【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ

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1章 新しい家族

伯爵家の末路

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「一言で言うと、伯爵家は没落しました。」
ゴクリと唾を飲みます。想像してはいましたが、やはり没落してしまったのですね。

「ビクター・オラルト伯爵は、公爵様がトップを務める法務省に逮捕されました。罪状は密猟、提出文書の改ざん、横領、基準以下の低賃金労働、不正商品の販売、そして虐待です。」
「………」
 思ったより多い。これが罪状を聞いた時の感想でした。改めてあんな家にいたんだと思うとゾッとします。

「裁判の時は何を行ったんですか?」
「証拠の提出、法務省側からの尋問。そして容疑者の反論、弁護です。」
 先生はため息をつきました。
「伯爵の反論は……その、とても見苦しいものでした。山のような証拠に対し無根拠な発言を繰り返し、墓穴を掘って新たな罪まで見つかったくらいです。」
「そうですか……」
「愚かしい伯爵は弁護の余地もなく、刑が下される事になりました。」

「伯爵は裁判の末、爵位の剥奪と永久投獄を言い渡されました。」
「永久投獄……」
「事実上、死刑です。」

「伯爵夫人の方は現在捜索されています。」
「夫人が?」
「ええ、夫人もお嬢様を虐待して立派な共犯者の可能性がありますからね。」
「見つかった場合、どんな刑になるのですか?」
「うーん。まぁ伯爵ほどまでいかなくても、爵位剥奪、多額の罰金はあると思いますね。実子を虐待した上、罪を犯そうとする夫を止めなかったのですから。」
「………」

 先程から伯爵夫妻の話を聞いてみましたが、私の気持ちが晴れるありませんでした。

「お嬢様、どうされましたか?」
「い、いえ……」
「無理なさらないでくださいませ。」
先生は私を優しく抱きしめました。あぁ、温かいです。
 私の心は、夫妻を恨みきる事ができませんできた。不憫だと思ってしまったのです。それが間違いなのは分かっているのに、自分自身がよく分からないのです。

「先生……私は…頭がおかしいのでしょうか。あんな事をされた伯爵夫妻に…同情して…胸が痛んで……」
「おかしくありません。ただお嬢様は、優しい心の持ち主なんです。」
「心……」
「恨むべき人物に同情するなんて、中々できません。それがお嬢様の優しさなんです。」
「でも…私は前に進みたいのです。伯爵家を忘れたいのに…こんなにも苦しい…」
「お嬢様はもう充分前に進んでいますよ。虐待をされた過去をこんなにも受け止めているんですから。」
「え……?」

「人を恨むという事は、その恨みもずっと心に残ります。恨みが残るより、同情の優しさが残る方が良いと思いますよ。」
「そう、でしょうか……」
「少なくとも、この公爵邸の皆さんは優しいお嬢様の方を望んでいますよ。」

『同情という優しさを残す』 そう考えると心が軽くなりました。あの日、私の壊れた心にも優しさという風が吹き込んでいたのですね。公爵邸に来れたから。
「先生、ありがとうございました。私は前に進めているのですね。」
「もちろんですよ。」
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