魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

エリアボール1年決勝④

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「リリー、大丈夫か!?」
リリアナがその場で片膝をつき、頭を押さえてしゃがみ込んでいるのを見て、心配そうに声をかけるクリスティーン。
しかし、リリアナは手で制止しながら、ゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫。まだ少しこの速さに体が慣れてなくてちょっとめまいがしただけよ。急加速急停止だから。それより次の攻撃が来るわよ」


リリアナが使用した雷の移動魔法サンダーアクセルは、ルーシッドが考え出した移動用魔法で、雷装による瞬動と比べても引けを取らない速さで移動することが可能である。

このことを可能にしているのは、ルーシッドが発見した電気の特性によるところが大きい。ルーシッドは雷の魔法を2つ同時に発動した時に起こる、ある奇妙な現象に気づいた。
普通であれば、同一属性の魔法をぶつけ合うと、造形モデリングされたそれぞれのグラムに何かしらの変化がある。例えば、ファイアウォールにファイアボールをぶつけると、大抵はぶつけた方のグラムが壊れて、ファイアボールが弾け飛ぶ。これは同属性の魔法同士で起こる現象であり、同属性の魔法の場合は、階位の差や材料の魔力量による魔法強度の差、魔法の効果による優劣など、様々な要素によってどちらの魔法が勝つかが決まってくる。
しかし、例えば、雷の魔法で造形した2つのものをぶつけようとすると、見えない壁に当たったかのようにぶつからずに反発し合ってはね返るのだ。

これは恐らく、『電子』と似た性質を持つ物質が魔法によって生成されているためだと考えられる。電子はマイナスの電荷を持ち、お互いに反発し合う。この電子の物質間での受け渡しこそが電気の正体である。

ルーシッドはこの性質を知って、なぜ雷の矢サンダーアローが他の魔法の矢と比べて速いのかを理解した。雷の矢サンダーアローは放った瞬間に弓と矢の間に生じる反発力によって飛んでいくのだ。
そして、それと同時に、さらに威力を増すためにはどうすれは良いのかもルーシッドは思いついた。ルーシッドは、矢を射出する部分が大きく前方にU字に突き出す型の弓を造形した。その間の空間に矢を造形し、上下から挟み込むことで強力な反発力を生み出すのだ。これによって従来の雷の矢とは別次元の速度と威力を生み出せる新たな雷の矢サンダーアローを作り出した。ルーシッドはこれを『斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアロー』と名付けた。

この『斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアロー』を利用した複合魔法が『雷の移動魔法サンダーアクセル』だ。

火の移動魔法フレアアクセル』が、使用者のための魔法なのに対し、雷の移動魔法サンダーアクセルは、使用者を高速で魔法だ。
火の移動魔法フレアアクセルは、体の後方から炎を吹き出し、その推進力によって驚異的な跳躍を可能にしている。しかもそれだけでなく、ルーシッドは足に装着する防具の足の裏に小さな車輪を造形して埋め込んでいる。これにより火の移動魔法フレアアクセルを使って滑るように走ることが可能になっている。
それに対して雷の移動魔法サンダーアクセルは、雷の弓を作り出し、自分の体を雷の矢として撃ち出すという、何とも豪快な魔法である。

本来の魔装の1つ『雷装』によって高速移動する方法も、実は基本的には同じである。ただ、全身にかけられた付与魔法により、雷の矢のようにして飛ばしているというだけの話である。ただ実際には自由に飛んでいるわけではなく、跳躍の飛距離を爆発的に伸ばしているという感覚である。全身に均等に付与魔法をかけているため、細かい魔力操作をしなくても、体を動かすのと同じようにして扱えるのが利点である。欠点としては、魔装は魔法をかける対象が体全体であるため、相当の魔力量がなければ発動することすらできず、仮に使えたとしても一回に数分、長くても10分程度だということだ。

