【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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4章 攫われた二人

偽りの善人

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「全部偽りだったんですか!?分け隔てなく幸せになってほしいと願う貴方は、全て仮面だったとでも言うのですか!?」
クレア様は叫びました。その声は涙で、ショックで、震えていました。
「そうだ。」
それでも猊下は揺るぎません。二十年と言う歳月で培われた覚悟は、並大抵の事では揺らがないのでしょう。

「クレア、お前はただの駒に過ぎないんだよ。聖女として民衆の心をつかみ、最後には悲劇の死を遂げる。そんか役割しか求めていない。親子になったのは書類上だけだ。」
「そんな……」


 クレア様の目から大粒の涙が零れ落ちました。堤防が決壊したように、とめどなく涙が流れていきます。

「悲劇を最大限演出できるタイミングは、いつだと思う?」
泣き止まないクレア様をよそに、猊下は話し続けます。本当に情が無いのだと実感させられました。
「私は思う。それは直前だ。」
「直前……?」
「ようやく監禁場所が判明し、助けに来た王族たちを待ち受けていたのは、まだ温かさの残る2つの死体。助けに来る直前に絶命したのさ。しかもあの「聖戦の終わり」の前でだ。」
正義の正しさを問う絵画の前で、すんでのところでこぼれ落ちた命。民たちは黙っていないことでしょう。
「証拠は全て消した、故に犯人の特定は不可能。ダラダラ操作は進まない中、平民どもはどれくらい我慢できるかな?そこで私は民衆に懇願され、王家を弾劾する。王座から引きずり下ろし、『慈悲深い教皇猊下』は処刑などせず、あいつらには牢獄で一生を過ごしてもらおう。生き地獄を見せてやる。」
ハルティア王国で行った無血革命。誰も死なない革命を目指しました。これもまた、誰も殺さない。ですが全く内容が異なっていました。猊下の張り巡らせた糸はグレシアナ王国全土に広がっているのです。

「滑稽だろう?悪を断罪し、正しい指導者を求めた結果、国の頂点に立ったのは反逆者。しかし王家の奴らは指をくわえて見ているしか無い。まさに生き地獄だ。」
「ふざけないでっ!」
泣いていたクレア様は突如叫び、手にしていた何かを投げつけました。それは猊下のこめかみにヒットし、鈍い音を鳴らしました。ゴトリ、落ちたのは大きな石をあしらったブレスレットでした。

「父のように慕っていたこれを貴方から貰って、嬉しかった。親から貰ったアクセサリーを結婚式で身につけると幸せになれる、と言い伝えられていますよね?だから、結婚式にも持って行きました。」
それでもまだ声は揺れていて、ブレスレットをきつく睨みつけることで涙を抑えているようにもみえます。
「これ、魔道具なんですね?恐らく位置情報が分かるなどの細工がしてあるんですよね?」
「……そうだな。」
「書類上だけの親子と言うなら、私だってもう貴方を父となんて思わないし、呼ばない!ただ、これだけは伝えたいんです。」




「今まで、ありがとうございました。」
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