俺とオタクの無人島サバイバル

とりもっち

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遭難4日目

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異変に気が付いたのは、明け方だった。
目が覚めると同時に感じる違和感。
ぐるぐると音を奏でるお腹と、込み上げる吐き気に襲われるまま。
自分の身に何が起こったのかなんて、分からないはずがない。
思い当たる理由に眉をしかめ、ぼそっと呟く。

「これは……やっちまったな」

ぼんやりと開けた視界に映る白み始めた空と、朝焼けの光。
四日目の朝を迎えた俺は、食あたりになってしまったという現実に打ちのめされることとなった。

原因は分かっている。
昨日の食糧探しで、手当たり次第に口にしてしまったどれかがヤバかったのだ。
しかし今日にはイカダを作って川を下るという目標がある以上、足を引っ張るわけにもいかない。
幸いにもまだ身体を動かすことが出来るレベルなので、藤井にはバレないように誤魔化す事に決めた。

俺の気配に気付いたのか、隣に寝ていた藤井も目を覚ます。
へらっといつもの顔でおはようと口にしてから、いそいそと朝の用足しに小走りで木の陰へと向かうのも見慣れた光景だ。
お腹を庇いつつ、ゆっくりと寝床から起き上がる。
うん、ちょっと頭と腹が痛くて、吐き気がするくらいだから、大丈夫大丈夫。
無理矢理の自己暗示のおかげか、藤井も気付いていない。
早々に水分補給だけを済ますと、太陽が上がって暑くなる前に、俺達は川へと向かって斜面を降りる事にしたのだった。



さほど時間も掛けずに無事川辺へと辿り着く。
竹を焼き切る為の火起こしを頼まれた俺は、揺らめく炎を眺めながら、どうせ時間が経てば治るだろうと高を括っていた己の見通しの甘さを噛み締めていた。
ますます痛みを増す腹に加え、どうやら熱も出てきたようだ。
目の前に燃える炎のせいではなく滲み出る脂汗を拭いながら、うめき声を押し殺す。
もう限界かもしれない。
藤井はと言えば、竹を切るのに使えそうな石斧を作ろうと、河原に転がっている石を片っ端から叩き割っている。

「ふ、……っ」

無理だと、訴えようとしたが声が出ない。
手を振ろうとするも身体が言うことを聞かない。
眼は開いているはずなのに、何も見えなくなる。
これは駄目だ、と思った次には、俺はもう意識を失っていた。



おでこに載せられた冷たい感触に目を覚ます。
反射的に手をやると、水に濡れたタオルがあって、その先に心配そうに覗き込む藤井の顔が見えた。

「……悪ぃ、何かが……あたったわ」
「うん……」

安堵に緩んだ表情は泣き顔とも笑い顔ともつかずに。
いきなりぶっ倒れてしまったのだから、きっと随分と不安にさせてしまったのだろう。
はぁ、と大きく息を吐いて目を閉じる。
まだ熱は引いていない。身体のあちこちが痛い。吐き気も相変わらずだ。
差し出された水のペットボトルに口をつけようとして、下半身を襲う感覚に飛び起きる。
これは、ヤバイ。つーか、漏れる!
いくらなんでも人前でやらかす訳にはいかないと、ぐるぐるを通り越してぎゅるぎゅると音を立てる腹を両腕で抑え、よろめきながらも川へと走る。

最後の力を振り絞って下着ごと脱ぎ捨てると、そのまま川底にしゃがみ込んだ。
間髪入れず解き放たれたものが股の間を通って下流へと流されていく。
いったい何事かと慌てて後を追ってきた藤井は、状況を理解したのだろう。
あっ、と言うような表情を一瞬浮かべてから、途中で足を止めたのだった。



はい、ここでなぞなぞ。
上は大水、下も大水、これなーんだ。
答えは、今の俺、でしたー。

「……なんてな」

うんざりとした口調で呟く。
目の前には、太陽の光を反射して白く輝く川面。
時折跳ねる魚は銀色に光って。
ゆったりと流れる川の景色を眺めながら、全身が水に浸かるようにして寝転がっている。
熱を帯びた身体に、浅瀬の温さがちょうど良い。
あれから下痢が止まらない俺は、こうしてずっと川から出られずにいた。
おまけに吐き気まで酷くなり、上から下からもう大洪水。
出すもの全部出し切ってしまい、胃の中も腹の中も空っぽの状態だ。

藤井はと言えば看病を買って出てくれたが、イカダ作りの手を止めるわけにいかないと俺が断ったので、再び竹を切る作業を再開させていた。
一人で黙々と働く姿を見詰めつつ、己の不甲斐なさに自己嫌悪する。
今出来る事はと言えば、早く元気になる事だけだろう。
取り敢えず寝て回復を図ろうと、平らな草地にシャツだけを羽織って横になる。
熱の籠った地面が、いい感じに冷えた身体に気持ち良い。
熱に浮かされるまま瞼を閉じて、俺はあっと言う間に眠りに落ちていった。



