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第8章 地下迷宮探索編
地下迷宮探索⑤ 最初の試練
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ルーシッド達は地下迷宮の第2階層を進んでいた。ここまでは多少の高低差はあれ、特に問題もなく順調に歩を進めていたが、ここに来て第2階層最初の難関とも言うべき場所にぶつかっていた。
「こ、これは何か渡る方法を考えないといけないわね…先が見えまないわ…」
先頭を進んでいたシアン達のパーティーの前には大きな谷が行く手を阻んでいた。
「うわぁ…怖い~…」
「足がすくんじゃうよ…」
先頭を進んでいたシアンのパーティーのライムとシャルロッテが谷の前で立ち止まり下をのぞく。
少しして、他のパーティーも追いついてきた。
「ひえぇ…これ落ちたら死んじゃう?どこか他の道ないのー?」
「あわわ…無理だよ、これは」
ランダル達のパーティーのアヤメとラコッテも高いところはそんなに得意ではないようだ。
「いえ、みなさんよく見てください。ここは実は下には繋がっていません。ここは大きな窪みになっていて、そこに水がためてありますので、万が一落ちても死ぬことはありません」
でも濡れちゃうじゃん、とアヤメが突っ込むがサラは話を続けた。
「これはちゃんとしたメチカさんが仕掛けた関門ですよ。みんなでこの谷を渡りましょう。今回は私も含めてお願いしますねー?」
リサがそう言うと、クラスからは笑いが起こった。
「さて…どうしたものかしら…?」
ロイエがシアンの方をちらっと見る。シアンはあごに手を当てて考えていた。
シアンは頭の回転も速くリーダー気質ではあるが、考え込むと集中してやや周りが見えなくなる。その辺はロイエが全体を見渡してカバーし、上手く補い合っているようだ。
「ペルカは何か良いアイディアある?」
「うぅ…お腹すいた…」
「ごめんね照明1人に任せちゃって。パウンドケーキ持ってきたわ、食べる?」
「食べる、ロイありがと。もうそろそろ最大魔力量に達すると思う。その時は一旦よろしく」
「えぇ、任せて」
一見すると会話が噛み合っていないようだがそうでもない。これがロイエとペルカの不思議な関係性だった。
ロイエは山吹色で、黄の魔力の方が純度が高いが、赤も含んでいる。ペルカもロイエもBランクで魔力再生成可能時間はそこまで長くないため、ペルカが再び魔力を使えるようになるまではロイエが代わりに明かりをつける手はずになっていた。
「ヘティーの草木の魔法で向こう岸まで橋を作るってのはどう?良くない?」
フェリカがヘンリエッタに話しかける。
「う~ん…地面が問題ね…ここは全部岩地だから根がはれないわ。簡単な植物なら何とかなるけど、この前みたいな巨大植物は無理ね」
「私の土の魔法でもちょっとこれは耕しきれないね~」
「そっかぁ~。いいアイディアだと思ったのに~」
「こんなの助走つけてジャンプすれば行けるんじゃない?あるいは壁走り?」
「それを出来るのはこのクラスでスズくらいだと思うよ~」
相変わらずのミスズの突拍子もない意見を笑顔で流すソウジ。
「ルーシィはどう思う?」
キリエがルーシッドに尋ねる。
「全員で一度に渡るんなら、何かで足場を作るのが一番だけどね。
ジョン、こんな時こそ、だよ」
「あぁ、そうだな」
ジョンがうなづいた。
「みんな、ここは僕に任せてくれ」
そう言うとジョンは先ほどの魔法具を再び構える。
そして、先ほどと同じように盾に付いているレバーを引く。しかし、先ほどは4分の1回転だったが今回はもう4分の1回転、つまり上から下まで半周させる。
「さっきの音楽の次に別の音楽を?魔法の連続発動?」
「よし」
ジョンが掛け声と共に谷に近づき、谷に沿うように続く石の壁に向かってハンマーを打つ。すると、ハンマーの壁に打ち付けたのと反対側がぐんと伸びて、人が乗れるぐらいの長さになる。
そして、ジョンがハンマーのグリップについているトリガーを引くと、柄の部分がぱかっと開きヘッドを離す。柄は開閉式になっていて、ヘッドを取り外せるようになっているようだ。
そして、再びヘッドが魔法で形成され、ハンマーは元の状態に戻る。
「こ、これは…鉄の魔法を発動する魔法具…?」
