24 / 153
第3章 ギルド体験週間編―2日目
ギルド体験週間2日目⑪ リスヴェル・ブクレシュティ
しおりを挟む
こんなはずじゃなかった
違う
これは私の求めている『強さ』とは違う
私はただ認めてもらいたかっただけ
ごめんね、オリガ
私はもう『私』じゃない
勝手に行動してごめんね
大好きだったよ
さようなら
ゲイリーの目から涙がこぼれ、悲鳴にも似た叫び声を上げる。
『了解。
これより、ARモードに移行します』
エアリーがそう言うと、ルーシッドのかけているメガネに情報が映し出される。
通常、ルーシッドはエアリーの視覚情報を共有している。ルーシッドがかけているメガネはただのメガネではない。それは、そのメガネのレンズを通して入ってくる情報を、無色の魔力の運動へと変換する術式が組み込まれている。これにより、ルーシッドが目で見た情報は式へと変換され、それがエアリーに送られているのだ。ちなみに聴覚情報に関しても同様の方法で、エアリーと共有されている。
『ARモード』は、エアリーがそのようにして得た情報を元に分析した情報を、ルーシッドがかけているメガネのレンズに投射することにより、ルーシッドが実際に見ている視覚情報と重ねる技術である。
これによって、ルーシッドはエアリーとリアルタイムで情報を共有することができ、スムーズに作業を行うことができる。
日常生活においては特に使う必要もないので普段は使用していないこの『ARモード』は、ルーシッドが自分だけでは対処できない状況の時にだけ使う『奥の手』のようなものだった。
「ねぇ…さっきあのリスヴェルってやつ…『古代言語魔法回路』って言わなかった?」
ルビアが問いかける。
「あぁ、確かにそう言ったな…」
マーシャがそれに答える。
「古代言語って大昔に魔法に使われてた、失われた言語よね?ルーシィはどうするつもりなのかしら…」
「わからんが、今はルーシィ君に任せるしかない。我々は我々のやるべきことをやろう」
「かなり複雑に入り組んで書き込まれてるね。見ただけじゃいまいち魔力の流れがわからないや。とりあえず、魔法を発動させて、魔力が古代言語を流れる様子を分析してみよう。ゲイリーが使うのは『風の魔法』だけだろうから、とりえず風に飛ばされないように『魔力防壁』を立てるよ」
『了解しました』
ルーシッドが言うところの『魔力防壁』とは、単純に無色の魔力自体を結合して壁上にし、自分の前に立てること言う。基本的にあらゆる攻撃を防ぐことができる無敵の盾である。ルーシッドは自分の体にも『フォートレス』という魔力障壁を着ているが、これだと風の魔法の風圧は防ぐことができず、体ごと吹き飛ばされてしまうので、自分の体の前に魔力防壁を張ったのだ。
ゲイリーがうなり声を上げて、『風の魔法』を発動する。詠唱は行っていないが中位魔法のウィンドカッターに相当する魔法だろう。ライカと戦った時にも使用していた魔法だ。だが、その威力や数が尋常ではない。一瞬で十数もの風の刃がルーシッドを襲う。だが、ルーシッドの前に立てられた魔力防壁にすべてが弾かれる。
「みんなごめん、流れ弾まで処理できないから、なんとか対処してね!」
ルーシッドは後ろで戦っている仲間たちにそう叫んだ。
「こちらのことは心配するな!」
マーシャがそれに答えて叫ぶ。
マーシャ達は10体の自動魔法人形を相手にしていた。1人につき2体の計算であるが、実際のところはマリーとキリエがいるので、もう少し少ない。
「自動魔法人形は、魔法は使えません!ですがかなり頑丈です!まともに攻撃を食らわないようにしてください!あと、体の内部に魔法石があります、それがコアです!それを破壊すれば動きが止まります!」
