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4章 攫われた二人
わかっていること
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うるさいと連呼していた猊下は次第に声が小さくなり、膝から崩れ落ちました。耳を塞ぎながらのその動きは弱々しく、力無いものでした。
「……今ならまだ間に合います。」
崩れ落ちた猊下を見下ろしながら、クレア様は言います。
「今なら貴方は国のために尽くした良き教皇で留まります。各地で起きた異変は単なる偶然。貴方の部下は捕まるかもしれませんが、恐らく手を回しているのでしょう?それで済みます。」
「………」
「私たちを解放してください。」
表情は複雑な心情が入り組み、色濃く取り付いた影が深く見えました。クレア様にとって教皇猊下は養父であり、恩人であり、罪人であり、裏切り者であり、そして気の毒な復讐者なのです。
「…そんなこと、わかっていた。」
クレア様の言葉を聞き終えると、猊下が力なく呟きました。
「私がやっていることは、結局反逆なのだということはわかっていた。家族の敵討ちという大義名分を持ってしても、正しさなんて欠片も無いということは。」
そこで私は悟りました。恐らくクレア様も同じでしょう。
当たり前と言うべきか、猊下は人間なのです。血の通った、心を持った、普通の人間なのです。
皆さんと触れ合う内に、本当は何度も計画をやめたいと思ったのでしょう。けれどそれでは気持ちが収まらない。けれど普通の人間だった彼には、あまりに大きすぎる感情。それを持て余し、行き着く先がこれです。
後悔と自責の念と憎しみに揺れ、良心の呵責という強風に吹かれ、細い細い綱渡りのような感情を保って生きてきたのだと思います。しかしそれはクレア様の言葉によって完全にバランスを失ったのです。
「だが、もう後戻りはできない。計画は終盤、私は多くの命を奪いすぎた。」
しかし猊下は懐中時計を握りしめると、また冷淡に私たちを突き放します。
「そんなっ!」
「悪く思わないでくれ。」
先程よりも優しく、諭すような口調でした。
「私は、聖人では無いのだ。今でも貴族を見るだけで怒りに震える、復讐鬼なのだから。」
私たちはその場から動けませんでした。猊下にはもう戻るという選択肢はハナから無いのです。
猊下は扉を締め切り、また私たちは振り出しに戻ってしまったのです。
「……今ならまだ間に合います。」
崩れ落ちた猊下を見下ろしながら、クレア様は言います。
「今なら貴方は国のために尽くした良き教皇で留まります。各地で起きた異変は単なる偶然。貴方の部下は捕まるかもしれませんが、恐らく手を回しているのでしょう?それで済みます。」
「………」
「私たちを解放してください。」
表情は複雑な心情が入り組み、色濃く取り付いた影が深く見えました。クレア様にとって教皇猊下は養父であり、恩人であり、罪人であり、裏切り者であり、そして気の毒な復讐者なのです。
「…そんなこと、わかっていた。」
クレア様の言葉を聞き終えると、猊下が力なく呟きました。
「私がやっていることは、結局反逆なのだということはわかっていた。家族の敵討ちという大義名分を持ってしても、正しさなんて欠片も無いということは。」
そこで私は悟りました。恐らくクレア様も同じでしょう。
当たり前と言うべきか、猊下は人間なのです。血の通った、心を持った、普通の人間なのです。
皆さんと触れ合う内に、本当は何度も計画をやめたいと思ったのでしょう。けれどそれでは気持ちが収まらない。けれど普通の人間だった彼には、あまりに大きすぎる感情。それを持て余し、行き着く先がこれです。
後悔と自責の念と憎しみに揺れ、良心の呵責という強風に吹かれ、細い細い綱渡りのような感情を保って生きてきたのだと思います。しかしそれはクレア様の言葉によって完全にバランスを失ったのです。
「だが、もう後戻りはできない。計画は終盤、私は多くの命を奪いすぎた。」
しかし猊下は懐中時計を握りしめると、また冷淡に私たちを突き放します。
「そんなっ!」
「悪く思わないでくれ。」
先程よりも優しく、諭すような口調でした。
「私は、聖人では無いのだ。今でも貴族を見るだけで怒りに震える、復讐鬼なのだから。」
私たちはその場から動けませんでした。猊下にはもう戻るという選択肢はハナから無いのです。
猊下は扉を締め切り、また私たちは振り出しに戻ってしまったのです。
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