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第7章 魔法学院の授業風景編
授業 魔法具理論
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次の日の『魔法具理論』の授業中のこと。担当のクリフ・マニファーが全員にこう問いかけた。
「魔法具を作成するためにはまず魔法を発動させる媒体となる道具を作る必要があります。この媒体を作る時に必要な魔法を何というかわかりますか?」
真っ先に3人の手が上がった。
ルーシッドは当然知っていたが上げなかった。ルーシッドは聞かれたものには答えるが、自分から積極的に答えるということをしない。
手を挙げた3人は、ルビア・スカーレット、シアン・ノウブル、そしてジョン・ブラウンだった。
ルビアとシアンは、まぁだいたいいつも手を挙げてるので予想はついたが、ジョンが手を挙げるのは予想していなかった。魔法具は得意分野なんだろうか?
「では、ジョン」
「造形魔法です」
「はい、その通りです。よくわかりましたね?」
「実家が鍛冶師なので」
「あぁ、なるほどなるほど」
鍛冶師とは、『鉄の魔法』を使い、鉄で色々な日用品や武器・防具などを作る職業のことである。日用品や武器は必ずしも魔法具である必要はない。なので、鍛冶師=魔法具師というわけではない。
「では、造形魔法について簡単に説明してもらえますか、ジョン?」
「あー、えっと…」
そこまで突っ込まれるとは思っていなかったジョンは少し言葉を濁した。
「物を頭で想像した形に変える魔法だと思っていましたが…?」
「はい、悪くない解答です。それぞれの持っている魔力に応じて扱える物は変わってきますが、造形魔法を発動すると頭の中のイメージに合わせてその物の形が変化します。どうです、ジョン、試しに何か『鉄の魔法』で作ってみてもらえませんか?」
「えっ、はい」
ジョンが『鉄の魔法』の詠唱文を唱える。
すると、ジョンが広げていた右手の上にぐにゃりと灰色の物体が現れる。鉄が生成されたのだ。ここまでが鉄の生成魔法である。生成と造形を同時に行う魔法を発動した場合は、生成された物体に魔力を流し続けている間は形を変えることができる。これが造形魔法である。最大魔力量に達するか、あるいは魔法を終了させると、その形に固定されることになる。
ジョンが作ったのは鳥の形をした置物だった。
「繊細な造形ですね。さすが鍛冶師です」
「ありがとうございます。自分はまだまだ見習いですが」
「このようにして出来上がった媒体に魔法回路を組み込み、詠唱文を音楽に変換したものを奏でるための演奏装置と組み合わせると魔法具が完成するわけです。ですが、どんな媒体でも魔法具にできるというわけではありません。それはなぜだかわかりますか?」
この質問には誰も答えられなかった。先生もこの質問に答えれる人は、いるとすれば1人だろうと思っていた。
「ルーシッドさんはどう思いますか?」
「え?」
まさか自分が当てられるとは思ってもいなかったので、ルーシッドは少し間抜けな返事をしてしまった。
「あー…えっと。
1つには、魔法回路はその構造上、それを書き込むための最低限の面積が決まっています。なので、ジョンが作ったくらいの大きさだと魔法具には使えないです。
まぁ、実際に効果を発揮させるものと魔法回路や演奏装置に関しては別にしても問題ないので、あくまでジョンが作ったものだけを魔法具にするならという話ですけど。
2つには、魔法具として機能させるためには、その物体が正しい構造式を持っているかが大切です。魔法によってはそこまで影響しないものもありますが、基本的に式が正しくないと、魔法が発動したとしても、意図したとおりに発動しない場合が多いです。
こちらの方はジョンが作ったくらい正確な式を持っていれば、鳥の飛ぶおもちゃみたいな魔法具は作れると思います」
「……はい、完璧な答えですね。さすがですね」
答えれるだろうとは思っていたが、ここまで完璧に答えるとは思っていなかったクリフは驚いた。式について知っている1年生など今まで数えるほどしか見たことがない。
そしてさらに驚くべきは『実際に効果を発揮させるものと魔法回路や演奏装置に関しては別にしても問題ない』という発言である。
