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第1章【無意識世界の事件簿】
Page:14 「休息。そして次なる相手は……」
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ーー翌日。
「あ、来た来た。おーい!おせーぞ暁ー!」
「すまん。少し寝過ごした」
「少しどころじゃないですよ!暁さん!一時間ですよ!い・ち・じ・か・ん!」
土曜、時間はまだ昼前のこの時間帯。今日は陽の光がよく届くおかげでほんのりと暖かい。
今日は打ち上げ第二弾と称した、お前らただ遊びたいだけだろと言いたくなる集まり。もちろん、メンバーはパトリアムを知る俺含めた四人だけだ。
本当だったら十時には集合の予定だったのだが、俺の遅刻により一時間後ろ倒しになってしまった。少しばかり気が抜けていたのかもしれない。学校の事件を無事に解決して、明日(今日)からは特に頑張ることもないと気を緩めていた。まあ、そのせいでみんなは一時間も俺待ちをすることになっていたらしいが。こればかりは本当に申し訳ないと思っている。
「ま、気が緩みまくるのも分かるけどな。俺だって今日起きたらもう時間まで30分だったしよ」
「惜しかったな、少年。気の緩みさえなければ一方的に金髪を虐められたぞ」
「それはひでーよ進藤……」
「まあ、何でもいいから行きましょうよ!遅れた分はこれから取り戻せばいいんですから!」
というわけで、俺たちは都内某所にあるボウリングやらカラオケやら色々と遊べるレジャー施設へ。こういうところに来るのは初めてだ。地元じゃ、精々寂れた雰囲気のバッティングセンターがあるくらいだったからな。
まずはボウリングからと、俺は全くルールを知らないのだが、「玉投げるだけだから」と神代に背中を押され、レーンに立つ。初心者用のボールを手に握り、テレビとかでよく見るような動きを再現してボールを投げる。……が、案の定、ボールはレーンから外れ、ピンにかすることもなく溝へと落ちていくのであった。
「へったくそだなぁお前」
「初心者にいきなり説明もなしにやれと言われたら、あれが精一杯だ」
「ま、そうに決まってるよな!見てろよ俺が手本ってもんを見せてやるからよ!オラァ!」
神代が勢いよくボールを投げる。真っ直ぐ直線を描きながらボールはピンの中心へ。カランカランといくつかのピンが倒れ、俺がやったのとはまるで違う競技でもやってるんじゃないかと思う場面だった。
「っか~惜しい!あともうちょっとだったなぁ」
「もうちょっとって?」
「ストライクだよ。名前くらい聞いたことあるだろ」
ああ、全部倒すやつのことか。
言い訳するわけじゃないが、田舎育ちにはサッパリ分からんな。この玉もドッジボールくらいの重さかと思いきや、そこそこ腕に負担のかかる重さをしている。神代みたいに勢いに乗せて投げるのは難しそうだ。
続けて二投目を放った俺だったが、やはりイメージ通りにはならず、またしても溝の方へと落ちる。
「まだまだだな、少年」
進藤にまで笑われてしまう始末だ。それならお前がお手本を見せてみろ、と言ってみたところ、進藤がボールを持ってレーンに立つ。そして綺麗な投球フォームから無言で放ったボールは綺麗な弧を描き……
《ストライク!!》
見事、全てのピンを倒してしまったのだ。
「これが実力というものだ。少年、金髪」
「要ちゃんすごーい!」
「「 …… 」」
人は見かけによらない……だな、これは。
進藤は続けてボールを投げ、またしてもストライクを取ってしまう。進藤が投げているボールと同じワイン色のボールを持ってみたのだが、かなりずっしりと来る重さである。筋肉が無いとバカにされるかもしれないが、男の俺が持ってもハッキリ重いと感じるこれを、進藤は軽々と投げている。
……そういえば、向こうの世界では斧を軽々と振り回してたっけか。華奢とまでは行かないが、あの細い腕のどこにそんな力が込められているのだろうか。何かコツみたいなものでもあるのか?