オリガは自動魔法人形について知っている情報を話す。
「よし、やるぞ!フラン君、ゴーレムによる戦闘と土塁による防御魔法の展開を同時に頼めるか?」
「任せてください!」
「よし!ルビア君は、打撃系の武器生成はできるか?」
「土の妖精『ザババ』の2対のメイス『エリムサルエ・クルドゥブバ』の生成なら!」
「神々の武器じゃないか、上出来だ!では、ルビア君は私と一緒に戦うぞ。他の者は十分距離を取って援護してくれ!」
マーシャは的確な指示を出す。
『キリィは、水が使えたな?』
今度はマリーがキリエに尋ねる。
『はい、使えます!』
『では、水の生成と造形で攻撃しろ、私がタイミングを合わせて闇の魔法で氷にする。足を氷漬けにして足止めを狙うか、上から氷塊を落として物理攻撃を狙うぞ』
『はい、やってみます!』
「あ、あの!私も水が使えます!」
オリガがそう言う。
『よし、ではお前もだ』
「はいっ!」
『リカ、あいつら相手に肉弾戦はきつい。かといって遠距離だとそれほどの有効打になる魔法は私にはない。とりあえず、眷属を生成して様子を見るぞ』
「わかった!私もルーンで役立ちそうなものを試してみる!」
「なるほど…あの首輪は結晶の指輪の役割を果たしてるんだね。そして魔法石が胸にある。本人の意思に反応して、その2つから同時に魔力が流れて、ちょうど中心点で融合させて、全身に縦横無尽に張り巡らされた古代言語に魔力を流すことで、魔法を発動させる仕組みだね…不謹慎だけどすごいな…」
『融合地点の接続は最初には切らないほうが良さそうです』
「だね。片方に負荷がかかって魔力のバランスが崩れて暴走するかも知れない。魔力の流れを観察してみた感じ、組み込まれている魔法の詠唱式は両手と背中、後は両胸から両脚にかけての全部で5つかな。そんなには多くないね。よし順番に言葉を書き換えて回路を切断していこう」
「ほぉ、少しはわかるようだな?だが、私が組んだ古代言語魔法回路を書き換えるだと?そんなことできるわけがないだろう?」
リスヴェルはルーシッドがやろうとしていることを見てそう言った。
そう、これは通常の魔力回路とは異なり、古代言語によって書かれた魔法式であった。
リスヴェルは長年の魔法言語の研究により、古代言語の解読に成功し、それによって魔法式を魔法具に書き込むことで、自動魔法人形や生人形という技術を可能にしたのだった。
リスヴェルはまさに天才と言っていい魔法使いだった。
古代言語で書かれた魔法式を書き換えるためには古代言語を読めなければならない。
そんなことができるのはこの魔法界に自分1人だけ、すなわち自分が組んだ魔法式を書き換えることなど誰にもできない。
そうリスヴェルは考えていたのだ。
だが、この魔法界に古代言語が読めるのは自分だけだという思い込みがすでに間違っていたのである。
『右腕の文章は、肩の部分のマーキングした位置に文字を足して背中側につなげることができます。そこでいったん迂回させてから、右腕への魔力の接続を切って無効化しましょう』
「ありがと、エアリー!」
無色の魔力で右手を拘束し、エアリーがマーキングした位置に文字を書き足し、本来の文章を無色の魔力で封鎖することで、魔力が流れないようにしてから文字を消去していく。
「左腕はこの部分を切ればいいと思うんだけど、合ってるかな?」
『はい、間違いありません』
相手の攻撃を全て無力化しながら、淡々と古代言語の魔法式を書き換えていくルーシッドとエアリーを見て、驚愕するリスヴェル。
「なんだ……これはなんだ……私の目の前で何が起きているんだ……?
