11 / 41
File:1 【Group the detectives《探偵団》】
Page:10 【《File:1 clear》】
しおりを挟む
ーー数時間後。
伊吹の自白に近いような土下座謝罪により、事はすぐに理事長のところまで届いた。理事長も、流石に全校生徒が知ったしまったからにはゆっくりと、なんて事にはしなかった。すぐさま警察がやってきて、伊吹と矢島は連れて行かれた。パトカーに乗る伊吹の顔は、どこか晴れ晴れとしたようなものになっていたのを俺は見た。矢島は何も反省してないかのように悔しそうな顔をしていたが。
神代「いやぁ、ビビったぜ全くよぉー」
放課後の図書室で、俺達は打ち上げにも近いようなことをしていた。なぜ図書室なのかと言うと、流石に冬の屋上は寒い。それに、進藤がここにしか現れないからな。
神代「矢島が現れた時もそうだったけど、お前の面に野郎の拳が飛んできた時はマジで心臓止まるかと思ったぜー」
日比谷「そうそう。私もマジで心臓止まるかと思った。ビビらせないでよね、全く」
2人して不満の声を上げてくるが、俺も少しビビったからお前らがビビる必要はないだろうと思う。
神代「それにしても、なんでお前も進藤も、まるで矢島がやって来ることを知ってるかのような態度をしてたんだ?」
「ああ、それか」
少し時は遡る。
△▼△▼△▼△▼
「進藤、1つ頼みがある」
進藤「......?」
「矢島について知っている情報を教えてくれ」
進藤「ああ、構わないが、なぜ奴を?」
「俺が仕掛けたカメラの映像の最後に、伊吹と矢島が話しているシーンが映ってたんだ。神代にも日比谷にも見せてない」
進藤「なるほど。矢島が気になると」
「ああ」
進藤「......矢島誠、57歳。数学教師であり、この学校の教頭。剣道部の顧問を務めており、二面性のある教師として生徒の間では有名。また、過去に様々な学校を転々としている」
様々な学校を転々か......。教師で、しかも57歳ともなれば色んな学校を転々としていて当たり前だ。だが、わざわざそれを取り上げるということは、きっと普通の数ではないのだろう。
「なあ、矢島が転々とした全ての学校。そこで何かの事件が起きてないか調べてくれないか?」
進藤「分かった。放課後までには調べ上げておこう、少年」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー放課後。
進藤「調べ上げたぞ、少年」
放課後、再び図書室に訪れた俺に、早速進藤が俺のARCWDに1つのデータを送ってきた。
授業は2時間あったはずなのに、一体いつの間にこれだけの量を集められたんだろうな、と思うがそれよりもデータの中身が気になり、俺は早速ファイルを開く。
文章で綺麗にまとめられた矢島の経歴。そしてオマケのように添付された矢島が過去に務めていた学校の写真。
『2003年。矢島誠(22)、東京都八王子市にて私立工学院大学附属高等学校にて教師生活をスタートさせる。10年後、校内にて教師の暴行による殺人事件が発生。その翌年に転任。2014年、開智高等学校に転任。3年後、校内にて教師の性犯罪が発生。翌年に転任。2018年、東京都江戸川区関東第一高等学校に転任。2年後、校内にて教師の暴行事件が発覚。その翌年に転任。2021年東京都新宿区、成城高等学校に転任。3年後、校内にて教師の暴行事件が発覚。その翌年に転任』
ここまでを読み進めた限り、かなりの数転任をしている。しかも、転任する前年に必ず教師の問題行動が起きている。
『2030年、東京都渋谷区、凛成学園に転任。2年と半年後、1人の教師の精神問題が発生。その教師は現在休職』
最後の1文。この学校に来たことが書かれているが、2年後と考えると2032年。今年はもうそろそろで終わりを告げるが、2036年。普通に考えて、転任して更に転任しここに戻ってきたことはないし、そんなことは書かれていない。1人の教師の精神問題......何があった?
