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第11章 クラス対抗魔法球技戦編
教員会議③
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「なーんかさ、つまんないんだけどー、この会議。え、なに、これはわざと話を逸らしてるのかしら?」
そう言ったのは、今までずっと傍観していた、理事長シンシア・サクリフィスだった。
全員がシンシアの方を向く。シンシアは会議の輪には入らず、少し離れたところに座って退屈そうに頬杖をついていた。
「おかしいでしょ、あんなにすごかった1年5クラスの話題が誰からも出ないなんて。口裏でも合わせてるわけ?」
またあの人はそういう火種を…リサはそう思った。
そして、ちらっと横に座っているリスヴェルを見ると、今まではつまらなそうに腕を組んで座っていたが、にやっと笑っていた。そして、近くに座っていた同僚のアイリーンも、にやにやと笑っていた。
こいつら同じ穴のむじなか。確かにこの2人はなんか似てる気がする。
リサはそう思ってため息をついた。
「…人聞きの悪いことを言わないでください、理事長。すごいのは1年生だけではありませんから。むしろ私たちは評価が集中しそうなところよりも、目立たないけど素晴らしい働きをした生徒たちのこともしっかりと見ているのです」
そう言ったのは国立ディナカレア魔法学院学長の、マドレーゼ・レルネーだ。
マドレーゼは髪をきっちりと結い、眼鏡をかけた厳格そうな初老の女性だった。
マドレーゼはこのディナカレア王国はおろか、他国でも名前を知らない人はいないほどの魔法使いであり、特に魔法考古学と魔法歴史学の分野に関しては多くの業績を残していた。魔法考古学と魔法歴史学はかつての賢人たちが書き残した資料や、過去に魔法によって作られた魔法遺物などを研究することで、過去に使われた魔法を研究する分野のことであり、実際に彼女の手によって体系化されたり、現代に復活した魔法はいくつもあった。その研究分野に関する多くの著書も残していて、その分野に関しては第一人者といっても良い存在だ。彼女のことをここ百年の中で最大の賢人の1人として挙げる人も多い。
彼女のことを尊敬する人も多くおり、その数はこの学院の教員陣や、生徒の中でもかなりの数に上るだろう。
彼女は、思想的にはいわゆる『穏健派』とされるグループだ。
この世界にはその考え方の違いから大きく3つのグループが存在している。
『保守派』『革新派』『穏健派』だ。
『保守派』の人たちは、魔法使いの歴史や伝統を重んじる。魔法の知識や技術に関しては、旧世代にすでに最高潮に達しており、今はその多くが失われてしまっているという考え方をしている。それゆえに、今受け継がれているものは大事にし、失われたものを少しずつ取り戻していくことで、この世界は繁栄していくと考えている。
保守派の魔法使いは比較的年齢層が上の人たちに多く見られる。保守派の中でも極端な考え方をする人たちは、『純色至上主義』のように、特定の魔力の色や魔力の強さを重んじ、他の魔法使いを劣っているかのように考えることもある。
それと反対の考え方をしているのが『革新派』である。『革新派』の人たちは、新しい魔法や技術をどんどん生み出していくことによって、世界は進歩していくと考えており、そのためには、時代遅れの古い考え方を見直していく必要があると考えている。
この考え方は、若い世代や魔力ランクが高くなく魔法要職につけない人たちなど、現状に不満を感じている魔法使いを中心に広がっている。しかし、この派は一時期よりはやや少数派になりつつある。それは、新しい魔法の開発がやや行き詰まっている現状や、政界の要人たちに保守派の魔法使いが多いということに原因がある。魔力ランクが高い魔法使いにとっては、伝統的な制度を守っていく考え方の方が自分にとっては都合がいいからである。
そして、3つ目は、今の世界の大部分を占める『穏健派』である。どちらの考え方も尊重し、それが世界の発展のためにプラスになるのであれば採用しようという考え方だ。そう言ってしまえば聞こえはいいが、自分たちにとって利益があるならどちらでもいい、自分たちが特に損をしないならどっちでもいい、という非常に現実主義者であるとも言える。
「ふーん、物は言いようね。じゃああなたたちとしては1年生の頑張りは評価しないってこと?今回は学年別だったからあれで済んだだけで、あの5クラスだったら多分相手が上級生だって余裕で勝てると思うけど?」
そして、理事長のシンシアは革新派である。ディナカレア魔法学院では長らく伝統を重んじる古い考え方の上層部が幅を利かせていたが、ディナカレア元老院の教育大臣に革新派であり、シンシアの大親友でもあるノエル・ヴァローナという人物が就任したことで、シンシアは革新派の急先鋒としてこの学院に赴任してきたのであった。
学院の教員の人事権は理事長にあるのだが、多くの人から尊敬されている学長のマドレーゼを無下に扱うと大きな反発があるため、そこまで大胆な改革はできない。
逆に旧体制派も、様々な新しいイベントや企画を提案し、新しいこと楽しいことが大好きな学生や若い世代を中心に圧倒的な支持を集めるシンシアの意見をないがしろにするわけにはいかない。
ディナカレア魔法学院の組織図は今そのような対立構造となっていた。
「あ、あれは、生徒たちの本来の実力ではないではありませんか。あれは…」
そう言ってマドレーゼは言葉を継ぐんだ。
「あれは、何?
