ミシズ探偵譚

ミナセ ヒカリ

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File:3 【Oblique another world《もう1つの世界》】

Page:26 【《この世界での事件》】

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「GAME  OVER?」

 目の前に突如として照らし出された文字に、俺は我が身に何が起きたのかと混乱する。体力はダンジョンからの帰還で満タンになっていたし、ダンジョンの入り口部分には敵となるモンスターもいない。いなかったはずだ。いたとしても、まさか一撃でこちらのHPを削り切れるようなやつがただの平原にスポーンするだろうか?

 ありえない。その一言に尽きる。

 ゲームオーバーから街への復活には180秒の時間がかかるらしく、俺はその間に薄暗い視界から見える周りの景色に目を向ける。だが、どこを見渡せどモンスターは一体たりとも存在していない。それと、どうやら神代の方もゲームオーバーになっているようだ。人魂みたいなものが浮かんでいる。

 とりあえず180秒が過ぎ、街へと帰還する。

神代「お前、何に攻撃されたか見たか?」

「いいや。何も分からん」

神代「だよな」

 感覚的には、弾丸にでも撃ち抜かれたかのような速さではあった。

「弾丸……」

 確か、扱いが難しく、誰も手に取らないと言われていた武器。あれで殺されたのか?

「なあ、神代。このゲーム、PKとか出来るのか?」

神代「出来るぜ。つっても、したところでアイテム取れるわけじゃねえから基本やるのは愉快犯だけだな。あ、でも俺くらいの装備を一撃でやれる武器なんて実装されてねぇはずだぞ?」

「銃でもか?」

神代「あんな不遇武器無理に決まってんだろ」

 神代が知らないだけで存在している可能性もあるが、だとしても照準を合わせるのが難しいこのゲームで、ボスより小さい俺達アバターを、一発も外さず2人同時に倒す方法なんてあるのだろうか?もしや、いわゆるチーターとかではないだろうか?

「このゲーム、チートは可能か?」

神代「まあ、それが一番可能性高そうだけどよ、このゲームでチートしてたら、まずそのツールを持ち込む時点で不可能だぜ。なんか、運営の方でプログラムの書き換えがあるユーザーはすぐBANになるんだってさ」

 時代は進歩するものだな。だが、そうだとしたら本当にあれはなんだったんだ?

神代「まあ、超レベル上げした奴に、たまたま標的にされたんだろ。もう忘れようぜ」

「……ああ、そうだな」

 気になりはするが、現状考えられる可能性が全て否定されたとなると、流石に俺も時間の無駄だと判断する。

 まあ、愉快犯かチーターなら、明日には消えてるだろう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー翌日。

 俺達は飽きもせず再びこのゲームにログインした。ログインして、状況が昨日とは大きく変わっていることに気付いた。

「改造ツールの不正利用者に関する報告」

 どうやら、昨日のあれはマジのチーターだったらしい。それも、時間的に考えて俺達が第一の被害者っぽい。

神代「何がチーターは自動で排除出来るシステムだよ!思いっきり発生してんじゃねえか!」

 俺と同じく、運営からのお知らせを読みながら耳に響く大きな声を立てる神代。そんなに叫ばなくとも、みんなそう思ってる。

「どんな対策ソフトだって探せば抜け道が見つかる。それに備えて、普段からこういう時の対策を練っておくものだが、どうやらこんな事態を想定していないっぽいな。この運営は」

神代「油断してるってことかー。マジかー、外出歩けねえじゃん」

 まあ、いつ狙撃されるか分からん状況ともなれば、誰しも外に出たくはないだろうな。いくら痛みは無いと言えど、あの死んだ時の独特の浮遊感は出来れば二度と味わいたくない。それに、時間も無駄にしたくはないしな。

神代「クッソー!チーターの野郎!ボッコボコにしてやる!行くぞ!海翔!」

「どうせ死ぬぞ」

神代「うるせぇ!俺は行く!止めるな!」

 そう言って、神代は元気よく駆け出して街の外に出て行った。

「一応見に行くか……」

 俺も後を追いかけ、街の外に出る。そして、神代はどこに行ったと辺りを見渡すこと数十秒、またしても俺のHPが0になった。

「なるほどな」

 警戒はしていたが、攻撃を予測することは出来なかった。それどころか、どこから撃たれたのか、どこまで行って狙われたのか。そこら辺が一切分からない。しかも、キルログが流れるゲームじゃないから俺を倒したユーザーの名前も分からない。まあ、分かったところで現実の犯人を特定する材料には……なる?