「ぅ……、ん、っ、」

熱が上がったせいか、呼吸が荒くなる。
それどころか、息苦しい。
全身を襲う重い怠さと圧迫感に、身を捩る。
具合が良くなるどころかますます悪くなっているのかと恐怖すら覚えて、はっと瞼を開ければ、

「んむっ――!」

目に映ったのは、視界いっぱいどアップの黒縁眼鏡。
思いも寄らない光景に、思わず叫んだ声は声にならずに。
フリーズした思考が、次の瞬間には目まぐるしくフル回転をして。
やけに息が苦しいのは口を塞がれているから、身動きが出来ないのは身体の上に圧し掛かられているからだと、ようやく理解したところで、どうやら俺は今藤井にキスをされているのだと分かり、再度混乱する。
眼鏡のレンズ越しの瞳と視線が合って、その切羽詰まった様にゾッとした。

「な、に……して」

押し退けようと両腕を伸ばすが、弱った状態では力が入らない。
軽くいなされ、離れるどころか強く押し付けられた唇が、今度は歯列を割って舌を差し入れてくる。
何だよこれ。意味が分からねー。一体何がどうなって。
パニくりながらくぐもった声を上げる俺と対照的に、鼻息だけは荒く無言のままの藤井と。
身体をまさぐる手が股間にまで降りて、ぶるっと鳥肌が立つ。
ちょっと待て待て待て!

「んん――っ!」
「いっ、……た……」

声にならない叫びを上げながら、力任せに頭を振りまくる。
その拍子に噛んでしまったのか、痛みに小さく声を出して藤井が顔を離した。
真上から照り付ける太陽に、逆光で映し出される表情はよく見えないのに、影の中で薄く光を反射させる眼鏡の向こう、じろりと睨み付ける瞳はギラギラと熱を孕んで。

「……青山君が、悪いんだよ」
「……は? え、何ソレ」

駄々っ子のように拗ねた口調と。
ぽそりと呟かれた言葉に、反射的に眉をひそめる。
キレそうになる気持ちを押し殺し、再度問い詰めようと口を開いた矢先、

「だって! どうかなって様子を見に来たら下半身丸出しで寝てるしなんか色っぽい声で喘いでるしこれはもう誘われてるのかなってくらいの感じだしこれ以上我慢出来ないって言うか、十代の性欲舐めんなよって……!」

矢継ぎ早に息もつかず早口で捲し立てられた言い訳に言葉を失う。
いや、パンツ穿かなかったのはあれだが、喘いでないし誘ってないし、そもそも何だよそのキャラは。
あれこれと考えが駆け巡り反応しあぐねる。
飢えた鯉みたいに口をパクパクとするだけ。
得体のしれない恐怖感に襲われ、アホみたいに固まったままの俺に向けて一言、

「ごめん」

藤井が耳元に声を落とした刹那、強烈な異物感が下半身を襲った。
腹を下し過ぎてひりついた内壁を埋める圧迫感と鈍痛。
左右に押し広げられた両脚と、その間に倒れ掛かる身体の重さと。

「ちょ、な、んだよ……ぇ!?」

有り得ない場所に有り得ないモノが入ってるとか、理解が追い付かない。
寧ろ解りたくもない。
ああ、これはきっとただの悪夢だ。熱に浮かされているだけだ。
こんな馬鹿げた事が起こるはずがない。
あまりのショックでそうとしか思えなかった。
どうせ夢ならば気持ち良くさせてくれれば良いのに。
内臓を掻き回されるような嘔吐感に、意識がクラクラと回る。
打ち付けられる腰の動きに合わせて揺れる身体は、自分の身体ではないようで。
他人事のように感じながら虚ろに視線をさまよわせる。

「あ……はっ、」
「っふ、お腹の中……空っぽでちょうど良かったじゃん」

冗談とも本気ともつかない声音が耳に届き、背筋が凍り付く。
ハッと留めた目線の先、レンズに映し出されるのは怯えた俺の顔だった。
夢なんかじゃないのだと。今こうして犯されているのが現実なのだと。
はっきりと思い知らされた途端に、言いようのない恐怖心が沸き上がる。
いつもの口元を緩めて笑うあのへらっとした顔付きなのに、その奥の目は笑っていなくて。
こんなの俺の知っている藤井じゃない。目の前のこれは一体誰なんだ。

「い、やだっ……!」

ジタバタと足を振り回し、力の限り暴れる。
覆い被さる身体を両手で突き飛ばし、這い逃げようと試みて、思った以上に力の入らない己に打ちのめされる。
無駄な足掻きをする俺を笑うように、藤井は乱暴な動きで両手首を掴むと、頭の上で一纏めに押さえ付けてきた。
そのまま腰を深く落とすと、激しく打ち込んでくる。
痛みと。吐き気と。熱と。それ以外の感覚と。全てがない交ぜになって頭がぐちゃぐちゃだ。

「ぅ、はぁっ、……藤井、てめー、後でこ、ろす……」

なけなしのプライドを振り絞り睨み付ける。
遠のく意識の中、切れ切れに言葉を吐いた俺に向けて、どこか悲壮感を漂わせながらも満足そうな表情で、藤井はゆっくりと頷いてみせた。
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