「はい、そうです。このハンマーは従来の『石の操作魔法』に加えて『鉄の生成・操作魔法』を発動できるようになってます。これを連続発動することで、このように壁や地面に鉄の杭を打ち込むことができるんです」
「鉄の魔法ですって…?鉄の魔法を発動する楽譜はまだ作曲されていなかったはず…ジョン、あなたそれを自分で作曲したというの?」
「いえいえ。鉄の魔法の楽譜を作曲したのはルーシィですよ。僕がやったのは鉄の造形魔法で、このハンマーの仕掛けを作ったのと、この盾の自動演奏措置の仕掛けをルーシィの図面通りに作ったことです。
この魔法具を考案したのも、回転式自動演奏装置を考えたのも、魔法回路を作ったのも、楽譜を考えたのも全部ルーシィです」
そう言われて、リサはルーシッドの方を見る。
ルーシッドはやはり自分が手がけた魔法具が問題なく動作しているのを見て、満足そうにしていた。
今は手を止めたが、本当はこの魔法具の良いところは、魔法の連続使用を可能にしたところだ。ハンマー自体に、『叩いた石を砕いて形を変える』という魔法と、『ハンマーのヘッド部分の鉄を生成して操作する』という魔法を『終了条件を提示しない詠唱』でかけているため、魔法を発動させている間は何度も『叩いて鉄の杭を打ち込む』ことができる。ジョンの魔力だけだと、一度の発動では5,6本が限界だ。
それでルーシッドは魔法回路をハイブリット型にしたのだ。ジョンの魔力再生成可能時間はだいたい1分くらい。その間は魔法石で魔法を発動するようにして、魔力が生成可能になったらまた自分の魔力に切り替える。これを行うことで、一度の魔法発動で20本くらいは杭を打つことが可能になった。
もしこれでも足りないようなら、後は、魔力再生成可能時間が経過するまで待つしかない。ジョンはこれでも十分だと言っていたが、ルーシッド密かに、あまりにも使い勝手が悪いようなら魔法回路の改良をしようと考えていたのだった。
本当にこの子は一体何者なのかしら…
そんな簡単に新しい魔法の楽譜が作れるものなの?
いや…この子の事だから、ジョンに言われてから作曲したわけじゃなくきっと元から知ってたんだわ
だとしてもすごすぎる…
この子は間違いなく将来この魔法界を背負って立つ魔法使いになるはずだわ
でもこの子のランクはF…
何としてもこの学院にいる間にこの子の地位を向上させて上げないと…
この子の才能が埋もれてしまうわ
「こ、これは何か渡る方法を考えないといけないわね…先が見えまないわ…」
先頭を進んでいたシアン達のパーティーの前には大きな谷が行く手を阻んでいた。
「うわぁ…怖い~…」
「足がすくんじゃうよ…」
先頭を進んでいたシアンのパーティーのライムとシャルロッテが谷の前で立ち止まり下をのぞく。
少しして、他のパーティーも追いついてきた。
「ひえぇ…これ落ちたら死んじゃう?どこか他の道ないのー?」
「あわわ…無理だよ、これは」
ランダル達のパーティーのアヤメとラコッテも高いところはそんなに得意ではないようだ。
「いえ、みなさんよく見てください。ここは実は下には繋がっていません。ここは大きな窪みになっていて、そこに水がためてありますので、万が一落ちても死ぬことはありません」
でも濡れちゃうじゃん、とアヤメが突っ込むがサラは話を続けた。
「これはちゃんとしたメチカさんが仕掛けた関門ですよ。みんなでこの谷を渡りましょう。今回は私も含めてお願いしますねー?」
リサがそう言うと、クラスからは笑いが起こった。
「さて…どうしたものかしら…?」
ロイエがシアンの方をちらっと見る。シアンはあごに手を当てて考えていた。
シアンは頭の回転も速くリーダー気質ではあるが、考え込むと集中してやや周りが見えなくなる。その辺はロイエが全体を見渡してカバーし、上手く補い合っているようだ。
「ペルカは何か良いアイディアある?」
「うぅ…お腹すいた…」
「ごめんね照明1人に任せちゃって。パウンドケーキ持ってきたわ、食べる?」
「食べる、ロイありがと。もうそろそろ最大魔力量に達すると思う。その時は一旦よろしく」
「えぇ、任せて」
一見すると会話が噛み合っていないようだがそうでもない。これがロイエとペルカの不思議な関係性だった。
ロイエは山吹色で、黄の魔力の方が純度が高いが、赤も含んでいる。ペルカもロイエもBランクで魔力再生成可能時間はそこまで長くないため、ペルカが再び魔力を使えるようになるまではロイエが代わりに明かりをつける手はずになっていた。