私は夢でも見ているのか……?」
そう、ルーシッドは古代言語に精通していた。
魔法界にはもう1人古代言語が読める人物がいたのである。
そんな人間が偶然にも事件を解決するためにこの場に居合わせてしまった。
それがリスヴェルにとっては最悪の偶然だった。
マーシャたちの方も順調に魔法人形の数を減らしていた。
「どりゃあぁあぁぁ!!」
マーシャが凄まじい勢いで魔法人形に体当たりし、人形は吹き飛び壁に激突する。
「すごいな、ルーンの付与魔法の力は!」
「はぁあぁぁぁぁ!!」
ルビアも両手に持ったメイスで次々と魔法人形に強烈な打撃を加え、部位を破壊していく。
「ほんと!体が軽いわ!」
フェリカはマーシャとルビアにルーン魔法を付与していた。
付与したルーンは、マーシャが『ᚢ』と『ᛘ』。
ルビアには『ᚱ』と同じく『ᛘ』のルーンである。
『ᚢ』の意味は『野生の牛』。爆発的な攻撃力、突進力を付与するルーンである。
『ᚱ』の意味は『車輪』。瞬発力とスピードを付与するルーンである。
『ᛘ』の意味は『友情と保護』。仲間を保護し、防御力を高めるルーンである。
その間に、フランチェスカのゴーレムが魔法人形をなぎ倒し、捕まえては両手で引きちぎり、踏みつぶしていく。フェリカがマリーの力を借りて土から作った眷属も、噛みついて相手の動きを封じたり、体当たりをして攻撃する。
マリーの指示のもと、キリエとオリガも氷の魔法で相手を攻撃していく。
勝敗は決しようとしていた。
「よし。全身への魔力の流れはこれで絶てたね。これで、あの魔法石と魔力を融合させている部分を繋いでいる文章を切断して、あとは魔法石を破壊すれば、魔力の不自然な流れは止まって、自分の魔力の流れだけになるはず」
「ふ…ふざけるなよ……そんなことさせるかぁあぁぁぁ!!」
いよいよ後がなくなったリスヴェルは、ルーシッドに向けて魔法を発動しようとする。
「ぐはっ!?」
だが、魔法を発動する前に、リスヴェルは吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。ルーシッドが無色の魔力によって圧縮した空気を放出する『エアロカノン』によって、吹き飛ばしたのだ。
「ふざけてるのはそっちでしょ?古代言語を体に書き込んで体に組み込むなんて、正気の沙汰じゃないよ」
「うぐぅ…だが…それはそいつが望んだことだぞ…」
「確かに彼女は選択を間違ったかもしれない。彼女が、自分が手にすることができない強さを欲したのは間違っていたと思う。
でも、あなたも間違っている!
こんな方法で強さを手に入れても、人が人じゃなくなったら意味がないんだ!
ゲイリーは心の奥底で泣いてた!
人の感情をもてあそんだあなたは間違っている!」
「黙れ黙れ黙れぇえぇぇぇぇ!!お前に何がわかる?それは私の作品だぞ、私の最高傑作だぞ!?人の作品を勝手にいじるなぁあぁぁぁぁ、ぐふっ!?」
ルーシッドはリスヴェルを上から無色の魔力で押しつぶした。
「まぁね。技術はすごいと思うよ。でもあなたは技術の使い方を間違った。その技術を、人を泣かせるためじゃなくて、笑顔にするために使ってよね」
そう言うと、ルーシッドは魔法石に無色の魔力を流し込んだ。異質な魔力が流れ込んだことにより、魔法石は砕け散った。すると、ゲイリーの体に浮かび上がっていた古代言語が消えていく。そして、ゲイリーは気を失い、その場に倒れた。
「やったのか!?」
それを見ていたマーシャが叫ぶ。マーシャ達の方も、最後の1体を破壊したところだった。
「ゲイリー!!!」
オリガがゲイリーに走り寄る。
「ゲイリー!ゲイリー!お願い、目を覚まして!返事して!」
ゲイリーを抱き寄せ、泣きながら声をかけるオリガ。
「……ん…あれ……オリガ……?」
「ゲイリー!良かった!無事で良かったよぉおぉぉ!!!」
ゲイリーの意識が戻ったことで、ほっと胸をなでおろすルーシッド。
小さな声でエアリーが『お疲れさまでした』と言った。
「そうか……私、実験をする時に眠らされて…それで気づいたら、意識が暗闇に閉じ込められたみたいになって、出られなくなって…体は誰かに乗っ取られたみたいに勝手に動いて、全身が熱くなって…すごい…すごい怖かったぁ…もっ、もう戻れないと思ったぁ…ごっ、ごめんっ、オリガぁぁ……わっ、わたっ、私、もっ、もっと強くなりたくてぇ…みっ、みんなに、みとっ、認めてっ、もらいたくて……そ、それで、あせっ、焦って……ごめんっ、ごめんねっ…うぅ、うぇえぇぇん……怖かったよぉ…もう会えないと思ったよぉぉ…オリガぁあぁぁ!!」