これはその通りであり、すでにいくつかの魔法具では実用化されているが、日常レベルで普通に魔法具を使用しているだけの魔法使い、ましてや学生でそのことを理解している者がいるなどとは到底信じられなかった。
だが一番気になるのは最後の発言だ。
『鳥の飛ぶおもちゃみたいな魔法具は作れると思います』
さらっとルーシッドはそう言ったが、それはできるはずがないのだ。一見すると簡単そうに見えるが、それを実現するためには『鉄の操作魔法』の使用が必要となる。普通に魔法を唱えれば全く難しくはないが、鉄の魔法の詠唱文の楽譜化はまだ実現していない。『鉄の魔法』を発動する魔法具はこの世に存在しないのだ。だが、ルーシッドは作れると思いますと言った。それは『鉄の魔法』の魔法具が存在しないということを知らないゆえの発言か?いや、これほど魔法具に詳しいルーシッドがそれを知らないはずはない。では、ルーシッドはそれを作れるとでも?いや…さすがにそれは考え過ぎか…。
クラスからも「おぉ」とか「へぇ」などという声が上がった。
「ルーシッドさんは魔法具の作り方を誰から教わったんですか?」
「えっと…自分で調べましたけど?」
「そ、そうですか。本で調べたんですか?」
「えぇ、あとは魔法具に書かれてる魔法回路とか、演奏装置の譜面を読んで、自分なりに書き換えてみたり、自分で作ってみたり…一般にはそういう風に勉強しないんですかね?」
「いえ…まぁ、そうですね。皆さんは、魔法具についてはまだ全然詳しくないと思いますが、この学院で勉強すれば魔法具を作れるようになりますよ。頑張りましょう」
クラスの皆が返事をする。
魔法具についてあまり詳しくないクラスメートたちは聞き流していたが、クリフだけはある言葉が引っかかっていた。
譜面を読む?
実際に魔法を発動させてみることなく、演奏装置を見ただけで、それが何の魔法なのかわかるということか?
いや…そんな馬鹿な…ありえない…
単なる言葉の使い方の問題だろう
……いや、だが
それを自分なりに書き換えてみたとも言っていた
まさかな…
考え過ぎだろう…
そんなことできるはずがない
人が作った魔法回路や演奏装置の譜面を読んだり、それを書き換えて、まともな魔法が発動できるわけがない
「魔法具を作成するためにはまず魔法を発動させる媒体となる道具を作る必要があります。この媒体を作る時に必要な魔法を何というかわかりますか?」
真っ先に3人の手が上がった。
ルーシッドは当然知っていたが上げなかった。ルーシッドは聞かれたものには答えるが、自分から積極的に答えるということをしない。
手を挙げた3人は、ルビア・スカーレット、シアン・ノウブル、そしてジョン・ブラウンだった。
ルビアとシアンは、まぁだいたいいつも手を挙げてるので予想はついたが、ジョンが手を挙げるのは予想していなかった。魔法具は得意分野なんだろうか?
「では、ジョン」
「造形魔法です」
「はい、その通りです。よくわかりましたね?」
「実家が鍛冶師なので」
「あぁ、なるほどなるほど」
鍛冶師とは、『鉄の魔法』を使い、鉄で色々な日用品や武器・防具などを作る職業のことである。日用品や武器は必ずしも魔法具である必要はない。なので、鍛冶師=魔法具師というわけではない。
「では、造形魔法について簡単に説明してもらえますか、ジョン?」
「あー、えっと…」
そこまで突っ込まれるとは思っていなかったジョンは少し言葉を濁した。
「物を頭で想像した形に変える魔法だと思っていましたが…?」
「はい、悪くない解答です。それぞれの持っている魔力に応じて扱える物は変わってきますが、造形魔法を発動すると頭の中のイメージに合わせてその物の形が変化します。どうです、ジョン、試しに何か『鉄の魔法』で作ってみてもらえませんか?」
「えっ、はい」
ジョンが『鉄の魔法』の詠唱文を唱える。
すると、ジョンが広げていた右手の上にぐにゃりと灰色の物体が現れる。鉄が生成されたのだ。ここまでが鉄の生成魔法である。生成と造形を同時に行う魔法を発動した場合は、生成された物体に魔力を流し続けている間は形を変えることができる。これが造形魔法である。最大魔力量に達するか、あるいは魔法を終了させると、その形に固定されることになる。