進藤「気づいたか、少年」
「ああ。4年前、ここで起きた1人の教師の精神問題」
進藤「奴は勤めていた学校で教師の問題が起こる度に転任をしていた。しかし、この学校では、教師の問題行動があったにも関わらず転任をしていない」
「......流石に、これ以上は無理だと判断した?」
進藤「かもしれない。奴も50を過ぎている。2年しか経っていないのに転任しようにも、引き受けてくれるところが無かったのだろう」
......進藤の考えは最もだ。しかし、本当にそうなのだろうか?
教師の精神問題。これまでの学校では、暴行や性犯罪など、教師としてあるまじき行動があった。だが、ここでは教師の精神問題。もしかしたら、矢島は関係していないのかもしれない。
進藤「最後の精神問題に関しては無視をしていいかもしれない。だが、奴が転任してきた学校では、必ず何かしらの問題が起きているのは明らかだ。どうする?少年」
「......奴が関わっている。そう考えるのが妥当だろう。だとすれば......。進藤、もう1つ頼みがある」
進藤「この証拠映像を解析して欲しい、か?」
「ああ、そうだ」
進藤「分かった。明日までには済ませておこう。だが、こちらからも1つ頼みがある」
「......?」
進藤「もう一度、進路指導室にカメラを設置してくれ。今度は、デジタルではなく、これに遠隔で繋げられるようのやつだ」
「分かった」
進藤の意図は分からないが、聞いといて損はないだろう。
「ところで、精神問題を起こした先生の名前って何なんだ?」
進藤「神崎ヒカリ。それがどうかしたか?」
「いいや、ただ気になっただけだ」
△▼△▼△▼△▼
神代「なるほどなぁ。お前ら2人でコソコソ動いてたっつーのか」
「黙ってて済まないな」
神代「ま、真犯人見つけられたし、それはそれでいいけどな。にしても、矢島の野郎のせいで俺の腕が潰されちまったのか......はぁ」
日比谷「そう考えると、なんか複雑な気持ちになってくるよね。伊吹は悪いんだけど、でも悪くはない。ちょっと矛盾してる。どうしたらいいのか分からない」
「だから黙っておいたんだ。2人の活力を変に損なわせてもダメだと思ったからな」
神代「まあ、事前に真実聞かされてたら、多分、俺あんなに叫べなかったわ」
「だろうな」
正直、神代には話しても、頭の悪さ故に理解せずに俺の期待通りにしてくれるかとは思っていた。だが、こいつは頭が悪いようで意外なところで良くなる傾向がある。無駄に真実は語らない方がいい。
さて、事件は終わったが、本当に終わってくれるだろうか?伊吹と矢島は警察に連れて行かれたが、それと同時にこの学校は5教科の教師を2人も失ってしまっている。俺達の知ったことではないが、理事長は今頃あたふたしている頃だろうな。もし、そんなところに気を使えるほどの余裕があれば、終業式前にこの計画を実行したんだがな。
影山「やっほー!探偵団のみなさーん!取材に来ましたー!」
「げっ......」
影山「あれ?今誰か、『げっ......』って言いませんでした?言いませんでした!?」
どこから嗅ぎ付けてきたのか、うるさい奴が1人、静寂に包まれた図書室へと踏み込んできた。
神代「なんでお前がここに来てんだよ。つか、なんで俺達のこと知ってんだ!」
影山「何言ってんですかー!少なくとも、神代君は全校生徒全員にバレバレですよー?それに、転校生改め清宮君も、みんなは分かってないですけど、私にはバレバレでしたよー?」
「......お前が探偵団なんて名乗るせいだ」
神代「良いじゃねぇか!探偵団!カッコイイだろ!」
日比谷「なんか子供のごっこ遊びみたいな名前......」
進藤「同感だ」
神代「嘘だろ!?味方なしかよ!」
影山「私はいいと思いますよー!探偵団!すっごいワクワクしますね!」
神代「おう!分かってくれるかこのセンス!」
