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第11章 クラス対抗魔法球技戦編
閉会式①
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「……まさかここまでとはなぁ、この結果はさすがに予想してへんかったわ」
次の日の午前、最優秀選手の投票結果を集計していた生徒会メンバーたちは、その予想外の結果に戸惑いを隠せずにいた。
「……どうしますか?会長…」
副会長のヴァンが、フリージアに判断を仰ぐ。
「そうねぇ…ちょっと計画を早めるしかないわね。みんなちょっといいかしら……」
その日の午後、魔法学院の大講堂では『魔法球技戦閉会式』が始まっていた。休日のため参加は自由ではあるが、ほぼ全ての生徒が閉会式へと出席していた。
閉会式と言っても、生徒が一列に並んで座っているような堅苦しい雰囲気のものではなく、各所にテーブルと軽食が置かれている、立食パーティーのような形で行われていた。
「では皆さん、お待たせいたしました!今年度の学年別クラス対抗魔法球技戦の最優秀選手の発表と表彰を行いたいと思います!」
会場に集まった生徒たちが歓談していると、前方のステージに現れた生徒会長フリージア・ウィステリアがそう告げた。生徒たちは拍手と歓声を持ってそれに答えた。
「ではまず皆さんの投票によって決定された最優秀選手を発表します」
会場からは再び大きな拍手が沸き起こる。
「最優秀選手発表の前に、第10位から第2位までの優秀選手を順番に発表していきます。それ以下の順位は後ほど張り出させてもらいます。そして、5位~1位の方にはステージに上がってもらい、お言葉を頂きたいと思います。10位~6位の方は名前だけで失礼いたします。では10位から発表していきます」
「第10位は同率で二名いらっしゃいます。一人目は1年5クラス。レガリー・コチニールさん。そして二人目も1年5クラス。ランダル・カーマインさんです!」
会場の1年生が集まっている場所を中心に歓声と拍手が沸き起こる。
皆が自分たちの方を向いているのに気づいたランダルは、自分の左側に寄り添うようにして立っていたレガリーの腰に手を回して引き寄せる。レガリーは特に嫌がる素振りを見せることもなく、むしろさらに体を密着させるように寄り添う。そして、ランダルが空いている右手を振って歓声に答えると、レガリーもそれに続いて空いている左手を振った。
そして、レガリーがランダルの方を向いて、ちょいちょいと指先を曲げて、顔を貸すように伝える手振りをすると、それに気づいたランダルが首を傾げて耳を傾ける。レガリーは少しだけ背伸びをして何かを耳打ちすると、ランダルはにっこりと笑ってそれに答えた。
そのやり取りはもはや夫婦にしか思えないと、その様子を見た者誰もが思ったことだろう。
実際のところ、ファンの間では二人は『夫婦』として認識されていた。
だが、当然だが二人は文字通りの『夫婦』ではない。
家族ぐるみの付き合いではあるが『許婚』の関係でもない。
そもそも二人は同性である。
ご存じの通り、ランダルの本名はミランダ。男性ではなく女性である。
ちなみに、ランダルもミランダも、どちらも愛称はランディである。
ランダルは家の事情で、物心がつく前から男性として育てられ、今でも基本的には男性として振る舞って生活している。レガリーは幼馴染で、家同士が非常に親しい間柄にあるため、その事情をよく理解したうえで、普段は男性に対して接するようにランダルに接している。そのため幼馴染とはいえ、少し素っ気ない接し方になってしまっているのは否めない。
逆にランダルの方が同性であるレガリーに対して、このように異性に接するように接しているのは、男性として振る舞うことに慣れすぎてしまったゆえの無意識の行動なのか、それとも、事情を知っているいわば協力者であるレガリーを上手く使うことで、より自分が女性であるということを悟られないようにするためなのかはわからない。
しかし、二人の様子を見るからに、そのどちらでも無いように思えた。
それはただ仲がいい振りをしているだけのようには到底思えなかった。
二人の間には、他の人には踏み入ることができない特別な世界のようなものがあるように思えた。
「では、続いては第9位です。第9位は1年3クラス。アザレア・ディライトさんです!」
会場からは大きな拍手が沸き起こる。負けはしたが、仲間を率いて圧倒的な強者に立ち向かっていったかっこよさが評価されてのことと思われる。