ルーシッドの雷の移動魔法サンダーアクセルは、これを移動だけに特化させることで、完全魔装ではなく『部分魔装』と『斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアロー』の併用でこれを実現させている。この魔法の特徴は雷の矢と雷の弓をところだ。
雷の矢が電気の反発力によって飛んでいるということを知るルーシッドは、1つの魔法で矢と弓を作る必要はないということに気づいた。弓を引き絞る必要はなく、電気の反発力のみで矢を飛ばすことが可能だからだ。実質的には、2つの雷の魔法を矢が飛んでいくのだ。
それで先に雷の弓を背中から体を包み込むように展開する。ちょうど縦ではなく横倒しにしたように弓を展開するため、見た目的には背中から雷の翼が生えたように見える。これは特に翼の形をイメージする必要はないのだが、その方がイメージしやすいだろうとルーシッドが思っての事である。
そのあと、U字型の射出部分に挟まれる形で、自らの体に部分魔装によって雷の矢を展開することで、自らが矢となって高速で移動するという魔法だ。
部分魔装は、発動した魔法と自分の体が一体だとみなす付与魔法の一種だ。普通の魔法であれば、操作魔法オペレイトマジックで操作したとしても、動くのは魔法によって生成された物質のみである。しかし、部分魔装によって操作魔法オペレイトマジックを発動すると、体にもその物質を動かしたことによる影響が生じるのだ。例えば、炎の翼フレアウィング水の翼アクアウィングによって浮力が生じた場合、翼だけでなく体全体が浮き上がる。これは翼が体の一部であると、使用者がみなしているからである。

ではなぜ、マジックボールなどは操作魔法オペレイトマジックにより空中に浮かせて自在に操ることができるのに、それらを部分魔装や完全魔装で使用することで体を浮かせて飛ぶことはできないのだろうか。
それは造形魔法モデリングマジックグラム構築の問題だ。造形魔法モデリングマジックによって作り出した物の形がその動作に適していなければ、どんなに操作をしても思った通りに動かすことはできない。マジックボールでイメージしているのは『ボール』である。ボールに乗って空を飛ぶことはイメージできないゆえに、マジックボールで人を飛ばせることはできないのである。

ルーシッドは、『斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアロー』を使い、2つの新たな魔法具を作り出した。今回のエリアボールでその2つともリリアナが使用している。1つは雷の移動魔法サンダーアクセルを発動するもので、肩から腰にかけて体に巻き付ける形で装着するハーネス型の魔法具だ。
そしてもう1つが、腕につけた魔法具で、これはちょうど肘の部分に雷の弓を展開し、腕を雷の矢サンダーアローとして撃ち出すことで、強力なパンチを撃ち出せる魔法具である。全身ではなく腕だけを高速で撃ち出すだけで、基本的な魔法としてはこの2つは全く同じものだ。


リリアナの指摘どおり、相手選手は次の魔法詠唱に移ったようだ。
詠唱が終了し、相手チームの競技用のボールの周りをぐるぐるとファイアボールが回りだす。

「なるほど、かく乱作戦か?」
「ファイアボールに気を取られないで。普通にボールの動きだけを頼りに判断しましょう」

エリアボールにおいてよく使われる攻撃方法である、競技用のボールに別の魔法をぶつけてボールを弾いて攻撃するという方法のデメリットの1つは、ボールの軌道が直線的で比較的読みやすいということだ。どの方向から攻撃を当たったかによっても軌道を予想することができる。エリアボールではどうすればボールの軌道を読みにくくして防御されないかの研究が日々なされているのだ。


「あの子たち双子かしら?」
その様子を見たシアンがルーシッドに尋ねた。
「うん、そうだね。双子の魔法使いの中には『精神感応テレパシー』が使える人がいるって聞いたことあるよ。精神感応テレパシーで連携を取りながらギリギリまで攻撃を引きつけて、どっちが当たるのかわからなくして、攻撃魔法による軌道の予測をできなくする作戦じゃないかな?」
「でもそれだと、石のボールの魔法キャンセルのタイミングを合わせるのが大変そうね?」
「確かに…なるほど、そうか。さすがはアンだね」
「え?私はまだわかってないんだけど?勝手に納得しないでよ」

