異界探偵譚

ミナセ ヒカリ

文字の大きさ
上 下
5 / 14
第1章【無意識世界の事件簿】

Page:5 「変人の新聞部員」

しおりを挟む
 ーー翌日、放課後。

「うし、今日はこっちの方で聞き込みだったな」

 放課後はいつもの屋上に集合し、作戦を練る。今回は昨日言っていたように、こちらの方で調査を行う。主な内容としては、昨日メモした生徒からの聞き込み、それともう一つ気になることを調べに行く。

「昨日の生徒をメモしたやつをお前に送る。俺よりもお前の方がこの学校の生徒には詳しいだろ?」

「そうだけど、二人で行くんじゃねぇのか?」

「俺は俺で調べたいことがある。効率的に動こう」

「なるほどな。おっけー、任せとけ」

「あまり感情的になるなよ。向こうの世界にどんな影響があるか分からんからな」

「なるべく頑張る」

 ……まあ、どうせどっか変なタイミングで騒ぎを起こすんだろうなと思ったが、最悪伊吹を刺激しなければいいかと俺たちはここで解散した。

 ーーさて、俺が今日一人になったのにはちゃんとした理由がある。

「新聞部……」

 西校舎三階にある教室のうちの一つ。そこは新聞部の部室であり、今現在は部員一名の変な奴がいるという噂がある。

 変な奴というところに引っかかるが、長い付き合いを予定しているわけじゃないし、軽く知りたいことを知れたらそれで十分だ。

「失礼しまーー」

「おわああああああ!!?」

 俺が扉を開けるなり、奇声を発して廊下の方へ倒れ込んでくる生徒が一名。そのせいで大量の紙が彼女の両手から散らばってしまった。

 変な……奴?

「いってて……!なんでこんな時に限って自動ドアになるんですかったく……」

 その女生徒はぶつけた額を押さえながら恨み言を呟く。

「大丈夫か」

 とりあえず声はかけておく。ついでに手も差し出しておくか。

「あ、ありがとうございます……。はー、いってて……」

 見たところは普通の生徒だな。まあ、髪の色が白いって分かりやすい特徴はあるが、そもそも金髪のヤンキーを見た後だしな。そんな驚くべき特徴でもない。

「あれ、メガネメガネ……」

「……」

 さっき倒れた拍子に飛んでいったのか。ここまでする必要もないと思いながら、少し先にあった赤色のメガネを拾い渡す。律儀に「ありがとうございます」なんて言ってくるが、そもそも俺がこのタイミングでドアを開けてしまったのが原因らしいからな。……これ俺が悪いのか?

 まあ何でもいいか。メガネを渡したら今度は落としてしまった紙の束を拾い出したので、これまた少し手伝う。

「いえ~すみませんね~。私ったら昔からドジなので~」

「気にするな」

「で、で、今日は何の用ですか!?入部!?入部希望ですか!?入部希望ですよね!待っててください今から入部届を持ってきますので~」

「いやーー」

 俺の返事を聞かず、そいつは「あ、ここで待っててくださ~い!」と言ってどこかに行ってしまった。

「誰も入部するなんて言ってないが……」

 恐らく、訪ねてくる人みんなに同じことをしてたため、変な奴と呼ばれるようにでもなったのだろう。部員一名。まあ、仲間は欲しいよな。

 待ってろと言われたので大人しく部室の中で待つ。狭い部室ではあるが、本棚にはギッチリと本が詰められているし、収納用の棚には新聞紙がこれまた大量に積まれている。あとパソコンが結構豪華。一人なのにモニター三つって何に使うんだ?

 まあ、ちゃんと活動はしているということなのだろう。

「おっ待たせしましぶわぁ!!?」

 バタン、と入口でつまづき倒れた。これ多分さっきのは偶然じゃないな。

「お前いつもこんな調子なのか」

「い、言ったでしょう……。ドジばっかりだって」

「……はぁ」

 あてが外れたかもしれんな。

 ここから帰るかとも思ったが、何もせずにただ帰るのも勿体ない。とりあえず、聞くだけ聞いてダメだったら神代と合流しよう。

「えーっとですね、まず入部届の書き方からなんですけどー」

「入部する気はない。今日は聞きたいことがあって来た」

「えーっとですね、まず入部届の書き方からなんですけどー」

 ……?時間巻き戻ってる?