ゲイリーは普段の強気な感じからは想像できないくらいに泣きじゃくって、オリガに抱き着く。
「ううん、いいの。こうして無事で帰ってきてくれたから」
オリガはゲイリーを強く抱きしめ、ゲイリーも小さく「うん、うん」と何度も頷いてそれに答える。
ゲイリーは少し体を離して、ゲイリーの両頬に手を添えて、正面から見つめて言った。
「ねぇ、ゲイリー?私はゲイリーが強いってこと知ってるよ?私は誰よりもゲイリーの事を認めてる、それじゃだめ……?」
「ううん。ダメじゃない。ダメじゃないよ。私間違ってた。完全に見失ってた。他の誰に認められなくたっていい。オリガに認めてもらえるなら、あたしはもっともっと強くなれる。オリガのために強くなれる」
「ゲイリー!大好きっ!」
2人は強く強く抱きしめ合った。
その様子を満足そうに見ていたマーシャはおもむろに口を開く。
「さてと…ゲイリーも救出できたことだし。騎士団にこの場所を知らせて、私たちは帰るとしようか。もう夜も遅い。睡眠不足は筋肉に悪いからね!」
全員がマーシャらしいその言葉に笑う。
「でも、私たちがここにいたことが知られると、色々厄介です。どうやってこの場所を知らせましょうか?」
「あ、それなら、この場所を知らせるのに丁度いい『魔術』がありますよ」
フランチェスカに対して、ルーシッドは面白いいたずらを思いついた子供のようににやりと笑った。
その夜、夜空には綺麗な『花火』が何十発と上がった。
町中の人が、見たこともない綺麗な光景に大盛り上がりし、町はちょっとしたお祭り気分になったのだった。
違う
これは私の求めている『強さ』とは違う
私はただ認めてもらいたかっただけ
ごめんね、オリガ
私はもう『私』じゃない
勝手に行動してごめんね
大好きだったよ
さようなら
ゲイリーの目から涙がこぼれ、悲鳴にも似た叫び声を上げる。
『了解。
これより、ARモードに移行します』
エアリーがそう言うと、ルーシッドのかけているメガネに情報が映し出される。
通常、ルーシッドはエアリーの視覚情報を共有している。ルーシッドがかけているメガネはただのメガネではない。それは、そのメガネのレンズを通して入ってくる情報を、無色の魔力の運動へと変換する術式が組み込まれている。これにより、ルーシッドが目で見た情報は式へと変換され、それがエアリーに送られているのだ。ちなみに聴覚情報に関しても同様の方法で、エアリーと共有されている。
『ARモード』は、エアリーがそのようにして得た情報を元に分析した情報を、ルーシッドがかけているメガネのレンズに投射することにより、ルーシッドが実際に見ている視覚情報と重ねる技術である。
これによって、ルーシッドはエアリーとリアルタイムで情報を共有することができ、スムーズに作業を行うことができる。
日常生活においては特に使う必要もないので普段は使用していないこの『ARモード』は、ルーシッドが自分だけでは対処できない状況の時にだけ使う『奥の手』のようなものだった。
「ねぇ…さっきあのリスヴェルってやつ…『古代言語魔法回路』って言わなかった?」
ルビアが問いかける。
「あぁ、確かにそう言ったな…」
マーシャがそれに答える。
「古代言語って大昔に魔法に使われてた、失われた言語よね?ルーシィはどうするつもりなのかしら…」
「わからんが、今はルーシィ君に任せるしかない。我々は我々のやるべきことをやろう」
「かなり複雑に入り組んで書き込まれてるね。見ただけじゃいまいち魔力の流れがわからないや。とりあえず、魔法を発動させて、魔力が古代言語を流れる様子を分析してみよう。ゲイリーが使うのは『風の魔法』だけだろうから、とりえず風に飛ばされないように『魔力防壁』を立てるよ」
『了解しました』
ルーシッドが言うところの『魔力防壁』とは、単純に無色の魔力自体を結合して壁上にし、自分の前に立てること言う。基本的にあらゆる攻撃を防ぐことができる無敵の盾である。ルーシッドは自分の体にも『フォートレス』という魔力障壁を着ているが、これだと風の魔法の風圧は防ぐことができず、体ごと吹き飛ばされてしまうので、自分の体の前に魔力防壁を張ったのだ。