ーー続けて俺たちはカラオケルームの方へ。さっきまで俺も負けじと頑張って投げていたせいで、もう既に腕が痛い。その割にはピン3つが限界だったことが少し、いや、結構悔しい。
カラオケの方では、清水と神代が次々に曲を入れていくのでしばらく休憩だ。明日カバンが持てるかどうか怪しいな、これ。調子に乗るんじゃなかったと反省してももう遅い……。
「少し、意外だったな」
「……何が?」
突然隣に座る進藤がそんなことを言ってくる。
「見た目に反して中々に負けず嫌いだなと思っただけだ。少年は、人には向き不向きがあるとか理由をつけてこういうことは避けるようなタイプだと思っていた」
「……そう見えるのか。そう言う進藤だって、あんな重いボールを持ったり、斧を振り回したり、結構意外だと思うぞ」
「昔から人より力持ちだったんだ。隠すためってわけでもないが、昔は女の子として見てもらいたくて本ばかり読む内気な少女を演じていた」
「へー……」
これまた意外だな。てっきり、男とか女とかあまり気にしないタイプだと思っていたんだが、実はって感じか。
「気付けば本当に本ばかり読む少女になっていた。自分で言ったわけではないが、図書室の番人などと呼ばれるようになったものだ」
「本当は、清水みたいになりたかったとか言うのか?」
「さあ、どうだろうな。私は今の私でいいと思っている。しかし、少し変えたいとも思っている。パトリアムへ興味を示したのもそのことが起因だ」
「パトリアムが?」
「人は無意識下で様々な幻想を抱いている。無意識が生み出す世界を利用すれば、人を変えることなど簡単に出来るのではないかと思ってな」
「そんな物騒なこと出来てたまるか……」
とは口で言ってみたものの、進藤の言うことには一理ある。
夏目先生や、伊吹のように、向こうで倒し、話をした人物はみな簡単に口を割るようになった。向こうで話したからと無意識に口が開いているのかもしれないが、少なくとも、向こうで接触をしたことが要因であることは確かなはず。
もしもの話として考えたことがある。もし、向こうの人物に自殺を促すようなことを言ったら?また別の恐怖を与えてみたら?逆に、幸せな方向へと誘導してみたら?あるいは洗脳……なんてな。
無意識とはいえ、彼らは現実にいた人物の思想を反映している。無意識に変化が起きれば、現実の方にも変化が起きるのではないか。そう考えたことがある。
「例えばだが、セルボスを洗脳して一大国家を築きあげる。妄想もいいところだが、やろうと思えば出来ないわけじゃないと思う」
「ああ。私も、無意識を操れば何でも出来るような気がしている。現状、向こうの世界に行けるのは私たちとあの狐の女性だけ。しかし、それ以外にも行ける人がいる可能性は否定出来ない」
「……」
「もしかしたら、毎日のように起きている各地の事件は、無意識を操ることによって起きているのかもな」
「要ちゃーん!次あなたの番ですよー!」
「ああ」
なぜこんな場でそんなことを言うのだろうかと思ったが、現状向こうの世界に行き来できるのは俺と狐の人だけだ。進藤たちには通行証が無い。それでも、何かのきっかけで自由に行き来できるかもしれんし、だから、安易に仲間を増やすなと言いたいのだろう。
言われずとも、仲間はこれ以上増やす気は無い。そもそも、また新たなパトリアムが存在するとして、見ず知らずの他人のために攻略する気も無いしな。まあただ、狐の人にちゃんとお礼を言っておきたい気持ちはあるが、次にいつどこで出会えるかは分からんし、今は学生をしっかりしていればいい。
そうだろ?親父、お袋。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー夕方、ハチ公前。
「じゃ、また明日な~」
「明日は遅れて来ちゃダメですよ~」
渋谷駅前で、俺たちとは方向の違う二人とは別れ、今日の集まりは解散。何やら明日も集まる気でいるらしいが、俺の腕次第では欠席も考えておかないとな。
「少年、少しいいか」
さて、俺たちも帰るかと駅の方に向かったところで、進藤に袖を引っ張られる。
「どうかしたか?」
「パトリアムについて、色々と調べて分かったことがある。どうも、例のアプリを起動するとレーダーのようなものがあるのだが、知っているか?」
「レーダー?」
