俺とオタクの無人島サバイバル

とりもっち

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遭難5日目

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翌朝遅くに意識を取り戻す。
下半身のとある一箇所を除けば、身体は調子が戻っていたが、対照的に気分は最悪だった。
座り込んだまましばらくぼーっとするだけ。
次第にはっきりと目が覚めるにつれて昨日の悪夢がよみがえり、ぶるっと肌が粟立つ。
ぼんやりと眺めた視界の先、切った竹をロープで括り付けている姿が見えた途端、カッと頭に血が上るのが分かった。
考えるよりも先に身体が動く。
足音荒く歩み寄る俺に気付いた藤井が顔を上げ、戸惑いを浮かべた表情で取り繕うようにへらっと笑う、

「あ、その、おは、――っ!」

その横っ面を手加減無しで思いきり殴り付けた。
へぶっとか変な声を上げてぶっ倒れる顔面に、もう一発食らわせようと拳を振り上げ、すんでのところで止める。
強姦魔とは言え、命の恩人でもあるし、ここまで無事にやって来れたのも、こいつのお陰でもあるのだ。
最初は不安もあったが、それなりにうまくやれたし、この非日常が楽しくもあった。
それが、ここに来て――裏切られたような、寂しいような、悲しいような、そんな気分だ。

「…………何で」

自然と顔が歪む。
思わず涙が零れそうになるのを必死に我慢しながら、声を振り絞った。
殴られた衝撃で垂れ出た鼻血を拭うこともせず、俺を見上げる藤井の顔に動揺が浮かぶ。
突如がばっと起き上がり、足元に額を擦り付けて土下座をしてきたかと思うと、

「ずっと……好きでした!」

叫ぶように言葉を吐き出す。
思いも寄らない告白に反応出来ない。
目の前で土下座されるのなんて、俺の人生初だな、なんて頭の片隅で冷静な自分が突っ込んで。

「っ、え、ぇ……っと」

いつから、とか、何故、とか、聞きたい事は浮かぶが混乱して纏まらない。
そのまま泣き出すように「ごめん」と繰り返しながら、ぼそぼそと藤井が言葉を続ける。

どうやら俺達は高校入学以前に会ったことがあると言うのだ。
コミケだとか言うなんかオタクの祭典に行った帰り、最寄り駅の階段でうっかり足を滑らせ転がり落ちそうになった藤井を、たまたま後ろにいた俺が支えて助けたらしい。
おまけに勢いでぶちまけてしまった戦利品ってやつを、一緒に拾ってくれて嬉しかったそうだ。
駅のホームに散らばったオタク要素満載の本やらグッズやらを見て、通りすがりの女子とかが引いたり笑ったりする中、馬鹿にすることなく助けてくれたと。
うん、そう言われればそんな事もあったような気が。
ぼやーっと不明瞭な記憶の中に、さらにぼやーっと浮かぶ眼鏡姿を思い起こしながら、あぁ、と軽く頭を縦に振る。

で、高校に入学してみれば、その時の恩人がいて、もうこれは運命だと思ったらしい。
いや、地元が同じならばそこまで奇跡でもなんでもないような気もするが。
ともかく、こいつはずっと俺に片思いしていたと言う事になる。
さらに二年になって同じクラスとなり、お近付きになれるチャンスを虎視眈々と狙っていたが、声一つも掛けられないまま夏休みへ突入。
そして合宿初日のあの日、俺がフラフラとしながら外に出ていく様子が気になり後をついて出た結果、こうしてこうなったと。
でもって、俺と二人きりのランデブー状態に耐え切れず、想いが暴走した挙句が、昨晩の出来事と言うわけだ。
そうか……それじゃあ仕方ないな……。

「って、んなワケあるかっ!」
「ひぃっ!」

迂闊にも納得しそうになって、断固拒否する。
突然の俺の怒号に、悲鳴を上げて縮こまる藤井と。
はぁーっと大きく息を吐いて脱力する。
分かってしまえば、たまに感じたちょっとした違和感にも納得がいった。
いまだ怒りは収まらないが、ここで仲違いをするわけにもいかないだろう。
髪をぐしゃぐしゃと掻き回しながら、喉の奥で小さく唸る。
あれこれと考えるのは性に合わないし、いい加減気持ちを切り替えたい。

