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4章 攫われた二人
黒幕
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私は雷に打たれたような衝撃を感じました。一方拒絶ともとれる反応をされたクレア様は呆然としています。
「お、お義父さま…?」
「父などと呼ぶな、汚らわしい。」
あれだけ慈悲深い活動をしていた方とは思えない言動が続いています。
「教皇猊下、一体どうされたのですか?猊下らしくありません。」
問いかけてみると、クレア様に向けているような冷たい視線は少し緩んだものの、相変わらず虫けらを見るような目をしていました。光が抜け落ちたような、そんな雰囲気でした。
「少し部下がうるさくてな、様子を見に来たのだ。」
「部下…?」
誘拐された後、私たちに会ったのはレナリシアさんしかいません。となると猊下は…
「猊下が私たちを誘拐したのですか?」
レナリシアさんの上司、と言う事になってしまいます。先程から目も、言葉も、行動も。全てが私の知る教皇猊下からはかけ離れています。どうか嘘であってほしいと懇願するような声で私は聞きました。
「そうだ。エメリック穣には、悪いが私の計画に付き合ってもらおう。」
「計画ですか…?」
「どういうことなんですか。おと…猊下。」
クレア様は今にも泣き出しそうな顔をしていました。
「はは、まぁ冥土の土産に聞いてもらうか。」
ぞくり、と背筋に寒気がはしります。猊下は、私たちを殺す気なのでしょうか。
「私の、長い長い計画を。」
◇◇◇
「レガムという家を知っているかな?」
聞いたことがない名前です。しかし、隣に並べられたクレア様は顔を強ばらせました。
「前ロベルト陛下時代から謀反を企て、二十年ほど前に取り潰された…辺境伯家ですね。」
「その通り。」
教皇猊下は懐から何かを取り出しました。それは、紋章が刻まれた懐中時計でした。
「我が名はカイザー・レガム。レガム辺境伯家の最後の血筋である。」
「レガム家の直系は反逆罪で処刑されたはずです!」
あれは恐らくレガム辺境伯家の紋章。紋章入りの物を持っていいのは直系の血筋のみと決まっているので、クレア様は困惑しているのでしょう。
しかし、教皇猊下が二十年前に滅んだ家の直系だったとは思いもよりませんでした。
「そうだ。レガム家の人間は皆殺しにされた!そして滅んだ!王家のせいでな!」
凍てつく視線を送っていた目には、一気に怒りが宿りました。
「確かにレガム家は滅んだ。しかし私が再興する。王家を滅ぼした後でな。」
その怒りは、全て王家に。完全に逆恨みです。
「謀反を起こしておいて逆恨みだなんて、筋違いです。どうか……」
パァン、と乾いた音がして、クレア様は、勢いよく頬を打たれていました。
「うるさい!」
そこに親子の関係は感じられませんでした。
「我が家は全ての罪を擦り付けられ、嵌められたんだ!王家はそれに気づかなかった!お前に分かるのか、愛する家族を失った私の気持ちが!」
その絶叫は、泣いているようにも聞こえました。
「お前に分かるのとでも言うのか!」
「お、お義父さま…?」
「父などと呼ぶな、汚らわしい。」
あれだけ慈悲深い活動をしていた方とは思えない言動が続いています。
「教皇猊下、一体どうされたのですか?猊下らしくありません。」
問いかけてみると、クレア様に向けているような冷たい視線は少し緩んだものの、相変わらず虫けらを見るような目をしていました。光が抜け落ちたような、そんな雰囲気でした。
「少し部下がうるさくてな、様子を見に来たのだ。」
「部下…?」
誘拐された後、私たちに会ったのはレナリシアさんしかいません。となると猊下は…
「猊下が私たちを誘拐したのですか?」
レナリシアさんの上司、と言う事になってしまいます。先程から目も、言葉も、行動も。全てが私の知る教皇猊下からはかけ離れています。どうか嘘であってほしいと懇願するような声で私は聞きました。
「そうだ。エメリック穣には、悪いが私の計画に付き合ってもらおう。」
「計画ですか…?」
「どういうことなんですか。おと…猊下。」
クレア様は今にも泣き出しそうな顔をしていました。
「はは、まぁ冥土の土産に聞いてもらうか。」
ぞくり、と背筋に寒気がはしります。猊下は、私たちを殺す気なのでしょうか。
「私の、長い長い計画を。」
◇◇◇
「レガムという家を知っているかな?」
聞いたことがない名前です。しかし、隣に並べられたクレア様は顔を強ばらせました。
「前ロベルト陛下時代から謀反を企て、二十年ほど前に取り潰された…辺境伯家ですね。」
「その通り。」
教皇猊下は懐から何かを取り出しました。それは、紋章が刻まれた懐中時計でした。
「我が名はカイザー・レガム。レガム辺境伯家の最後の血筋である。」
「レガム家の直系は反逆罪で処刑されたはずです!」
あれは恐らくレガム辺境伯家の紋章。紋章入りの物を持っていいのは直系の血筋のみと決まっているので、クレア様は困惑しているのでしょう。
しかし、教皇猊下が二十年前に滅んだ家の直系だったとは思いもよりませんでした。
「そうだ。レガム家の人間は皆殺しにされた!そして滅んだ!王家のせいでな!」
凍てつく視線を送っていた目には、一気に怒りが宿りました。
「確かにレガム家は滅んだ。しかし私が再興する。王家を滅ぼした後でな。」
その怒りは、全て王家に。完全に逆恨みです。
「謀反を起こしておいて逆恨みだなんて、筋違いです。どうか……」
パァン、と乾いた音がして、クレア様は、勢いよく頬を打たれていました。
「うるさい!」
そこに親子の関係は感じられませんでした。
「我が家は全ての罪を擦り付けられ、嵌められたんだ!王家はそれに気づかなかった!お前に分かるのか、愛する家族を失った私の気持ちが!」
その絶叫は、泣いているようにも聞こえました。
「お前に分かるのとでも言うのか!」
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