ゲイリーがうなり声を上げて、『風の魔法』を発動する。詠唱は行っていないが中位魔法のウィンドカッターに相当する魔法だろう。ライカと戦った時にも使用していた魔法だ。だが、その威力や数が尋常ではない。一瞬で十数もの風の刃がルーシッドを襲う。だが、ルーシッドの前に立てられた魔力防壁にすべてが弾かれる。
「みんなごめん、流れ弾まで処理できないから、なんとか対処してね!」
ルーシッドは後ろで戦っている仲間たちにそう叫んだ。
「こちらのことは心配するな!」
マーシャがそれに答えて叫ぶ。
マーシャ達は10体の自動魔法人形を相手にしていた。1人につき2体の計算であるが、実際のところはマリーとキリエがいるので、もう少し少ない。
「自動魔法人形は、魔法は使えません!ですがかなり頑丈です!まともに攻撃を食らわないようにしてください!あと、体の内部に魔法石があります、それがコアです!それを破壊すれば動きが止まります!」
オリガは自動魔法人形について知っている情報を話す。
「よし、やるぞ!フラン君、ゴーレムによる戦闘と土塁による防御魔法の展開を同時に頼めるか?」
「任せてください!」
「よし!ルビア君は、打撃系の武器生成はできるか?」
「土の妖精『ザババ』の2対のメイス『エリムサルエ・クルドゥブバ』の生成なら!」
「神々の武器じゃないか、上出来だ!では、ルビア君は私と一緒に戦うぞ。他の者は十分距離を取って援護してくれ!」
マーシャは的確な指示を出す。
『キリィは、水が使えたな?』
今度はマリーがキリエに尋ねる。
『はい、使えます!』
『では、水の生成と造形で攻撃しろ、私がタイミングを合わせて闇の魔法で氷にする。足を氷漬けにして足止めを狙うか、上から氷塊を落として物理攻撃を狙うぞ』
『はい、やってみます!』
「あ、あの!私も水が使えます!」
オリガがそう言う。
『よし、ではお前もだ』
「はいっ!」
『リカ、あいつら相手に肉弾戦はきつい。かといって遠距離だとそれほどの有効打になる魔法は私にはない。とりあえず、眷属を生成して様子を見るぞ』
「わかった!私もルーンで役立ちそうなものを試してみる!」
「なるほど…あの首輪は結晶の指輪の役割を果たしてるんだね。そして魔法石が胸にある。本人の意思に反応して、その2つから同時に魔力が流れて、ちょうど中心点で融合させて、全身に縦横無尽に張り巡らされた古代言語に魔力を流すことで、魔法を発動させる仕組みだね…不謹慎だけどすごいな…」
『融合地点の接続は最初には切らないほうが良さそうです』
「だね。片方に負荷がかかって魔力のバランスが崩れて暴走するかも知れない。魔力の流れを観察してみた感じ、組み込まれている魔法の詠唱式は両手と背中、後は両胸から両脚にかけての全部で5つかな。そんなには多くないね。よし順番に言葉を書き換えて回路を切断していこう」
「ほぉ、少しはわかるようだな?だが、私が組んだ古代言語魔法回路を書き換えるだと?そんなことできるわけがないだろう?」
リスヴェルはルーシッドがやろうとしていることを見てそう言った。
そう、これは通常の魔力回路とは異なり、古代言語によって書かれた魔法式であった。
リスヴェルは長年の魔法言語の研究により、古代言語の解読に成功し、それによって魔法式を魔法具に書き込むことで、自動魔法人形や生人形という技術を可能にしたのだった。
リスヴェルはまさに天才と言っていい魔法使いだった。
古代言語で書かれた魔法式を書き換えるためには古代言語を読めなければならない。
そんなことができるのはこの魔法界に自分1人だけ、すなわち自分が組んだ魔法式を書き換えることなど誰にもできない。
そうリスヴェルは考えていたのだ。
だが、この魔法界に古代言語が読めるのは自分だけだという思い込みがすでに間違っていたのである。
『右腕の文章は、肩の部分のマーキングした位置に文字を足して背中側につなげることができます。そこでいったん迂回させてから、右腕への魔力の接続を切って無効化しましょう』
「ありがと、エアリー!」
無色の魔力で右手を拘束し、エアリーがマーキングした位置に文字を書き足し、本来の文章を無色の魔力で封鎖することで、魔力が流れないようにしてから文字を消去していく。
「左腕はこの部分を切ればいいと思うんだけど、合ってるかな?」
『はい、間違いありません』
相手の攻撃を全て無力化しながら、淡々と古代言語の魔法式を書き換えていくルーシッドとエアリーを見て、驚愕するリスヴェル。
「なんだ……これはなんだ……私の目の前で何が起きているんだ……?