「あー、……もういい、終わり!」

好きだとかそんなのも全部ひとまずは置いといて、本来の作業へと戻ることにする。
俺の体調不良によって一日伸びてしまった分を取り返すべく、何をすればいいのかと声を掛ければ、おでこに砂をつけたまま顔を上げた藤井は、泣き笑いの表情で口を開いたのだった。



「よっし、……出来た!」

なんとか陽が沈む前に即席のイカダを完成させる。
切った竹を並べてロープで結び付けただけだが、十分浮力はありそうだ。
一本立てた竹にタオルを巻き付けて旗の代わりにする。
それなりに様になった姿を満足気に見詰める俺に、

「僕達のゴーイングメリー号だね」
「……ワンピースかよ」

言いながら片手を上げてポーズを決める藤井。
これ以上突っ込むのは面倒臭いので無視して火の傍へと戻る。
オタクの相手をしている場合ではないのには理由がある。
そう、パチパチと燃える焚火の中、いい感じに脂を垂らしながら焼けているのは何を隠そう、獲ったばかりの川魚なのだ!
余った竹で返しを付けて作った罠で魚が獲れるという、まさに奇跡。
まぁ、その奇跡を起こしたのは藤井なんだが、こいつが俺にした事を思えば、食べる権利は俺にあって然るべきだろう。
おまけで獲れたもう一匹の小魚はくれてやるんだから十分だ。

サバイバル生活最後の晩餐に相応しい食事を終えて、笹の葉を敷いたイカダに寝転がる。
隣に並んで寝ている藤井を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、イカダのほとんどを作ったのがこいつなので、不本意ながらも我慢している状態だ。
端っこギリギリまで身体を寄せて、精一杯の距離を取る。
相変わらずの星空を眺めていると、

「あの、さ、……一生のお願いがあるんだけど」
「…………何?」

どうせろくでもない内容なのがもう分かり切っていたが、一応返事をしてやる。
上半身を起こした藤井がずいと顔を近付けてきたかと思うと、反射的に逃げ腰になった俺に向け、ぱん、と両手を合わせてから一言。

「もう一度エッチさせて下さい!」

はい、だと思った。
予想通りの戯言にげんなりと肩を竦める。
拝もうがどうしようが俺は神仏じゃねーし、あんなのは二度とごめんだ。

「……寝言は死んでから言えよ」

吐き捨ててから背中を向ける。
忘れたい一心で拒絶オーラを放つが、どうやらこいつには効果が無かったらしい。
諦めきれず立ち上がった藤井が、おもむろにパンツをずり下げてきたかと思うと、躊躇することなく口の中へ俺のモノを咥え込んだのだ。

「っ、ちょ、てめ、」

唾液を絡めながら上下に扱きつつ、舌先で敏感な先端を抉る。
男だからこそ分かるのか、弱い所を責められて敢え無く反応してしまった。
くそ、なんでこんなにうまいんだ。
声を噛み殺して睨み付けると、上目遣いでにやりと笑う。

「はっ、エロゲーでさ、イメトレ……したから、ね」

裏筋にそって舌を這わせながら、自慢にもならない事を自慢気にほざく。
熱の籠った鼻息すら刺激になって。
これは、ヤバイ。本気でイきそうだ。
まさか初フェラが男相手で、それでイってしまうとか――屈辱じゃないか。
理性を総動員させて逃れようと思うが、沸き上がる快楽に思考が纏まらない。

「う、や、――っ!」

背筋がぞくりと打ち震える。
思わず咥え込んでいる頭を押さえ付けていた。
刺激が突き抜けると同時、そのまま口の中に精を吐き出す。
いきなり出された藤井がごほごほとむせ返りながら顔を向け、

「……いい、よね?」

興奮に頬を紅潮させて、息を吐くように呟く。
白濁を手の平に吐き出してから、確認するように小首を傾げて。
イった直後の余韻で、うまく反応出来ない。
なおもぼーっとする俺にお構いなしで、ぐいと手の中のものを奥に塗り付けると、藤井はそのまま俺の上に覆い被さってきた。
狭い入口をこじ開けるように、じわじわと体重を掛けてくる。
腹の中を埋められていく感覚と。

