Lost

とりもっち

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Ⅲ. lament

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囚われた日から毎日のように男は青年の元へと訪れては、気紛れにその身体を甚振り弄んだ。
何か口を開けば、はたまた単に男の機嫌が悪いだけでも、容赦なく殴られ、スタンガンを押し付けられ、与えられる暴力に反抗する気力も奪われていく。
奪われていったのはそれだけではない。
乏しく偏った食事と、ただベッドの上で過ごすだけの日々に体力も衰え、仕事のストレスから過食し気になっていた腹回りも、今では骨に触れるくらいに薄くなっている。
時の経過を教えてくれるのは、元々髭が生えない方だったにも関わらず、手触りの変わった顎周りくらいのものだ。
日付感覚を失う中で、壁越しに響いてくる車のエンジン音だけが外との唯一の繋がりだった。
仕事に向かうであろう車の音が聞こえなくなれば、そこから数時間は帰っては来ない。
その間に、何度となく脱走を試みては、ことごとく希望を打ち破られていた。
南京錠を掛けられた鎖も首輪も、到底人の手で引き千切る事は不可能で、おまけにベッドまで金具で固定されて動かす事が出来ない。
鎖の範囲もドアまで行くには短く、手を伸ばせばぎりぎり本棚に届くくらいだ。
壊せそうな道具も、武器になりそうな物も、何も無い。
男の隙をつこうにも、度重なる行為に身体も心も憔悴し切っていた。
有り余る時間の中で、青年を襲う後悔の念。
こんなことになるのなら、あの時自殺など考えなければ良かったと。
このまま男の慰み者として生き長らえ、果ては人知れず死ぬか殺されてしまうかもしれない。
今抱えている恐怖を思えば、まだ元の現実の方がマシだったろう。
もしかしたら、誰かが自分を探してくれているかもしれない。
淡い期待を抱く一方で、忙しさを理由に疎遠になった友人や親を思えば、連絡が取れないからと不安に思ってくれるだろうか、いや、無いだろうと思い知る。
何よりも、男が自分を見ていない事が一番きつかった。
目も合わさず言葉も交わさない。
ただの性欲処理の道具としか扱われていない。
結局、ここまで来て、青年は男の事を何一つ知らなかった。

***

いつものように、仕事から帰ってきた車の音が近くで止まる。
しばらくすれば気怠そうに、のそりと男が部屋へと入ってくる――そんないつもの光景が、その日は違った。
ばんっと大きな音が響き、続いて乱暴に扉が開け放たれる。
入って来るや否や鞄を床に叩き付け、ふうふうと肩で息をする男の様を、青年はベッドの上で蹲ったまま不穏な気持ちでただ見詰めた。
はっきりとはよく聞き取れないが、ぶつぶつと文句を呟いているようだ。
たぶんに仕事で何か嫌な事でもあったのだろう。
そしてその怒りの矛先は自分に向かってくるのだと、悪い予感しかしない。
思った通り、どすどすと足音を立てて男は近付くと、怒気を帯びた勢いのまま頭を掴んで青年を押し倒した。
同時に手を伸ばし、露わになった蕾から覗く輪っかを指に掛けると一息に引き抜く。
「ふっ、ぅああっ……!」
空気が抜けるような音がして、青年の後孔からプラグが引き抜かれた。
あらかじめ解す必要が無いようにと埋め込まれていた道具だ。
誘うようにひくつくそこへと、すかさず男の屹立が突き立てられる。
怒りに任せた激しさで腰を使い出す動きに、青年はただ耐えるしかなかった。
大人二人分の重さに軋むベッドの上、男の激情を全身で受け入れる。
目を閉じて何も考えず、ひたすらに我慢していればいつか終わるのだと。

