【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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5章 決着

後ろ盾

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「で、ですが殿下。クレア穣…いえ、妃殿下には後ろ盾がございません。そして反逆者の娘ということは紛れもない事実。そんな方が王太子妃の座に相応しくないのは自明の理。我々は王室の為を思い、心を鬼にし申しているのです。」
「ふむ。」
「王太子ともあろう御方が、まさか恋に溺れることなどあってはなりません。どうか英断を…!」

 従順そうな態度に鞍替えしたと思いきや、公爵はまだ諦めていません。しつこく、かつ痛いところを突いてきます。

「おぉ、そうだ!忘れておった!」

 場に合わない、ひょうきんな声が響きます。声の主は玉座に座る国王陛下でした。

「公爵、そなたのおかげで思い出した。礼を言おう。いやぁ、私ももう歳かのぉ。」
「な、何を思い出したのでございますか?」
「ウォーカー侯爵のことだ。」

陛下は聞き慣れない名前を出します。しかし貴族たちの間にはざわめきが広がりました。侯爵と呼ばれていたので、上位貴族であることは間違いないでしょう。

「皆も知っての通り、ウォーカー侯爵は跡継ぎがいないままこの世を去った。」
ざわめきの収まらないまま、陛下は話し続けます。王太子殿下の方をちらりと見ると、僅かながら目を見開いています。想定外、ということでしょうか。

「そして侯爵は信心深い人だった。神殿にも熱心に通っていたな。」
「それと妃殿下に何の関係が……」
「侯爵は自身の死後、侯爵位を教皇猊下か聖女殿に譲渡したいと私に相談していた。」

 降って湧いた爆弾。ふと、陛下が私の方を向いてウインクしました。

「三月ほど前、侯爵の死によってウォーカー侯爵位は一旦王家預りになった。法的根拠のある遺言書も出てきたから、私はこれまでの功績を称えて教皇に侯爵位を与えようと思っていた。」
「なっ、なんですと!?」

 爵位を継承する権利があるのは血族の者と、当主が譲渡を認めた者。今回は後者です。しかし、上位貴族になればなるほど血筋が重んじられるようになります。よって教皇猊下が爵位を受け取るには相当な後ろ盾が必要になります。その役を、王家は担おうとしていた訳ですね。公爵が酷く狼狽える中、なおも陛下は続けます。

「ウォーカー侯爵家の影響力は大きい。色々と手筈を整えていたら、欲に溺れた教皇は、侯爵位以上のものを欲してしまった。」

教皇猊下が望んだのは、グレシアナという国。最後の最後で、理性と欲望が激しく衝突してしまいました。
 いつだって猊下の計画では、部下に手を汚させていました。恐らく、自分の手で人を殺したことは無いのでしょう。離れたところで、計画遂行の情報だけを見ていた。今思えば、クレア様を平手で打った時だって、追い打ちをかけようとはしていませんでした。
 根は悪人になりきれなかったのか、民の信頼に絆されたのか。欲と復讐に溺れ、なお理性を失いきれなかった猊下は、果たしてどれだけ苦しかったことでしょう。今となっては分かりません。

 と、話が逸れましたね。
 陛下はクレア様に満面の笑みを向けました。

「よって、ウォーカー侯爵位相続人として次候補に上がっていた、我が娘クレアにこれを与えようと思う。」
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