧き水向かって左・ありがた系の恋愛長寿……。なんで恋愛成就じゃねぇんだ、あのバカ!」

 江藤は黒く塗ったメモ紙を破り、その場にへたり込んだ。宮本が行方不明の原因がわかってほっとして、力が一気に抜けてしまった。

 恋愛長寿――自分との恋愛を末永いものにしたい。そんな宮本の気持ちを察してしまい、涙が滲みそうになった。

「みずからの努力を怠り、パワースポットを使って、俺様との恋愛を長続きさせようなんてするから、山の神様に魅入られてしまうんだ」

 震える手でスマホを握りしめ、もう一度雅輝に連絡した。

「雅輝、何度も悪い。宮本の行方がわかったんだが――」

 江藤の説明を聞いた雅輝は、自分の仕事を中断して山に入ると言い出すが、それを断った。

「俺様は一度自宅に帰って、入山できる準備をする。だから迎えに来てほしいんだ。雅輝は三笠山のことについて詳しいんだろ? 行く道中にいろいろ聞きたいこともある」

 そうして一緒に、三笠山へ向かうことになった。
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