競技用のボールの周りを高速で回っていた2つのファイアボールのうちの1つが、予備動作なく突然ボールに激突し、ボールは弾き出される。
ボールが動いた瞬間に、ランダルは自分の守備範囲だと感じ、あらかじめ起動しておいた火の移動魔法フレアアクセルで一気に加速。ルーシッドが作った火の移動魔法フレアアクセル専用の魔法具の靴底についた車輪のお陰で地面を滑るようにして走り、炎を噴射する角度を巧みに調整しながら地面に手をついて側転し、開脚して左右の足から炎を噴射して回し蹴りを繰り出してボールを弾き返した。その華麗なプレーに客席からは歓声が上がる。

「見せプレーでかっこつけちゃって」
「ははは。だがまぁ今の感じだと何とかボールが動いてからでも対応できそうだね。これもルーシィの魔法具のお陰だね」
片手を挙げて、客席の歓声に答えながらそう言うランダル。
ランダルもまたその容姿ゆえに1年生女子生徒の間ではすでに人気が高かったが、この魔法球技での活躍でさらにそのファンは増えているように思えた。

「はいはい、まぁ気を抜かないようにね」
その様子を冷めた感じで見て、レガリーは言った。

実はランダルは男性ではない。ある理由があって女性であることを隠して、男性として生活している。だが、その生活もこの学院に入ってからの話ではなく、それこそ物心ついた頃からなので、男性としての振る舞いは非常に自然なものだった。これまで生きてきた中で、女性だとバレたのは、同じパーティーのビリー・ジェンクスが初めてだった。もちろん寝食を共にする同じパーティーのメンバーだ。家同士の付き合いがあり、ランダルの事情を知る唯一の人間のレガリーがいるとはいえ、いつまでも隠しておけるとは思っていなかった。頃合いを見て打ち明けようとは思っていたが、まさかこんなに早く、しかも相手に正体を見抜かれるとは思ってもいなかった。自分としてはそれなりに男装に自信があったので、自分の正体を見破ったビリーにはかなり驚かされたものだった。非常に鋭い洞察力を持っているのか、それともただの女好きゆえの第六感なのか…。


「やっぱりルーシィの予想通りだったわね?」
シアンがそう話しかけると、ルーシッドは真剣な顔で言う。
「いや……さっきのは多分……」


「次のが来るわよ~」

リリアナがそう言ったとき、先ほどと同じように競技用のボールの周りを2つのファイアボールが高速で回り出し、そのうちの1つが突然ボールに激突し、ボールは弾き出される。

今度はレガリーが対応にあたり、ボールを蹴ろうとしたその時だった。
ボールは急にその足をすり抜けるようにしてガクンと落ちた。

(ボールが途中で軌道を変えたですって!?)

雷の移動魔法サンダーアクセル

リリアナが咄嗟に雷の移動魔法サンダーアクセルを発動してボールを拾ってフォローする。雷の移動魔法サンダーアクセルは、常人の移動速度を遥かに超えた速度で移動することを可能にする魔法だ。その移動速度は、炎の移動魔法フレアアクセルをも遥かに凌駕する。事前に雷の弓だけを発動しておき、雷の矢の方は遅延発動で待機状態にしておけば、まずいと思った瞬間に起動するだけで発動できるのだ。リリアナは魔力ランクがCのため、この全てを自分の魔力で行うことは難しい。それで、弓の生成は自分の魔力で行い、矢の生成は魔法具に付けられた魔法石によって行っていた。このように弓と矢の生成に別々の魔力を使用できるというのも、この魔法の便利な部分だ。魔法回路マジックサーキットに組み込まれた魔法石は、ボールを弾き返すために腕に装備した魔法具の使用にも用いるため、雷の移動魔法サンダーアクセルは、1度につき5回までという使用制限がある魔法だ。

