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File:2 【Light starry sky《星空》】
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ーー翌週。昼休み。
神代「なぁんでお前ら2人だけでんな面白そうな事やってんだよォ~」
「面白そうに見えるのならお前の目が節穴か脳に穴が空いてるかのどっちかだな」
最早当たり前のように俺達は図書室に集まり、影山の元気な口が昨日の出来事を耳に響くくらいに饒舌込めて話していた。
「冷静に考えろ。暴力団の下っ端に銃口を突きつけられてるんだ。面白いわけがない」
影山「あれは本当にヤバかったですねー。先生が来てくれなかったら本当にヤバかったですよー」
日比谷「神崎先生だよね。確かに、ちょっと不思議な先生だと思ってたけど」
神代「まーさか、そっち方面に特化した先生だとはなぁ。逆らうの絶対にやめよ......授業中も起きてよ」
まあ、神代はそれが懸命だろうな。あの殺人光線が俺の方にも流れてきてるから、真面目な話、寝るのはやめろ。
神代「あーあー、優しい先生だと思ったのになぁー」
日比谷「あんた、優しくても優しくなくても関係ないでしょ」
神代「いやー、そういう問題じゃなくてなー」
「そうですねー。神代君は私が優しかろうが優しくなかろうが、関係なしに寝ますからねー。知ってるんですよ、他の授業でも寝てるってことは」
神代「ゲッ......」
俺達しかいなかった図書室に、新たな声が混じってくる。その声に対して、神代が微妙に怪訝な顔つきになる。
神崎「昨日ぶりですね、清宮海翔君。と、影山静香さん。あ、お礼はいりませんよー」
中身は、多分国語モードの方だな。珍しい。
神崎「前に見た時も思ったんですけど、随分と賑やかで楽しそうな探偵団ですねー。私もよくやりましたよ、昔は。まあ、探偵というよりも暴力団の方が近いんですけどー」
「物騒な響きですね」
神崎「そうでもないですよー。言い方的にはそれが近くても、やる事は全然違いますからー」
「そうですか。で、今回はなんの用で来たんですか。いい加減話してくれないと、こいつらが呆けた面のままですよ」
影山はある程度理解してるし、進藤も昨日報告を入れておいたからそうでもないが、日比谷と神代の2人は完全に置いてけぼりな顔。それを見兼ねた俺は、もう少し雑談に付き合ってあげてもいいか、という気持ちを切り捨て、先生に本題を語り出すよう促す。
神崎「まあ、話せば長くなるから全部割愛しますけど、大事なところだけ伝えておきますねー。単刀直入に言います。愛ちゃんをそちらで見ていてくれませんか?」
「「 ......愛ちゃんって? 」」
「前に言っただろ。今回の事件の被害者。最初は大したことないと思ってたけど、結構やばいところまで行ったっていうーー」
神代「ああ、あれか!」
なんでわざわざ説明してやらなければならないのかと問いたいが、ここはグッと我慢。話が長くなるだけ。
「で、先生。見ていてくれと言いますけど、具体的にどういう風に?」
神崎「実は、色々と相談したんですけど、来学期から愛ちゃんを復学させようと思いましてねー、出来れば、復帰してすぐに馴染めるよう、あなた達に彼女との繋がりを築いておいてほしいんですけどー、頼めますかー?」
日比谷「頼めるかって聞かれても......ん?復学?」
神代「あれ?普通に学校に通ってんじゃねぇの?」
そういや、この2人にはそこら辺の話を一切してなかったな。まあ、話すのは面倒だから俺が話を進めるか。
「簡単に言ってくれますけど、彼女かなり難しい人なんですよね?俺が接触した方ならまだ簡単かもしれませんが、もう片方はどうするんですか?」
神代(俺らの疑問無視!?)