影山「でも、ただの探偵団だと少しダサいですねー」
神代「ズコッ......」
......はぁ。うるさい聞屋とはもう関わらないと思っていたのにな。今度は取材か。大して面白いものを書きも出来ないのに、取材なんてよく堂々と言えたものだ。
日比谷「ところで、なんでここが分かったの?」
影山「なぜかですって?そんなの簡単ですよー。進藤さんが探偵団の一員なんだから、絶対ここで反省会してると思ってましたよー!少し号外の記事書いてて来るの遅れちゃいましたけどー」
神代「号外?」
影山「ええ!号外です!試作品が出来たので見てくださいよー!」
ジャーン、と下書きも下書きの少し大きめの紙を机の上に広げ、影山は「ふふーん」となぜか鼻高々になっている。
『号外!学園を救った探偵団!』
パッと見で分かる恥ずかしいほどの見出し。それだけで俺は読む気が失せた。それは皆も同じようで、全員が一斉に目を逸らした。
神代「お前、これ売るのか?」
影山「売りませんよー、号外なんだからー。全校生徒に1枚1枚丁寧にお渡ししますよー!ってか、わざわざ渡しに行かなくても、もう取材出来たら買わせて欲しいって言ってる物好きな人達もいるんですよー?凄い人気ですねー。私の新聞が、まさか出来上がる前から欲しいなんて言われるのは初めてですよー」
だろうな。あんな新聞読んでるくらいなら道徳の教科書広げてる方がまだ楽しい。
日比谷「言っとくけど、私達の名前載せないでよね」
影山「そこは抜かりなくー!探偵団は探偵団ですから、メンバーの名前は完全に伏せておきますよー!って言っても、神代君だけはバレですけど......あ、私も探偵団の一員なので、仲間の情報は伏せるんで」
「いつ仲間になったんだ......」
影山「私、日比谷さんよりも先にあなた達に協力してたんですけど、その恩忘れましたー?私も探偵団の一員でしょうー!」
「ただつまらないものを押し付けてきただけじゃないか」
影山「またまたー照れちゃってー。意外と可愛いところありますねー清宮君」
......これだから関係を断ち切りたかったんだ。
しばらくは、こいつとの関わりが消えることはなさそうだな。まあ、それも冬休みに入るまでの話になるだろう。
窓の外を眺めれば、空に分厚く黒い雲がかかり、少しずつ雪を降らせていた。これは早くしないと酷くなるな。
......
......
......ひょんなことから始まった俺達の擬似探偵団活動。両親の事故が無ければ出会えなかった"友達"。たったの2週間程度しか過ぎていないというのに、やけに長い時間が過ぎたかのような感覚になる。それだけ、俺が人との関係を断っていたのだろう。我ながら、過去の自分を情けないと罵りたくなる。
俺は変われるだろうか?この学校で、今まで得られなかった仲間を得て、俺の人生は変わってくれるのだろうか?......分からない。それは、俺次第、といったところか。まあいいだろう。少しくらい、明るい性格になってもいいかもしれないな。これを機に。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
八神「クソっ、どこもかしこもダメだ!」
耳にかけていたARCWDを机の上に叩きつけるようにして置き、叫ぶように一言を放つ。
全く、あいつら迷惑なことをしてくれたものだ。よりにもよってこの時期に暴行事件を起こす、いや、発覚させてくれるなんてふざけてやがる。お陰で、こちとら教師が足りなくなって、どこを当たっても今の時期から教師職を始めてくれる者がいない。
......せめて、伊吹か矢島のどちらか片方ならば苦労することは無かったかもしれない。1人を雇えばいいからな。しかし、2人も同時に、それも国語と数学、更には担任を務める者。失ったものがあまりにも痛すぎる。まあ、それは教師の暴行に気づけなかった私の責任でもあるのだが......
