ミシズ探偵譚

ミナセ ヒカリ

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File:2 【Light starry sky《星空》】

Page:17 【《元大書庫の神》】

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「さぁて、やってやるわよ。どこの間抜けか知らないけど、私を怒らせたら怖いってことを教えてあげるわ!」

 深夜遅くに家に帰り着き、私はすぐにでもベッドに飛び込みたくなる衝動を抑えて、ARの技術が発展してもいまだに愛用し続ける四角い箱へと目を向ける。起動に約10秒、映し出される我が愛娘のデスクトップ背景からすぐさまネットへとダイブし、タイピング検定特級とかいう、ほぼ何に使うのか分からないまま学生時代に趣味で取った検定の技術を利用し、高速で次々と欲しい情報を探し当てていく。多分、タイピングの技術はいらない。

 ちなみに、「あんたは寝ときなさい」と私が言った時から、ネイは今の今までずっと寝続けている。私がこんなに苦労しているというのに、あの子は本当に自由奔放すぎる。明日は朝からのことを何から何まで全部やらせてやろう。余計なことを口走るかもしれないけれど、HRだってあの子に任せてやる。いや、数学の時間以外全てをあの子に任せてやる。

「......余計な事考えてる暇あったら目を動かすことよね」

 あの子から聞けた数少ない情報を頼りに、考えうる全てのパターンから犯人像を特定する。口で言うのは簡単だけど、流石の私でもこんな少ない情報から目当てのところまでを特定するのは無理な話よ。でも、あの子が平和で楽しい生活を送れるようにするため、不安要素は全て払拭する。

 どうして、自分の子でもないのにこんなに本気になるのか。

 一度ネイにそう言われたことがある。

 あの子の考えは、何の力も持たないこの世界においては、自分と家族だけが全て、それ以外は何もいらない。あんなに強欲強欲叫んでたのに、今では本当無欲な一般人に成り下がっている。まあ、それがあの子の望みだったから、本人はそれでいいと思っているだろう。

 でも、私は違う。私は自分1人、もしくは自分と家族だけなんて考えを持つことが出来ない。全てが嫌になって、全てを投げ出したくなって、もう一度あの世界に帰りたいと願って、全てを敵に回してしまった私を、”友”は私とあの人達が”友”であることを証明してくれた。情熱的に燃える真っ赤な夕焼けと、波を打つ潮の心地よい音が脳裏に焼き付いて剥がれないでいる。私は、私に”幸せ”を与えてくれた人達のためにも、誰かを幸せにすることを生きがいとしている。だから、私は昔の自分に似ていて、そして私とはどこかが違う白河愛と、例え偶然であっても出会い、そしてあの子の境遇を知って助けたいと思った。

 以上、長いけど私の行動を正当化する証明は終わり。いつまでも回想に浸ってないで犯人を捜すのよ。

「とはいえ......流石に無理よねぇー」

 やる気は十分にあるのだけれど、体の方がもう休みを求めて動かないでいる。もし、こっちの世界でもあの書庫が使えたら、体は寝ていても脳だけは働いて調べものができるという最高の状態を作り出せるのに、やっぱりそんな都合のいい話がないのがこの世界である。まあ、こんな世界でもちょっとした能力は持っているのだけれど、あれはあまり使いたくない。

「寝るか......」

 起動してからまだ役目という役目を終えていないPCをシャットダウンさせ、冷蔵庫に残ってある作り置きのサンドイッチを頬張りながら着替えを済ます。......あ、お風呂に入ってなかった。1日、2日どうってことないだろうけど、不清潔にしてるとネイがギャンギャンうるさくなる。そんなに文句があるなら、自分でどうにかしろと言いたいが、あの子はすっかりと眠ってしまい、更にその”自分”は私自身であるのだから、何とも言えない不思議な感覚に見舞われて少し嫌な気分になってくる。

「はぁ......」

 女とは大変な生き物だ。自由奔放にやっていた10代と違い、今はあれやこれやといろんなことに気を遣わないといけない。いや、ネイがいなくて、私が科学者とかその辺の研究職に就いていれば多少自由にできてたかもしれないけど、これは全て私が選んだ道。今更無しにするなんてことは神様でもなけりゃできない。

 大人しく、シャワーだけでも浴びて、爆音の目覚ましーーネイへの寝起きドッキリという名の強制たたき起こしマシーンーーをセットして、後は明日の準備とそれからそれから......

