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第3章 ギルド体験週間編―2日目
ギルド体験週間2日目④ スクールギルド:サーヴェイラ(風紀ギルド)① マーシャ対ルビア
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「やぁ、ようこそ!風紀ギルドのギルドホームへ!フラン君から話は聞いているよ!君たちを歓迎するよ!私が現ギルド長のマーシャ・アッシュクロフトだよ!」
マーシャは非常に気さくな人で、4人がギルドホームのギルド長室に案内されると、にこにこしながら4人に近寄ってきて握手をした。マーシャは黒髪のショートで、言われなければ男と勘違いしてしまいそうなほどに美人であった。かなり鍛えているのか筋肉質ではあるが、身長もかなりあるようで、立ち姿もかっこよかった。4人は前評判が悪かったこともあり、ちょっと声が大きいかな?と思うくらいで、第一印象が予想外に良かったために、少し拍子抜けしてしまったのだった。
「ルビア君にルーシッド君にフェリカ君だったね!今年の本戦は大いに盛り上がったね!特に、ルビア君とルーシッド君の決勝戦は大興奮だったね!私も興奮のあまり乱入しようかと思ったよ!ははは!」
いや、入学試験に乱入しちゃだめだろ、とそこにいる誰もが突っ込みたくなった。
「えっと、もう1人のキミは、模擬戦には出ていない子だね?名前を教えてくれるかい?」
「あ、はい。キリエ・ウィーリングと言います。私はあまり動けないので付き添いですけど…」
「そうか、キリエ君だね!見学だけでも全然大丈夫だよ!じゃあ、立ち話もなんだから、さっそく決闘しようか!無駄話はいらないよね!筋肉で語り合おうじゃないか!」
「いや、せめて魔力で語り合えよ!」
先輩なのに突っ込んでしまう4人だった。
なるほど確かに『脳筋バーサーカー』だと思う4人なのであった。
「それでは双方よろしいですか?立ち合いは私、フランチェスカが行います。ルールは入学試験と同様です。では、ルビア・スカーレット対マーシャ・アッシュクロフトの決闘をはじめます」
5人はギルドホームの外にある広場に来ていた。マーシャが決闘を行うということで、ギルドホームにいた風紀ギルドの団員や見学に来ていた新入生、通りすがりの生徒などで、すでに広場の周りには人だかりができていた。
「まずはSランクのルビア君だね!実に楽しみだよ!」
「お手柔らかにお願いします…」
「それでは、はじめっ!」
開始の合図と同時にルビアは距離を取り、相手の動向を伺いながら詠唱を開始する。
だが、ルビアの詠唱文は今までとは大きく異なっていた。
大丈夫、何回も練習したし、もうそれこそ何百回と唱えてきた魔法だ。自分にならできる。
ルビアは頭の中で魔力のお菓子と、魔法の完成形を強くイメージする。
"oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)
IM-mortAL fiRE BirD, PHOE-NIX.
(不死なる火鳥フェニックスよ)
pLEAse L-END Me UR “POWER”."
(我に汝の『力』を貸し与えたまえ)
炎の翼、フレアウィング。入学試験でも使った魔法である。
ルビアが小さい頃から幾度となく唱えてきた魔法だ。
しかしその詠唱文は一般的な6節ではなく、わずか3節。
詠唱は5秒足らずで完了する。
ルーシッドが飛行魔法の時に教えてくれた方法で詠唱を短縮することに成功したのだ。
そして、その詠唱文自体も今までのものとはほんの少しだけ異なっていた。
そして、詠唱によって発動した魔法も、今までのものとは少し、いや大きく異なっていた。
それは炎の翼と呼ぶにはあまりにも異質なものだった。
翼は背中からではなく両手から生えていた。
厳密には両手に持った何かから生えていた。
しかもそれは飛ぶにはあまりに小さい翼だった。
「おいおい!そんな小さな翼でどうしようっていうんだい?」
造形魔法の真髄はイメージ力とそれを実現するための式構築…
フレアウィングは飛ぶための魔法ではなく、炎によって揚力と推進力を得る魔法。
そして、ルーシィから教えてもらったフレアウィングの新しい推進力。
その推進力を自分が飛ぶためじゃなく、火の弾を飛ばすために使えば!