私は夢でも見ているのか……?」
そう、ルーシッドは古代言語に精通していた。
魔法界にはもう1人古代言語が読める人物がいたのである。
そんな人間が偶然にも事件を解決するためにこの場に居合わせてしまった。
それがリスヴェルにとっては最悪の偶然だった。
マーシャたちの方も順調に魔法人形の数を減らしていた。
「どりゃあぁあぁぁ!!」
マーシャが凄まじい勢いで魔法人形に体当たりし、人形は吹き飛び壁に激突する。
「すごいな、ルーンの付与魔法の力は!」
「はぁあぁぁぁぁ!!」
ルビアも両手に持ったメイスで次々と魔法人形に強烈な打撃を加え、部位を破壊していく。
「ほんと!体が軽いわ!」
フェリカはマーシャとルビアにルーン魔法を付与していた。
付与したルーンは、マーシャが『ᚢ』と『ᛘ』。
ルビアには『ᚱ』と同じく『ᛘ』のルーンである。
『ᚢ』の意味は『野生の牛』。爆発的な攻撃力、突進力を付与するルーンである。
『ᚱ』の意味は『車輪』。瞬発力とスピードを付与するルーンである。
『ᛘ』の意味は『友情と保護』。仲間を保護し、防御力を高めるルーンである。
その間に、フランチェスカのゴーレムが魔法人形をなぎ倒し、捕まえては両手で引きちぎり、踏みつぶしていく。フェリカがマリーの力を借りて土から作った眷属も、噛みついて相手の動きを封じたり、体当たりをして攻撃する。
マリーの指示のもと、キリエとオリガも氷の魔法で相手を攻撃していく。
勝敗は決しようとしていた。
「よし。全身への魔力の流れはこれで絶てたね。これで、あの魔法石と魔力を融合させている部分を繋いでいる文章を切断して、あとは魔法石を破壊すれば、魔力の不自然な流れは止まって、自分の魔力の流れだけになるはず」
「ふ…ふざけるなよ……そんなことさせるかぁあぁぁぁ!!」
いよいよ後がなくなったリスヴェルは、ルーシッドに向けて魔法を発動しようとする。
「ぐはっ!?」
だが、魔法を発動する前に、リスヴェルは吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。ルーシッドが無色の魔力によって圧縮した空気を放出する『エアロカノン』によって、吹き飛ばしたのだ。
「ふざけてるのはそっちでしょ?古代言語を体に書き込んで体に組み込むなんて、正気の沙汰じゃないよ」
「うぐぅ…だが…それはそいつが望んだことだぞ…」
「確かに彼女は選択を間違ったかもしれない。彼女が、自分が手にすることができない強さを欲したのは間違っていたと思う。
でも、あなたも間違っている!
こんな方法で強さを手に入れても、人が人じゃなくなったら意味がないんだ!
ゲイリーは心の奥底で泣いてた!