 ......

 ......

 ......

 ......めんどくさい。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 翌日ーー

「如何にヒカリちゃんが非効率的で自堕落かがよく分かりますね。こういうのは足で集めるのが一番なんですよ」

 昨日と同じように、4時間全部ってわけではないけれど、それなりに量のある午前の授業ーーヒカリちゃんのあの圧はどうかと思ってたーー全てを終わらし、私は図書室へと来た。

 別に、ヒカリちゃんの手伝いをしようとしているわけではない。むしろ手伝う気などさらさらない。あるならば、こんなところに足を向けるなんてことはしない。なら、なぜ私がここに来たのかというと、4年前には制覇しきれなかったここの書物を全て読み漁るためだ。いやー職業病というかなんというか、これだけたくさんの本棚に囲まれていると、不思議と落ち着くんですよねー。

 とりあえず、伝記ものと小説類は全て漁ったから、今日はーー

「いやー、進藤さんの力をもってしても調べられないことって山ほどあるんですねー」

「お前、進藤のことを都合のいいロボットかなんかだと勘違いしてるだろ......」

 生徒らしき声が聞こえて、思わず条件反射で本棚の陰に身を潜める。いや、隠れる必要はないのだけれど、体がつい、ね?

 あーあ、あのまま素の状態でいれば何も怪しまれなかったのに、ついつい隠れてしまうものだから、なんか出づらくなってしまった。大人しく、近くにある本でも読んで暇つぶしをしつつ、あの子達が出ていくのを待つか......

「うっし、じゃあ始めますか!海静探偵団定期ミーティングー」

「今日が初めてだから、定期も何もないでしょうが」

「そこは雰囲気だろぉ?」

 人の気配の数からして、5人か......結構多いな。仲のいいグループかなんかだろう。にしても探偵団かー。まあ、私が言えることじゃないけど、この世界でそんな組織的なものを作ってもねぇ、いや、私自身ある組織の立役者だったから何とも言えないんだけど......

「結局昨日は何にも見つかりませんでしたねー」

 おっ、この元気ある声は影山静香ちゃんですね。私の家族構成を聞いてきた子だからよく覚えている。確か、新聞部の子だったはず。

「一応聞いとくんだけど、昨日のアレって意味あったの?」

「多分ないと思う......」

 男の子の声は金髪ファッションヤンキーことよく寝る神代優真君か。......女の子の声の方は聞いたことがないな?

影山「そんなことないですよー日比谷さーん。おかげで渋谷の魅力再発見できましたしー」

神代「それ、何も見つかってないのと一緒じゃね?」

 なるほど、日比谷って子か。確か、名簿に書いてあったフルネームは日比谷凛だったっけ?後で確認しておこう。

神代「とりあえず、今日は何すんだ?昨日の続きか?」

「今日は情報収集だ。俺と影山で被害者宅一軒一軒を回る。進藤はいつもの情報網を駆使して被害者から繋がりのありそうな人物を探ってみてくれ」

進藤「了解した。少年」

影山「了解ですーって2人ですか......」

 あー、この無駄に石〇彰に感じてしまうようなやる気なさげな声は清宮海翔君だな。あの子苦手なんですよねー、常に無表情で物静かで、なのになぜか私達の過去を若干知ってるし......