“LORD: FIRE BULLET”(火炎弾、装填)
追加詠唱によって炎の翼に追加効果がもたらされる。
ルビアは右手の炎の翼にある引き金を人差し指で引いた。
すると、ルビアの手にあるそれが勢いよく渦を巻いて燃え上がる。
瞬間的にその部分の酸素が消費され、周囲から一気に酸素が入り込むことによって気流が発生する。人工的な火災旋風である。
この火災旋風によって得られる気流こそが、ルーシッドがルビアに教えた、炎の翼の新たな推進力であった。
しかしルビアは考えた。推進力が得られるのは、空気を放出することによって、その反対向きの力が得られるからだと。そう、反作用である。ならば、この空気の放出そのものを利用し逆噴射してやれば、自分ではなく物体を飛ばすことができるのではないかと。
炎の翼の推進力を利用して生み出された気流によって火の弾丸がマーシャめがけて高速で放たれる。しかも火災旋風の副産物として、弾丸に旋回運動が加わり、そのジャイロ効果によって弾軸が安定し、ルビアが放った火炎弾は真っすぐに飛んで行った。
「なっ…!?」
自分の左の頬をかすめるようにして火の弾丸が飛んでいく。目で追いきれなかった高速の飛行物体が通った跡を、ちらりと横目で見て絶句するマーシャ。
しかし考えている暇はない。
炎の翼はもともと操作魔法である。
終了条件を提示しない詠唱によって発動した魔法は、魔法使いの魔力が切れるまでその効果は持続する。
だが、人間を飛ばせるためではなく、単純に物体を飛ばすことだけに魔力を使うことで圧倒的に魔力消費量が抑えられたこの魔法に関して言えば、ルビアの魔力量からして、相当長い時間使い続けることができるだろう。
ルビアはすぐに次の火炎弾を装填し引き金を引く。マーシャは今度は右に走り出した。
体を動かして狙いを定めにくくしようと考えたのだ。
しかし、ルビアのその武器は右手だけではない。そう、それは両翼のように両方の手にあるのだ。今度はルビアはその左手の翼で火炎弾を撃つ。
自分の進行方向にも弾が飛んでくるのを見て、地面を転がってかわすマーシャ。
「あはははは!なんだい!?その武器は!見たことないよ!」
自分に次々と襲い掛かってくる弾を避けながら、楽しそうに言うマーシャ。
ルビア、すごいよ。
ルビアは私が教えた『推進力』という力は何か、その原理を理解して、それを自分が飛ぶことではなく、物を飛ばすことに利用した。
原理は炎の翼と同じでも、これは全く別の魔法。
ルビアは自分の手で新しい魔法を作り出したんだよ。
そう、ルビアが作り出した魔法は、火災旋風によって得られる推進力によって、高速で火炎弾を打ち出すという全く新しい攻撃魔法だった。
「すごい魔法だね!じゃあこっちも行くよ!