どこか、国語も数学も教えられて、しかも担任もやれるような都合のいい人材はないだろうか?なんてバカみたいなことを考えてみるが、考えるだけ無駄な事だ。
八神「......いや、あいつなら」
バカげた考えだと切り捨てようとしたが、よくよく記憶を探ってみると、まさに理想通りの人材がいたことを思い出す。
思いだったが吉日。すぐさまARCWDを耳につけ直し、1つの電話番号にコールする。多分、この時間なら出てくれるはずだ。
『プルルル......プルルル......プルルル......ブツ』
コール音が3回鳴ったところで、相手が出た。
『もしもーし、要件と名前をー。何も無ければ切りまーす』
相変わらず、相手が誰であっても一切物怖じをせず、自らの態度を貫き通す奴だ。3年程前にこの人をちょっとした問題で失ってしまったことを考えると、本当に悔しい気持ちになる。だが、今は彼女を呼び戻すチャンスだ。
八神「もしもし、私だ。八神弘。凛成学園の理事長だ」
『理事長先生?今更なんの用ですか?私に。言っときますけど、あの件はーー』
八神「あー、分かっている。君のせいではない。私のせいだ」
『ならいいんですけど、本当、今更なんの用です?』
八神「君に頼みがある」
『頼み?』
八神「もう一度、教師になる気はないか?」
『無いって答えたらどうします?』
八神「............」
『嘘ですよ。なれるならもう一度なりたいですよ。何のために2教科も教員免許取ったと思ってるんですか。それにしても、余程深刻な状況みたいですね。こんな時期にかけてくるくらいですし、何かあったんでしょう?そう、例えば教師の問題とか問題とか、あと問題とか』
八神「......はぁ。こっちとしても耳が痛くなる話だよ」
『そうみたいですね。で、何やってほしいんですか?国語ですか?数学ですか?それとも顧問ですか?』
八神「......できれば、国語と数学を同時に頼みたい。あと、担任もだ」
『......』
八神「無理なのは承知でお願いしている。しかし、君しかいないんだ」
『......あの、もしかして三島教授ですか?』
八神「確かにあの人は1日じゃ絶対に無理なだけの課題を課してくるが、私は八神だ」
『ですよね。何事もゆっくりすぎる八神理事長ですよね。でも、どうかしました?インフルにでもかかりましたか?』
八神「信じられない気持ちは分かるが、本当に深刻な問題なんだ。多分、来年度までには代わりの教師を用意できるはずなんだ。だから、あと一学期分でいい。私の無茶なお願いを聞いてくれないか?」
『......はぁ。分かりましたよ。私の例のことを隠してくれた恩もありますし、一学期分なら頑張りますよ。ただし、給料は通常の倍以上でお願いしますね』
八神「ああ、そのつもりで迎えるよヒカリ君」
伊吹の自白に近いような土下座謝罪により、事はすぐに理事長のところまで届いた。理事長も、流石に全校生徒が知ったしまったからにはゆっくりと、なんて事にはしなかった。すぐさま警察がやってきて、伊吹と矢島は連れて行かれた。パトカーに乗る伊吹の顔は、どこか晴れ晴れとしたようなものになっていたのを俺は見た。矢島は何も反省してないかのように悔しそうな顔をしていたが。
神代「いやぁ、ビビったぜ全くよぉー」
放課後の図書室で、俺達は打ち上げにも近いようなことをしていた。なぜ図書室なのかと言うと、流石に冬の屋上は寒い。それに、進藤がここにしか現れないからな。
神代「矢島が現れた時もそうだったけど、お前の面に野郎の拳が飛んできた時はマジで心臓止まるかと思ったぜー」
日比谷「そうそう。私もマジで心臓止まるかと思った。ビビらせないでよね、全く」
2人して不満の声を上げてくるが、俺も少しビビったからお前らがビビる必要はないだろうと思う。
神代「それにしても、なんでお前も進藤も、まるで矢島がやって来ることを知ってるかのような態度をしてたんだ?」
「ああ、それか」
少し時は遡る。
△▼△▼△▼△▼
「進藤、1つ頼みがある」
進藤「......?」
「矢島について知っている情報を教えてくれ」
進藤「ああ、構わないが、なぜ奴を?」
「俺が仕掛けたカメラの映像の最後に、伊吹と矢島が話しているシーンが映ってたんだ。神代にも日比谷にも見せてない」