魔法具の力を借りたまがい物の力だとでも言いたいの?」
そう言われてマドレーゼは沈黙する。
そう、マドレーゼは外面的には教育者という肩書もあり、中立的な穏健派の立場を取っていたが、実際のところは限りなく保守派に近い考え方を持っていた。
伝統的な保守派の人たちの考え方としては、魔法具すら本来の魔法使いの技術ではないので、魔法具を使用した魔法とその人自身の力で発令した魔法は区別されるべきである。また、その2つを比べた場合、圧倒的にその人自身の力で発令した魔法の方が高く評価されるべきである、という考え方をしていた。
現在、ほとんどの魔法使いは魔法具の有用性を認めており、その恩恵を受けているが、そういった人たちの中にも、魔法具はあくまで補助的なものであって主力にはなり得ない、詠唱による魔法発令の方が圧倒的に優れているという考えの人は多くいる。
しかし、魔法具に関しての授業を提供している教育者として、そのような考え方を表立って表明することははばかられるため、マドレーゼは言葉を濁したのだった。
「まぁ今回の5クラスが出場したほとんどの試合で魔法具が使われたことは事実ね。
でも、むしろ私はその方がすごいことだと思うけど?
今まで魔法具はあくまで補助的な役割という認識だった。でもあのクラスは魔法具の概念を大きく覆したわ。魔法具のみで普通の魔法と互角以上に渡り合っていた。魔法具の式の利点を最大限発揮し、中には普通の魔法では再現できないようなものや、普通の魔法より優れているんじゃないかと思えるものもあったわ。自分が持っていない魔力を使う魔法具だけで戦っている選手もいたわ。それを加味してもあのクラスは評価に値しないというのかしら?」
「……その魔法具を作ったのが本当に生徒なのであれば、の話です。どちらにしてもその魔法具の力と選手の力を混同するのはどうかと思いますが」
「先生たちが手助けをしたとでも?」
「そんな、私たちは何もしていません!ねぇリズ先生?」
「そうだね。私たちは本当に何もしていないね」
慌てて弁明するリサに対してリスヴェルはそう答えた。そしてそのまま言葉を続けた。
「というか…魔法学院の学長である頭のいいあなたなら本当はわかっているはずだ。あの魔法具はルーシッド・リムピッドという生徒一人の手によって作られたものだよ。あんな奇抜な魔法具あの子の他に誰にも作れないよ。
それに一つ言わせてもらうがね。『魔法具の力と魔法使いの力を混同するな』と言うが、私たちが普段から使っている集中の指輪も魔法具だよ。そういうことは指輪を外した状態で指輪をしている魔法使いに勝ってから言ったらどうだ。魔法具の補助なしで魔法を発動できないような魔法使いが易々とでかい口を叩くものじゃないよ」
その言葉に職員室の空気が凍り付く。
「……まぁ、その魔法具を使いこなせるかどうかも魔法使いの重要な強さの側面だろう?あの魔法具と全く同じものを相手チームが使用したとして、果たして私たちのクラスに勝てるだろうかね。多分、魔法具の力に翻弄されて満足にその性能を発揮できないと思うけどね」
ちょっと言い過ぎたと思ったのか、リスヴェルは少し言葉を付け足した。
「あんな形状の魔法具は見たことがありません。あれは魔法具かどうかも怪しい代物で評価の仕様がありません」
そう言ったのは、ディナカレア魔法学院で魔法工学を教えているロディア・グリニッジだった。
『魔法工学』は『造形魔法』を専門に扱う分野で、建物の建設から日常で使われる家具の設計まで、様々な物の式構築を研究する分野だ。魔法具の設計には式構築が大きく関わってくるため、魔法工学は必須と言ってもいい分野だ。魔法学院には、いわゆる魔法具師と呼ばれる先生は多くいるが、その式構築に関する部分の中心人物がロディアだった。
せっかく少し穏やかに話してあげたのに、そう言われて明らかにリスヴェルは顔つきが変わった。そして、苛立った様子で答えた。
「……おいおい、大丈夫かこの学院のレベルは?あんな優れた魔法具が発動するところを見ていて、その構造が理解できない人物がこのディナカレア魔法学院で魔法具作成の教鞭を取っているのか。あれが魔法具でないとすれば何だって言うんだ?それとも自分の才能が足元にも及ばないのを認めたくないから、見て見ぬふりをしているのか?」
「ちょっ、ちょっとリズ先生…!」
リサは慌てふためいて、リスヴェルを制した。
「いいねー、さすが魔法界屈指の天才リズ。わかってるね~」
シンシアは楽しそうに笑った。
「とにかく!