 そうだ。ユーザー名は基本的に誰とも被らせることが出来ないようになっている。名前を知ることが出来れば、BANするまでには至れるだろう。しかし、問題はその後。チーターの多くはサブ垢でチート行為を楽しむと聞く。BANしたところでまた別のアカウントを用意されてチート行為が繰り返し行われるに違いない。運営のチートブロックシステムで防げないんじゃあな。

神代「結局お前もついてきたのかよ」

「一応犯人の名前くらい知ってみようと思ってな結果は何も出来ずに即キルだ」

神代「マジやべぇよ。ラビベルのサービス始まって以来の大事件だぜ!」

 楽しそうに言うな、こいつは。まさか、探偵団がどうこう言いだすんじゃないだろうな?

神代「なあ、海翔!こういう時こそ探偵団の出番だろ?」

「……」

 そら見たことか。

「言っておく。チーターを前に成すすべなくやられる俺達が、どうやって犯人を特定するんだ」

神代「そこはさ、進藤とかに頼って……」

「あいつの専門は映像をもとにした現実世界の人間を特定することであって、ネット上の人間の本名住所を特定することじゃない。まあ、それくらい出来なくはなさそうな感じがするが、そのためにも情報がないと意味がない。あと、今進藤は母親と一緒に田舎の祖父母の家に帰省してるらしい」

神代「お前、結構進藤に詳しいな……つか、なんで帰省してるって知ってんだよ」

「進藤から聞いた。何かあったらこっちの番号に連絡してこいと、向こうの番号まで知ってる」

神代「めちゃくちゃ信頼されてんじゃん」

「とにかく、あいつの力には頼れそうにない。大人しく、運営が対処するまで待つんだな」

神代「マジかよ……」

 ガッカリする気持ちは分かる。今のこのゲームの状況は非常にマズイ。外に出た瞬間に殺され、まともにダンジョンに潜ることができない。つまり、まともに遊べないクソゲーと化してしまった。高い金払って俺を沼に引きずり込もうとしていた神代にとっては、最悪以外の何物でもないだろうな。

 まあ、最悪なのは他のユーザーも同じだろう。あちこちで不満の声が上がりだしているのが聞こえてくる。これは、早々に解決しないとチーター1人のせいでゲームが終わるなんてことになりかねないな。まあ、ログを辿ればおかしな動きをしている奴なんてすぐに分かるはずだ。気長に待とう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 それから2日後、丸1日かけて行われたメンテナンスによって、チーターと思われるアカウントは全てBANされた。運営のアナウンスによってそう知らされた俺達だったが……。

神代「何も変わってねえじゃんかよ!」

 180秒のデスペナルティは一時的に解除されたっぽいが、それは=何も解決していないということを表す他ならなかった。

 1日かけても排除出来ないとは、想像以上に厄介な相手っぽいな、そいつは。そんな技術があるならもっと世のため人のために使え。

神代「どうするよ、海翔……」

「どうすることも出来んな。せめて、チーターの攻撃を避けて名前くらい分かればBANに追い込めるかもしれんが」

神代「そんなん、また別垢作っていたちごっこだろ~」

「そうだな。出来れば進藤に迷惑はかけたくない」

 運営の頑張りを祈るくらいしかできないな。まあ、1日かけて対処できなかった奴に対して、運営が何日かければ解決できるのかは見物だが。

「とりあえず、俺はログアウトする。神代もこの間に勉強しておけ」

神代「あの先生のうちは赤点にはならねえからへーきへーき」

 そのうち痛い目見そうだが、まあ、泣きついてきたら少しだけ手助けしてやるくらいの心構えでいるとするか。

神代「クッソー、暇だなぁ。あ、そうだ。海翔もう少し付き合えよー」

「……もう少しだけな」

 どうせログアウトしたところで、やる事は特に無い。何か別で遊べるものがあるのなら、と神代が向かった先について行った。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「何かと思えば、ギャンブルか……」