アザレアは恥ずかしそうに何度かお辞儀をしつつも、嬉しそうにしていた。
アザレアは生徒会メンバーのため、当然午前に行っていた集計作業にも参加していたので、自分が選ばれていることは知っていた。しかし、改めて全員の前で自分の名前が呼ばれるのを聞いて、自分が優秀選手に選出されたことを実感し、その喜びを噛みしめていたのだろう。
だが、アザレアの本心としては、喜びよりも安堵の方が大きかったかも知れない。アザレアは『生徒会の一員であるからには、全ての生徒の模範にならなければならない』という使命感のようなものを感じていた。
今回の魔法球技戦において、事前情報から1年5クラスが相当に強敵になりそうだということは十分に認識していたつもりだった。必ずや対戦することになるはずだと考えて、様々な戦法を考えて練習を重ねてきた。
しかし、実際に魔法球技戦が始まり、1年5クラスの試合を見てみて、アザレアは愕然とした。1年5クラスは強敵などではなかった。
それはもはや、万に一つも勝つ見込みなどない絶対的な王だった。
初戦であの入試のペーパーテストの最終問題に出た難題『水の飛行魔法』を駆使した空中からの攻撃と、魔法具そのものを使って敵のボールを弾き返すという奇想天外な戦法を使ってきた時には言葉を失った。それでも仲間を奮い立たせて勝利を重ね、決勝まで足を運んだ。
しかし、1年5クラスは決勝戦のオーダーを総入れ替えしてきた。それはつまり戦法をまるで変えてくるということを意味していた。これ以上の作戦などあるのかと思うほどの作戦だったのに、まさかそれ以上の作戦があるというのだろうか。決勝戦のためだけにさらに別の戦略を考えてくるとは、いったいどれほどの引き出しがあるというのだろう…。
すでに諦めムードの仲間を鼓舞し続け、結果的には1点も取ることができない惨敗だったが、この日のために練習してきた作戦は本番ですべて成功させることができたし、1エリアだけだが取ることができた。絶対的な王にほんの少しだけでも、そう、息を吹きかける程度くらいはできたかも知れない。
そして何より、最後の最後まで仲間と共に諦めずに戦い抜くことができたことが何より嬉しかった。なので、この優秀選手への選出は自分一人のものではない。仲間と共に勝ち取ったものだ。
周りで自分の入賞を喜んでくれているクラスメイト達に、そのことを伝えようと思うのだった。
「続いて第8位は、1年5クラス。クリスティーン・チェスナットさんです」
会場の1年生がいる場所を中心に黄色い歓声と拍手が飛び交う。それにクリスティーンが笑顔で答えて手を挙げると、さらに会場が沸く。
「第7位 同じく1年5クラス。リリアナ・ソルフェリノさんです」
こちらも同様に歓声が上がる。リリアナはクリスティーンほどの反応をすることはなく、少し微笑んで、軽く手を挙げて答えるだけだった。だが逆にそのクールな対応が人気の理由でもあった。
今回、リリアナの方が順位が高かったのは、ファンからの投票に加えて、エリアボール決勝で雷の移動魔法という新魔法を披露したことによる一般投票が加算されたためと思われる。
そして、クリスティーンが何やら親しげにリリアナに耳打ちすると、くすくすと口を押えて笑う。そして、今度はリリアナがクリスティーンに耳打ちする。まるで恋人同士かのようなやり取りだ。それを見ていたファン達からは悔しがるどころか、逆に尊いものを見るかのようにため息が漏れる。
この二人が仲がいいのは間違いないのだが、それだけでなく実際のところ、ファンの間でも二人は『公式カップリング』と認知されていた。
まぁ、何が『公式』なのかはさておき。
女性同士のカップリングは、女子生徒からはもちろん、男子生徒からのファンも少なからず獲得していた。自分たちがお近づきになることはできないにしても、他の男子生徒に取られることもないという安心感があるというファン心理のためだと思われる。
会場は続けて、次の優秀選手の発表に移る。
「第6位、1年5クラス。キリエ・ウィーリングさん」
会場から大きな拍手が沸き起こる。
「えぇ…わっ、わたし?」
キリエが驚いたように自分を指差し、一緒にいたルビアとフェリカを見る。
「そうだよ!キリィだよ!」
「ほら、拍手に答えてあげたら?」
そう、ルビアから促されて、キリエが困ったように体全身を使ってペコペコと何度もお辞儀すると、その愛くるしい仕草に会場にいた生徒たちの顔がほころぶ。
キリエもこの魔法球技戦を通して、一躍人気者となった生徒の一人だった。キリエはその不自由な足のせいもあって、入学試験の模擬戦にも出場していなかったので、全く目立っていなかった。