何だそれは?と俺もアプリを開いてそのレーダーとやらを探してみる。今まで特に調べもしなかったせいではあるのだが、こうして見るとこのArcDriveというものには色々な機能が備わっているらしい。分かりやすいもので言えば、魔法の習得状況だな。枝分かれ式になっていて、使用回数とか何かしらの条件付きで解放されていくものらしい。まあそれは置いといて。
進藤の言っていたレーダーを開いてみる。すると、WiFiのアンテナのようなマークが右上に現れ、強さは五段階中の五。色は赤と、何やら不穏な雰囲気を漂わせる。
「まさかとは思うが……」
「ああ。そのレーダーは付近にパトリアムがあればその存在を教えてくれるものらしい。以前、ヤジマパトリアムを攻略した時は同じように赤色で五だった。挑戦状を出した後は赤黒くなっていたな」
「で、今回も赤の五ってことは……」
「この付近にパトリアムが存在するということだ」
「……」
またどこかしらの施設が畏怖の対象として見られているのだろう。狐の人は自然発生的なものと言っていたし、何も珍しいことではないのだろうな。そもそも伊吹と矢島の件だって、全国どこかしらの学校に似たような事例があるかもしれないものだったし。
「で、これを攻略しようって言うのか?」
「いや、流石にそんなことは言わない。ただ、この街には思った以上にパトリアムが存在し、勝手に現れては勝手に消えていっているということを共有しておきたくてな。さっきのカラオケでの話に戻るが、これだけあるなら相当好き放題に出来るかもしれんなと考えただけだ。では、私の方面の電車が来るから、少年とはここでお別れだ」
「ああ」
進藤は足早に駅へと向かっていった。俺が乗るやつも後もう少しだな、と遅れて駅に入る。
にしても、今まで特に気にはしなかったが、本来進藤のようにこいつのことをもっと調べておくべきなんだ。何でこんなものが俺に与えられたのか。循環の輪から外れし戦士とは何のことなのか。
よく考えれば分からないことだらけだ。神様でもいるのかどうかは知らないが、こんなものを授けた以上、何かしらの見返りでも求めるのだろうか?
「考えても仕方ないな」
とりあえず、今の俺たちにはこいつを使ったやり方がある。そう考えておくことにしようと考え、俺は帰りの電車を待った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーパシフィコ横浜国立大ホール。
パシフィコ横浜を代表する東日本唯一の国立国際会議場。五千席超えの座席数に加え、舞台はフレキシブルな可動式。
毎日のように何かしらのイベントが行われ、今日もまた、あるオーケストラ団によるコンサートが行われている。
次の挑戦相手は……
「あ、来た来た。おーい!おせーぞ暁ー!」
「すまん。少し寝過ごした」
「少しどころじゃないですよ!暁さん!一時間ですよ!い・ち・じ・か・ん!」
土曜、時間はまだ昼前のこの時間帯。今日は陽の光がよく届くおかげでほんのりと暖かい。
今日は打ち上げ第二弾と称した、お前らただ遊びたいだけだろと言いたくなる集まり。もちろん、メンバーはパトリアムを知る俺含めた四人だけだ。
本当だったら十時には集合の予定だったのだが、俺の遅刻により一時間後ろ倒しになってしまった。少しばかり気が抜けていたのかもしれない。学校の事件を無事に解決して、明日(今日)からは特に頑張ることもないと気を緩めていた。まあ、そのせいでみんなは一時間も俺待ちをすることになっていたらしいが。こればかりは本当に申し訳ないと思っている。
「ま、気が緩みまくるのも分かるけどな。俺だって今日起きたらもう時間まで30分だったしよ」
「惜しかったな、少年。気の緩みさえなければ一方的に金髪を虐められたぞ」
「それはひでーよ進藤……」
「まあ、何でもいいから行きましょうよ!遅れた分はこれから取り戻せばいいんですから!」
というわけで、俺たちは都内某所にあるボウリングやらカラオケやら色々と遊べるレジャー施設へ。こういうところに来るのは初めてだ。地元じゃ、精々寂れた雰囲気のバッティングセンターがあるくらいだったからな。
まずはボウリングからと、俺は全くルールを知らないのだが、「玉投げるだけだから」と神代に背中を押され、レーンに立つ。初心者用のボールを手に握り、テレビとかでよく見るような動きを再現してボールを投げる。……が、案の定、ボールはレーンから外れ、ピンにかすることもなく溝へと落ちていくのであった。
「へったくそだなぁお前」
「初心者にいきなり説明もなしにやれと言われたら、あれが精一杯だ」
「ま、そうに決まってるよな!見てろよ俺が手本ってもんを見せてやるからよ!オラァ!」