進藤「なるほど。矢島が気になると」
「ああ」
進藤「......矢島誠、57歳。数学教師であり、この学校の教頭。剣道部の顧問を務めており、二面性のある教師として生徒の間では有名。また、過去に様々な学校を転々としている」
様々な学校を転々か......。教師で、しかも57歳ともなれば色んな学校を転々としていて当たり前だ。だが、わざわざそれを取り上げるということは、きっと普通の数ではないのだろう。
「なあ、矢島が転々とした全ての学校。そこで何かの事件が起きてないか調べてくれないか?」
進藤「分かった。放課後までには調べ上げておこう、少年」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー放課後。
進藤「調べ上げたぞ、少年」
放課後、再び図書室に訪れた俺に、早速進藤が俺のARCWDに1つのデータを送ってきた。
授業は2時間あったはずなのに、一体いつの間にこれだけの量を集められたんだろうな、と思うがそれよりもデータの中身が気になり、俺は早速ファイルを開く。
文章で綺麗にまとめられた矢島の経歴。そしてオマケのように添付された矢島が過去に務めていた学校の写真。
『2003年。矢島誠(22)、東京都八王子市にて私立工学院大学附属高等学校にて教師生活をスタートさせる。10年後、校内にて教師の暴行による殺人事件が発生。その翌年に転任。2014年、開智高等学校に転任。3年後、校内にて教師の性犯罪が発生。翌年に転任。2018年、東京都江戸川区関東第一高等学校に転任。2年後、校内にて教師の暴行事件が発覚。その翌年に転任。2021年東京都新宿区、成城高等学校に転任。3年後、校内にて教師の暴行事件が発覚。その翌年に転任』
ここまでを読み進めた限り、かなりの数転任をしている。しかも、転任する前年に必ず教師の問題行動が起きている。
『2030年、東京都渋谷区、凛成学園に転任。2年と半年後、1人の教師の精神問題が発生。その教師は現在休職』
最後の1文。この学校に来たことが書かれているが、2年後と考えると2032年。今年はもうそろそろで終わりを告げるが、2036年。普通に考えて、転任して更に転任しここに戻ってきたことはないし、そんなことは書かれていない。1人の教師の精神問題......何があった?
進藤「気づいたか、少年」
「ああ。4年前、ここで起きた1人の教師の精神問題」
進藤「奴は勤めていた学校で教師の問題が起こる度に転任をしていた。しかし、この学校では、教師の問題行動があったにも関わらず転任をしていない」
「......流石に、これ以上は無理だと判断した?」
進藤「かもしれない。奴も50を過ぎている。2年しか経っていないのに転任しようにも、引き受けてくれるところが無かったのだろう」
......進藤の考えは最もだ。しかし、本当にそうなのだろうか?
教師の精神問題。これまでの学校では、暴行や性犯罪など、教師としてあるまじき行動があった。だが、ここでは教師の精神問題。もしかしたら、矢島は関係していないのかもしれない。
進藤「最後の精神問題に関しては無視をしていいかもしれない。だが、奴が転任してきた学校では、必ず何かしらの問題が起きているのは明らかだ。どうする?少年」
「......奴が関わっている。そう考えるのが妥当だろう。だとすれば......。進藤、もう1つ頼みがある」
進藤「この証拠映像を解析して欲しい、か?」
「ああ、そうだ」
進藤「分かった。明日までには済ませておこう。だが、こちらからも1つ頼みがある」
「......?」
進藤「もう一度、進路指導室にカメラを設置してくれ。今度は、デジタルではなく、これに遠隔で繋げられるようのやつだ」
「分かった」
進藤の意図は分からないが、聞いといて損はないだろう。
「ところで、精神問題を起こした先生の名前って何なんだ?」
進藤「神崎ヒカリ。それがどうかしたか?」
「いいや、ただ気になっただけだ」
△▼△▼△▼△▼
神代「なるほどなぁ。お前ら2人でコソコソ動いてたっつーのか」
「黙ってて済まないな」
神代「ま、真犯人見つけられたし、それはそれでいいけどな。にしても、矢島の野郎のせいで俺の腕が潰されちまったのか......はぁ」