神代「まあ、俺も普段は使わねぇけどな。こんな時でもなけりゃ」

 神代に案内された場所はカジノ。カジノってよりかは、ただの大規模なギャンブル施設と言ったところか。競馬ならぬ競竜とかいう竜のレース予想や、プレイヤー同士のPVPでどちらが勝つかを予想するもの。また、自分が参加してもいいらしいし、簡単なものではポーカーやらスロットルやらがある。

 まあ、所詮使うものはゲーム内通貨だけだし、法的制限のない楽しい場所かもな。

神代「お前、賭けとかやったことある?」

「学生は法でギャンブルが禁止されているぞ」

神代「え?そうなの?俺の友達普通にカジノに出入りしてんだけど……」

 お前もヤバい奴とつるんでるな。

「何かせびられる前に縁を切っておけ」

神代「まあ、俺もそろそろ関わり無くそうと思ってたけど、あれ普通に違法だったんか……」

「ヤンキーの見た目するのは勝手だが、人付き合いはしっかりと考えておけ」

神代「いや、ヤンキー意識してねぇよ!」

 あの金髪に如何にも不良な感じを漂わせる着崩れした学ランを着て、ヤンキーを意識していないは無理があるのではないだろうか?

 まあ、神代の諸々の問題は置いといて、俺達は適当にPVPの予想会場である酒場に腰掛けた。

神代「今やってんのが4試合だな。この試合はもう賭けれねぇけど、次の試合から賭けられるぜ」

 テーブルの上に上がるモニターに目を配る。

 対戦者情報と試合のルール。過去の戦績と、それに応じた倍率。なるほどな、普通の賭けと何も変わらん。

神代「基本的に、勝率が高ぇ奴に賭けても、そら安定して勝てるが大した儲けは出ねぇ。試合のルールと、プレイヤーの得意とする戦い方を見て、出来るだけ勝率が低いけども今回は勝てそうな試合を選ぶのがコツだぜ。1度に賭けられる試合は1試合だけだからな」

「なるほどな。じゃあ、お前は次の試合、どいつに賭けるんだ?」

神代「えっとだな……」

 神代がモニターに目をやる。俺も少し程度なら賭けてみるか、と次の対戦情報に目をやると、そこには有り得そうで有り得ない数字が刻まれているプレイヤーがいた。

「904戦904勝0敗……」

神代「なんか、ヤベェプレイヤーがいんな……」

 勝率100%。それも、900戦もして負け無し。それだけ腕が優れているのか、運が良いのか……。どちらにせよ、全戦全勝を誇るとは、どんなプレイヤーなんだろうな?

神代「賭けの倍率も1.1倍か……まあ、安定するにはするけど、この試合じゃ儲けられねぇなぁ」

 神代は数字だけを気にしているようだったが、俺はこのプレイヤー自体に興味が湧いた。

 P.N:Nei・Zegranile、種族:龍人、主な使用武器:全ての武器。

「……?種族?」

神代「ああ。ある程度ゲーム進めてったら、色んな種族に変われるようになんだよ。1番最初はゴブリンだったかな?人気はねぇけど、パワー型で戦いたいならピッタリの種族。俺はお前と同じ猿人種って奴だけど、ぶっちゃけ剣使うならこれが1番だな。海翔みたいに魔法メインでやるなら、結構進めなきゃならねぇけどエルフが1番相性いいぜ」

「ふーん。じゃあ、この龍人は?」

神代「龍人は唯一飛行可能な種族なんだけど、飛ぶのがクソ難いんだよ。まともに使える奴はいねぇ。まあ、使ってる奴は見た目重視か、攻撃に付属されるHP吸収目的だろうな。龍人になったら自傷技で強いのいっぱい覚えられっから」

 ……なんだろうな。この勝率100%のプレイヤーは意図も簡単に空を飛んで戦っていそうな気がする。

「まあ、安定を求めるならこれが1番だな」

 俺は勝率100%のプレイヤーに全額投資しておいた。万が一負けたら全部没収されるわけだが、負けるわけないという謎の自信がこの時の俺にはあった。
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