INTEGRATION = WIND!(『風装』!)」
マーシャの目が異彩を放つ。そして周りには風が吹いていないのに、服が風でなびく。
「『完全魔装』を学生で使いこなすとは…しかも、あれは『魔眼』…?」
さすがに実力者揃いの風紀ギルドのギルド長だけはあると、ルーシッドは思った。
『魔装』とは『魔法と自分の体を一体であると認識する』魔法の総称である。
『終了条件を提示しない詠唱』による魔法を使用した本人は、その魔法を解除するまで、自らがその魔法による悪影響を受けることはない。それは、自分の使役している妖精の力が及ぶ対象や範囲を自由に限定できるからである。自らが使っている火の魔法によって、自分がやけどしてしまうということはないのである。
もちろんこれは『終了条件を提示しない詠唱』による魔法だけである。自分の魔法によって生み出した魔法でも、自分の制御下を離れてしまえばただの自然現象である。自分が使っている魔法の火と、その魔法によって起きた火事の火は別問題である。
また、当然これは自分の魔法に関してだけ言えることである。火属性魔法を使えるからと言って、相手の火属性魔法をくらっても無傷で済むということではない。同じ火属性魔法で相殺することはできても、そのまま生身で食らえば当然火傷はする。
この自分の魔法に対する適応性を利用しているのが『魔装』である。
炎の翼もこの魔装に当たる魔法だ。炎の翼は火の翼と自分の体を同化させて、翼も自分の体の一部として認識しているのである。それゆえに、翼を動かすということを頭で考えるだけで翼を動かすことができるのである。炎の翼のような魔法は『部分魔装』と呼ばれる。
それに対して『完全魔装』とは、体全てをその魔法と一体化させることであり、その魔法が持つ特性がそのまま自分の体の特性となる。
炎の翼のように、別のものを自分の体の一部と認識するのではなく、自分の体そのものを魔法と一体化させるので、魔法を使うということを考える必要はほとんどない。事実上、体をこういう風に動かしたい、と思えばそのまま魔法の効果が体に発揮されるのである。
ルビアが使用する影の魔法『シャドウドレス』もこの完全魔装から派生した亜種魔法である。自分の体に影をまとう、つまり自分の体と影を一体化することで、体に攻撃しているはずなのに、地面に映る影に攻撃したことになり、攻撃を当たらなくするのである。
しかし、魔装には弱点もある。それは属性の弱点もそのまま自らの弱点となってしまうことである。シャドウドレスの場合も、通常の攻撃には絶対的な強さを誇るが、自分の影を作り出している光(つまり自分の魔法)よりも強い力を持つ光(魔法)によって攻撃されると、影は相手の光によって地面に映る、つまり相手の光に影が支配されることになり、魔装がはがされてしまうという弱点がある。
『完全魔装』は身体強化魔法の中では、最強レベルの魔法であるが、使い手はそう多くはない。その理由は魔法の制御の難しさもさることながら、一番の問題は体への負担である。魔装は魔法と一体化するものであって、そのものになることではない。結局動かしているのは自分の体なのである。
例えば、マーシャが使っている『風装』は、風と一体化することで、自らの行動速度を何倍も引き上げることができる魔装だが、通常よりも速く動けるとは、通常よりも体に負荷がかかるということである。普通の人が無理して使用すれば、骨折や筋肉痛、肉離れなどを起こしてしまう可能性もある。マーシャがこれを使いこなしているのは、魔法の修行もさることながら、一重に体の訓練の賜物と言える。さすがに脳筋バーサーカーは伊達ではない。
それに加えてマーシャは『魔眼』も保持していた。マーシャの魔眼は『複製の魔眼』。この魔眼は、一つの魔法詠唱文に限りその魔眼に記憶することができるという能力であり、身体強化系魔法『完全魔装』をメインに使用するマーシャにとっては、うってつけの魔眼であった。
「逃げ回ってるだけじゃ勝てないからね!攻撃あるのみ!」
マーシャは多少の被弾は覚悟のうえで、ルビアに向けて走り出す。
「は、速いっ!」
観客が声を上げる。文字通り風の速さで一瞬にしてルビアに肉薄する。
それを見てルーシッドはにやりと笑う。
「ダメだよ。安易にルビアに近づいちゃ。ルビアの遠距離魔法はあくまでけん制。それに気を取られて、ルビアの最も警戒すべき魔法を忘れちゃ」
目の前にいたはずのルビアが一瞬にして姿を消す。
「なっ!?」
その瞬間、マーシャの足は一瞬地面に張り付いたかのように動かなくなり、そのまま前のめりに倒れこむ。