しかし、今回の模擬戦において、その小さな体に不釣り合いな大きな杖を持ち(この杖は体を支える役割を兼ねていたため、ルーシッドが作ってくれた魔道具のお陰で足を動かせるようになった今は必要なくなったのだが、長年使っていてすっかり慣れてしまったので、そのまま魔法詠唱用として使っているのだった)、その場から一歩も動かずに強力な魔法を正確に発令して相手を倒していく様子は、さながら昔話に出てくる『偉大なる大魔法師』そのものだと話題になったのだった。その愛らしい容姿や仕草も人気に火をつけた要因だったのは間違いない。
「ではいよいよ、第5位の発表です。名前を呼ばれた方はご登壇ください。
第5位は、1年5クラス…」
「すごい…まっ、また私たちのクラスだわ…!」
1年5クラスの総リーダー、シアン・ノウブルは少し興奮気味にそう言った。
場内では、誰が声をかけるでもなく、自然とそれぞれのクラスごとに集まっていた。1年5クラスは全種目優勝も果たしたし、今回の球技戦では相当に目立っていたので、誰かは選ばれるんじゃないかと全員が薄々は感じていただろう。
しかし蓋を開けてみればここまで上位十名に何と、四人も選出されていた。同じクラスからここまで多くの生徒が選出されることは前例がない。
なぜなら基本的には、魔力ランクによる能力差が出ないようにクラス分けがされているため、クラスの中に優秀選手に選出されるような生徒は1、2名に限られるはずだからだ。実際のところクリスティーンやリリアナはCランクだ。その容姿の良さから一定のファンはいるとしても、普通なら優秀選手に選ばれるような活躍はできないはずだ。キリエもBランクではあるが、本来なら魔法球技に出るような魔法使いではない。ランダルやレガリーだって、普通ならここまでの活躍は絶対にできていなかっただろう。
そう、この1年5クラスの大躍進はすべて、ルーシッド・リムピッドというたった一人の天才のお陰なのだ。
そのことは1年5クラスの生徒誰もが認めるところであった。
さて、その大躍進の立役者のルーシッドはと言うと、大好きなコフェア(コーヒーによく似た飲み物)のお代わりをもらいに行ったところ、今ちょうど切らしてしまって新しいのを入れているところだから数分待つようにと言われ、がっかりしながらショコラドルテを口にちまちまと運んでいるところだった。
次の日の午前、最優秀選手の投票結果を集計していた生徒会メンバーたちは、その予想外の結果に戸惑いを隠せずにいた。
「……どうしますか?会長…」
副会長のヴァンが、フリージアに判断を仰ぐ。
「そうねぇ…ちょっと計画を早めるしかないわね。みんなちょっといいかしら……」
その日の午後、魔法学院の大講堂では『魔法球技戦閉会式』が始まっていた。休日のため参加は自由ではあるが、ほぼ全ての生徒が閉会式へと出席していた。
閉会式と言っても、生徒が一列に並んで座っているような堅苦しい雰囲気のものではなく、各所にテーブルと軽食が置かれている、立食パーティーのような形で行われていた。
「では皆さん、お待たせいたしました!今年度の学年別クラス対抗魔法球技戦の最優秀選手の発表と表彰を行いたいと思います!」
会場に集まった生徒たちが歓談していると、前方のステージに現れた生徒会長フリージア・ウィステリアがそう告げた。生徒たちは拍手と歓声を持ってそれに答えた。
「ではまず皆さんの投票によって決定された最優秀選手を発表します」
会場からは再び大きな拍手が沸き起こる。
「最優秀選手発表の前に、第10位から第2位までの優秀選手を順番に発表していきます。それ以下の順位は後ほど張り出させてもらいます。そして、5位~1位の方にはステージに上がってもらい、お言葉を頂きたいと思います。10位~6位の方は名前だけで失礼いたします。では10位から発表していきます」
「第10位は同率で二名いらっしゃいます。一人目は1年5クラス。レガリー・コチニールさん。そして二人目も1年5クラス。ランダル・カーマインさんです!」
会場の1年生が集まっている場所を中心に歓声と拍手が沸き起こる。
皆が自分たちの方を向いているのに気づいたランダルは、自分の左側に寄り添うようにして立っていたレガリーの腰に手を回して引き寄せる。レガリーは特に嫌がる素振りを見せることもなく、むしろさらに体を密着させるように寄り添う。そして、ランダルが空いている右手を振って歓声に答えると、レガリーもそれに続いて空いている左手を振った。