日比谷「そう考えると、なんか複雑な気持ちになってくるよね。伊吹は悪いんだけど、でも悪くはない。ちょっと矛盾してる。どうしたらいいのか分からない」
「だから黙っておいたんだ。2人の活力を変に損なわせてもダメだと思ったからな」
神代「まあ、事前に真実聞かされてたら、多分、俺あんなに叫べなかったわ」
「だろうな」
正直、神代には話しても、頭の悪さ故に理解せずに俺の期待通りにしてくれるかとは思っていた。だが、こいつは頭が悪いようで意外なところで良くなる傾向がある。無駄に真実は語らない方がいい。
さて、事件は終わったが、本当に終わってくれるだろうか?伊吹と矢島は警察に連れて行かれたが、それと同時にこの学校は5教科の教師を2人も失ってしまっている。俺達の知ったことではないが、理事長は今頃あたふたしている頃だろうな。もし、そんなところに気を使えるほどの余裕があれば、終業式前にこの計画を実行したんだがな。
影山「やっほー!探偵団のみなさーん!取材に来ましたー!」
「げっ......」
影山「あれ?今誰か、『げっ......』って言いませんでした?言いませんでした!?」
どこから嗅ぎ付けてきたのか、うるさい奴が1人、静寂に包まれた図書室へと踏み込んできた。
神代「なんでお前がここに来てんだよ。つか、なんで俺達のこと知ってんだ!」
影山「何言ってんですかー!少なくとも、神代君は全校生徒全員にバレバレですよー?それに、転校生改め清宮君も、みんなは分かってないですけど、私にはバレバレでしたよー?」
「......お前が探偵団なんて名乗るせいだ」
神代「良いじゃねぇか!探偵団!カッコイイだろ!」
日比谷「なんか子供のごっこ遊びみたいな名前......」
進藤「同感だ」
神代「嘘だろ!?味方なしかよ!」
影山「私はいいと思いますよー!探偵団!すっごいワクワクしますね!」
神代「おう!分かってくれるかこのセンス!」
影山「でも、ただの探偵団だと少しダサいですねー」
神代「ズコッ......」
......はぁ。うるさい聞屋とはもう関わらないと思っていたのにな。今度は取材か。大して面白いものを書きも出来ないのに、取材なんてよく堂々と言えたものだ。
日比谷「ところで、なんでここが分かったの?」
影山「なぜかですって?そんなの簡単ですよー。進藤さんが探偵団の一員なんだから、絶対ここで反省会してると思ってましたよー!少し号外の記事書いてて来るの遅れちゃいましたけどー」
神代「号外?」
影山「ええ!号外です!試作品が出来たので見てくださいよー!」
ジャーン、と下書きも下書きの少し大きめの紙を机の上に広げ、影山は「ふふーん」となぜか鼻高々になっている。
『号外!学園を救った探偵団!』
パッと見で分かる恥ずかしいほどの見出し。それだけで俺は読む気が失せた。それは皆も同じようで、全員が一斉に目を逸らした。
神代「お前、これ売るのか?」
影山「売りませんよー、号外なんだからー。全校生徒に1枚1枚丁寧にお渡ししますよー!ってか、わざわざ渡しに行かなくても、もう取材出来たら買わせて欲しいって言ってる物好きな人達もいるんですよー?凄い人気ですねー。私の新聞が、まさか出来上がる前から欲しいなんて言われるのは初めてですよー」
だろうな。あんな新聞読んでるくらいなら道徳の教科書広げてる方がまだ楽しい。
日比谷「言っとくけど、私達の名前載せないでよね」
影山「そこは抜かりなくー!探偵団は探偵団ですから、メンバーの名前は完全に伏せておきますよー!って言っても、神代君だけはバレですけど......あ、私も探偵団の一員なので、仲間の情報は伏せるんで」
「いつ仲間になったんだ......」
影山「私、日比谷さんよりも先にあなた達に協力してたんですけど、その恩忘れましたー?私も探偵団の一員でしょうー!」
「ただつまらないものを押し付けてきただけじゃないか」
影山「またまたー照れちゃってー。意外と可愛いところありますねー清宮君」
......これだから関係を断ち切りたかったんだ。
しばらくは、こいつとの関わりが消えることはなさそうだな。まあ、それも冬休みに入るまでの話になるだろう。
窓の外を眺めれば、空に分厚く黒い雲がかかり、少しずつ雪を降らせていた。これは早くしないと酷くなるな。
......
......