「リリー!ごめんなさい!ありがとう!」
「いえ、でも魔法石の方の燃料があと3回分ね。とりあえずは全部で5回だから」

「なぁ、レガリー。今の弾、途中で軌道が変わらなかったかい?」
クリスティーナがそう言うと、レガリーはうなずいた。
「えぇ、確かにそうだったわ。あれは………」


「やっぱり最初の攻撃は、双子だからどちらも同じ魔法を使ってくるだろうという先入観を植え付けるためのフェイクだったんだ。本当の狙いは、ファイアボールをぶつけて攻撃したと見せかけて、本当は精神感応テレパシーでタイミングを合わせて競技用ボール自体を操作して攻撃するトリックショット。多分、2つのファイアボールを使っているのは双子のうちの1人とアザレアさん、そして双子のもう1人が土の操作魔法を使って、ファイアボールが当たる瞬間にボールを操作してるんだ。
すごいや、こんな戦法を考えるなんて。そしてそれを悟られないように徹底的にタイミングを合わせる練習をして、この本番でそれをやってのけた。すごいなぁ、本当にすごいなぁ」
ルーシッドは目を輝かせながらそう言った。
「あなた以外にこんな裏をかいた戦法を思いつく人がいるなんてね。私たちさえいなければ優勝だったでしょうに」


自分たちのエリアに帰ってきたボールを見て、アザレアはチームのメンバーに声をかける。

「ふぅ、よし!行ける、行けるわよ!」
その声を聞いて、他のメンバー達は強く返事をした。
奥の手中の奥の手とも言える攻撃を返されたというのに、アザレアはそれでもなおチームを鼓舞し続ける。

「こうなってくるとわからなくなってくるわね…。さっきと同じ攻撃をしてくる可能性もあるし、裏をかいて普通の攻撃をしてくる可能性もあるわ。可能性が増えれば、それだけ対応が遅れてしまう…」
「まぁ、わからないことを考えても仕方ないさ」
レガリーに対して笑って声をかけるクリスティーン。それを聞いてレガリーも、それもそうねと言って笑い返した。

「みんな手伝えなくてごめんね、頑張って!試合時間はあと三分の一くらいだよ!」
キリエがそう声をかける。

「いやいや、キリィにはキリィにしかできないことをやっているんだから、謝ることは何もないよ。1人で攻撃を担当してくれているんだからね。こっちのことは任せてくれ」

ルーシッド達のクラスはすでに勝利は絶対確実だと言えるほどの大量のエリアとポイントを獲得していた。その全てを行っているのはキリエ・ウィーリングというただ1人の魔法使いだった。キリエは入学試験の時も、足が悪く思うように動けないため模擬戦には出場していない。そのため、今回の魔法球技戦が行われるまでは、全くのノーマークの魔法使いだったのだ。
現段階では、相手チームは攻撃3人守備2人という体制で試合に臨んでいるが、キリエの攻撃はボールを視認できないほどの上空から、それこそ稲妻が落ちるかのごとくのスピードで襲ってくるため、正直守備に関してはお手上げ状態だった。しかも、着弾した瞬間にすぐにまた上空に戻っていくため、ボールの操作による妨害もままならない。

このキリエが攻撃に使用している魔法も、『斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアロー』を応用した魔法だ。キリエが手にしている魔法の杖はいつもキリエが持っている物(キリエはルーシッドの魔法具によって杖の補助なしでも歩けるようになってからも、長年愛用している魔法の杖を使用していた)ではなく、この魔法専用の魔法具だ。通常であれば、土の魔法が使える魔法使いと二人一組で攻撃を行うのが正攻法だが、この魔法の場合、コート上からは視認できないほど上空まで石のボールを操作して持っていく必要がある。そのためこれを行えるのは『俯瞰の魔眼ホートスコピー』を持つキリエだけなのだ。

