ミシズ探偵譚

ミナセ ヒカリ

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File:4 【Woe school listener《学園の聞き人》】

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進藤「なるほど。本物のリーダーを見つけろと……」

「はい。あそこにいるのは偽物の可能性が高いと」

進藤「だろうね。僕もあんなのが主犯格だとは到底思えないよ。こんな綿密に組まれた計画的犯行。あんな横暴な人物が考えるわけがない」

影山「私もそう思いますねー。あんなのがリーダーなわけないですよ!リーダーはもっと海翔くんみたいに賢い人間ですよ!」

日比谷「なんか偏見が酷いね……」

神代「ん゛ー!ん゛ー!」

 さっき進藤から伝えられたことをみんなに話し、暫しの作戦会議へと入る。ちなみに神代は声が一際デカいので、この場は口を塞いで黙らせている。……塞いでてもうるさいな。

影山「それで、ここにいる人質達から本物を見つけなきゃならないんですか……」

日比谷「えー、こんなにいる中からどうやってー?」

「それを今から考える」

 とは言っても、情報はこれといって無し。指名手配に乗っている顔はあそこにいる男と同じっぽい。だが、あれはあくまで手先であり、リーダーではない。だから、身体的特徴は何も当てになるものがない。

進藤「うーん……何もヒントが無いんじゃ分かりっこないねぇ……」

「一応新藤が前回の事件で解放された人物を洗いざらい調べ尽くしてるらしいですが、データでのやり取りが出来ない以上、あまり有効打にはなりそうにないです」

進藤「だろうね。せめてARCWDが手元に残ってれば話は別だが……。いや、彼女の端末に送ればそこは解決するんじゃないかい?」

「あ、そうか」

日比谷「なになにどういうこと?」

「先生の眼鏡は俺達が使ってるのと同じARCWDが内蔵されてるらしいんだ。外との連絡もそれで摂った。だから、またーー」

 あの空間に入って先生から詳しい情報を聞くことが出来れば、その方法で犯人を探すことも出来る。ただ、これはかなり時間がかかる方法になってしまうだろう。なぜなら、一々あの空間とこっちを行き来して人物全員との特徴を照らし合わせなければならない。とてつもなく不毛な作業となる。その間に犯人側が動かないわけがないから、1発で本物を引き当てるくらいの豪運を見せなくてはならない。

 ーーだが、逆に言えば1発で引き当てさえすれば見つけられるということにもなる。一応頭の片隅にこの案は入れておこう。

坂上「だー!暇だなー!察共さっきのから全然動かねぇじゃねぇかー!」

 突然、偽物の坂上が子供が駄々をこねるように地団駄を踏み、その勢いで先生の眼鏡を足で踏み潰した。

 一瞬先生の指がピクリと震えた。

「……聞かれていた?」

 まさかとは思うが、ついさっきまでの俺達の会話を聞かれていたというのだろうか?だが、俺達は出来る限りの小声で話している。辺りは多少ザワついているはずだし、誰かに聞かれる可能性は低いはず……。

 ーーもしや……いや、まさかな。

(近くに本物の坂上涼がいる……?)

 もし、被害者に扮して逃げるつもりなのであれば、俺達と同じように縄で両手を縛られて、この場に紛れているはずだ。だからこそ、俺達はここにいる人達の中から本物を探そうと考えていた。しかし今、偶然とは思えないタイミングで偽物の坂上涼が先生の眼鏡を破壊した。

 本物は限りなく近くにいる。それも、俺達の会話が聞こえる範囲で。ならば、辺りを見渡せばすぐ近くにーー

「……ダメだ」

 もしかすれば、両手を縛られていない奴がいるのではないかとも考えたが、どこを見ても全員、誰1人として両手を縛られていない奴はいなかった。それどころか、変に落ち着いている人間もいない。落ち着いているのは俺達くらいなものだった。

 やはり偶然なのか?あの男の性格的に、本当にただじっとしてられなくなっただけか?

