魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第3章 ギルド体験週間編―2日目

ギルド体験週間2日目⑦ オリガの願いとキリエの願い

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「え、ちょっ、ちょっと待って、え、どういうこと?だってあなた…全然違うじゃない、えっ、はぁ?」
フランチェスカはあまりの動揺で支離滅裂になる。
「そのことはあとで説明します!まずはマーシャさんに緊急にお話ししたいことがあるんです!」
「……何かよほどの事態のようだな?いいだろう聞こう。皆もいて構わないか?」
オリガの表情から事態の緊急性を察知したマーシャはそう尋ねた。

「その…私を入れて5、6人に絞ってもらえますか?小規模で行きたいのですが場合によっては戦闘になるかも知れません。その事を踏まえて人選をお願いします」
『戦闘』と聞いてギルド長室には緊張が走る。
「…わかった。フラン君は残ってくれ。それとギルドメンバーではないが、ルビア君とフェリカ君とルーシッド君。キミたちも力を貸してくれ。この人選に異論があるものはいるか?」
ギルドメンバーは沈黙によって承諾する。
「すまないな。キミたちを信頼していないわけじゃないんだ。だが安易に危険にさらすわけにもいかない。何があったかは後で必ず報告する。だが、それまではこの事は内密にしてくれ。先生たちにもまだ言わないでいてくれ。下手に動かれてややこしくなる」

ギルドメンバーたちは静かにその場を去っていく。その中にはキリエの姿もあった。

「キリィ、ごめんね。後で教えるから」
「うん、全然気にしないで。あたしじゃ役に立てないから。頑張ってね」
そう言ったキリエの顔には悔しさがにじんでいた。

「まずはこれを見てください」
オリガが一枚の紙をテーブルの上に置く。そこにはこう書かれていた。


『やっぱり行ってきます。心配しないで。必ず強くなって帰ってくるから。 ゲイリー』


「これは…どういうことだ?」
「実は昨日、純血ピュアブラッドの会合があって、ゲイリーが負けた件について問題になりまして、純血ピュアブラッドの強さを示すために、学院の強い魔法使いたちに決闘を仕掛けていくことになったんです」

ルーシッドはそれを聞いて、クレアが予想していた通りの展開になっているなと思った。

「それで、ゲイリーも自分にもやらせてくれと言ったんですが、ダメだと言われて…どうしても諦めきれなかったゲイリーは今朝も頼みに行ったんです。そしたら、幹部の内の一人が言ったそうなんです。魔力を上げる研究をしている施設があって、魔力が低い魔法使いたちでは実験が成功している。その施設で魔力Aランク以上の魔法使いの実験体を欲しがっていて、その実験に参加して魔力ランクがAAA以上になったらいいって…」
「魔力を上げる?そんなことが可能なの?」
フランチェスカが尋ねる。
「詳しくは私もわかりません。でも、ものすごい嫌な予感がするんです。ゲイリーの身に危険が迫っている気がして…ゲイリーも最初はためらっていたんですが…さっき部屋に戻ったらこの手紙が机の上に置いてあって…」
「どうやって魔力を上げるかはわからないが、間違いなく真っ当な方法ではないだろう。人間に生来備わっている力を人工的に上げるなんてこと、普通ならできるはずがない…」
「お願いします!ゲイリーをその施設から連れ出すのを手伝ってもらえませんか?」
「どうしますか?ギルド長?この子の言っていることが本当かどうかもわかりませんが?」
フランチェスカは慎重な見方をする。それも当然だろう、何せ相手は一度乱入騒ぎを起こしている純血ピュアブラッドのメンバーなのだから。
「本当です!信じてください!お願いします!もちろん私一人だとしても行くつもりですが、その…私だけでは救えないかもしれない…何としてもゲイリーを助けたいんです!」
オリガは目に涙を浮かべながら必死に頭を下げる。
「私は行くよ。この子が嘘を言っているようには思えない。それに、もし純血ピュアブラッドが私たちをはめようとしているなら、もっとマシなヤツを寄こすだろうさ。私たちがゲイリーのために動くなんて言う保証はどこにもないからね。皆はどうする?」
「そんな組織があるなら放っては置けません。魔力を上げる?冗談じゃない。自分が与えられた魔力を使って強くなる努力もせずに、そんな卑怯な手を使って強くなろうとするなんてあり得ないわ。これを機に潰してやりましょう」
ルビアの力強い意見にみながうなずく。
「では決まりだな。だが…その施設がどこにあるのかはわかっているのか?」
「あ…はい。ゲイリーの位置は魔法でわかるので、大丈夫です」
「……今回こういうことがあったから、念のためゲイリーに何かしらの仕掛けをしておいたのよね?」
オリガに対してフランチェスカがそう尋ねた。
「いえ?ゲイリーがどこにいるかはいつでも把握してますよ?友達ですから?」
「いや、そんな当然ですけど、みたいな顔で言われても…」
「?」
「まぁ良いわ…行きましょう」
そこにいる全員が、それは友達ではなく、ストーカーなのではないかとも思ったが、黙っていることにしたのだった。



