魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

授業① パーティー発表①

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週末も終わり新しい週となった。いよいよ本格的に授業がスタートしてくこととなる。ギルド体験週間は午前の授業だけだったが、ここからは午後の授業も行われる。授業は各1時間で午前に2つ、午後に3つである。そしてここからは、いよいよ『魔法実習』が始まる。魔法実習と一重に言っても色々ある。

例えば、『魔法具製作』では、実際に式の構築や魔法回路の作成などを行い、魔法具を製作する。

『フィールドワーク』授業では、魔法植物の調査や観察、採集を行う。時には、夜の生態を調査するために現地でキャンプを張ることもある。

また、『パーティー対抗戦』ではパーティーに分かれて色々なルールで対戦を行ったりするし、他のクラスと合同で行う『クラス合同実習』などもある。

魔法使いと一括りに言っても、それぞれの魔力によって使える魔法は全く違う。ゆえに、ファンタジー作品などで見られるような、皆で1つの呪文を唱えてできるまで練習する、と言ったような授業はこの魔法界にはない。そういった魔法詠唱の練習は、個人や、同じ属性の友達同士で行うか、あるいは各属性の魔法ギルドで行うことができる。

そう言った意味では、魔法詠唱ができないルーシッドでも、それがそんなに問題になる授業は実は少ないと言える。

ルーシッドのクラスは週末の段階で、特にトラブルもなくパーティー分けは確定していた。パーティー分けに関しては、たまに優秀な生徒の取り合いになったりすることもあるのだが、うまくまとまったようだ。


週が明けて、ルーシッドを取り巻く環境にもある変化があった。それはというと…

「あ、ルーシッドさん、おはよ~」
「…え、あぁ、おはようございます…えっと…グリエッタさん…?」
「そそ、ライム・グリエッタだよ。ライムで良いよ。ところで、先週までいなかったその人はどなた?」
「あぁ、えっと…」


「ふんっ、何よ、先週までは空気みたいに扱ってたくせに、急に話しかけてきて」
ルビアがその光景を見てぼやく。
そう、今週になってから急にクラスメート達がルーシッドに声をかけだしたのだ。
「先週のレイチェル先輩との対決のお陰みたいだね~」
「今さら何よ!ルーシィがすごいことなんて最初からわかるじゃない!ちょっと調子が良すぎるんじゃない!?」
「わ、私に言わないでよ~」
立ち上がって詰め寄るルビアに困った顔で応じるキリエ。
「なーに?ルビィってば焼きもちぃ?」
「ちっ、ちがっ!そんなんじゃないってば!」
フェリカに茶化されて顔を真っ赤にして否定するルビア。
「ははは、ルビィはかわいいなぁ」
「あーもぅ!だから違うってば!」
「いいじゃない。ルーシィが認めてもらえるようになったんだから」
「そっ、それはそうだけど…」
「まぁ、言いたいことはわかるけどね~」


そうこうしている内に担任のリサ・ミステリカが入ってくる。
「はい、みなさん。おはようございます。ギルド体験週間はどうでしたか?自分に合うギルドを決めることができましたか?ギルド入団受付はとりあえず今週いっぱいなので、入団希望書を各ギルドホームにいるギルド長に渡してください」
生徒たちが返事をする。
「さて、クラス内のパーティーは決まりました。今回は5つのパーティーとなりました。では、各パーティーを順番に呼ぶので、前に出てきてもらえますか?まずは、キリエ・ウィーリングさんのパーティーです」

ルーシッド達が最初に呼ばれたので前へと出ていく。ルーシッドのパーティーのリーダーはキリエだった。
当初はリーダーをルビアにするかルーシッドにするかで揉めていた。ルビアは実力は申し分ないが、正直リーダーとしては向いていない。どちらかと言えば自由に動き回るタイプである。それは本人自身も認めるところであった。ルーシッドは本当のところはリーダーに向いているのだが、本人があまり乗り気ではなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが、後から入ってきたキリエだった。キリエは元々足が悪くあまり動き回れないので、自陣で指揮を執る方がいいのではないかという意見だった。それに加えて、後に身に着けた俯瞰の魔眼のお陰で、戦況全体を見渡して指示を出すことができるようになったので、リーダーとしてはこれ以上ないくらい最適だという意見になったのだった。

キリエがすたすたと前に歩いていくのを見てクラスがざわつく。
「き、キリエさん…あなた足は治ったの?」
担任のリサがそう尋ねる。
「あ、いえ。ルーシィが作ってくれた魔法具のお陰で歩けるようになりました」
それを聞いてクラスがさらにざわめく。
「ま、魔法具で歩けるようになった?今までどの治癒魔法師でも治せなかった足が?」
「はい、この通りです!」
キリエは嬉しそうにくるくると回って見せる。その姿は何とも可愛らしい。