それと同時にマーシャの背後の影から現れたルビアは漆黒の魔剣『カルンウェナン』をマーシャの喉元に振り下ろした。
「こっ、降参だ!」
そう、ルビアにとって最も恐れるは火の魔法ではなく『影の魔法』。漆黒の魔剣『カルンウェナン』と短縮詠唱を組み合わせた最速の暗殺魔法だ。
他の魔法に気を取られて効果範囲内に入ろうものなら、一瞬で餌食になる。
離れるのは危険、近づくのはもっと危険、ルビアを前にして安全地帯などありはしない。
ルビア・スカーレットとはそういう魔法使いである。
「勝者!ルビア・スカーレット!」
おぉ!っと歓声が上がる。
「いやぁ!参ったね!さすがに強い!付け入るスキが無いよ!」
マーシャは負けたのにとても楽しそうに笑う。
「ルビィ、すごい!何あの魔法!?」
「ルビィは本当に強いね、かっこよかったよ~」
戻ってきたルビアをフェリカとキリエが出迎える。
「ありがとう、ルーシィのお陰よ。ルーシィの飛行魔法を見ていて思いついたのよ」
「飛行魔法から発想を得て、あの魔法を思いつくのがすごいよ。あれはもはや炎の翼じゃない別の魔法だよ。あの速度と精度で火属性の攻撃を放てる魔法は今までに存在しなかったよ。この魔法はルビィを代表する魔法になる。今のうちに『魔法名』を付けておくといいよ」
「そうね…じゃあ、ルーシィ、あなたが決めてちょうだい?あなたに付けて欲しいわ」
「えぇ…新魔法の命名なんて大役だなぁ。うーん…じゃあ……両翼の射手…とか?」
「いいわね、まぁ詠唱することはないけど、次からはそれでイメージするようにするわ」
「では、次の試合を始めます。次は…フェリカ・シャルトリュー、前へ!」
「わ、私かぁ…」
フェリカはため息をつく。
『おい、フェリカ』
マリーが呼びかける。
「どうしたの?マリー?」
『お前の体、ちょっと貸せ』
「え、そんなことできるの?」
『造作もないわ。お前まだ私の力の使い方もよくわかっとらんじゃろ?
見せてやる、ヴァンパイアの戦い方ってやつをな。今回は黙って見とけ』
マーシャは非常に気さくな人で、4人がギルドホームのギルド長室に案内されると、にこにこしながら4人に近寄ってきて握手をした。マーシャは黒髪のショートで、言われなければ男と勘違いしてしまいそうなほどに美人であった。かなり鍛えているのか筋肉質ではあるが、身長もかなりあるようで、立ち姿もかっこよかった。4人は前評判が悪かったこともあり、ちょっと声が大きいかな?と思うくらいで、第一印象が予想外に良かったために、少し拍子抜けしてしまったのだった。
「ルビア君にルーシッド君にフェリカ君だったね!今年の本戦は大いに盛り上がったね!特に、ルビア君とルーシッド君の決勝戦は大興奮だったね!私も興奮のあまり乱入しようかと思ったよ!ははは!」
いや、入学試験に乱入しちゃだめだろ、とそこにいる誰もが突っ込みたくなった。
「えっと、もう1人のキミは、模擬戦には出ていない子だね?名前を教えてくれるかい?」
「あ、はい。キリエ・ウィーリングと言います。私はあまり動けないので付き添いですけど…」
「そうか、キリエ君だね!見学だけでも全然大丈夫だよ!じゃあ、立ち話もなんだから、さっそく決闘しようか!無駄話はいらないよね!筋肉で語り合おうじゃないか!」
「いや、せめて魔力で語り合えよ!」
先輩なのに突っ込んでしまう4人だった。
なるほど確かに『脳筋バーサーカー』だと思う4人なのであった。
「それでは双方よろしいですか?立ち合いは私、フランチェスカが行います。ルールは入学試験と同様です。では、ルビア・スカーレット対マーシャ・アッシュクロフトの決闘をはじめます」
5人はギルドホームの外にある広場に来ていた。マーシャが決闘を行うということで、ギルドホームにいた風紀ギルドの団員や見学に来ていた新入生、通りすがりの生徒などで、すでに広場の周りには人だかりができていた。
「まずはSランクのルビア君だね!実に楽しみだよ!」
「お手柔らかにお願いします…」
「それでは、はじめっ!」
開始の合図と同時にルビアは距離を取り、相手の動向を伺いながら詠唱を開始する。
だが、ルビアの詠唱文は今までとは大きく異なっていた。
大丈夫、何回も練習したし、もうそれこそ何百回と唱えてきた魔法だ。自分にならできる。
ルビアは頭の中で魔力のお菓子と、魔法の完成形を強くイメージする。
"oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)
IM-mortAL fiRE BirD, PHOE-NIX.