現状ではあの魔法具を評価する材料が不足しているのは確かです。製作者に関しても身内の証言だけでは信ぴょう性に欠けます。それにやはり、最優秀選手は出場している選手から選ばれるべきであり、その試合中のパフォーマンスを主な評価基準とすべきかと。また、これまで積み上げてきた実績も合わせて考慮されるべきであり、まだ入学して日が浅い1年生から選ぶのはあまり好ましくないと判断します」
そのマドレーゼの言葉にほとんどの先生が同意した。
「あー、実に素晴らしい納得のいく理屈だね。本当に教育者の鏡だよ」
聞こえないようにそう言ったリスヴェルの言葉に思わずリサは吹き出してしまった。
不謹慎だと思いながらもその言葉でどこかすっきりした気がしたのだった。
それと時を同じくして、生徒会のギルドホームにある小会議室に、生徒会メンバーが集まっていた。こちらも生徒会選出の最優秀選手を考えるためだ。生徒の投票の集計作業は翌日の午前中に行われることになっていた。
1週間の試合を振り返りながら話し合っているときに、小会議室の扉が開いた。
「あら、ニータさん。珍しいわね。あなたが会議に参加してくれるなんて」
生徒会長のフリージアはそう言って、ニータ・スペクトルに中に入るように促した。
そう言ったのは、今までずっと傍観していた、理事長シンシア・サクリフィスだった。
全員がシンシアの方を向く。シンシアは会議の輪には入らず、少し離れたところに座って退屈そうに頬杖をついていた。
「おかしいでしょ、あんなにすごかった1年5クラスの話題が誰からも出ないなんて。口裏でも合わせてるわけ?」
またあの人はそういう火種を…リサはそう思った。
そして、ちらっと横に座っているリスヴェルを見ると、今まではつまらなそうに腕を組んで座っていたが、にやっと笑っていた。そして、近くに座っていた同僚のアイリーンも、にやにやと笑っていた。
こいつら同じ穴のむじなか。確かにこの2人はなんか似てる気がする。
リサはそう思ってため息をついた。
「…人聞きの悪いことを言わないでください、理事長。すごいのは1年生だけではありませんから。むしろ私たちは評価が集中しそうなところよりも、目立たないけど素晴らしい働きをした生徒たちのこともしっかりと見ているのです」
そう言ったのは国立ディナカレア魔法学院学長の、マドレーゼ・レルネーだ。
マドレーゼは髪をきっちりと結い、眼鏡をかけた厳格そうな初老の女性だった。
マドレーゼはこのディナカレア王国はおろか、他国でも名前を知らない人はいないほどの魔法使いであり、特に魔法考古学と魔法歴史学の分野に関しては多くの業績を残していた。魔法考古学と魔法歴史学はかつての賢人たちが書き残した資料や、過去に魔法によって作られた魔法遺物などを研究することで、過去に使われた魔法を研究する分野のことであり、実際に彼女の手によって体系化されたり、現代に復活した魔法はいくつもあった。その研究分野に関する多くの著書も残していて、その分野に関しては第一人者といっても良い存在だ。彼女のことをここ百年の中で最大の賢人の1人として挙げる人も多い。
彼女のことを尊敬する人も多くおり、その数はこの学院の教員陣や、生徒の中でもかなりの数に上るだろう。
彼女は、思想的にはいわゆる『穏健派』とされるグループだ。
この世界にはその考え方の違いから大きく3つのグループが存在している。
『保守派』『革新派』『穏健派』だ。
『保守派』の人たちは、魔法使いの歴史や伝統を重んじる。魔法の知識や技術に関しては、旧世代にすでに最高潮に達しており、今はその多くが失われてしまっているという考え方をしている。それゆえに、今受け継がれているものは大事にし、失われたものを少しずつ取り戻していくことで、この世界は繁栄していくと考えている。