そして、レガリーがランダルの方を向いて、ちょいちょいと指先を曲げて、顔を貸すように伝える手振りをすると、それに気づいたランダルが首を傾げて耳を傾ける。レガリーは少しだけ背伸びをして何かを耳打ちすると、ランダルはにっこりと笑ってそれに答えた。
そのやり取りはもはや夫婦にしか思えないと、その様子を見た者誰もが思ったことだろう。
実際のところ、ファンの間では二人は『夫婦』として認識されていた。
だが、当然だが二人は文字通りの『夫婦』ではない。
家族ぐるみの付き合いではあるが『許婚』の関係でもない。
そもそも二人は同性である。
ご存じの通り、ランダルの本名はミランダ。男性ではなく女性である。
ちなみに、ランダルもミランダも、どちらも愛称はランディである。
ランダルは家の事情で、物心がつく前から男性として育てられ、今でも基本的には男性として振る舞って生活している。レガリーは幼馴染で、家同士が非常に親しい間柄にあるため、その事情をよく理解したうえで、普段は男性に対して接するようにランダルに接している。そのため幼馴染とはいえ、少し素っ気ない接し方になってしまっているのは否めない。
逆にランダルの方が同性であるレガリーに対して、このように異性に接するように接しているのは、男性として振る舞うことに慣れすぎてしまったゆえの無意識の行動なのか、それとも、事情を知っているいわば協力者であるレガリーを上手く使うことで、より自分が女性であるということを悟られないようにするためなのかはわからない。
しかし、二人の様子を見るからに、そのどちらでも無いように思えた。
それはただ仲がいい振りをしているだけのようには到底思えなかった。
二人の間には、他の人には踏み入ることができない特別な世界のようなものがあるように思えた。
「では、続いては第9位です。第9位は1年3クラス。アザレア・ディライトさんです!」
会場からは大きな拍手が沸き起こる。負けはしたが、仲間を率いて圧倒的な強者に立ち向かっていったかっこよさが評価されてのことと思われる。
アザレアは恥ずかしそうに何度かお辞儀をしつつも、嬉しそうにしていた。
アザレアは生徒会メンバーのため、当然午前に行っていた集計作業にも参加していたので、自分が選ばれていることは知っていた。しかし、改めて全員の前で自分の名前が呼ばれるのを聞いて、自分が優秀選手に選出されたことを実感し、その喜びを噛みしめていたのだろう。
だが、アザレアの本心としては、喜びよりも安堵の方が大きかったかも知れない。アザレアは『生徒会の一員であるからには、全ての生徒の模範にならなければならない』という使命感のようなものを感じていた。
今回の魔法球技戦において、事前情報から1年5クラスが相当に強敵になりそうだということは十分に認識していたつもりだった。必ずや対戦することになるはずだと考えて、様々な戦法を考えて練習を重ねてきた。
しかし、実際に魔法球技戦が始まり、1年5クラスの試合を見てみて、アザレアは愕然とした。1年5クラスは強敵などではなかった。
それはもはや、万に一つも勝つ見込みなどない絶対的な王だった。
初戦であの入試のペーパーテストの最終問題に出た難題『水の飛行魔法』を駆使した空中からの攻撃と、魔法具そのものを使って敵のボールを弾き返すという奇想天外な戦法を使ってきた時には言葉を失った。それでも仲間を奮い立たせて勝利を重ね、決勝まで足を運んだ。
しかし、1年5クラスは決勝戦のオーダーを総入れ替えしてきた。それはつまり戦法をまるで変えてくるということを意味していた。これ以上の作戦などあるのかと思うほどの作戦だったのに、まさかそれ以上の作戦があるというのだろうか。決勝戦のためだけにさらに別の戦略を考えてくるとは、いったいどれほどの引き出しがあるというのだろう…。
すでに諦めムードの仲間を鼓舞し続け、結果的には1点も取ることができない惨敗だったが、この日のために練習してきた作戦は本番ですべて成功させることができたし、1エリアだけだが取ることができた。絶対的な王にほんの少しだけでも、そう、息を吹きかける程度くらいはできたかも知れない。
そして何より、最後の最後まで仲間と共に諦めずに戦い抜くことができたことが何より嬉しかった。なので、この優秀選手への選出は自分一人のものではない。仲間と共に勝ち取ったものだ。
周りで自分の入賞を喜んでくれているクラスメイト達に、そのことを伝えようと思うのだった。
「続いて第8位は、1年5クラス。クリスティーン・チェスナットさんです」