「そんなはずはない……」

 あれは確かにわざとらしい動きだった。天然でやったような行動じゃない。確実に、俺達の話を聞いて、あの眼鏡が外と連絡が取れる端末だということに気付いたからこそやった行いだ。

進藤「見られているね」

「……はい。見られてます。恐らく、本物から」

影山「え、それ本当ですか……。だとしたらめちゃくちゃ気持ち悪いんですけどその犯人」

日比谷「どっちかって言うと怖いって方じゃないの?」

影山「あー、それですそれ。どこからか監視されてるって、ゾッと来ますよー」

「監視……」

 本当に監視されているというのなら、それを利用して探し出すというのも1つの手だな。

「新藤、作戦のことだが」

『見つかったのか?』

「いやまだだ。だが、全容くらいは知っておこうと思ってな」

『……そこに設置されてある消火栓。その中身を睡眠作用のあるガスに入れ替えた。本来水をばら撒くものだが、ガスでも上手くいくらしい。スイッチ1つで現場はまるで遺体が転がる魔の空間へと入れ替わる。まあ、誰も死んではいないが』

「なるほど」

 考えたものだな。混乱させるだけでなく、一旦犯人グループも含めて全員眠らせようとは。

『私達がガスを使うつもりがないのではと思ったのは、その消火栓には何も手をつけられてなかったからだ。管理室も襲われた形跡はなく、職員がいた。あと、監視カメラを確認出来る管理室も何も無かったな。まあ、そこの映像だけは映らんが』

「ああ。カメラは全部最初のうちに破壊されている」

「……だから計画はいつでも実行出来ると」

『ああ。だが、本物の犯人を見つけなければまた同じことがどこかで起きるだけだ。何としてでも犯人は逃がさないというのが警察としての総意だ』

「……」

 ガスが撒かれれば、俺達も全員この場に横たわることになる。そうなれば、後は全部警察の仕事となるが、果たして前回ガスを使った連中に同じものが通用するのだろうか。

「……」

 いや、被害者のフリをするのであれば、同じようにガスを吸い込んで眠るだろう。捕まえられるのは、精々分かりやすく犯人グループと姿形で表現してる奴らだけだな。

 ーーだが、カマをかけてみればどうなるだろう?もし、本物が分かったと、どこかで聞いているはずの本物に向かって言えばどうなるだろう。

「……新藤。本物を炙り出すための作戦が思いついた」

『本当か?』

「ああ」

 俺はコホンと咳き込み、それからわざとらしく大きな声でこう言う。

「本物の坂上涼を見つけた!遠慮なく睡眠ガスを使ってくれ!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「クソっ!なんであの糞ガキにバレてんだよ!」

 白い煙が充満する空間の中、1人慌てて駆け出す男の姿がある。だがーー

「残念ね。あなた、実はバカでしょ」

 逃げようと走ってきた男の正面に回り、肘で鼻面を潰した後に持っていた拳銃を額に当てて相手を制する。

 ちゃっかり簡易式のガスマスクを隠してただなんてねぇ。やっぱりガスでも撒いて殺すつもりだったのかしら?まあ、今はそれを持って目立つ行動をしてくれたから助かったけど。

坂上「クソっ!なんで、なんであの状況で動けてんだよ!お前、腹撃たれてーー」

「ええ。綺麗な体によく傷を付けてくれたわね。でも、残念ね。大人しく眠ったフリを選べば見つからなかったかもしれないのに」

 こんな綿密に練られた計画を組んだこの男は、確かに賢いのかもしれない。しかし、それと同時にバカでもあった。計画の最終段階で、まさかまさかのカマをかけられてしまい、見事引っかかってしまった。その結果、眠ることのない私に見つかり、今こうして非常階段にまで追い詰められている。

 まあ、ここで私が追い詰めなくてもどうせ駐車場の方に出ればそこに構えている警官達に見つかっちゃうのだけれど、この男は恐ろしいことに小型の爆弾を大量に隠し持っていた。しかも一目で分かる、かなり強力なもの。リュックサックって便利ね。こんだけたくさんの危険物を持ち運べるんだから。

「最初に言ったわよね。私がいなければって」

坂上「……クソっ!お前ら今だ!」
(ヒカリちゃん!嘘です!)

