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5章 決着
隠し通路
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私たちはシンシア様に指示され、グレシアナ王宮まで馬を走らせる。曰く、そこから向かわなけれはいけない場所らしい。
「シンシア、様。一体犯人は誰なのですか?なんのために?クレアは無事なのですか?」
途中、王太子殿下がまくし立てるように聞いた。しかしシンシア様は素っ気なく答える。
「死者はこの世にいてはいけない存在です。本来ならば生者と交わることさえ許されません。今、私がここにいるのは、ひとえに聖女の力……ですが余計なことはできないんです。」
水色の瞳が殿下の海の瞳を映す。
「私が呼び戻された理由は、あなたがたを聖女クレアとレイの元まで案内するため。それ以外のことはできません。教えることもできません。」
殿下はあからさまに落胆した様子を見せたが、すぐに持ち直した。
それにしても、死者であるシンシア様は身体が透き通っている。加えてレイにそっくりときたものだから、時たまレイが死んでしまったのではないかと錯覚してしまう。
私は不吉な予感を振り払い、更に馬の速度を上げた。
グレシアナ王宮に着くと、殿下のおかげで易々と門をくぐり抜けた。門番の反応を見るに、シンシア様は私と殿下にしか見えていないらしい。彼女は王宮内を迷わず進んでいく。
「今から私たちが向かうのは旧聖堂です。そこに、聖女クレアとレイは監禁されています。」
「旧聖堂…ですか。ここから、どうやって行くのですか?」
殿下の問いに、シンシア様は目を見開いた。そして、今はもう教えられていないのね、と呟いた。
シンシア様はとある壁にかけられた燭台に手をかける。すると燭台が180度回転し、ゴゴゴと重い音が響く。続いて隣の絵画を私が取り外すと、そこには道ができていた。
「かつて使われていた、王族専用の隠し通路です。」
私が呆気に取られている間に、王太子殿下は迷いなく暗い道の中に進む。慌ててその後を追った。
隠し通路は案外整備されていた。
苔むした石畳が敷かれ、所々魔道具のランプが淡い光で道を照らしている。地下に入っていったので、空気はひんやりとしていた。歩く度にコツ、コツ、と靴の音が反響する。
どれくらい歩いたか、ようやく出口と思わしき扉が姿を現した。それを開けて驚いたことに、先は真っ暗だった。古びた扉は僅かな灯りをも漏らさない。まさに一寸先は闇だ。隠し通路というのだから、旧聖堂側からも見つからないように造られているのだろうが、それにしても不気味だ。
しかしここで躊躇う訳にはいかない。迷わず絵画の道に入っていった殿下のように、私も迷わずそこに踏み入った。
「シンシア、様。一体犯人は誰なのですか?なんのために?クレアは無事なのですか?」
途中、王太子殿下がまくし立てるように聞いた。しかしシンシア様は素っ気なく答える。
「死者はこの世にいてはいけない存在です。本来ならば生者と交わることさえ許されません。今、私がここにいるのは、ひとえに聖女の力……ですが余計なことはできないんです。」
水色の瞳が殿下の海の瞳を映す。
「私が呼び戻された理由は、あなたがたを聖女クレアとレイの元まで案内するため。それ以外のことはできません。教えることもできません。」
殿下はあからさまに落胆した様子を見せたが、すぐに持ち直した。
それにしても、死者であるシンシア様は身体が透き通っている。加えてレイにそっくりときたものだから、時たまレイが死んでしまったのではないかと錯覚してしまう。
私は不吉な予感を振り払い、更に馬の速度を上げた。
グレシアナ王宮に着くと、殿下のおかげで易々と門をくぐり抜けた。門番の反応を見るに、シンシア様は私と殿下にしか見えていないらしい。彼女は王宮内を迷わず進んでいく。
「今から私たちが向かうのは旧聖堂です。そこに、聖女クレアとレイは監禁されています。」
「旧聖堂…ですか。ここから、どうやって行くのですか?」
殿下の問いに、シンシア様は目を見開いた。そして、今はもう教えられていないのね、と呟いた。
シンシア様はとある壁にかけられた燭台に手をかける。すると燭台が180度回転し、ゴゴゴと重い音が響く。続いて隣の絵画を私が取り外すと、そこには道ができていた。
「かつて使われていた、王族専用の隠し通路です。」
私が呆気に取られている間に、王太子殿下は迷いなく暗い道の中に進む。慌ててその後を追った。
隠し通路は案外整備されていた。
苔むした石畳が敷かれ、所々魔道具のランプが淡い光で道を照らしている。地下に入っていったので、空気はひんやりとしていた。歩く度にコツ、コツ、と靴の音が反響する。
どれくらい歩いたか、ようやく出口と思わしき扉が姿を現した。それを開けて驚いたことに、先は真っ暗だった。古びた扉は僅かな灯りをも漏らさない。まさに一寸先は闇だ。隠し通路というのだから、旧聖堂側からも見つからないように造られているのだろうが、それにしても不気味だ。
しかしここで躊躇う訳にはいかない。迷わず絵画の道に入っていった殿下のように、私も迷わずそこに踏み入った。
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