ジョンが作ったのは鳥の形をした置物だった。
「繊細な造形ですね。さすが鍛冶師です」
「ありがとうございます。自分はまだまだ見習いですが」
「このようにして出来上がった媒体に魔法回路を組み込み、詠唱文を音楽に変換したものを奏でるための演奏装置と組み合わせると魔法具が完成するわけです。ですが、どんな媒体でも魔法具にできるというわけではありません。それはなぜだかわかりますか?」
この質問には誰も答えられなかった。先生もこの質問に答えれる人は、いるとすれば1人だろうと思っていた。
「ルーシッドさんはどう思いますか?」
「え?」
まさか自分が当てられるとは思ってもいなかったので、ルーシッドは少し間抜けな返事をしてしまった。
「あー…えっと。
1つには、魔法回路はその構造上、それを書き込むための最低限の面積が決まっています。なので、ジョンが作ったくらいの大きさだと魔法具には使えないです。
まぁ、実際に効果を発揮させるものと魔法回路や演奏装置に関しては別にしても問題ないので、あくまでジョンが作ったものだけを魔法具にするならという話ですけど。
2つには、魔法具として機能させるためには、その物体が正しい構造式を持っているかが大切です。魔法によってはそこまで影響しないものもありますが、基本的に式が正しくないと、魔法が発動したとしても、意図したとおりに発動しない場合が多いです。
こちらの方はジョンが作ったくらい正確な式を持っていれば、鳥の飛ぶおもちゃみたいな魔法具は作れると思います」
「……はい、完璧な答えですね。さすがですね」
答えれるだろうとは思っていたが、ここまで完璧に答えるとは思っていなかったクリフは驚いた。式について知っている1年生など今まで数えるほどしか見たことがない。
そしてさらに驚くべきは『実際に効果を発揮させるものと魔法回路や演奏装置に関しては別にしても問題ない』という発言である。
これはその通りであり、すでにいくつかの魔法具では実用化されているが、日常レベルで普通に魔法具を使用しているだけの魔法使い、ましてや学生でそのことを理解している者がいるなどとは到底信じられなかった。
だが一番気になるのは最後の発言だ。
『鳥の飛ぶおもちゃみたいな魔法具は作れると思います』
さらっとルーシッドはそう言ったが、それはできるはずがないのだ。一見すると簡単そうに見えるが、それを実現するためには『鉄の操作魔法』の使用が必要となる。普通に魔法を唱えれば全く難しくはないが、鉄の魔法の詠唱文の楽譜化はまだ実現していない。『鉄の魔法』を発動する魔法具はこの世に存在しないのだ。だが、ルーシッドは作れると思いますと言った。それは『鉄の魔法』の魔法具が存在しないということを知らないゆえの発言か?いや、これほど魔法具に詳しいルーシッドがそれを知らないはずはない。では、ルーシッドはそれを作れるとでも?いや…さすがにそれは考え過ぎか…。
クラスからも「おぉ」とか「へぇ」などという声が上がった。
「ルーシッドさんは魔法具の作り方を誰から教わったんですか?」
「えっと…自分で調べましたけど?」
「そ、そうですか。本で調べたんですか?」
「えぇ、あとは魔法具に書かれてる魔法回路とか、演奏装置の譜面を読んで、自分なりに書き換えてみたり、自分で作ってみたり…一般にはそういう風に勉強しないんですかね?」
「いえ…まぁ、そうですね。皆さんは、魔法具についてはまだ全然詳しくないと思いますが、この学院で勉強すれば魔法具を作れるようになりますよ。頑張りましょう」
クラスの皆が返事をする。
魔法具についてあまり詳しくないクラスメートたちは聞き流していたが、クリフだけはある言葉が引っかかっていた。
譜面を読む?
実際に魔法を発動させてみることなく、演奏装置を見ただけで、それが何の魔法なのかわかるということか?
いや…そんな馬鹿な…ありえない…
単なる言葉の使い方の問題だろう
……いや、だが
それを自分なりに書き換えてみたとも言っていた
まさかな…
考え過ぎだろう…
そんなことできるはずがない
人が作った魔法回路や演奏装置の譜面を読んだり、それを書き換えて、まともな魔法が発動できるわけがない
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