神崎「ああ、その辺は多分大丈夫ですよ。実は、もう彼女を連れて来てるんですよ、ここに」
影山「......どこにですか?どこにも見えないんですけど」
神崎「ちょっと、シャイな子ですからねー。いや、シャイは関係ないか。そこの扉の外に隠れてますよ。影山さん、あなたが連れてきてください。抵抗するなら無理矢理にで構いませんから」
影山「わ、私ですかー......」
影山が恐る恐るといった具合に図書室の扉を開け、辺りを見渡す。そして、1歩外に出るとすぐにダッシュを始め、やがて女の子の悲鳴と罵声が聞こえたかと思うと、なぜか半泣き状態になった白河が影山に連れられてやって来た。この間僅か30秒。
なんで白河が半泣きになってるのかに関しては、まあ昨日のあれがあったから理由はわざわざ考えるまでもないだろう。
影山「つ、連れてきましたけど、なんか私の想像してた超斜め上なんですけどー......」
神崎「そうですねー、気難しい子なんですよー。清宮君にはもう言ったからいいと思いますけど、その子、所謂多重人格で、人格によって持ってる記憶と性格が変わるので、かなり大変だと思いますよー」
神代「思いますよーってむっちゃ他人事だな......」
日比谷「てかその前に、色々とツッコミたいところがあるんですけどー!?」
神崎「まあ、詳しい話は追追話していきますよー。とりあえず、今のところは影山さんあたりが上手いこと馴染ませてください。あ、JKスタイルの時はそんなに苦戦することないんで、無理ですとかそんな話は聞きませーん」
最後、かなりの早口でそう言って、先生は白河を置いて図書室を駆け足で出ていった。
影山「に、逃げられました......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
日比谷「あんた、ちょっとは落ち着いた?」
白河「っ......っ......」
神代「ダメそうだな、こりゃ」
もう間もなく昼休みも終わろうかというこの時間。いつまで経っても泣き止まない白河をあやし続けーー主に女子がーー、俺はどうしたらいいのかを必死に考えていた。
どうでもいい、といつも通りに放り投げるのが1番楽なのだが、先生には貸しを作ってしまっている。それも、かなり大きなものを。だから、どんなに面倒くさかろうと、お願いされたのなら、しっかりと最後まで聞き届けなければならない。しかしなぁ......
影山「JKスタイルとか言ってましたけど、本当に多重人格ならそっちの方に戻って欲しいですよ......早くに」
「それだと意味がないから、もう片方の人格に切り替わってるうちにここに連れて来たんだろう。全く、難儀なことを頼む先生だ」
白河「っ......っ......」
俺達がこういう話をしていると、全部聞いているぞ、と言わんばかりに白河の泣き声が若干大きくなる。そうなるとすぐに話題を変えようと思慮するのだが、そんな些細な変化に気づいているのは俺だけのようで、他の面々は関係なしに、やれめんどくさいだの疲れるだのと話を続ける。
事件は無事に解決できたはず......なんだが、思わぬ副産物が付いてきたものだ。と俺は思いつつ、窓の外を眺める。
外は、冬にしてはかなり腫れていて、雲一つない心地良い天気だ。白河のことは、大変なことがたくさん待っているだろうが、まあこれだけの人がいればどうにかなるだろう。と楽観的な考えを持つ。
神代「なあ、そろそろ教室に戻らね?」
日比谷「戻りたいけど、愛ちゃんをどうすんのよ」
影山「そうですよー、この薄情者!」
神代「俺、何も悪くねぇだろ!?」
......
......
......冬の寒い日。俺達探偵団に新たな仲間(?)が加わった。1人は明るく『JK』という言葉をそのまま具現化したような少女で、もう1人は俺達に対してとにかく警戒心と恐怖心を抱く少女。どちらもかなり相手にするのが難しい人物で、とてもではないが俺達"探偵団"では相手に出来そうにない。しかし、文字通り命の恩人である神崎先生からの頼みなので断ることは出来ない。まあ、相手に出来そうにないとは言ったが、"絶対に"というわけではない。こいつらが俺の心を開いてくれたように、白河に対しても優しく、当たり障りなく接してやれば、きっとそのうちただの"友達"になってくれる。多分な。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー週末。
白河「ちーっす、この間はなんかごめんねー。あたし、人質......だったんだよね?」
なんで疑問形なんだ、と言おうとしたが、そういやちゃんとした理由があったな、と思い出し、俺は代わりの言葉を投げかける。
「人質になってた割には元気そうだな。それも、"かなり"」
白河「あぁー、多重人格がうんたらかんたらって話でしょー?あれ、あたしにもよく分かんないんだよねー。先生は2人のあたしがいるって言うけどさー」
まあ、記憶が共有できないんだからイマイチ信用することはできないだろうな。それでも、生活に若干の変化と記憶に穴が空くのだから信用する要因になるとは思うのだが。