この魔法具は3つの魔法を使えるように作られた『複合型の魔法具』だ。ちなみに今まで3つの魔法を1つの魔法具で使えるようにした前例など存在しない。これはあまりにも非常識であり規格外な魔法具と言っていい。
この魔法具は先端部分が大きな円形の魔法回路マジックサーキットとなっており、柄の部分に黄の魔法石と白の魔法石、それに演奏装置メロディカが組み込まれたものだ。その全長は小柄とはいえキリエよりも頭一つ分くらい高い大型の魔法具だ。だが、そうは言ってもこれは実用化されているものに比べれば相当にコンパクトである。このような魔法の杖型で、魔法回路マジックサーキット演奏装置メロディカが一体化したものは、動き回る必要がない大魔法師マジックキャスター用としては実用化されている。しかし、そのほとんどは自分が使えない魔法を使用するためのものであり、主には緊急の防御用や自分の弱点となる魔法の対抗魔法用などに使われるものである。しかも、1つの魔法しか使えない上に、キリエが使用している物よりもさらに大きく重い。
やはり大きな違いは演奏装置メロディカの大きさにあるだろう。この魔法具に使われている演奏装置メロディカは、ルーシッドのクラスの選手のほとんどが使っている腕輪として装着することができる円筒型の演奏装置メロディカだ。鍵盤を円筒型に造形した鉄をぐるりと囲むように配置し、そこに被せるように鍵盤を叩くバチを設置する二重構造を取ることで、片手で回転するだけで演奏することを可能にした演奏装置メロディカである。
この杖型の魔法具には、演奏装置が3つ取り付けられている。ちょうど柄の部分の左手に持つ辺りに人差し指と中指で押さえられるようにした魔法石が、その魔法石の下辺りから柄に巻き付く形で3つの演奏装置が並んで配置されている構造である。
魔法回路マジックサーキットはどの魔法も同じで構わないので、魔法回路マジックサーキットを柄の部分に迂回させて、そこに違う魔力を込めた魔法石を2つ設置し、必要に合わせて魔法回路マジックサーキットに流す魔力を切り替えることで、魔法を使い分けれるようにした魔法具だ。

この魔法具で発動できる魔法は3つ。1つは黄の魔力による土の操作魔法。競技用ボールの操作に必要な魔法であり、土の操作魔法を発動できる魔法具自体は、農具や掘削用としてもありふれたものだ。
そして2つ目が攻撃用に組んだ斥力の雷矢リパルシヴ・サンダーアローだ。リリアナが腕に装備しているものと同様に、雷の付与魔法によって発動するタイプの魔法だ。これを競技用のボールに発動して攻撃する。この攻撃方法の点では、アザレアが使用した付与の雷の矢エンチャント・サンダーアローと同じであるが、その威力が桁違いである。
そして、3つ目が遅延発動型の雷の魔法。これを攻撃と同時に地面で発動することで、地面と矢に反発力が生まれ、着弾した瞬間にボールは再び上空へと舞い戻るという仕組みだ。
あとは、またそのボールに土の操作魔法をかけて狙いを定め攻撃するというのを繰り返せば良い。魔法発動のタイミングなどを計算して操作に慣れる必要はあるが、十分に練習してきたキリエは、この3つの一連の魔法であたかも1つの魔法かのように思えるほどに、スムーズに魔法を発動させていた。
これは俯瞰の魔眼ホートスコピーにより、上空からでも敵のエリアの状況が手に取るようにわかるキリエにしか扱えない、キリエの固有魔法と言ってもいい代物だ。


「ふぅ、時間的に次が最後の攻撃かな」
残りの試合時間を確認して、ランダルがそう言う。

ここまでは、通常のファイアボールによる攻撃、ファイアボール2つを使ったかく乱攻撃、さらにそこに土の操作魔法を絡めた攻撃の3パターンを駆使した攻撃を繰り出してきていた。しかし、1つのボールの対処に2人であたりカバーし合うことで、攻撃に対処していた。ここまで取られたエリアはまだ0だ。

雷の移動魔法サンダーアクセルもちょうどあと一回で終わりだわ」
「来るわよ、みんな最後まで気を抜かずに頑張りましょう。どうせならパーフェクトゲームを狙いたいじゃない?」

ボールの周りを2つのファイアボールが回転して、そのうちの1つが飛び出してボールに激突。弾かれたボールがエリアめがけて飛んでくる。
まずは近くにいたクリスティーンが動き、それに続いてランダルがフォローに回る。クリスティーンがボールを蹴ろうとすると、脚をするりと抜けるようにボールの軌道が変わる。ここまでは想定内だ。ランダルが軌道が変わったのを確認してボールを蹴ろうとしたその瞬間だった。