保守派の魔法使いは比較的年齢層が上の人たちに多く見られる。保守派の中でも極端な考え方をする人たちは、『純色至上主義』のように、特定の魔力の色や魔力の強さを重んじ、他の魔法使いを劣っているかのように考えることもある。
それと反対の考え方をしているのが『革新派』である。『革新派』の人たちは、新しい魔法や技術をどんどん生み出していくことによって、世界は進歩していくと考えており、そのためには、時代遅れの古い考え方を見直していく必要があると考えている。
この考え方は、若い世代や魔力ランクが高くなく魔法要職につけない人たちなど、現状に不満を感じている魔法使いを中心に広がっている。しかし、この派は一時期よりはやや少数派になりつつある。それは、新しい魔法の開発がやや行き詰まっている現状や、政界の要人たちに保守派の魔法使いが多いということに原因がある。魔力ランクが高い魔法使いにとっては、伝統的な制度を守っていく考え方の方が自分にとっては都合がいいからである。
そして、3つ目は、今の世界の大部分を占める『穏健派』である。どちらの考え方も尊重し、それが世界の発展のためにプラスになるのであれば採用しようという考え方だ。そう言ってしまえば聞こえはいいが、自分たちにとって利益があるならどちらでもいい、自分たちが特に損をしないならどっちでもいい、という非常に現実主義者であるとも言える。
「ふーん、物は言いようね。じゃああなたたちとしては1年生の頑張りは評価しないってこと?今回は学年別だったからあれで済んだだけで、あの5クラスだったら多分相手が上級生だって余裕で勝てると思うけど?」
そして、理事長のシンシアは革新派である。ディナカレア魔法学院では長らく伝統を重んじる古い考え方の上層部が幅を利かせていたが、ディナカレア元老院の教育大臣に革新派であり、シンシアの大親友でもあるノエル・ヴァローナという人物が就任したことで、シンシアは革新派の急先鋒としてこの学院に赴任してきたのであった。
学院の教員の人事権は理事長にあるのだが、多くの人から尊敬されている学長のマドレーゼを無下に扱うと大きな反発があるため、そこまで大胆な改革はできない。
逆に旧体制派も、様々な新しいイベントや企画を提案し、新しいこと楽しいことが大好きな学生や若い世代を中心に圧倒的な支持を集めるシンシアの意見をないがしろにするわけにはいかない。
ディナカレア魔法学院の組織図は今そのような対立構造となっていた。
「あ、あれは、生徒たちの本来の実力ではないではありませんか。あれは…」
そう言ってマドレーゼは言葉を継ぐんだ。
「あれは、何?
魔法具の力を借りたまがい物の力だとでも言いたいの?」
そう言われてマドレーゼは沈黙する。
そう、マドレーゼは外面的には教育者という肩書もあり、中立的な穏健派の立場を取っていたが、実際のところは限りなく保守派に近い考え方を持っていた。
伝統的な保守派の人たちの考え方としては、魔法具すら本来の魔法使いの技術ではないので、魔法具を使用した魔法とその人自身の力で発令した魔法は区別されるべきである。また、その2つを比べた場合、圧倒的にその人自身の力で発令した魔法の方が高く評価されるべきである、という考え方をしていた。
現在、ほとんどの魔法使いは魔法具の有用性を認めており、その恩恵を受けているが、そういった人たちの中にも、魔法具はあくまで補助的なものであって主力にはなり得ない、詠唱による魔法発令の方が圧倒的に優れているという考えの人は多くいる。
しかし、魔法具に関しての授業を提供している教育者として、そのような考え方を表立って表明することははばかられるため、マドレーゼは言葉を濁したのだった。
「まぁ今回の5クラスが出場したほとんどの試合で魔法具が使われたことは事実ね。
でも、むしろ私はその方がすごいことだと思うけど?