「ぅ、ん、……はぁっ」

突き上げに喘ぎが漏れる。
こうなってしまえば、あとはもうなし崩しに受け入れるしかなかった。
自分がここまで流されやすい性格だとは知らなかったと、頭の片隅で呆れながら、与えられる快楽に声を上げる。
勢いだけで攻め立てられていた昨日とは違い、ゆっくりと奥を抉るような動きが気持ち良い。
相手がオタクである事だけが誠に遺憾だが。
半ばやぶれかぶれの気分で目を閉じる。
有り得ない行為を甘んじて受けているのも、きっと現実から離れたこの非日常にあてられているのだ。
起きてしまえばすぐに忘れてしまう夢のように、日本に戻り、またいつもの学校生活が始まればすぐに薄らいでしまうのだろう。
何でも無かったと。
――果たして戻れるのだろうか。

「あっ、そこ、……やめ、」

敏感な箇所を当てられ、思考が散り散りになる。
突き抜ける射精感に耐え切れず、思わず目の前の身体へとしがみ付いた。
俺の反応に的を射たとばかりの藤井が、執拗にそこばかりを責めて。

「ね、……名前、呼んでよ」
「っえ? あ、きょ……、恭、平……っ」

頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
訳も分からず、ただ無意識に口を突いて出る言葉を繰り返すだけ。
打ち付ける動きが速さを増す。
切羽詰まった喘ぎは一体どちらのものかも分からない。
ぐいと根元まで押し込まれたものがひくつき、しばらくしてからゆっくりと引き抜かれる。
ぬるりと股の間を濡らす生温い感触と。
虚脱感に身動き出来ないまま、覚束ない意識で視線を上げてふと。

「……っく、うぅ……」
「な、何? 泣くほど……?」

不意に、はぁっと息を吐いた藤井が急に嗚咽を漏らし出して思わず動揺する。
そこまでに良かったのだろうか。
てっきり感極まっての涙かと思った俺に、眼鏡を外してぐいと目を擦ってから、

「や、違くて……」

緩慢に首を振り藤井が呟いた訳はと言えば。
どうやら俺を助けようと海に落ちた時に、普段使いの眼鏡が流されてしまい、今は予備で持ってきていた眼鏡を掛けているのだが、どうもレンズの度があまり合ってなかったらしい。
そのせいでせっかく俺とエッチ出来たのにも関わらず、ヤってる時の表情がはっきりと見えなかったのがショックだったそうだ。
……はい、クソどーでも良かった。
うんざりと見上げる俺の頭上で、目に涙を溜めながら悔しそうにする藤井。
そのおかっぱ頭目掛けて手刀を繰り出す。

「いっ、たぁー!」
「うるせー!」

あまりのアホらしさに、付き合っていられるかと起き上がる。
汗やらなんやらで汚れた身体を洗おうと、そのまま川へと向かって歩き出せば、すかさず追い掛けて来た藤井と、結局並んで水の中へと浸かる事になったのだった。



焚火から少し離れれば周囲はあっと言う間に真っ暗になる。
月明かりを反射してゆらゆらと金波銀波に揺れる川面は、まるで天の川にも見えて。
寝そべって夜空を仰ぐ。

「なんか……宇宙を泳いでるみたいだな」
「宇宙空間で二人きりって、『パッセンジャー』だよね」

久々にオタク話を聞いたなと、つい笑いながら、相変わらずの藤井の様子に、対して自分だけが変わってしまったように思えた。
たった数日間のうちに、何かを得たような気もするが、その代わりにいろいろと何かを失ったような、そんな気がする。

「智浩君、僕……ちゃんと責任取るから」
「いや、頼んでねーし」

俺の気も知らず、クソ真面目な声音で藤井が戯けたことをほざく。
しかもさらっと名前で呼んでるし、恋人気取りかっつーの。
あれこれ考えるのも馬鹿らしくなり、深呼吸で気持ちを仕切り直す。
横目でじろりと様子を窺えば、気付かれてしまい、慌てて顔を逸らした。
水の中、川底についている手の上に、そっと重ねられた手が遠慮がちに指先を握って。

「……好きだよ」

夜の静寂に響く告白は、聞こえない振りも出来ずに。
ぎゅっと力をこめる藤井の手を振り払えないまま、物言わず光り輝く月をただ眺めた。
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