昂ぶりを吐き出してようやく束の間の落ち着きを見せた男は、床の上にあぐらをかいて煙草を吸い始めた。
眉間に皺が寄っているのを見れば、まだ不機嫌なのは明らかで、あとはただこのまま立ち去ってくれればいいと、大人しく息を潜めて気配を窺うだけ。
ふいと目線を落として、傍らに転がっている物体に気付く。
見慣れた黒いその形は、確かにスタンガンだった。
荷物を投げ落とした際に転がり落ちでもしたのだろうか。
行為を終えて青年に興味を無くした男は、缶ビールを片手に煙草をくゆらせている。
今なら気付かれずに拾う事が出来るかもしれない。
動きを止めて鍵を奪えば、ここから逃げる事が出来るかもしれない。
気付かれる前に視線を逸らしながらも、脳裏には様々な思いが駆け巡っていた。
早鐘を打ち始める心臓が痛い。
汗の滲む手の平を握り締めて。
今しかない――考えるより先に身体が動く。
男が火を揉み消した一瞬、青年は足元のスタンガンを素早く手にすると、そのままの勢いで伸ばした腕を脇腹へと押し付けた。
油断し切っていた表情が驚きに見開かれ、逃げ損ねた身体が後ろへと倒れ込む。
あとは鍵を奪って鎖を解けばいい。
次の動作へと移ろうとして、青年は違和感に手を止めた。
何かがおかしい。
電撃を浴びて動かなくなるはずの男は、愕然とした様子を見せながらも、全く痛みを感じさせない素振りで青年を見上げていた。
「な、……んで」
確かにボタンを押したはずの機械は、火花一つ上げずに沈黙している。
恐らくは電池切れだったのだろう。
しでかしたと悟った青年が青褪めるのと、男の顔が見る間に血の気を帯びていくのは同時だった。
支配していたはずのものが、己に歯向かって来たのだ。
これ以上の屈辱は無い。
男が激昂に雄叫びを上げて、力任せに青年の顔を殴り飛ばす。
ベッドに倒れた上半身へと跨り、両の拳を交互に振り下ろしながら尚も吠える。
鼻血でぐしゃぐしゃになった顔が許しを請う悲痛な声音に気付いて、やっと動きは止まった。
「どいつもこいつも、俺を、……馬鹿にしやがって!」
ましてやお前までもが、とばかりに睨み付ける形相に、ただ哀れに震えるだけの青年と。
痩せた身体を恐怖に戦慄かせる様を見下ろし、自らを落ち着かせるように男は二本目に火を点けた。
煙を深く吐き出してから、腰を落とすと顔を寄せ、苦々し気に口を開く。
「なぁ、お前も……馬鹿にしてんだろ?」
危うさを含んだ低い声と共に、すうっと手が伸びた瞬間、
「いっ、――――!」
下腹部に激痛が走り、青年は絶叫した。
灼ける様な痛みと、何かが燃える焦げ臭さが立ち昇る。
「あ、はっ、やめ……っ」
どうなんだとばかり、ぐりぐりと押し付けられ、絶え絶えに喘ぐ。
鼻につく臭いは、自分が焼けているのだと。
下の毛と肌を焦がして炎が揉み消される。
そのまま燃え殻を床の上に投げ捨てると、次に男は懐からライターを取り出した。
点火した小さな焔が揺らめきながら股間へと近付き、青年が弱々しく声を上げる。
縮み上がった先端にじりじりと触れる熱の篭もった空気。
苦悶に歪む顔は今にも泣き出しそうに。
不意に何かを思い付いたかのように、男がぴくりと眉を上げた。
ライターを戻すと青年の腰に手を掛け、今度は四つ這いになるように促す。
従うよりほかはない。
未だ神経を焼く肌の痛みと残る恐怖が逆らう事を許さないのだ。
また犯されるのだろうと観念の表情で、のろのろと腕をつくと尻を向ける。
青年の横で上着を脱いだ男は、手にしたボトルの中身を右拳全体に垂らすと、満遍なく濡れた指先をやおら目の前の孔へと宛がった。
違和感にぴくりと尻が揺れるより先、躊躇もせずに中へと埋め込ませていく。
すぼめた四本が入口を押し広げながら飲み込まれ、親指の根元で引っ掛かり動きを止めるも、強引に奥へと捻じ込ませる。
「っあ、何、……それ、無理……だっ」
思いもしていなかった行為に、悲鳴にも似た声で青年が喚く。
反射的に逃げようとする動きは、鎖に引き止められて。
「……動くなよ」
背中に落ちる剣呑な声に、びくっと肩が震える。
ローションの助けを借りてずっぽりと埋まった拳を、男は尚も奥へと滑らせていった。
「か、……はっ、」
ひゅっと喉を鳴らし、途切れ途切れに喘ぐだけ。
見開いた目尻から涙が零れ落ちる。
経験した事の無い圧迫感と痛み、それよりも勝るのは身体の内を蹂躙されていると言う恐怖だった。
このまま内臓を握り潰されてしまうのではないかと思う程の。
「なぁ、ケツから腕が生えてんの、ウケるんだけど」
目の前の光景を嘲笑いながら、内壁を擦るように指先を動かす
ガチガチと歯を鳴らしながら耐え忍ぶだけの青年に、男の声は聞こえていない。
「ぅ、……ぁ」
狭い中を蠢く指が一点に触れ、零れた呻きに滲む色を男は見逃さなかった。
これ見よがしにその箇所を責められ、か細い吐息を上げて青年が反応する。
頭をベッドに擦り付けなんとかやり過ごそうとする様をせせら笑うように、ぐいぐいと容赦なく与えられる刺激に支配されるまま。
強制的に昂っていく身体と、ついていけない意識との乖離の果てに。
「は、あ、あ、――っ!」
ずるっと腸壁を抉るようにして腕が抜かれ、同時に青年が達する。
断続的にシーツの上へと飛び散る白濁。
そのまま糸が切れた人形のようにベッドの中に沈み込む。
身動ぎ一つ出来ず、放心状態で横たわる身体と。
その痛々しく拡がった孔からは腸液混じりの液体がただ伝い落ちていた。
程なくして室内の狂気じみた空気が静けさを取り戻す。
面白いものを見たとばかり機嫌を直した男は、自らの荷物を纏めると鼻歌交じりに倉庫を後にしたのだった。
 
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