会場の1年生がいる場所を中心に黄色い歓声と拍手が飛び交う。それにクリスティーンが笑顔で答えて手を挙げると、さらに会場が沸く。
「第7位 同じく1年5クラス。リリアナ・ソルフェリノさんです」
こちらも同様に歓声が上がる。リリアナはクリスティーンほどの反応をすることはなく、少し微笑んで、軽く手を挙げて答えるだけだった。だが逆にそのクールな対応が人気の理由でもあった。
今回、リリアナの方が順位が高かったのは、ファンからの投票に加えて、エリアボール決勝で雷の移動魔法という新魔法を披露したことによる一般投票が加算されたためと思われる。
そして、クリスティーンが何やら親しげにリリアナに耳打ちすると、くすくすと口を押えて笑う。そして、今度はリリアナがクリスティーンに耳打ちする。まるで恋人同士かのようなやり取りだ。それを見ていたファン達からは悔しがるどころか、逆に尊いものを見るかのようにため息が漏れる。
この二人が仲がいいのは間違いないのだが、それだけでなく実際のところ、ファンの間でも二人は『公式カップリング』と認知されていた。
まぁ、何が『公式』なのかはさておき。
女性同士のカップリングは、女子生徒からはもちろん、男子生徒からのファンも少なからず獲得していた。自分たちがお近づきになることはできないにしても、他の男子生徒に取られることもないという安心感があるというファン心理のためだと思われる。
会場は続けて、次の優秀選手の発表に移る。
「第6位、1年5クラス。キリエ・ウィーリングさん」
会場から大きな拍手が沸き起こる。
「えぇ…わっ、わたし?」
キリエが驚いたように自分を指差し、一緒にいたルビアとフェリカを見る。
「そうだよ!キリィだよ!」
「ほら、拍手に答えてあげたら?」
そう、ルビアから促されて、キリエが困ったように体全身を使ってペコペコと何度もお辞儀すると、その愛くるしい仕草に会場にいた生徒たちの顔がほころぶ。
キリエもこの魔法球技戦を通して、一躍人気者となった生徒の一人だった。キリエはその不自由な足のせいもあって、入学試験の模擬戦にも出場していなかったので、全く目立っていなかった。
しかし、今回の模擬戦において、その小さな体に不釣り合いな大きな杖を持ち(この杖は体を支える役割を兼ねていたため、ルーシッドが作ってくれた魔道具のお陰で足を動かせるようになった今は必要なくなったのだが、長年使っていてすっかり慣れてしまったので、そのまま魔法詠唱用として使っているのだった)、その場から一歩も動かずに強力な魔法を正確に発令して相手を倒していく様子は、さながら昔話に出てくる『偉大なる大魔法師』そのものだと話題になったのだった。その愛らしい容姿や仕草も人気に火をつけた要因だったのは間違いない。
「ではいよいよ、第5位の発表です。名前を呼ばれた方はご登壇ください。
第5位は、1年5クラス…」
「すごい…まっ、また私たちのクラスだわ…!」
1年5クラスの総リーダー、シアン・ノウブルは少し興奮気味にそう言った。
場内では、誰が声をかけるでもなく、自然とそれぞれのクラスごとに集まっていた。1年5クラスは全種目優勝も果たしたし、今回の球技戦では相当に目立っていたので、誰かは選ばれるんじゃないかと全員が薄々は感じていただろう。
しかし蓋を開けてみればここまで上位十名に何と、四人も選出されていた。同じクラスからここまで多くの生徒が選出されることは前例がない。
なぜなら基本的には、魔力ランクによる能力差が出ないようにクラス分けがされているため、クラスの中に優秀選手に選出されるような生徒は1、2名に限られるはずだからだ。実際のところクリスティーンやリリアナはCランクだ。その容姿の良さから一定のファンはいるとしても、普通なら優秀選手に選ばれるような活躍はできないはずだ。キリエもBランクではあるが、本来なら魔法球技に出るような魔法使いではない。ランダルやレガリーだって、普通ならここまでの活躍は絶対にできていなかっただろう。
そう、この1年5クラスの大躍進はすべて、ルーシッド・リムピッドというたった一人の天才のお陰なのだ。
そのことは1年5クラスの生徒誰もが認めるところであった。
さて、その大躍進の立役者のルーシッドはと言うと、大好きなコフェア(コーヒーによく似た飲み物)のお代わりをもらいに行ったところ、今ちょうど切らしてしまって新しいのを入れているところだから数分待つようにと言われ、がっかりしながらショコラドルテを口にちまちまと運んでいるところだった。
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