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Ⅰ. loser
しおりを挟む失敗した――。
一瞬の意識の空白の後、青年の脳裏に浮かんだのはその言葉だった。
強く叩き付けられた衝撃で全身が動かない。
「か、……はっ」
咳込んで、背中に走った激痛に顔を歪める。
満天の星空から降り注ぐ月明かりが照らす中、切り立った崖下に青年は仰向けに倒れ込んでいた。
山頂から吹き降りる寒風が、瞬く間に体温を奪い取っていく。
地面に投げ出された両手足の感覚は無い。
まるで冷たい大地に命を吸い取られていくようだった。
うっすらと開けた視界に映る、そびえ立つ岩場の影。
その下の窪みに生えている大木から伸びた枝こそが、自分の命を救ったのだと。
否――救ってしまったのだと。
事故で落ちたのではない。
青年は、自ら死ぬ気であの崖上から飛び降りたのだった。
仕事も私事も何もかもがうまく行かず、もう全てを終わらせようとしたはずだったのに。
今生の別れを見事にしくじったと言う結果に、恨めし気に顔をしかめ、痛みに細く息を吐く。
どうしたものかと動けないまま。
静寂の中、不意に何者かの足音が微かに聞こえ、視線だけを横に向ける。
近付いてきた気配は青年のすぐ側で立ち止まり、少しの沈黙の後。
「んー……死に損なった感想は?」
どこか揶揄するような軽い声音と。
月光を背にした顔は見えない。
上下の作業着と、体格からして男だろう。
ぼんやりと黒い輪郭を見詰めながら、
「……死ぬほど、痛い……」
朦朧と青年が呟いた言葉に、人影は薄気味悪く肩を震わせ、含み笑いをしてみせた。
それきり意識を失った身体を男が担ぎ上げ、停めていた軽トラックの荷台へと放り込む。
そして麓とは反対の方向へと、真っ暗な山道を慣れた動きで車は走り去っていった。
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