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4章 攫われた二人
同じこと
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感謝を告げたクレア様は、涙で濡れながらも教皇猊下をしっかり見つめていました。
「貴方がいたから、私は聖女として活動していけました。貴方がいたから、グレシアナ王国の民は豊かになりました。」
拳を強く握りしめ、その目に宿るのは確かな敬意。
「けれど今日、貴方に裏切られて、心底ガッカリしました。貴方がやろうとしていること、その全てに。」
「………」
猊下はクレア様の言葉を黙って聞いています。
「それでも一番ガッカリしたのは、貴方が平民を汚らわしいと罵ったことです。他でもない、あれだけ私たち平民に尽くしていた貴方が!」
「それも作戦のうちだからな。」
そう言った猊下はやはり冷淡な表情を崩しませんでした。
「一つ教えてください。貴方は本当に二十年もの間、復讐だけに生きてきたというのですか?」
「もちろんだ。」
猊下が間髪入れずに答えます。先程からの豹変ぶりに私の胸がズキリと痛みました。
「孤児院に寄付をした時、炊き出しをした時、聖女の力で各地が救われた時、満足そうに貴方は笑っていました。その時も、本当は嬉しくなかったと?」
「そうだな、あまりに計画通りすぎてほくそ笑んでいたよ。」
「そうですか、なら貴方も同じなのですね。」
「…何とだ?」
それまで顔を伏せていたクレア様が、清々しいほどの笑顔を見せました。
「レガム辺境伯家に反逆の罪を擦り付けたという貴族とですよ。」
「なっ…!?」
途端、猊下が顔を真っ赤に染め、クレア様の胸ぐらに掴みかかりました。
「なんだと…?もう一度言ってみろ、誰と同じだって?」
「ですから、父君に罪を擦り付けた貴族と同じと言っているのです。所詮貴方もグレシアナに歯向かう反逆であり、責任を擦り付ける卑怯者であるというこ………」
気がつくと、勢いよくクレア様は床に叩きつけられていました。猊下はフーフーと方で息をして、大層興奮している様子でした。今にももう一度殴りかかりそうです。
「クレア様!」
私は慌てて駆け寄リ、猊下を止めようとしましたが、クレア様がそれを制止します。チラリと私を見たその目は、止めないでください、という事を物語っていました。
「罪無き人を殺して、その罪を擦り付けて、何が違うと言うのですか!?」
「っうるさい!!」
「貴方がしたかったことは、本当にこんなことだったのですか!?反逆者の、憎き仇の真似事をして、貴方はそれが正しいと思っているのですか!?」
「うるさいうるさいうるさい!」
猊下は耳を塞ぎ、一心不乱にうるさいと叫び続けました。
「貴方がいたから、私は聖女として活動していけました。貴方がいたから、グレシアナ王国の民は豊かになりました。」
拳を強く握りしめ、その目に宿るのは確かな敬意。
「けれど今日、貴方に裏切られて、心底ガッカリしました。貴方がやろうとしていること、その全てに。」
「………」
猊下はクレア様の言葉を黙って聞いています。
「それでも一番ガッカリしたのは、貴方が平民を汚らわしいと罵ったことです。他でもない、あれだけ私たち平民に尽くしていた貴方が!」
「それも作戦のうちだからな。」
そう言った猊下はやはり冷淡な表情を崩しませんでした。
「一つ教えてください。貴方は本当に二十年もの間、復讐だけに生きてきたというのですか?」
「もちろんだ。」
猊下が間髪入れずに答えます。先程からの豹変ぶりに私の胸がズキリと痛みました。
「孤児院に寄付をした時、炊き出しをした時、聖女の力で各地が救われた時、満足そうに貴方は笑っていました。その時も、本当は嬉しくなかったと?」
「そうだな、あまりに計画通りすぎてほくそ笑んでいたよ。」
「そうですか、なら貴方も同じなのですね。」
「…何とだ?」
それまで顔を伏せていたクレア様が、清々しいほどの笑顔を見せました。
「レガム辺境伯家に反逆の罪を擦り付けたという貴族とですよ。」
「なっ…!?」
途端、猊下が顔を真っ赤に染め、クレア様の胸ぐらに掴みかかりました。
「なんだと…?もう一度言ってみろ、誰と同じだって?」
「ですから、父君に罪を擦り付けた貴族と同じと言っているのです。所詮貴方もグレシアナに歯向かう反逆であり、責任を擦り付ける卑怯者であるというこ………」
気がつくと、勢いよくクレア様は床に叩きつけられていました。猊下はフーフーと方で息をして、大層興奮している様子でした。今にももう一度殴りかかりそうです。
「クレア様!」
私は慌てて駆け寄リ、猊下を止めようとしましたが、クレア様がそれを制止します。チラリと私を見たその目は、止めないでください、という事を物語っていました。
「罪無き人を殺して、その罪を擦り付けて、何が違うと言うのですか!?」
「っうるさい!!」
「貴方がしたかったことは、本当にこんなことだったのですか!?反逆者の、憎き仇の真似事をして、貴方はそれが正しいと思っているのですか!?」
「うるさいうるさいうるさい!」
猊下は耳を塞ぎ、一心不乱にうるさいと叫び続けました。
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