 極力関わりたくはないです......しかも、会話からして、なんか探偵団のリーダーっぽいし、無駄に頭がキレそう......。

日比谷「私達は?」

清宮「神代と一緒に昨日と同じことをしてくれ。もしかしたら、決定的な瞬間を捉えられるかもしれんからな」

神代「マジかよ......あれ、クソしんどいじゃん」

清宮「本当なら、お前1人で十分だと思ってる。でも、それだとサボるかもしれんし、仮に働いていたとしても、現場を見てしまったら後先考えず突っ込むかもしれんから、日比谷を付けることにする。悪いな」

日比谷「そういうことなら仕方ないかも......でも、こいつとかぁ」

神代「あのさ、これ、俺いらねんじゃね?」

清宮「1人で渋谷のガラの悪そうな場所に駆り出させるのは可哀そうだろ」

神代「お前、俺1人で十分って言ったあれは何だったんだよ!?俺には可哀そうとか思ってくれねえのかよ!」

清宮「男だろ」

影山「時代錯誤が凄まじいですね......」

 あの、清宮って子、無表情ながらも言葉の方にはかなり感情が籠ってるな。静かに会話を聞いてたけど、吉本新喜劇でもやってんのかってくらいにはちょっと面白いやり取りでしたね。にしても、ちょっと興味のある内容ですね。何やら、名ばかりではなくちゃんと探偵団っぽいことしてますし、もう少しだけ彼らの会話に耳を傾けてみましょうか。

清宮「一応言っておくが、恐喝犯を仮に発見できても絶対に手出しはせず、俺達の連絡網に報告だ」

 恐喝犯......?

日比谷「分かってるわよ。このバカは私が絶対に抑えとくから」

清宮「頼りにしてる」

神代「お前ら、こぞって俺が暴走するって思いこんでやがんだな!」

清宮「前科持ちだろ」

神代「否定できないのが辛い!」

 彼らの会話は、ちょっと探求心に営んだ子供の遊びと何ら変わらない。教師として、人様の迷惑になるようなことはするなよー、と笑って今の会話は聞き流したことにしておくべきことなのだが、ちょっと聞き逃せない単語が聞こえた。いや、どちらかと言うと、聞き逃せないのは昼寝してる内側の方だけど。

 恐喝犯か......。ヒカリちゃんが追ってるそれとは別物かもしれないけど、全くもって無視できる内容じゃない。というか、あの子たちが調べるようなことなんだから、うちの生徒、もしくは同年代の誰かが被害に遭っている可能性が高い。教師として、生徒のピンチは見逃せない。

 頑張ってるあの子達には悪いけど、あの子達が知らない場所で勝手に事件が収束していくようにどうにかしよう。幸い、旦那がここ最近は平和ーー人が誰かに殺される事件がないという意味でーーでいいとか完全にボケてしまっているし、今週の休みにでも駆り出してその方面での事件はないかを探らせよう。

清宮「第1回、なんちゃらこうちゃらはこれで終わりだ。くれぐれも先走った行動はしないようにな」

神代「だから、なんでお前は俺を見てそう言ってくんだよ!俺が何したって言うんだ!?俺達親友だろ!?」

清宮「......はぁ」

神代「あー!なんか今吐かなくていい溜息吐かれたー!」

日比谷「うるさいよ、あんた」

影山「考えないサルですねー」

進藤「同感」

神代「どいつもこいつも何なんだよー!」

進藤「図書室ではお静かに」

 ......

 ......

 ......

 その後、謎の雑談タイムに入った探偵団御一行が図書室を出ていくまでの間を適当に潰し、彼らが図書室を出ていった数十秒後に私も図書室を出た。冬の冷気が心地よいほどに私の肌に触れる。そういえば、もう12月かと思い出し、いくら平気とは言えど、流石にこんな薄着はいつまでも続けるべきではないな、と割とくだらないことを考えながら職員室へと戻った。

 恐喝犯......恐喝犯ねぇ......。

 そんなちっちゃいレベルのこと、ファンタジー感マシマシの世界でも見たことありませんよ。どれだけ小さくても、精々、まさかり担いだ山賊共がゲスな目で私の体を見てくるくらいですよ。まあ、向こうの世界とこっちの世界では随分と戦い方が違うけど、元大書庫の神として、ちっちゃな悪党くらいは片付けてやりましょう。
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