同刻。キリエは一人で部屋に戻ってきた。部屋には誰もいない。ここはルーシッド達の部屋だ。今日からルーシッド達の部屋で暮らすことになる予定だったのだ。


バンッ!


キリエは無言で自分の右足を叩いた。何も感じない。痛みを感じれないのだ。

「…この脚が動けば…!」


バンッ!バンッ!バンッ!


自分の足を憎いかのように何度も叩く。

力が欲しい!

もっと強くなりたい!

みんなの力になりたい!



力が欲しいか?



「えっ…誰?」
どこからか声がしたような気がしてキリエはそう尋ねた。



力が欲しいか?



「ください!私に力をください!」
確かに声が聞こえたので、キリエはそう叫んだ。


なぜ力を求める?


「えっ?」


なぜ力を求める?
己のためか?


「違う!ルーシィ達は…ルーシィ達は初めて私を受け入れてくれた!今までこの脚のせいで厄介者扱いされてきた私を受け入れてくれた!そんなルーシィ達のためならそれこそ、この命を投げ出したっていい!でも結局……結局私には…それすらもできない…だから…力を…力を下さい!誰かは知りませんが力をください!仲間を守る力を!仲間を助ける力を!仲間と共に戦う力をください!」


汝の強い気持ち、確かに聞いた。
お前に『目』を授けよう。
この『目』はこの世の全てを俯瞰する魔眼。『俯瞰の魔眼ホートスコピー』なり。


俯瞰の魔眼ホートスコピー…?あなたは何者?」


我はアルゴス。
魔眼の主、百の魔眼を持つ者である。
この世界にある魔眼は全て我の目である。
我は自分の望むものにこの魔眼を貸し与える。
だが、汝に授けようとしている俯瞰の魔眼ホートスコピーは極めて強大な力を持つ魔眼である。
汝はその力を受け入れる覚悟はあるか。


「…あります!その力がみんなの助けになるなら!」


よかろう。
その強い意志を信じよう。
だが忘れるな。
この『目』を自らの利益のために使った時、汝自身の『目』も失われる。
汝の目は二度と普通の景色すら見ることはできなくなる。
それでもよいか。


「構いません!その力、仲間のためだけに使うと誓います!」


よかろう。
では、目を閉じるがよい。
次に目を開けた時、汝の見る世界は一変する。
それがこの世の全てを俯瞰した光景である。


キリエは言われた通り目を閉じた。

そして、目を開けると、キリエは天高くから世界を見下ろしていた。
いや、キリエ自身は変わらずに部屋にいた。
その視界だけが世界を俯瞰しているのだ。

「すごい…これがあれば…動かなくても戦況が手に取るようにわかる!動けなくても戦える!」

『見える』ということは『魔法が使える』ということである。
キリエは実質的に、魔法を使うことができるようになったのだ。

キリエが学院の周囲を見回してみると、偶然にもルーシッド達を見つけた。

「あ、学院の外に出るんだ。あ、そうだ!ルーシィにもらったリムレット!あれでコールしてみよう!」

ルーシッドは昼休みにキリエにもルーシッドのオリジナル魔法具『リムレット』を渡していた。リムレットがあれば離れたところからでも会話をすることができる。

オリガは戦闘になるかも知れないと言っていた。私が上から見て状況を伝えたり、先回りして様子を確認したりして教えてあげれば、助けになるかも知れない。私も役に立てるかも知れない。
キリエは初めて自分が何かの役に立てるかもしれないと考えることができたのだ。
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