神代が勢いよくボールを投げる。真っ直ぐ直線を描きながらボールはピンの中心へ。カランカランといくつかのピンが倒れ、俺がやったのとはまるで違う競技でもやってるんじゃないかと思う場面だった。
「っか~惜しい!あともうちょっとだったなぁ」
「もうちょっとって?」
「ストライクだよ。名前くらい聞いたことあるだろ」
ああ、全部倒すやつのことか。
言い訳するわけじゃないが、田舎育ちにはサッパリ分からんな。この玉もドッジボールくらいの重さかと思いきや、そこそこ腕に負担のかかる重さをしている。神代みたいに勢いに乗せて投げるのは難しそうだ。
続けて二投目を放った俺だったが、やはりイメージ通りにはならず、またしても溝の方へと落ちる。
「まだまだだな、少年」
進藤にまで笑われてしまう始末だ。それならお前がお手本を見せてみろ、と言ってみたところ、進藤がボールを持ってレーンに立つ。そして綺麗な投球フォームから無言で放ったボールは綺麗な弧を描き……
《ストライク!!》
見事、全てのピンを倒してしまったのだ。
「これが実力というものだ。少年、金髪」
「要ちゃんすごーい!」
「「 …… 」」
人は見かけによらない……だな、これは。
進藤は続けてボールを投げ、またしてもストライクを取ってしまう。進藤が投げているボールと同じワイン色のボールを持ってみたのだが、かなりずっしりと来る重さである。筋肉が無いとバカにされるかもしれないが、男の俺が持ってもハッキリ重いと感じるこれを、進藤は軽々と投げている。
……そういえば、向こうの世界では斧を軽々と振り回してたっけか。華奢とまでは行かないが、あの細い腕のどこにそんな力が込められているのだろうか。何かコツみたいなものでもあるのか?
ーー続けて俺たちはカラオケルームの方へ。さっきまで俺も負けじと頑張って投げていたせいで、もう既に腕が痛い。その割にはピン3つが限界だったことが少し、いや、結構悔しい。
カラオケの方では、清水と神代が次々に曲を入れていくのでしばらく休憩だ。明日カバンが持てるかどうか怪しいな、これ。調子に乗るんじゃなかったと反省してももう遅い……。
「少し、意外だったな」
「……何が?」
突然隣に座る進藤がそんなことを言ってくる。
「見た目に反して中々に負けず嫌いだなと思っただけだ。少年は、人には向き不向きがあるとか理由をつけてこういうことは避けるようなタイプだと思っていた」
「……そう見えるのか。そう言う進藤だって、あんな重いボールを持ったり、斧を振り回したり、結構意外だと思うぞ」
「昔から人より力持ちだったんだ。隠すためってわけでもないが、昔は女の子として見てもらいたくて本ばかり読む内気な少女を演じていた」
「へー……」
これまた意外だな。てっきり、男とか女とかあまり気にしないタイプだと思っていたんだが、実はって感じか。
「気付けば本当に本ばかり読む少女になっていた。自分で言ったわけではないが、図書室の番人などと呼ばれるようになったものだ」
「本当は、清水みたいになりたかったとか言うのか?」
「さあ、どうだろうな。私は今の私でいいと思っている。しかし、少し変えたいとも思っている。パトリアムへ興味を示したのもそのことが起因だ」
「パトリアムが?」
「人は無意識下で様々な幻想を抱いている。無意識が生み出す世界を利用すれば、人を変えることなど簡単に出来るのではないかと思ってな」
「そんな物騒なこと出来てたまるか……」
とは口で言ってみたものの、進藤の言うことには一理ある。
夏目先生や、伊吹のように、向こうで倒し、話をした人物はみな簡単に口を割るようになった。向こうで話したからと無意識に口が開いているのかもしれないが、少なくとも、向こうで接触をしたことが要因であることは確かなはず。
もしもの話として考えたことがある。もし、向こうの人物に自殺を促すようなことを言ったら?また別の恐怖を与えてみたら?逆に、幸せな方向へと誘導してみたら?あるいは洗脳……なんてな。
無意識とはいえ、彼らは現実にいた人物の思想を反映している。無意識に変化が起きれば、現実の方にも変化が起きるのではないか。そう考えたことがある。
「例えばだが、セルボスを洗脳して一大国家を築きあげる。妄想もいいところだが、やろうと思えば出来ないわけじゃないと思う」
「ああ。私も、無意識を操れば何でも出来るような気がしている。現状、向こうの世界に行けるのは私たちとあの狐の女性だけ。しかし、それ以外にも行ける人がいる可能性は否定出来ない」