今まで魔法具はあくまで補助的な役割という認識だった。でもあのクラスは魔法具の概念を大きく覆したわ。魔法具のみで普通の魔法と互角以上に渡り合っていた。魔法具の式の利点を最大限発揮し、中には普通の魔法では再現できないようなものや、普通の魔法より優れているんじゃないかと思えるものもあったわ。自分が持っていない魔力を使う魔法具だけで戦っている選手もいたわ。それを加味してもあのクラスは評価に値しないというのかしら?」
「……その魔法具を作ったのが本当に生徒なのであれば、の話です。どちらにしてもその魔法具の力と選手の力を混同するのはどうかと思いますが」
「先生たちが手助けをしたとでも?」
「そんな、私たちは何もしていません!ねぇリズ先生?」
「そうだね。私たちは本当に何もしていないね」
慌てて弁明するリサに対してリスヴェルはそう答えた。そしてそのまま言葉を続けた。
「というか…魔法学院の学長である頭のいいあなたなら本当はわかっているはずだ。あの魔法具はルーシッド・リムピッドという生徒一人の手によって作られたものだよ。あんな奇抜な魔法具あの子の他に誰にも作れないよ。
それに一つ言わせてもらうがね。『魔法具の力と魔法使いの力を混同するな』と言うが、私たちが普段から使っている集中の指輪も魔法具だよ。そういうことは指輪を外した状態で指輪をしている魔法使いに勝ってから言ったらどうだ。魔法具の補助なしで魔法を発動できないような魔法使いが易々とでかい口を叩くものじゃないよ」
その言葉に職員室の空気が凍り付く。
「……まぁ、その魔法具を使いこなせるかどうかも魔法使いの重要な強さの側面だろう?あの魔法具と全く同じものを相手チームが使用したとして、果たして私たちのクラスに勝てるだろうかね。多分、魔法具の力に翻弄されて満足にその性能を発揮できないと思うけどね」
ちょっと言い過ぎたと思ったのか、リスヴェルは少し言葉を付け足した。
「あんな形状の魔法具は見たことがありません。あれは魔法具かどうかも怪しい代物で評価の仕様がありません」
そう言ったのは、ディナカレア魔法学院で魔法工学を教えているロディア・グリニッジだった。
『魔法工学』は『造形魔法』を専門に扱う分野で、建物の建設から日常で使われる家具の設計まで、様々な物の式構築を研究する分野だ。魔法具の設計には式構築が大きく関わってくるため、魔法工学は必須と言ってもいい分野だ。魔法学院には、いわゆる魔法具師と呼ばれる先生は多くいるが、その式構築に関する部分の中心人物がロディアだった。
せっかく少し穏やかに話してあげたのに、そう言われて明らかにリスヴェルは顔つきが変わった。そして、苛立った様子で答えた。
「……おいおい、大丈夫かこの学院のレベルは?あんな優れた魔法具が発動するところを見ていて、その構造が理解できない人物がこのディナカレア魔法学院で魔法具作成の教鞭を取っているのか。あれが魔法具でないとすれば何だって言うんだ?それとも自分の才能が足元にも及ばないのを認めたくないから、見て見ぬふりをしているのか?」
「ちょっ、ちょっとリズ先生…!」
リサは慌てふためいて、リスヴェルを制した。
「いいねー、さすが魔法界屈指の天才リズ。わかってるね~」
シンシアは楽しそうに笑った。
「とにかく!
現状ではあの魔法具を評価する材料が不足しているのは確かです。製作者に関しても身内の証言だけでは信ぴょう性に欠けます。それにやはり、最優秀選手は出場している選手から選ばれるべきであり、その試合中のパフォーマンスを主な評価基準とすべきかと。また、これまで積み上げてきた実績も合わせて考慮されるべきであり、まだ入学して日が浅い1年生から選ぶのはあまり好ましくないと判断します」
そのマドレーゼの言葉にほとんどの先生が同意した。
「あー、実に素晴らしい納得のいく理屈だね。本当に教育者の鏡だよ」
聞こえないようにそう言ったリスヴェルの言葉に思わずリサは吹き出してしまった。
不謹慎だと思いながらもその言葉でどこかすっきりした気がしたのだった。
それと時を同じくして、生徒会のギルドホームにある小会議室に、生徒会メンバーが集まっていた。こちらも生徒会選出の最優秀選手を考えるためだ。生徒の投票の集計作業は翌日の午前中に行われることになっていた。
1週間の試合を振り返りながら話し合っているときに、小会議室の扉が開いた。
「あら、ニータさん。珍しいわね。あなたが会議に参加してくれるなんて」
生徒会長のフリージアはそう言って、ニータ・スペクトルに中に入るように促した。
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