白河「あたしの中にあたしがもう1人いるって言われて、あなただったら信じられる?」
「まあ、信じないだろうな」
白河「でしょー?そんな非科学的なもの信じられるわけないっつぅーの」
こうして見れば、白河は本当にただの女子高生に見えるな。しっかりとお洒落をしてるし、影山のあれとは違って、ファッション誌から出てきてもおかしくはない格好。口調はサバサバとしてるけど、不登校児だとは思えないくらいに人馴れした喋り方。
多分、もう1つの人格がなければ、なんの不自由もない普通の生活を送っていたんだろうな。
ところで、なぜ俺が貴重な休みの日を白河と共に過しているのかを辿ろう。時は昨日の夜にまで遡る。
珍しく夜中に家電が鳴り響き、たまたま近くを通った俺が手に取ると、相手は神崎先生(数学モード)だった。要件は、明日1日白河をデートに連れて行けとの事。それだけを伝えられて一方的に電話を切られた。
何が何やら......と思いはしたが、翌朝(今朝)にまた電話がかかってきて、次はかなり詳細なデートコースを言い渡された。しかも、いつの間に手に入れたのか、俺のメールに一言一句同じことを綴ったデートコースと詳細を記入された地図のファイルが送られてくる始末。ああ、夢じゃなかったんだな、とこの時確信した。
で、バカ正直にも先生に指示されたところに時間通りに到着し、寒空の下30分程待って白河がやって来たというわけだ。そして今に至る。
やって来た白河が、あっちの臆病な方じゃなくて良かったと思う。あれを俺1人に1日見ていてくれと頼まれたものなら、俺は即座に白河の自宅に向かってそのまま解散していたことであろう。が、やって来たのは元気な方の白河。面倒であることに変わりはないが、あれが来るよりも余っ程マシだ。と、自分に言い聞かせている。
白河「いやー、ビックリしたよー。まさか、先生がたまには友達と外で遊んできたら?なんて変わったこと言うから、2つ返事でやったーって言ったら、待ってるのがあなただったんだよー?どう思う?」
「知らん」
俺はそう答えるので精一杯だった。なぜなら、さっきから1分置きにやって来る先生からの注意事項的なものが鬱陶しくて仕方ないからだ。今すぐにでもこのデバイスを叩き潰してやりたいが、後ろから3、4人の視線が飛んできているのを俺は知っている。面白がってるな、お前ら......
白河「で、どこ行くのー?どーせ先生のことだから、あなたの方になんか言ってるんでしょー?」
「ああ。憎たらしいほどに細かなスケジュールを言い渡されている......」
いかんいかん。怒りを抑えろ。ここで爆発しても無意味だ。
......事件はまだ解決しきってない。これから、俺の精神的に参る1日が始まるのだ。
神代「なぁんでお前ら2人だけでんな面白そうな事やってんだよォ~」
「面白そうに見えるのならお前の目が節穴か脳に穴が空いてるかのどっちかだな」
最早当たり前のように俺達は図書室に集まり、影山の元気な口が昨日の出来事を耳に響くくらいに饒舌込めて話していた。
「冷静に考えろ。暴力団の下っ端に銃口を突きつけられてるんだ。面白いわけがない」
影山「あれは本当にヤバかったですねー。先生が来てくれなかったら本当にヤバかったですよー」
日比谷「神崎先生だよね。確かに、ちょっと不思議な先生だと思ってたけど」
神代「まーさか、そっち方面に特化した先生だとはなぁ。逆らうの絶対にやめよ......授業中も起きてよ」
まあ、神代はそれが懸命だろうな。あの殺人光線が俺の方にも流れてきてるから、真面目な話、寝るのはやめろ。
神代「あーあー、優しい先生だと思ったのになぁー」
日比谷「あんた、優しくても優しくなくても関係ないでしょ」
神代「いやー、そういう問題じゃなくてなー」
「そうですねー。神代君は私が優しかろうが優しくなかろうが、関係なしに寝ますからねー。知ってるんですよ、他の授業でも寝てるってことは」
神代「ゲッ......」
俺達しかいなかった図書室に、新たな声が混じってくる。その声に対して、神代が微妙に怪訝な顔つきになる。
神崎「昨日ぶりですね、清宮海翔君。と、影山静香さん。あ、お礼はいりませんよー」
中身は、多分国語モードの方だな。珍しい。
神崎「前に見た時も思ったんですけど、随分と賑やかで楽しそうな探偵団ですねー。私もよくやりましたよ、昔は。まあ、探偵というよりも暴力団の方が近いんですけどー」
「物騒な響きですね」
神崎「そうでもないですよー。言い方的にはそれが近くても、やる事は全然違いますからー」
「そうですか。で、今回はなんの用で来たんですか。いい加減話してくれないと、こいつらが呆けた面のままですよ」
影山はある程度理解してるし、進藤も昨日報告を入れておいたからそうでもないが、日比谷と神代の2人は完全に置いてけぼりな顔。それを見兼ねた俺は、もう少し雑談に付き合ってあげてもいいか、という気持ちを切り捨て、先生に本題を語り出すよう促す。