(不死なる火鳥フェニックスよ)
pLEAse L-END Me UR “POWER”."
(我に汝の『力』を貸し与えたまえ)
炎の翼、フレアウィング。入学試験でも使った魔法である。
ルビアが小さい頃から幾度となく唱えてきた魔法だ。
しかしその詠唱文は一般的な6節ではなく、わずか3節。
詠唱は5秒足らずで完了する。
ルーシッドが飛行魔法の時に教えてくれた方法で詠唱を短縮することに成功したのだ。
そして、その詠唱文自体も今までのものとはほんの少しだけ異なっていた。
そして、詠唱によって発動した魔法も、今までのものとは少し、いや大きく異なっていた。
それは炎の翼と呼ぶにはあまりにも異質なものだった。
翼は背中からではなく両手から生えていた。
厳密には両手に持った何かから生えていた。
しかもそれは飛ぶにはあまりに小さい翼だった。
「おいおい!そんな小さな翼でどうしようっていうんだい?」
造形魔法の真髄はイメージ力とそれを実現するための式構築…
フレアウィングは飛ぶための魔法ではなく、炎によって揚力と推進力を得る魔法。
そして、ルーシィから教えてもらったフレアウィングの新しい推進力。
その推進力を自分が飛ぶためじゃなく、火の弾を飛ばすために使えば!
“LORD: FIRE BULLET”(火炎弾、装填)
追加詠唱によって炎の翼に追加効果がもたらされる。
ルビアは右手の炎の翼にある引き金を人差し指で引いた。
すると、ルビアの手にあるそれが勢いよく渦を巻いて燃え上がる。
瞬間的にその部分の酸素が消費され、周囲から一気に酸素が入り込むことによって気流が発生する。人工的な火災旋風である。
この火災旋風によって得られる気流こそが、ルーシッドがルビアに教えた、炎の翼の新たな推進力であった。
しかしルビアは考えた。推進力が得られるのは、空気を放出することによって、その反対向きの力が得られるからだと。そう、反作用である。ならば、この空気の放出そのものを利用し逆噴射してやれば、自分ではなく物体を飛ばすことができるのではないかと。
炎の翼の推進力を利用して生み出された気流によって火の弾丸がマーシャめがけて高速で放たれる。しかも火災旋風の副産物として、弾丸に旋回運動が加わり、そのジャイロ効果によって弾軸が安定し、ルビアが放った火炎弾は真っすぐに飛んで行った。
「なっ…!?」
自分の左の頬をかすめるようにして火の弾丸が飛んでいく。目で追いきれなかった高速の飛行物体が通った跡を、ちらりと横目で見て絶句するマーシャ。
しかし考えている暇はない。
炎の翼はもともと操作魔法である。
終了条件を提示しない詠唱によって発動した魔法は、魔法使いの魔力が切れるまでその効果は持続する。
だが、人間を飛ばせるためではなく、単純に物体を飛ばすことだけに魔力を使うことで圧倒的に魔力消費量が抑えられたこの魔法に関して言えば、ルビアの魔力量からして、相当長い時間使い続けることができるだろう。
ルビアはすぐに次の火炎弾を装填し引き金を引く。マーシャは今度は右に走り出した。
体を動かして狙いを定めにくくしようと考えたのだ。
しかし、ルビアのその武器は右手だけではない。そう、それは両翼のように両方の手にあるのだ。今度はルビアはその左手の翼で火炎弾を撃つ。
自分の進行方向にも弾が飛んでくるのを見て、地面を転がってかわすマーシャ。
「あはははは!なんだい!?その武器は!見たことないよ!」
自分に次々と襲い掛かってくる弾を避けながら、楽しそうに言うマーシャ。
ルビア、すごいよ。
ルビアは私が教えた『推進力』という力は何か、その原理を理解して、それを自分が飛ぶことではなく、物を飛ばすことに利用した。
原理は炎の翼と同じでも、これは全く別の魔法。
ルビアは自分の手で新しい魔法を作り出したんだよ。
そう、ルビアが作り出した魔法は、火災旋風によって得られる推進力によって、高速で火炎弾を打ち出すという全く新しい攻撃魔法だった。
「すごい魔法だね!じゃあこっちも行くよ!