「RELEASE DELAY(遅延発動)」

ボールの真上から風が吹き出して、ボールが真下に落下する。

「なっ!?」
「サッ、雷の移動魔法サンダーアクセル!!」

慌ててリリアナが魔法を発動するが間に合わずにボールは地面に着弾した。
その直後に試合終了の合図が鳴ったのだった。

会場からは非常に見どころのある試合に対して喝采の歓声と割れんばかりの拍手が送られた。コートではアザレア達は1エリアを取ることができて、優勝したかのように抱き合って喜んでいた。

試合が終わり、選手たちは拍手の中整列して向き合う。
「優勝おめでとう」
「ありがとう、アザレアさん達もなかなかに手強かったよ」
アザレアとランダルは固い握手をする。

「「楽しかったわ」」
同じ顔をした女子生徒、モリー・シナバーとネリー・シナバーがハモるようにしてそう言った。
「そうか、あのファイアボールを2つ使ったコンビネーション攻撃は君たちだったんだね」
「最初に見た時に気づくべきだったわ。掲示板にも名前が出てたでしょうし」
「いやいや、仮に双子だと気づけたとしても、あの攻撃は予想できないわよ」

「最後の攻撃は風の付与魔法?あれは誰が?」
「私よ」
「この子はリーン・フォレストよ」
「リーン、いい攻撃だったわ。してやられてわ」


選手たちは暖かい拍手に送られながらコートを後にしたのだった。


「アザレアさん!」
控室に戻るためにアザレアが歩いていると、自分の名前を呼ばれたので振り返った。
そこにはルーシッドとシアンが立っていた。

「あら、あなたは…ルーシッドさん?エリアボール優勝おめでとう」
「う、うん。まぁ、優勝したのは出場した選手たちで、私は見てただけだけど」
「あら、謙遜なのね?あの攻撃も防御も全部あなたの手によるものでしょう?生徒会カウンサルではもっぱらの噂よ?
あなたのことは魔法球技戦が始まる前からマークしてたのよ。それに、この前の試合を分析して作戦考えたりもしたんだけど、まさかここに来て全く見たことがない魔法が来るとは思わなかったわ。あれは詠唱文が公表されていない高位、いや神位の魔法か何かかしら?」
「ううん、あれは全部低位と中位の魔法だよ。詠唱文も別にみんなが普通に使ってる魔法と変わらないよ」
「ちゅっ、中位魔法であの威力?」
「うん、まぁ魔法は工夫次第だから。造形モデリングを工夫したり、既存の魔法を組み合わせたりしてるんだよ」
「魔法は工夫次第…ね。あなたは本当に面白いのね」
「そんなことよりアザレアさん!さっきの試合すごかったよ!空中での付与魔法エンチャントマジックによる雷の矢、ファイアボールによる攻撃に見せかけた操作魔法オペレイトマジックによるトリッキーな攻撃!さらにそこに遅延発動による風の付与魔法エンチャントマジックを重ねがけしてくるなんて!
私はそんな作戦思いつきもしなかったよ!それに仮に思いついたとしても、あの本番で動いている物体にあんなに正確に魔法をかけるなんて!よっぽど練習したんだろうなぁ!」
ルーシッドは興奮ぎみで話した。
「試合を見ただけでそこまで正確に分析できるのもすごいとは思うけど…ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「あの、アザレアさん。ルーシィはお世辞は言わないわ。試合の間もすごいすごいって興奮してたわ。ルーシィが言っているのは本心よ」
「シアンさん……ルーシッドさん、ごめんなさい。素直に受け取るわ。ありがとう」
「ルーシィでいいよ」
「私のこともアンでいいわ」
「じゃあ私のこともアザリーって呼んでちょうだい。
……ルーシィ、アン、午後の試合も頑張ってね。あなたたちとは今後も色々と関りがあると思うわ。生徒会カウンサルとしても、そして友達としても楽しみにしているわ」
そう言ったアザレアは少し緊張が解けたように笑った。
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