神崎「まあ、話せば長くなるから全部割愛しますけど、大事なところだけ伝えておきますねー。単刀直入に言います。愛ちゃんをそちらで見ていてくれませんか?」
「「 ......愛ちゃんって? 」」
「前に言っただろ。今回の事件の被害者。最初は大したことないと思ってたけど、結構やばいところまで行ったっていうーー」
神代「ああ、あれか!」
なんでわざわざ説明してやらなければならないのかと問いたいが、ここはグッと我慢。話が長くなるだけ。
「で、先生。見ていてくれと言いますけど、具体的にどういう風に?」
神崎「実は、色々と相談したんですけど、来学期から愛ちゃんを復学させようと思いましてねー、出来れば、復帰してすぐに馴染めるよう、あなた達に彼女との繋がりを築いておいてほしいんですけどー、頼めますかー?」
日比谷「頼めるかって聞かれても......ん?復学?」
神代「あれ?普通に学校に通ってんじゃねぇの?」
そういや、この2人にはそこら辺の話を一切してなかったな。まあ、話すのは面倒だから俺が話を進めるか。
「簡単に言ってくれますけど、彼女かなり難しい人なんですよね?俺が接触した方ならまだ簡単かもしれませんが、もう片方はどうするんですか?」
神代(俺らの疑問無視!?)
神崎「ああ、その辺は多分大丈夫ですよ。実は、もう彼女を連れて来てるんですよ、ここに」
影山「......どこにですか?どこにも見えないんですけど」
神崎「ちょっと、シャイな子ですからねー。いや、シャイは関係ないか。そこの扉の外に隠れてますよ。影山さん、あなたが連れてきてください。抵抗するなら無理矢理にで構いませんから」
影山「わ、私ですかー......」
影山が恐る恐るといった具合に図書室の扉を開け、辺りを見渡す。そして、1歩外に出るとすぐにダッシュを始め、やがて女の子の悲鳴と罵声が聞こえたかと思うと、なぜか半泣き状態になった白河が影山に連れられてやって来た。この間僅か30秒。
なんで白河が半泣きになってるのかに関しては、まあ昨日のあれがあったから理由はわざわざ考えるまでもないだろう。
影山「つ、連れてきましたけど、なんか私の想像してた超斜め上なんですけどー......」
神崎「そうですねー、気難しい子なんですよー。清宮君にはもう言ったからいいと思いますけど、その子、所謂多重人格で、人格によって持ってる記憶と性格が変わるので、かなり大変だと思いますよー」
神代「思いますよーってむっちゃ他人事だな......」
日比谷「てかその前に、色々とツッコミたいところがあるんですけどー!?」
神崎「まあ、詳しい話は追追話していきますよー。とりあえず、今のところは影山さんあたりが上手いこと馴染ませてください。あ、JKスタイルの時はそんなに苦戦することないんで、無理ですとかそんな話は聞きませーん」
最後、かなりの早口でそう言って、先生は白河を置いて図書室を駆け足で出ていった。
影山「に、逃げられました......」
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日比谷「あんた、ちょっとは落ち着いた?」
白河「っ......っ......」
神代「ダメそうだな、こりゃ」
もう間もなく昼休みも終わろうかというこの時間。いつまで経っても泣き止まない白河をあやし続けーー主に女子がーー、俺はどうしたらいいのかを必死に考えていた。
どうでもいい、といつも通りに放り投げるのが1番楽なのだが、先生には貸しを作ってしまっている。それも、かなり大きなものを。だから、どんなに面倒くさかろうと、お願いされたのなら、しっかりと最後まで聞き届けなければならない。しかしなぁ......
影山「JKスタイルとか言ってましたけど、本当に多重人格ならそっちの方に戻って欲しいですよ......早くに」
「それだと意味がないから、もう片方の人格に切り替わってるうちにここに連れて来たんだろう。全く、難儀なことを頼む先生だ」
白河「っ......っ......」
俺達がこういう話をしていると、全部聞いているぞ、と言わんばかりに白河の泣き声が若干大きくなる。そうなるとすぐに話題を変えようと思慮するのだが、そんな些細な変化に気づいているのは俺だけのようで、他の面々は関係なしに、やれめんどくさいだの疲れるだのと話を続ける。
事件は無事に解決できたはず......なんだが、思わぬ副産物が付いてきたものだ。と俺は思いつつ、窓の外を眺める。
外は、冬にしてはかなり腫れていて、雲一つない心地良い天気だ。白河のことは、大変なことがたくさん待っているだろうが、まあこれだけの人がいればどうにかなるだろう。と楽観的な考えを持つ。
神代「なあ、そろそろ教室に戻らね?」
日比谷「戻りたいけど、愛ちゃんをどうすんのよ」
影山「そうですよー、この薄情者!」
神代「俺、何も悪くねぇだろ!?」
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......