 ネイの素早い判断により、私は後ろを振り返ることなくそのまま坂上から手を離すということはしなかった。

「嘘ってちゃんと分かる時は騙されないのよ」

 最後に、この男に思いっきり腹パンを決めて、意識を奪い取った。

「……」

 そのままこの男を抱えて戻ろうかと思ったところで、私の体が力尽きてその場に倒れてしまった。

(流石に疲れたわ……)

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー後日。

神代「あーあ、あんな事件に巻き込まれた後だってのに、翌日からは普通に登校しろとかふざけてんだろ!ちょっとは休ませろっての!」

「普段授業中に休んでる奴が何を言う」

 節分を過ぎたものの、まだまだ寒い季節の中、俺達は平気な顔をして登校している。

 全部を先生1人に託すことにはなったが、結果としては上手くいったっぽい。犯人が残虐な男であるというのは間違いようのない情報だった。ただ、それと同時に卑怯な人間であることも分かっていた。なら、自分1人だけは必ず逃げるための算段を整えているだろうと踏んだ俺は、あえてカマをかけてみたのだ。本物を見つけた、と。結果として奴は隠し持っていたガスマスクを使って逃げ出し、その先で素早く次の行動に移っていた先生に捕まった。

 ガスマスクを持っていると思ったのは、まあただの勘だ。前回毒ガスで皆殺しにした男が、次は爆弾を使って虐殺する。しかし、逆に考えてみろ。毒ガスを使った後に使うものは爆弾で、そんなものを使えば辺り一体が火の海になることくらいは予想がつく(使うものにもよるが)。なら、安全策としてそれくらいは用意してるんじゃないかと考えたが、まさかこうも予想した通りになるとはな。

神代「にしても、俺達あのまま本物見つけられなかったらどうなってんだ?」

「あのガスが充満するまでそこそこ時間がかかった。もし本物が分かったって言わなかった場合、限られた時間であのリュックに大量に詰め込まれていたという爆弾を使って出来る限りの虐殺をしていただろうな」

神代「マジかよ……」

「そうはならなかったのは、本物の坂上涼が保身に走る人間だったからだ」

 ここに関しては確信があった。過去に1度事件を起こした時、坂上は毒ガスを使いはしたものの心中を図るようなことはしなかった。まあ、してくれていたら事件はその時だけで終わっていたのだが、その行動から坂上自身はただの愉快犯だと俺は考えていた。

 人質1人を解放するにつき100万円。こんな子供が言いそうな大金を提示したのも、そもそも金を取るつもりは更々無かったのだろう。ただ奴は人が死ぬ様を見て楽しむ。人が慌てふためく様を見て愉しむ。警察がどうしようも出来なかった様を見て嘲笑う。そんな、クズの塊みたいな人間であると思えたからこそ、あの時の作戦が上手くいった。俺はそう思っている。

「クズというのは意外に操りやすいものだ」

神代「確かに、矢島もお前らの手のひらの上、みたいな感じだったもんなぁ」

「あと、頭の良い奴ほど予定外のことが起きた時の対応力が鈍る。お前みたいにその場の勢いで動くことが出来ん」

神代「それ褒めてる?」

「貶してる」

神代「ハッキリ言うな!お前!」

「うるさい」

 とにかく、この事件で言えることは、2度とあんなことに巻き込まれたくないということだけだな。俺は静かに学校生活を過ごしたいんだ。変なことにはこれ以上巻き込まないでくれ。

「……」

 ーーとは思うが、俺には1つだけ、確実にこれから先必ず立ちはだかると思われる障害がある。

 我が家の隣人。ただの物置だと言われていたあの部屋に住まうもう1人の住人。見た感じは女の子っぽかったが、恐らく叔父さん達の養子。そんな話は聞いたことがなかったが、そもそも周りに興味がなかった時期に数回会った程度の人達だから、俺にその子の存在は知られてないと思われてるのだろう。事実、俺もあんな出来事が起きるまでは知らなかったわけだし、記憶の片隅にすらあの子の存在は残ってなかったわけだ。叔父さん達の見立ては正しい。

 その内必ず聞き出す。あの子は何なのか。なぜ、あんなにも憎悪の籠った瞳を向けてきたのか。その理由をーー
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