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2章 悲劇の王女
つかの間の休息
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ハルティア王国に戻って数日、本格的な事態解明の動きが始まりました。主導はグレシアナ王国の外務省です。
襲撃を受けて怒り狂っているという訳ではないのですが、こちらが危機にさらされ被害を受けたのは事実。しっかり調査をしてもらい、再発防止に努めてもらうのは当然の権利だとルークが言っていました。
「失礼します、公爵令嬢。公爵閣下から書類を持って参りました。」
仕事の最中、ハルティアが新体制となってから宰相を務めるお父様の名代の方がやって来ました。確か直轄の部下だったはずです。
「襲撃事件調査報告書 ○日時点」
軽く目を通して書類を机に置きます。後でじっくり読んでおきましょう。
「ありがとうございます、ユーゼ子爵。」
「え……あ、はい。」
子爵はポカンとしていました。執務机を挟んで私を不思議そうに見ます。
「どうかされましたか、子爵?」
「その、名前を……」
「も、もしかして、間違っていましたか?ごめんなさい!」
焦った私はすぐに謝罪しました。なんて失礼をしてしまったのでしょう!ウィリアム・ユーゼ子爵では無かったのですね。
「あ、いえ。名前は間違いありません。ただ…」
「ただ?」
「私のような者の名前を知っていてくださっている事に感激致しまして。」
子爵はそう言うと静かに笑いました。とりあえず名前が間違っていなかったのは安心なのですが、そういう事で感激するものでしょうか?
「私は閣下から革命にお誘いいただけていなければ、一生ただの地方貴族のままだったでしょう。閣下には大変恩義を感じております。」
「そうなのですか!」
「はい。ですが、未熟者ですので閣下にはご迷惑をかけてばかりです。それでも閣下は見捨てはしませんし、公爵令嬢はこうして下の者にも公平かつ穏やかに接してくださいます。」
私は不思議に思いました。人を取りまとめる地位の人間として、子爵が言ったような事は当然のように感じます。お父様が見出したという事は高い能力があるという事ですし、そういった人をいちいち切り捨てていけばキリがありませんし誰も着いてはきません。安心して着いていける人間には公平さは必須条件のように思いますし。
「簡単のように思われますか?意外に難しい事なのですよ。陛下や閣下、公爵令嬢には上に立つ人間としての才覚があるという事だと思います。先王陛下はそれが無かった為に不満が溜まっていったのですから。」
直球でベタ褒めされると、とたん気恥ずかしくなりました。
「あ、ありがとうございます。ですが子爵は未熟者などではありませんよ。お父様は子爵とライル伯爵の助けなしに宰相は務まらないといつも言っていますから。」
ハルティア貴族の方々の情報覚えるようにはしていますが、やはりすぐに情報が思い出せる人とそうでない人はいます。子爵はお父様がいつも感謝しているので、印象に残っていたのです。
「ほ、本当ですか…!?」
「えぇ、いつもありがとうございます。」
子爵の表情は静かな微笑みから、満面の笑みになりました。
「凄く嬉しいです。改めてウィリアム・ユーゼ、この身朽ちるまで忠義を尽くさせていただきます。」
「その忠義、しかと受け取りました。」
少々硬派すぎる気もしますが、不思議と嫌な気はしませんでした。
それからしばらく経過し、グリフォン襲撃事件の結果が確定しました。
実行犯はグレシアナのならず者集団の一人で、オルコット男爵からの指示だった事が判明しました。その方と面識はありません。自領で襲撃を受けた私たちを介抱できれば恩を売れると考え、自作自演だったと証言したそうです。他に怪しい点も無かった為に、杜撰な単独犯罪だと結論付けられました。
しかしグレシアナ側ではまだ黒幕がいると考えているそうで、これからも捜査は続けていくとのこと。この件に対する慰謝料として、オルコット男爵領がハルティアの支配下に加わる事になりました。
襲撃を受けて怒り狂っているという訳ではないのですが、こちらが危機にさらされ被害を受けたのは事実。しっかり調査をしてもらい、再発防止に努めてもらうのは当然の権利だとルークが言っていました。
「失礼します、公爵令嬢。公爵閣下から書類を持って参りました。」
仕事の最中、ハルティアが新体制となってから宰相を務めるお父様の名代の方がやって来ました。確か直轄の部下だったはずです。
「襲撃事件調査報告書 ○日時点」
軽く目を通して書類を机に置きます。後でじっくり読んでおきましょう。
「ありがとうございます、ユーゼ子爵。」
「え……あ、はい。」
子爵はポカンとしていました。執務机を挟んで私を不思議そうに見ます。
「どうかされましたか、子爵?」
「その、名前を……」
「も、もしかして、間違っていましたか?ごめんなさい!」
焦った私はすぐに謝罪しました。なんて失礼をしてしまったのでしょう!ウィリアム・ユーゼ子爵では無かったのですね。
「あ、いえ。名前は間違いありません。ただ…」
「ただ?」
「私のような者の名前を知っていてくださっている事に感激致しまして。」
子爵はそう言うと静かに笑いました。とりあえず名前が間違っていなかったのは安心なのですが、そういう事で感激するものでしょうか?
「私は閣下から革命にお誘いいただけていなければ、一生ただの地方貴族のままだったでしょう。閣下には大変恩義を感じております。」
「そうなのですか!」
「はい。ですが、未熟者ですので閣下にはご迷惑をかけてばかりです。それでも閣下は見捨てはしませんし、公爵令嬢はこうして下の者にも公平かつ穏やかに接してくださいます。」
私は不思議に思いました。人を取りまとめる地位の人間として、子爵が言ったような事は当然のように感じます。お父様が見出したという事は高い能力があるという事ですし、そういった人をいちいち切り捨てていけばキリがありませんし誰も着いてはきません。安心して着いていける人間には公平さは必須条件のように思いますし。
「簡単のように思われますか?意外に難しい事なのですよ。陛下や閣下、公爵令嬢には上に立つ人間としての才覚があるという事だと思います。先王陛下はそれが無かった為に不満が溜まっていったのですから。」
直球でベタ褒めされると、とたん気恥ずかしくなりました。
「あ、ありがとうございます。ですが子爵は未熟者などではありませんよ。お父様は子爵とライル伯爵の助けなしに宰相は務まらないといつも言っていますから。」
ハルティア貴族の方々の情報覚えるようにはしていますが、やはりすぐに情報が思い出せる人とそうでない人はいます。子爵はお父様がいつも感謝しているので、印象に残っていたのです。
「ほ、本当ですか…!?」
「えぇ、いつもありがとうございます。」
子爵の表情は静かな微笑みから、満面の笑みになりました。
「凄く嬉しいです。改めてウィリアム・ユーゼ、この身朽ちるまで忠義を尽くさせていただきます。」
「その忠義、しかと受け取りました。」
少々硬派すぎる気もしますが、不思議と嫌な気はしませんでした。
それからしばらく経過し、グリフォン襲撃事件の結果が確定しました。
実行犯はグレシアナのならず者集団の一人で、オルコット男爵からの指示だった事が判明しました。その方と面識はありません。自領で襲撃を受けた私たちを介抱できれば恩を売れると考え、自作自演だったと証言したそうです。他に怪しい点も無かった為に、杜撰な単独犯罪だと結論付けられました。
しかしグレシアナ側ではまだ黒幕がいると考えているそうで、これからも捜査は続けていくとのこと。この件に対する慰謝料として、オルコット男爵領がハルティアの支配下に加わる事になりました。
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