「……」
「もしかしたら、毎日のように起きている各地の事件は、無意識を操ることによって起きているのかもな」
「要ちゃーん!次あなたの番ですよー!」
「ああ」
なぜこんな場でそんなことを言うのだろうかと思ったが、現状向こうの世界に行き来できるのは俺と狐の人だけだ。進藤たちには通行証が無い。それでも、何かのきっかけで自由に行き来できるかもしれんし、だから、安易に仲間を増やすなと言いたいのだろう。
言われずとも、仲間はこれ以上増やす気は無い。そもそも、また新たなパトリアムが存在するとして、見ず知らずの他人のために攻略する気も無いしな。まあただ、狐の人にちゃんとお礼を言っておきたい気持ちはあるが、次にいつどこで出会えるかは分からんし、今は学生をしっかりしていればいい。
そうだろ?親父、お袋。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー夕方、ハチ公前。
「じゃ、また明日な~」
「明日は遅れて来ちゃダメですよ~」
渋谷駅前で、俺たちとは方向の違う二人とは別れ、今日の集まりは解散。何やら明日も集まる気でいるらしいが、俺の腕次第では欠席も考えておかないとな。
「少年、少しいいか」
さて、俺たちも帰るかと駅の方に向かったところで、進藤に袖を引っ張られる。
「どうかしたか?」
「パトリアムについて、色々と調べて分かったことがある。どうも、例のアプリを起動するとレーダーのようなものがあるのだが、知っているか?」
「レーダー?」
何だそれは?と俺もアプリを開いてそのレーダーとやらを探してみる。今まで特に調べもしなかったせいではあるのだが、こうして見るとこのArcDriveというものには色々な機能が備わっているらしい。分かりやすいもので言えば、魔法の習得状況だな。枝分かれ式になっていて、使用回数とか何かしらの条件付きで解放されていくものらしい。まあそれは置いといて。
進藤の言っていたレーダーを開いてみる。すると、WiFiのアンテナのようなマークが右上に現れ、強さは五段階中の五。色は赤と、何やら不穏な雰囲気を漂わせる。
「まさかとは思うが……」
「ああ。そのレーダーは付近にパトリアムがあればその存在を教えてくれるものらしい。以前、ヤジマパトリアムを攻略した時は同じように赤色で五だった。挑戦状を出した後は赤黒くなっていたな」
「で、今回も赤の五ってことは……」
「この付近にパトリアムが存在するということだ」
「……」
またどこかしらの施設が畏怖の対象として見られているのだろう。狐の人は自然発生的なものと言っていたし、何も珍しいことではないのだろうな。そもそも伊吹と矢島の件だって、全国どこかしらの学校に似たような事例があるかもしれないものだったし。
「で、これを攻略しようって言うのか?」
「いや、流石にそんなことは言わない。ただ、この街には思った以上にパトリアムが存在し、勝手に現れては勝手に消えていっているということを共有しておきたくてな。さっきのカラオケでの話に戻るが、これだけあるなら相当好き放題に出来るかもしれんなと考えただけだ。では、私の方面の電車が来るから、少年とはここでお別れだ」
「ああ」
進藤は足早に駅へと向かっていった。俺が乗るやつも後もう少しだな、と遅れて駅に入る。
にしても、今まで特に気にはしなかったが、本来進藤のようにこいつのことをもっと調べておくべきなんだ。何でこんなものが俺に与えられたのか。循環の輪から外れし戦士とは何のことなのか。
よく考えれば分からないことだらけだ。神様でもいるのかどうかは知らないが、こんなものを授けた以上、何かしらの見返りでも求めるのだろうか?
「考えても仕方ないな」
とりあえず、今の俺たちにはこいつを使ったやり方がある。そう考えておくことにしようと考え、俺は帰りの電車を待った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーパシフィコ横浜国立大ホール。
パシフィコ横浜を代表する東日本唯一の国立国際会議場。五千席超えの座席数に加え、舞台はフレキシブルな可動式。
毎日のように何かしらのイベントが行われ、今日もまた、あるオーケストラ団によるコンサートが行われている。
次の挑戦相手は……
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