「ヘティーの草木の魔法で向こう岸まで橋を作るってのはどう?良くない?」
フェリカがヘンリエッタに話しかける。
「う~ん…地面が問題ね…ここは全部岩地だから根がはれないわ。簡単な植物なら何とかなるけど、この前みたいな巨大植物は無理ね」
「私の土の魔法でもちょっとこれは耕しきれないね~」
「そっかぁ~。いいアイディアだと思ったのに~」
「こんなの助走つけてジャンプすれば行けるんじゃない?あるいは壁走り?」
「それを出来るのはこのクラスでスズくらいだと思うよ~」
相変わらずのミスズの突拍子もない意見を笑顔で流すソウジ。
「ルーシィはどう思う?」
キリエがルーシッドに尋ねる。
「全員で一度に渡るんなら、何かで足場を作るのが一番だけどね。
ジョン、こんな時こそ、だよ」
「あぁ、そうだな」
ジョンがうなづいた。
「みんな、ここは僕に任せてくれ」
そう言うとジョンは先ほどの魔法具を再び構える。
そして、先ほどと同じように盾に付いているレバーを引く。しかし、先ほどは4分の1回転だったが今回はもう4分の1回転、つまり上から下まで半周させる。
「さっきの音楽の次に別の音楽を?魔法の連続発動?」
「よし」
ジョンが掛け声と共に谷に近づき、谷に沿うように続く石の壁に向かってハンマーを打つ。すると、ハンマーの壁に打ち付けたのと反対側がぐんと伸びて、人が乗れるぐらいの長さになる。
そして、ジョンがハンマーのグリップについているトリガーを引くと、柄の部分がぱかっと開きヘッドを離す。柄は開閉式になっていて、ヘッドを取り外せるようになっているようだ。
そして、再びヘッドが魔法で形成され、ハンマーは元の状態に戻る。
「こ、これは…鉄の魔法を発動する魔法具…?」
「はい、そうです。このハンマーは従来の『石の操作魔法』に加えて『鉄の生成・操作魔法』を発動できるようになってます。これを連続発動することで、このように壁や地面に鉄の杭を打ち込むことができるんです」
「鉄の魔法ですって…?鉄の魔法を発動する楽譜はまだ作曲されていなかったはず…ジョン、あなたそれを自分で作曲したというの?」
「いえいえ。鉄の魔法の楽譜を作曲したのはルーシィですよ。僕がやったのは鉄の造形魔法で、このハンマーの仕掛けを作ったのと、この盾の自動演奏措置の仕掛けをルーシィの図面通りに作ったことです。
この魔法具を考案したのも、回転式自動演奏装置を考えたのも、魔法回路を作ったのも、楽譜を考えたのも全部ルーシィです」
そう言われて、リサはルーシッドの方を見る。
ルーシッドはやはり自分が手がけた魔法具が問題なく動作しているのを見て、満足そうにしていた。
今は手を止めたが、本当はこの魔法具の良いところは、魔法の連続使用を可能にしたところだ。ハンマー自体に、『叩いた石を砕いて形を変える』という魔法と、『ハンマーのヘッド部分の鉄を生成して操作する』という魔法を『終了条件を提示しない詠唱』でかけているため、魔法を発動させている間は何度も『叩いて鉄の杭を打ち込む』ことができる。ジョンの魔力だけだと、一度の発動では5,6本が限界だ。
それでルーシッドは魔法回路をハイブリット型にしたのだ。ジョンの魔力再生成可能時間はだいたい1分くらい。その間は魔法石で魔法を発動するようにして、魔力が生成可能になったらまた自分の魔力に切り替える。これを行うことで、一度の魔法発動で20本くらいは杭を打つことが可能になった。
もしこれでも足りないようなら、後は、魔力再生成可能時間が経過するまで待つしかない。ジョンはこれでも十分だと言っていたが、ルーシッド密かに、あまりにも使い勝手が悪いようなら魔法回路の改良をしようと考えていたのだった。
本当にこの子は一体何者なのかしら…
そんな簡単に新しい魔法の楽譜が作れるものなの?
いや…この子の事だから、ジョンに言われてから作曲したわけじゃなくきっと元から知ってたんだわ
だとしてもすごすぎる…
この子は間違いなく将来この魔法界を背負って立つ魔法使いになるはずだわ
でもこの子のランクはF…
何としてもこの学院にいる間にこの子の地位を向上させて上げないと…
この子の才能が埋もれてしまうわ
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