【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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4章 攫われた二人

レガム辺境伯家

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 クレア様を殴った手をだらりと下ろすと、教皇猊下はぽつりぽつりと語り始めました。

「父はお人好しだったが、領民のことを考える良い領主だった。それに付け込まれ、家族に知らせないまま多数の書類にサインさせられ、気づいた時には反乱の首謀者に仕立てあげられていた。そして王家の兵と戦い、戦場で息絶えた。」
猊下は自らの手を見つめました。

「母は貴族の誇りを持った人だった。父が汚名を着せられた時はあらゆる手段でそれを晴らそうとしていた。もっとも、その努力は無駄だった訳だが。最後は民衆の前で処刑された。」
自嘲したように笑いました。

「妹はもうすぐ結婚するところだった。分家筋の、有望な騎士だった。しかし彼が王家との争いで戦死すると、悲しみのあまり毒をあおって自死した。」
部屋の中は重苦しい空気が占領していました。

「妻は…妻のことは本当に愛していた。腹の中には子供もいた。だが母と共に処刑台に連れていかれた。」
その声は震えていました。

「私は…私は、母から託された。「生きなさい。レガムの血を絶えさせてはいけない。」と。だから身分を偽り、下級貴族の養子として何とか生き延びた。」
「でも…私たちを誘拐しても、何の意味もありません!」
クレア様は叫びました。

「私の目的は、家族を殺した王家を滅ぼすこと。そのために二十年、裏からこの国を操ってきた。」
王家の滅亡。二十年もの間、その為だけに生きてきたと言うのでしょうか。信じ難いものでしたが、猊下の姿を見ていると、それを可能にしたのが王家への憎悪なのだと分かりました。

「不安定な情勢。他国の重鎮を傷つけた責任。そして貴族たちの度重なる聖女への冒涜。民衆は王家に不満を溜めている。そこに聖女死亡のニュースが流れたらどうなる?」
グレシアナ王国に起こった事件。一つ一つは小さくても、二十年という長い年月をかけると、それは権力者への不満として表れるでしょう。

「いくら王侯貴族に力があるとはいえ、国民の八割以上は平民だ。その平民たちが一気に暴動を起こしたら、いくら貴族でも太刀打ちできまい。王家も、貴族も、崩壊する。」
ゾクリと鳥肌がたちます。本当に猊下は、裏から国を操り、権力者を滅ぼそうとしているのです。

「国王の婚約者を死なせたことによりハルティアからも見限られる。」
そして私たちの死も、王家への不信感を煽るニュースの一つとして扱う気なのです。

「王家は滅ぶ。そして新しく権力者を立てることになれば、それは誰になる?王姉の家か?いや、違う。平民に尽くし、王侯貴族の不手際によって娘を失った悲劇の人物……私だ!」
猊下は、悲劇の歴史を作ろうとしているのです。

「この計画には悲劇が不可欠だ。」
 その方が平民共の印象が良くなるからな、と吐き捨てます。
 これが、長い長い猊下の復讐。猊下の本心。彼はずっと、恨みを持って生きてきたのですね。
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