......ひょんなことから始まった俺達の擬似探偵団活動。両親の事故が無ければ出会えなかった"友達"。たったの2週間程度しか過ぎていないというのに、やけに長い時間が過ぎたかのような感覚になる。それだけ、俺が人との関係を断っていたのだろう。我ながら、過去の自分を情けないと罵りたくなる。
俺は変われるだろうか?この学校で、今まで得られなかった仲間を得て、俺の人生は変わってくれるのだろうか?......分からない。それは、俺次第、といったところか。まあいいだろう。少しくらい、明るい性格になってもいいかもしれないな。これを機に。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
八神「クソっ、どこもかしこもダメだ!」
耳にかけていたARCWDを机の上に叩きつけるようにして置き、叫ぶように一言を放つ。
全く、あいつら迷惑なことをしてくれたものだ。よりにもよってこの時期に暴行事件を起こす、いや、発覚させてくれるなんてふざけてやがる。お陰で、こちとら教師が足りなくなって、どこを当たっても今の時期から教師職を始めてくれる者がいない。
......せめて、伊吹か矢島のどちらか片方ならば苦労することは無かったかもしれない。1人を雇えばいいからな。しかし、2人も同時に、それも国語と数学、更には担任を務める者。失ったものがあまりにも痛すぎる。まあ、それは教師の暴行に気づけなかった私の責任でもあるのだが......
どこか、国語も数学も教えられて、しかも担任もやれるような都合のいい人材はないだろうか?なんてバカみたいなことを考えてみるが、考えるだけ無駄な事だ。
八神「......いや、あいつなら」
バカげた考えだと切り捨てようとしたが、よくよく記憶を探ってみると、まさに理想通りの人材がいたことを思い出す。
思いだったが吉日。すぐさまARCWDを耳につけ直し、1つの電話番号にコールする。多分、この時間なら出てくれるはずだ。
『プルルル......プルルル......プルルル......ブツ』
コール音が3回鳴ったところで、相手が出た。
『もしもーし、要件と名前をー。何も無ければ切りまーす』
相変わらず、相手が誰であっても一切物怖じをせず、自らの態度を貫き通す奴だ。3年程前にこの人をちょっとした問題で失ってしまったことを考えると、本当に悔しい気持ちになる。だが、今は彼女を呼び戻すチャンスだ。
八神「もしもし、私だ。八神弘。凛成学園の理事長だ」
『理事長先生?今更なんの用ですか?私に。言っときますけど、あの件はーー』
八神「あー、分かっている。君のせいではない。私のせいだ」
『ならいいんですけど、本当、今更なんの用です?』
八神「君に頼みがある」
『頼み?』
八神「もう一度、教師になる気はないか?」
『無いって答えたらどうします?』
八神「............」
『嘘ですよ。なれるならもう一度なりたいですよ。何のために2教科も教員免許取ったと思ってるんですか。それにしても、余程深刻な状況みたいですね。こんな時期にかけてくるくらいですし、何かあったんでしょう?そう、例えば教師の問題とか問題とか、あと問題とか』
八神「......はぁ。こっちとしても耳が痛くなる話だよ」
『そうみたいですね。で、何やってほしいんですか?国語ですか?数学ですか?それとも顧問ですか?』
八神「......できれば、国語と数学を同時に頼みたい。あと、担任もだ」
『......』
八神「無理なのは承知でお願いしている。しかし、君しかいないんだ」
『......あの、もしかして三島教授ですか?』
八神「確かにあの人は1日じゃ絶対に無理なだけの課題を課してくるが、私は八神だ」
『ですよね。何事もゆっくりすぎる八神理事長ですよね。でも、どうかしました?インフルにでもかかりましたか?』
八神「信じられない気持ちは分かるが、本当に深刻な問題なんだ。多分、来年度までには代わりの教師を用意できるはずなんだ。だから、あと一学期分でいい。私の無茶なお願いを聞いてくれないか?」
『......はぁ。分かりましたよ。私の例のことを隠してくれた恩もありますし、一学期分なら頑張りますよ。ただし、給料は通常の倍以上でお願いしますね』
八神「ああ、そのつもりで迎えるよヒカリ君」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる