ミシズ探偵譚

ミナセ ヒカリ

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File:3 【Oblique another world《もう1つの世界》】

Page:27 【《強力な助っ人》】

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神代「……マジ……かよ……」

「……」

 暇潰しにと来てみたカジノだったが、とんでもないものを見てしまった。

「うぉぉぉぉぉぉ!!これでNeiちゃん905連勝だぜぇぇぇぇ!」

 少し遠くに離れた集団が大声で歓声を上げている。きっと、彼女のファンなんだろうな。

 彼女の戦い方は『圧巻』の一言に尽きた。

 まず、飛行はほとんど無理ゲーと言われる龍人で、自由自在にフィールドを飛びまくる。そして、これまた扱いが難しすぎる銃を両手に抱えて乱射。その攻撃で敵が怯んだ隙をついて両手剣の力強い一撃と、すぐさま細剣に切り替えて連続突き。最後に二刀流で容赦のない攻撃を与え、オーバーキル。

 チート疑惑が出そうな程に上手すぎるプレイだが、これだけ目立っておいて運営から何もされていないということは、正真正銘彼女の実力なのだろう。

神代「何なんだよ……あのプレイヤー……」

 神代は神代で賭けに勝ったらしいが、そんな自分の儲けなど頭に入って来ず、圧巻のプレイを見て口をアホみたいに開いている。

神代「最強じゃねぇか……」

「……」

 確かに、最強のプレイヤーではある。だが、俺には1つ不可思議に見えた部分があった。それは、流石に反応速度が早すぎるということ。

 あのプレイヤーは、最初こそ押し切るようなプレイで初めてはいない。空を飛び出したのも中盤から。最初は至って普通に片手剣で戦っていた。ただ、対戦相手が魔法で周りを固め出した瞬間に彼女は本気を出した。まあ、ここまではよくある流れだ。問題なのは、魔法で霧を作られ、敵の居場所が分からなくなったと言うのに、高速で飛んできた魔法を剣で打ち返したということだ。

 ただ適当に振っただけのように見えるが、魔法はジャストな位置で斬らなければ反射は出来ない設定らしい。神代曰く、PVPでは稀に見る光景らしいが、それは基本的にたまたま防ごうとしたら出来てしまったというもの。攻撃がどこから来るとも分からない状況で、あんな高速で反応出来るだろうか?それ以外にも、敵の僅かばかりの反撃を全てかわしている。至近距離だから避ける暇なんて無いはずなのに、まるでその攻撃が来ることを事前に知ってるかのような反応の良さだ。

「……まさか……な」

 1人だけ、そんな事が出来そうな人物が脳裏を過る。

「神代。もしかしたら、チーターの正体に迫れるかもしれない」

神代「……はい?」

「あのプレイヤーに協力してもらおう」

神代「いや、まあ、確かにあの人ならチーターの予測不可能な弾も避けれそうな気はするけどさ、どうやって接触すんだよ?アポなんて取れねぇぞ?」

 そうだな。この世界じゃ彼女に接触することは不可能だろう。仮に接触出来たとしても、こちらの話を聞いてくれるかどうかも分からない。ただ、それはあくまでーー

「VRの世界だったらな」

神代「……?」

「早ければ明日の夜くらいにはまたログインする。じゃあな」

神代「お、おう。期待してるぜ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー翌日。

 いよいよ大晦日も近くなって来たが、まだ日付は12月27日。流石に、あの人もまだ働いているだろう。

 というわけで、俺は白塗り和風邸宅な雰囲気の白河邸にやって来た。そういえば、連絡先を貰っていたはずだから、事前に連絡しておけば良かったかもしれんな。いや、そんな事したらあの軽い口から目的の人物に俺が来ることがバレる。そして、多分逃げられる。なら連絡しなくてもいいな。

《ピンポーン》

 玄関門前のインターホンを鳴らし、ドタドタと聞こえてくる足音を待つ。

『はいはーい、あ、海翔くんじゃん!どしたのー?』

 早速、元気の良さそうなJKスタイルの白河の声が聞こえてくる。

「白河、今日は神崎先生がいるか?」

『先生?いるよー。今日もカテキョーの日だからね!用があるんだったら入って入ってー』

 門が開く。結構ハイテクなシステムだな、と思ったが、そういえば実家もこんな感じだったことを思い出す。あの家、まだ売り払えていないが、売り払う気もなんとなくしないし、少しくらい掃除しにでも行ってみるか。

白河「どぞどぞー。せんせーい!海翔くんが遊びに来たよー!」

 玄関で靴を脱ぎ、待ってましたとばかりにやって来る白河に軽く抱き締められる。

「……」

白河「せんせー?あれれ?おっかしいなぁ?全然やって来ないや」

 何事も無かったと俺はスルーし、白河の後をついて階段を上る。……そういえば、女子の家に上がるなんて人生初めてだ。まあ、だからといって特に何も無いが。

白河「せんせー?」

神崎「うるさいわね。ちゃんと聞こえてるわよ」

 と、白河がドアを開ける前にガチャりとドアが開き、なぜか上半身下着姿の神崎先生が現れる。

「……なんで下着なんですか」

神崎「暑いのよ、この部屋。無駄に暖房効いてるから」

白河「あははー、あたし寒がりだからねー」

 なら、厚着でもう少し調整してやれ。流石に下着姿はどうかと思うぞ。

神崎「で、私に何の用かしら?」

 先生は眼鏡の位置を正しながらそう言う。しかも、白河の学習机と思われるところの椅子に座って、なぜか偉そうに足を組んでいる。白河はというと、ベッドの上に腰かけているので、俺は仕方なく床に座った。

「先生、まずはこれを」

 確かあの眼鏡はARCWDだったはずなので、俺は昨日の試合の様子を録画したものを先生のデバイスに送る。

神崎「……凄いプレイね。こんなバーチャルのゲームがどうかしたのかしら?」

 しばらくメガネの中を見つめ、切り返すように先生はそう言ってきた。

「先生、そのプレイヤー。先生でしょ」

神崎「……どうしてそう思うのかしら?」

 あくまで否定はしないんだな。

「言葉使いとか、動き方とか、色々と理由はありますけど、1番の理由は反応速度ですね」

神崎「反応速度?」

「ええ。敵の魔法を斬る技は、熟練したプレイヤーでも奇跡に近いレベルで起こせると神代が言ってました。霧の中からのどこから来るか分からない攻撃。それを一瞬で反応し、魔法を打ち返すなんて例え奇跡でも早々起きませんよ」

神崎「たったの1回でしょ?ならそういうこともあるでしょ」

「まあそうですよね。でも、このプレイヤー、相手の動きを全て事前に見切ったかのようにかわしてるんですよ。まあ、未来予知できる人間なんていませんし、あるとすればほんのちょっと動いた瞬間に全てを理解している。そんな、機械でもなければ出来なさそうな動きしか考えられません」

神崎「……」

「俺が知る限り、例え弾丸だとしても手で掴んでしまうくらいの技量と反応の速さを持った人なんて先生くらいしか思い付きません。それでも、否定できる材料はいくらでもあるでしょう。でも、俺はこのプレイヤーが先生だと仮定した上で協力してほしいことがあって来ました」

神崎「……」

 これで否定してくるようであれば、もうそこまで。後は運営の頑張りに頼るしかなくなるが、きっとこの人は本当に違う場合じゃない限り否定はしないだろう。意外と折れるのが早いからな。

神崎「……私ではないわね、そのプレイヤーは」

「……私ではない。つまり、先生の中にいるーー」

神崎「そうですよ、海翔くん。まさか、正体を見破ってくるとは思いませんでしたねー」

白河「うわぁ、ネイネイっちを引きずり出したー!話よく分かんないけど海翔くんすげー!」

 白河が謎に先生の膝にすりついて、猫みたいに甘えているが、俺は構わず話を続ける。

「先生、俺の話を聞いてくれますか?」

神崎「どうせあのチーター騒ぎのことでしょう?あ、私のことはネイって呼んでください。それが私の本名なんで」

「……ネイ先生。今俺達がやってるゲームで騒ぎになっているチーター。あいつの正体を明かすために協力してください」

ネイ「ええ、構いませんよ。でも、どうやってチーターを倒すんですか?確かに私程の反応速度があれば倒すなんて造作もありませんけど、問題はその後」

「BANしたところでまた湧いてくる。根源を潰さない限り、この事件は解決しない」

ネイ「ええ、その通りです。何か策でもあるんですか?」

「有効かどうかは分かりませんが、親父達が残したツールを使って犯人の面を明かします」

ネイ「……!そう、ですか……。分かりました。協力しましょう」

 若干歯切れが悪く聞こえたが、これで協力を取り付けることが出来た。後で神代に……いや、どうせゲームの中で出会うんだし、それからにするか。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

神代「……なあ、海翔。お前は確かにすげぇよ。あの神プレイヤーの正体をあっさり見破るなんてな。でもよ、1つ言わせてくれ」

「なんだ?」

神代「なんでゲームの世界でまで先生と行動しなきゃならねぇんだよぉぉぉぉぉ!」

 知るかバカ。

ネイ「仕方ないですよ。これも何かの運命ですから。あ、神代くんは勉強してないっぽいんで、後で私からの少し遅めなクリスマスプレゼントを送っておきまーす」

神代「やめてください!」

 クリスマスプレゼント=冬休みの追加課題。そんなところか。しかも、これ多分ヒカリ先生の方が指示してるな。

神代「で、なんで白河までいんだよ……」

白河「先生の付き添い的なやつかなー?あ、今日のあたしは元気いっぱいのあたしだから安心していいよー!」

神代「見りゃ分かるわ!」

 割と不思議な面子が集まったが、これでチーターの特定は出来るだろう。……まあ、口に出しては言わないが、正直俺と先生だけで十分な気はするが。

ネイ「じゃ、早速出発ですね~」

白河「レッツラゴン!」

 2人が先頭を歩き、俺達は後ろの方で街の外に出た。出た瞬間、早速GAME OVERの文字が目の前に現れ、すぐさま街へとリスポーンさせられた。

神代「早すぎだろ!?」

「もう外に出る奴がいないから、ずっと入口を見張ってるんだろうな。にしても暇な奴だ」

白河「だねー」

 何とかして、ゲームオーバーの原因となる1発を喰らわないように出来たらいいんだが、それこそチートでもしない限りは不可能だな。

神代「ところで、先生いなくねぇか?」

白河「あ、ホントだ」

 ……流石、といったところか。今この場にいないということは、まだゲームオーバーになっていないということだな。

 街の外の様子は、あのPVPみたいに見られるわけじゃないし、先生が1人で犯人を目撃してくれることに賭けるしかないな。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「いやぁ、3人同時にゲームオーバーですか~」

(厄介なもんね。見た感じ、今のは弾丸だったかしら?)

 遠くから狙撃をしてくるチーターですか。しかも、絶対ワンパンで私クラスの反応速度を持たないと絶対に撃ち抜かれる。まあ、私も1000秒の世界を使ってようやく避けられたくらいですし、次やられたら避けきれる自信はないですね。

「チーターさん、まさか生き残られるとは思わなかったんでしょうね。ちょっと手でも振ってみましょうか?おーい」

(あんまり舐めた真似すんじゃないわよ。ふぁ~ぁ~)

 欠伸しながらそんな事言われても説得力がないですね。

《カキンっ!》

 振っていた剣に弾丸が命中した。

「威嚇射撃、ってことですか。流石に物に当ててきたら方角が分かっちゃいますよっ!」

 翼を広げ、今弾丸が飛んできた方向に向けて飛び立つ。このゲームに飛行能力があって良かったですよ。どうやら扱いが難しすぎるっぽいですが、皆さん本当に翼を生やした経験なんてないんですね~(普通じゃなくとも無い)。私、ファンタジーマシマシの世界で実際に龍人でしたからお空を飛ぶのは何のそのですよ!

「さあて、チーターチーター!」

 距離がどれだけ離れているかは分かりませんが、まあ顔とユーザーネームだけでも見れたら後は海翔くんの仕事ですね。

「清宮博士の残したツールですか……」

(……)

 本当、私が知り合った人達は私達の知らないところで死んでいくものですね。もう少し抗ってみようとか思わないんでしょうか?

 ーーまた弾丸が飛んできた。しかも、真横から。

「今の時間でそんなに移動出来ますか?」

(テレポートって魔法があるでしょ)

「えぇ……めちゃくちゃ面倒じゃないですか~」

(まあ、ある程度予想は出来ているけれど、流石にゲーム内で正体を掴むのは無理よ。一旦現実の方で対策練らなきゃ)

「それもそうですね……」

 本当なら名前くらい掴んでドヤ顔してみたかったですけど、諦めますか。

(……そういや、このゲーム作ってる会社ってどこだったっけ?)

「VRドライブですけど、それがどうかしました?」

(……ネイ、明日はあんたの日だったけど1日交代してもいいかしら?)

「何か策があるんですね。良いですよ」
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