「ねぇ、どうやったらそんな効果が出る魔法具作れるか思いつく?」
「全然わからないわ。単純に何かを動かす、とかだったら風の魔法を使えばいけるとは思うけど…あんなに意のままに操るなんて不可能だわ…」
クラスメートたちが口々に話す。


「そんな…ルーシッドさん…一体どうやって…?」
「あー、そうですね。説明すると少し難しいですけど、まぁ簡単に言えば、脳からの足を動かすという電気的な指令を読み取って、それを筋肉の収縮活動を再現した靴下に伝えることで、外部的な働きによって足を動かしている感じですね」

それを聞いたリサは、脳からの電気的指令、筋肉の収縮など全く聞きなれない単語を前に反応に困ってしまう。ルーシッドの発想はすごいというよりも、意味が分からない。この子は本当に自分たちと同じ世界を生きてきたんだろうか、どこか別次元の人間なのではないかとさえ思ってしまうのだ。

いや、ある意味そうなのだろう、自分だけが持つ『無色の魔力』という存在を認識したときからすでにこの子が見ている世界は自分たちとは違っているのかも知れない、そう思った。

とにもかくにもルーシッド達のパーティーメンバーの紹介が終わった時だった。

「あの…先生。1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
1人の生徒が手を挙げた。

「あ、はい。シアンさん、どうぞ?」

手を挙げたのは、シアン・ノウブルという生徒だ。このクラスにはランクA以上の生徒が2人いる。1人は言わずと知れたルビア・スカーレット。そしてもう1人がこのシアン・ノウブルという生徒だった。シアンは肩までの黒髪にメガネという、知的な雰囲気を漂わせる生徒だった。

「あの…失礼でなければ、ルーシッドさんの隣に座っている方は誰なのか教えていただけるでしょうか…?」
「あぁ、そうでしたね。エアリーさん、自己紹介してもらえますか?」

エアリーはそう言われて、すっと立ち上がった。エアリーはルーシッドの隣に椅子を用意してもらって座っていた。服も制服を用意してもらったのでそれを着ていた。

「どうも、みなさん。はじめまして。エアリーと申します。私は人間ではありません。ルーシィによって作られた人工知能を持つ魔法人形マジックドールです。ですが、普通に見たり聞いたり話したりすることができますので、皆さんとは仲良くできればと思います。どうかよろしくお願いします」
そう言ってエアリーは頭を下げて席に着いた。

「と言うことです、皆さん。まぁ、人形魔法師ドールマジシャンの生徒が、魔法人形マジックドールを教室に連れてくることはよくあることですからね。エアリーさんはちょっと普通の魔法人形マジックドールとは違いますけど、仲良くしてあげてくださいね」

クラスが静まり返る。情報量の多さに思考が追いつかないといった感じだ。

「えっと、じゃあ、次のパーティーの方…」
「って、いやいやいや!え、ちょっと待ってください!」
シアンが慌てて制止する。
「えっと、はい、シアンさん、どうしましたか?」
「いや、皆さん反応が薄すぎませんか?さっきの魔法具もそうですよ!ありえなくないですか!?」
シアンはクラスを見渡した。
「まぁまぁ、落ち着きなよ、アン」
ライム・グリエッタがシアンの袖を引っ張る。
「逆にあなたは何でそんな冷静なのよ!この前のレイチェル先輩との決闘の時の『青い炎』だって、伸縮する炎の剣だって、どれもこれも普通じゃ考えられない!」
「なによ、あなたもルーシィがインチキだって言いたいの?」
ルビアが少し威圧的に言った。
「そ、そうじゃなくて!なんでこんなにすごい人がFランクなのかって言うことよ!どう考えてもおかしいじゃない!一体どういうことなの!?」
「ランクは魔力そのものに対する評価であって、知識や功績、実力によって変動するものではありませんからね?」
「本人が冷静なのが一番恐い…」
ルーシッドの答えにシアンは頭を抱えた。

そう、この世界の魔力ランクとは持って生まれた才能に対する評価である。その後の人生において、何をどう頑張ったところでランクが昇格するということはありえないのである。

「えー、みなさん。ルーシッドさんがFランクなのは皆さんも知っての通りです。これは今の魔力測定の基準上どうすることもできません。ですが、ルーシッドさんが非常に優れているということは、ここにいる誰もが認めているのではないでしょうか?」
皆が静かにうなずく。

「でもそれはルーシッドさんだけじゃありません。ここにいる全員がそうです。ランクというものしぜんには魔力そのものに対する評価であって、その人の評価ではありません。大事なのは、その魔力をどう使いこなすかです。この部分は皆さんの頑張りにかかっています。たとえAランクだとしても魔法が上手く使えなければ宝の持ち腐れです。Dランクだとしても工夫次第ではAランクに勝つことだってできます。ですから、皆で頑張っていきましょう」
先生の言葉に自然に拍手が起こった。
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