INTEGRATION = WIND!(『風装』!)」
マーシャの目が異彩を放つ。そして周りには風が吹いていないのに、服が風でなびく。
「『完全魔装』を学生で使いこなすとは…しかも、あれは『魔眼』…?」
さすがに実力者揃いの風紀ギルドのギルド長だけはあると、ルーシッドは思った。
『魔装』とは『魔法と自分の体を一体であると認識する』魔法の総称である。
『終了条件を提示しない詠唱』による魔法を使用した本人は、その魔法を解除するまで、自らがその魔法による悪影響を受けることはない。それは、自分の使役している妖精の力が及ぶ対象や範囲を自由に限定できるからである。自らが使っている火の魔法によって、自分がやけどしてしまうということはないのである。
もちろんこれは『終了条件を提示しない詠唱』による魔法だけである。自分の魔法によって生み出した魔法でも、自分の制御下を離れてしまえばただの自然現象である。自分が使っている魔法の火と、その魔法によって起きた火事の火は別問題である。
また、当然これは自分の魔法に関してだけ言えることである。火属性魔法を使えるからと言って、相手の火属性魔法をくらっても無傷で済むということではない。同じ火属性魔法で相殺することはできても、そのまま生身で食らえば当然火傷はする。
この自分の魔法に対する適応性を利用しているのが『魔装』である。
炎の翼もこの魔装に当たる魔法だ。炎の翼は火の翼と自分の体を同化させて、翼も自分の体の一部として認識しているのである。それゆえに、翼を動かすということを頭で考えるだけで翼を動かすことができるのである。炎の翼のような魔法は『部分魔装』と呼ばれる。
それに対して『完全魔装』とは、体全てをその魔法と一体化させることであり、その魔法が持つ特性がそのまま自分の体の特性となる。
炎の翼のように、別のものを自分の体の一部と認識するのではなく、自分の体そのものを魔法と一体化させるので、魔法を使うということを考える必要はほとんどない。事実上、体をこういう風に動かしたい、と思えばそのまま魔法の効果が体に発揮されるのである。
ルビアが使用する影の魔法『シャドウドレス』もこの完全魔装から派生した亜種魔法である。自分の体に影をまとう、つまり自分の体と影を一体化することで、体に攻撃しているはずなのに、地面に映る影に攻撃したことになり、攻撃を当たらなくするのである。
しかし、魔装には弱点もある。それは属性の弱点もそのまま自らの弱点となってしまうことである。シャドウドレスの場合も、通常の攻撃には絶対的な強さを誇るが、自分の影を作り出している光(つまり自分の魔法)よりも強い力を持つ光(魔法)によって攻撃されると、影は相手の光によって地面に映る、つまり相手の光に影が支配されることになり、魔装がはがされてしまうという弱点がある。
『完全魔装』は身体強化魔法の中では、最強レベルの魔法であるが、使い手はそう多くはない。その理由は魔法の制御の難しさもさることながら、一番の問題は体への負担である。魔装は魔法と一体化するものであって、そのものになることではない。結局動かしているのは自分の体なのである。
例えば、マーシャが使っている『風装』は、風と一体化することで、自らの行動速度を何倍も引き上げることができる魔装だが、通常よりも速く動けるとは、通常よりも体に負荷がかかるということである。普通の人が無理して使用すれば、骨折や筋肉痛、肉離れなどを起こしてしまう可能性もある。マーシャがこれを使いこなしているのは、魔法の修行もさることながら、一重に体の訓練の賜物と言える。さすがに脳筋バーサーカーは伊達ではない。