人の感情をもてあそんだあなたは間違っている!」
「黙れ黙れ黙れぇえぇぇぇぇ!!お前に何がわかる?それは私の作品だぞ、私の最高傑作だぞ!?人の作品を勝手にいじるなぁあぁぁぁぁ、ぐふっ!?」
ルーシッドはリスヴェルを上から無色の魔力で押しつぶした。
「まぁね。技術はすごいと思うよ。でもあなたは技術の使い方を間違った。その技術を、人を泣かせるためじゃなくて、笑顔にするために使ってよね」
そう言うと、ルーシッドは魔法石に無色の魔力を流し込んだ。異質な魔力が流れ込んだことにより、魔法石は砕け散った。すると、ゲイリーの体に浮かび上がっていた古代言語が消えていく。そして、ゲイリーは気を失い、その場に倒れた。
「やったのか!?」
それを見ていたマーシャが叫ぶ。マーシャ達の方も、最後の1体を破壊したところだった。
「ゲイリー!!!」
オリガがゲイリーに走り寄る。
「ゲイリー!ゲイリー!お願い、目を覚まして!返事して!」
ゲイリーを抱き寄せ、泣きながら声をかけるオリガ。
「……ん…あれ……オリガ……?」
「ゲイリー!良かった!無事で良かったよぉおぉぉ!!!」
ゲイリーの意識が戻ったことで、ほっと胸をなでおろすルーシッド。
小さな声でエアリーが『お疲れさまでした』と言った。
「そうか……私、実験をする時に眠らされて…それで気づいたら、意識が暗闇に閉じ込められたみたいになって、出られなくなって…体は誰かに乗っ取られたみたいに勝手に動いて、全身が熱くなって…すごい…すごい怖かったぁ…もっ、もう戻れないと思ったぁ…ごっ、ごめんっ、オリガぁぁ……わっ、わたっ、私、もっ、もっと強くなりたくてぇ…みっ、みんなに、みとっ、認めてっ、もらいたくて……そ、それで、あせっ、焦って……ごめんっ、ごめんねっ…うぅ、うぇえぇぇん……怖かったよぉ…もう会えないと思ったよぉぉ…オリガぁあぁぁ!!」
ゲイリーは普段の強気な感じからは想像できないくらいに泣きじゃくって、オリガに抱き着く。
「ううん、いいの。こうして無事で帰ってきてくれたから」
オリガはゲイリーを強く抱きしめ、ゲイリーも小さく「うん、うん」と何度も頷いてそれに答える。
ゲイリーは少し体を離して、ゲイリーの両頬に手を添えて、正面から見つめて言った。
「ねぇ、ゲイリー?私はゲイリーが強いってこと知ってるよ?私は誰よりもゲイリーの事を認めてる、それじゃだめ……?」
「ううん。ダメじゃない。ダメじゃないよ。私間違ってた。完全に見失ってた。他の誰に認められなくたっていい。オリガに認めてもらえるなら、あたしはもっともっと強くなれる。オリガのために強くなれる」
「ゲイリー!大好きっ!」
2人は強く強く抱きしめ合った。
その様子を満足そうに見ていたマーシャはおもむろに口を開く。
「さてと…ゲイリーも救出できたことだし。騎士団にこの場所を知らせて、私たちは帰るとしようか。もう夜も遅い。睡眠不足は筋肉に悪いからね!」
全員がマーシャらしいその言葉に笑う。
「でも、私たちがここにいたことが知られると、色々厄介です。どうやってこの場所を知らせましょうか?」
「あ、それなら、この場所を知らせるのに丁度いい『魔術』がありますよ」
フランチェスカに対して、ルーシッドは面白いいたずらを思いついた子供のようににやりと笑った。
その夜、夜空には綺麗な『花火』が何十発と上がった。
町中の人が、見たこともない綺麗な光景に大盛り上がりし、町はちょっとしたお祭り気分になったのだった。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~
吉高 花
恋愛
魔力があった、ただそれだけの理由で王女なのに捨て子として育ったマルガレーテは、隣国との政略結婚のためだけにある日突然王女として引っぱりだされ、そして追放同然に邪悪な国と恐れられるルトリアへと送られた。
そしてルトリアでの魔力判定により、初めて自分が白の魔力を持つ者と知る。しかし白の魔力を持つ者は、ルトリアではもれなく短命となる運命だった。
これでは妃なんぞには出来ぬとまたもや辺鄙な離宮に追放されてしまったマルガレーテ。
しかし彼女はその地で偶然に病床の王妃を救い、そして流れ着いたワンコにも慕われて、生まれて初めて自分が幸せでいられる居場所を得る。
もうこのまま幸せにここでのんびり余生を送りたい。そう思っていたマルガレーテは、しかし愛するワンコが実は自分の婚約者である王子だったと知ったとき、彼を救うために、命を賭けて自分の「レイテの魔女」としての希有な能力を使うことを決めたのだった。
不幸な生い立ちと境遇だった王女が追放先でひたすら周りに愛され、可愛がられ、大切な人たちを救ったり救われたりしながら幸せになるお話。
このお話は「独身主義の魔女ですが、ワンコな公爵様がなぜか離してくれません」のスピンオフとなりますが、この話だけでも読めるようになっています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。
よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる