【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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3章 共同作戦

苦労人

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「っ………!?」
 執務室にて、王太子ルークの背中にゾワリと悪寒が走った。机の上に乗せられた書類の山を見てため息をつく。




 ルーク・ハルティアは国王と正妃との間に生まれた。国王は政略結婚で結ばれた正妃には関心を示さず、後宮に迎えた第2王妃とばかり過ごしていた。執務は正妃に押し付け、表面上は国王が行ったことにして。

 国王と正妃が夜を共にしたのは1度だけだと言う。その時偶然懐妊したのを知ると、国王は不貞を疑ったそうだ。そんな仕打ちがあっても尚、正妃は妊娠中に執務をこなした。

「私は国母なのよ。陛下がどう言っても、国民を守る義務があるわ。」

 正妃は執務の過労と愛を向けられない心労に耐えられず、衰弱死してしまった。生まれたばかりの息子を残して。侍女が部屋に向かったら息をしていなかったという。しかし正妃が亡くなったにも関わらず、国王よりも使用人たちの方が悲しんだ。国王はそれどころかすぐに第2王妃を正妃として即位させた。まるで亡くなった正妃の存在を消すように。

 激務を1人で行っていた正妃が亡くなったことで、当然王国内の執務は滞った。しかし国王の王妃の1割にも満たない楽な執務だけ適当にこなし後は臣下たちに任せていた。そこからだ、水面下で革命派が結成されたのは。

 新たな正妃は子宝には恵まれなかったが、国王は王妃にうつつを抜かし、国内情勢には目もくれない。時が経って王太子が大きくなれば、その代償は全て王太子に回ってきた。ルークは国王より多忙な生活を強いられていたのだ。


「西部の動向はどうだ?」
「クーデター未遂が数回起こっています。自警団によって防がれましたが、どうされますか?」
「西部騎士団の第4隊を配備してくれ。」
「了解しました。」

 ルークは物心ついた時から無能な王に代わる人材として期待をかけられてきた。年中勉強をしなければならなかった。
 一般教養はもちろん、馬術に魔法に剣術、ダンスに周辺国の公用語のエトセトラ……
 そして一通り勉強を終えた頃には、歴代最高の王太子として名高くなっていた。そんなルークにやって来たのは大量の執務処理と勝手な婚約だった。

「ルーク殿下!私はディアナ・テレネシアですわ!高貴な私と婚約できるなんて殿下は幸せ者ですわね!」
 婚約者との初対面の時、あまりの無礼な言動の数々にルークは頭を抱えた。これが王太子妃、ひいては未来の王妃になるのかと。

 マナーも教養も無い。身分だけが取り柄としか言いようがない。父親に問い詰めると、
「王家の血筋は高貴な方が良いだろ?ディアナ嬢は一番身分が高いからな。」
そう言われた。

 一向に減らない執務に大使との交流、婚約者とのお茶会に会議出席に地方視察のエトセトラ……もはや王国の主はルークと言っても過言ではなかった。
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