それに加えてマーシャは『魔眼』も保持していた。マーシャの魔眼は『複製の魔眼』。この魔眼は、一つの魔法詠唱文に限りその魔眼に記憶することができるという能力であり、身体強化系魔法『完全魔装』をメインに使用するマーシャにとっては、うってつけの魔眼であった。
「逃げ回ってるだけじゃ勝てないからね!攻撃あるのみ!」
マーシャは多少の被弾は覚悟のうえで、ルビアに向けて走り出す。
「は、速いっ!」
観客が声を上げる。文字通り風の速さで一瞬にしてルビアに肉薄する。
それを見てルーシッドはにやりと笑う。
「ダメだよ。安易にルビアに近づいちゃ。ルビアの遠距離魔法はあくまでけん制。それに気を取られて、ルビアの最も警戒すべき魔法を忘れちゃ」
目の前にいたはずのルビアが一瞬にして姿を消す。
「なっ!?」
その瞬間、マーシャの足は一瞬地面に張り付いたかのように動かなくなり、そのまま前のめりに倒れこむ。
それと同時にマーシャの背後の影から現れたルビアは漆黒の魔剣『カルンウェナン』をマーシャの喉元に振り下ろした。
「こっ、降参だ!」
そう、ルビアにとって最も恐れるは火の魔法ではなく『影の魔法』。漆黒の魔剣『カルンウェナン』と短縮詠唱を組み合わせた最速の暗殺魔法だ。
他の魔法に気を取られて効果範囲内に入ろうものなら、一瞬で餌食になる。
離れるのは危険、近づくのはもっと危険、ルビアを前にして安全地帯などありはしない。
ルビア・スカーレットとはそういう魔法使いである。
「勝者!ルビア・スカーレット!」
おぉ!っと歓声が上がる。
「いやぁ!参ったね!さすがに強い!付け入るスキが無いよ!」
マーシャは負けたのにとても楽しそうに笑う。
「ルビィ、すごい!何あの魔法!?」
「ルビィは本当に強いね、かっこよかったよ~」
戻ってきたルビアをフェリカとキリエが出迎える。
「ありがとう、ルーシィのお陰よ。ルーシィの飛行魔法を見ていて思いついたのよ」
「飛行魔法から発想を得て、あの魔法を思いつくのがすごいよ。あれはもはや炎の翼じゃない別の魔法だよ。あの速度と精度で火属性の攻撃を放てる魔法は今までに存在しなかったよ。この魔法はルビィを代表する魔法になる。今のうちに『魔法名』を付けておくといいよ」
「そうね…じゃあ、ルーシィ、あなたが決めてちょうだい?あなたに付けて欲しいわ」
「えぇ…新魔法の命名なんて大役だなぁ。うーん…じゃあ……両翼の射手…とか?」
「いいわね、まぁ詠唱することはないけど、次からはそれでイメージするようにするわ」
「では、次の試合を始めます。次は…フェリカ・シャルトリュー、前へ!」
「わ、私かぁ…」
フェリカはため息をつく。
『おい、フェリカ』
マリーが呼びかける。
「どうしたの?マリー?」
『お前の体、ちょっと貸せ』
「え、そんなことできるの?」
『造作もないわ。お前まだ私の力の使い方もよくわかっとらんじゃろ?
見せてやる、ヴァンパイアの戦い方ってやつをな。今回は黙って見とけ』
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その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
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