......冬の寒い日。俺達探偵団に新たな仲間(?)が加わった。1人は明るく『JK』という言葉をそのまま具現化したような少女で、もう1人は俺達に対してとにかく警戒心と恐怖心を抱く少女。どちらもかなり相手にするのが難しい人物で、とてもではないが俺達"探偵団"では相手に出来そうにない。しかし、文字通り命の恩人である神崎先生からの頼みなので断ることは出来ない。まあ、相手に出来そうにないとは言ったが、"絶対に"というわけではない。こいつらが俺の心を開いてくれたように、白河に対しても優しく、当たり障りなく接してやれば、きっとそのうちただの"友達"になってくれる。多分な。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー週末。
白河「ちーっす、この間はなんかごめんねー。あたし、人質......だったんだよね?」
なんで疑問形なんだ、と言おうとしたが、そういやちゃんとした理由があったな、と思い出し、俺は代わりの言葉を投げかける。
「人質になってた割には元気そうだな。それも、"かなり"」
白河「あぁー、多重人格がうんたらかんたらって話でしょー?あれ、あたしにもよく分かんないんだよねー。先生は2人のあたしがいるって言うけどさー」
まあ、記憶が共有できないんだからイマイチ信用することはできないだろうな。それでも、生活に若干の変化と記憶に穴が空くのだから信用する要因になるとは思うのだが。
白河「あたしの中にあたしがもう1人いるって言われて、あなただったら信じられる?」
「まあ、信じないだろうな」
白河「でしょー?そんな非科学的なもの信じられるわけないっつぅーの」
こうして見れば、白河は本当にただの女子高生に見えるな。しっかりとお洒落をしてるし、影山のあれとは違って、ファッション誌から出てきてもおかしくはない格好。口調はサバサバとしてるけど、不登校児だとは思えないくらいに人馴れした喋り方。
多分、もう1つの人格がなければ、なんの不自由もない普通の生活を送っていたんだろうな。
ところで、なぜ俺が貴重な休みの日を白河と共に過しているのかを辿ろう。時は昨日の夜にまで遡る。
珍しく夜中に家電が鳴り響き、たまたま近くを通った俺が手に取ると、相手は神崎先生(数学モード)だった。要件は、明日1日白河をデートに連れて行けとの事。それだけを伝えられて一方的に電話を切られた。
何が何やら......と思いはしたが、翌朝(今朝)にまた電話がかかってきて、次はかなり詳細なデートコースを言い渡された。しかも、いつの間に手に入れたのか、俺のメールに一言一句同じことを綴ったデートコースと詳細を記入された地図のファイルが送られてくる始末。ああ、夢じゃなかったんだな、とこの時確信した。
で、バカ正直にも先生に指示されたところに時間通りに到着し、寒空の下30分程待って白河がやって来たというわけだ。そして今に至る。
やって来た白河が、あっちの臆病な方じゃなくて良かったと思う。あれを俺1人に1日見ていてくれと頼まれたものなら、俺は即座に白河の自宅に向かってそのまま解散していたことであろう。が、やって来たのは元気な方の白河。面倒であることに変わりはないが、あれが来るよりも余っ程マシだ。と、自分に言い聞かせている。
白河「いやー、ビックリしたよー。まさか、先生がたまには友達と外で遊んできたら?なんて変わったこと言うから、2つ返事でやったーって言ったら、待ってるのがあなただったんだよー?どう思う?」
「知らん」
俺はそう答えるので精一杯だった。なぜなら、さっきから1分置きにやって来る先生からの注意事項的なものが鬱陶しくて仕方ないからだ。今すぐにでもこのデバイスを叩き潰してやりたいが、後ろから3、4人の視線が飛んできているのを俺は知っている。面白がってるな、お前ら......
白河「で、どこ行くのー?どーせ先生のことだから、あなたの方になんか言ってるんでしょー?」
「ああ。憎たらしいほどに細かなスケジュールを言い渡されている......」
いかんいかん。怒りを抑えろ。ここで爆発しても無意味だ。
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第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
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