「入部する気はない」

「えーっとですね、まず入部届の書き方からなんですけどー」

「お前、これ入部するって言うまで続ける気か」

「はてなんのことですかね~。人に何か頼むんだったら、まずは自分がそれなりの態度をーー」

「帰る」

 あまりにも面倒な展開が来て、俺は話をぶった切って教室から出ようとした。しかしーー

「待ってください!はな!話だけでも聞いてくだざいよ~!」

 腕に抱き着かれ、どう見ても嘘泣きにしか見えない涙を浮かべられる。そんなので堕ちると思ってるのか。舐めてるにも程がある。

「……それこそ、人に何かを頼むんだったらそれなりの態度をってやつだ」

「分かりました!分かりましたから~!」

「……はぁ」

 正直、変な奴というものを舐めてたな。そりゃ、ちょっと変な奴だってくらいで俺の耳に届くほどの噂にはならないよな。

 来る場所を間違えたと思いながらも、ひとまず話だけは聞いてやろうと席に座り直す。

「あの、うちぃ、見てもらえれば分かると思うんですけど絶賛部員が私一名なわけなんですよ」

「あんな勧誘の仕方をしてたらそうなるだろ。お前何年だ」

「に、2年Bの清水美音です……」

「タメか……」

 なら尚更こんなやり方してるんじゃ新入部員は入って来ないな。

「ここ最近は部室に来てくれる人も全然いなくなっちゃって、で、久しぶりに生徒、それもついこの間来たっていう転校生だったからつい興奮しちゃって……」

 そこそこ生徒の数が多いというのに、パッと見ただけで俺が転校生だと分かったのか。そこは素直に凄いな。

 しかし、そんなモジモジと話されたところで、さっきまでの態度からろくな事にならないと察してしまう。ので、自然と態度も高圧的になる。

「お、お願いします!このままじゃ廃部なんです!」

「俺も2年だぞ。どの道来年誰も入ってこなければ廃部だろ」

「いやまあ、それもそうなんですけど……」

 はて、どうしたものか。正直、神代のは乗りかかった船みたいなものだったから協力してるが、こいつまで助けてやる義理は無いしな。ーーしかし、人を一瞬で誰なのかを把握したあの目は使えるかもしれん。

「分かった」

「え!入ってくれるんですか!?」

「取引だ。今から俺が言うことが出来るんだったら考える。出来なきゃ他を当たれ。俺も他を当たる」

 考えた末、俺は『取引』という形で調査を依頼することにした。出来れば長い付き合いにはしたくなかったのだが、背に腹はかえられまい。

「伊吹翔真。彼に関する噂とか、神代絡みの事件を調べてほしい」

「えー、あの先行の記録ですか……?正直嫌なんですけど」

「だろうな。あまりいい噂は聞かない」

「いえ、そういうわけじゃなくて……。分かりました。何でもいいんですよね?」

「ああ何でもいい。出来るだけ情報があった方が助かる」

「わっかりましたー!気乗りしませんけど調べてきまーす!」

 言葉の節々に嫌そうな態度を感じたが、清水は元気よく教室を飛び出し、その先の曲がり角で転んだもののすぐに起き上がってどこかへ行ってしまった。

「変な奴だな」

 結局感想はそれしか出てこなかったが、あの様子なら明日くらいにでももう色々調べてそうだな。また来ようか。

 にしても、露骨に嫌そうな態度を取っていたのが気になるな。神代みたいに直接の被害に遭ったというのならまだしも、清水は新聞部で特に接点らしい接点は無いはずだ。昨日倒したセルボスのリストにも、清水の名は載ってないしな。

「まあいいか」

 神代と合流しよう。結構人数が多いから、まだ半分くらいだと思うがどうなってるか。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー本校舎、屋上。

「……ここにいたか」

 あれから色々と探し回り、どこにもいなかったためアジトに戻って来たのだが、神代が俺より一足早く帰ってきていた。しかも、結構げんなりとしている。あまり、いい成果は得られなかったみたいだな。

「あんな、全員に聞いて回ったんだよ。そしたらよ、全員が全員口揃えて「知らねぇ」って言うんだぜ?」

「まあ、ある程度は予想出来ていたな」

 元々、本音が見える向こうの世界でも「関わるな」と強調してきたんだ。それは、自分自身に対してでもあり、俺たちに対してのセリフでもあったのだろう。

 そんなに期待はしてなかったが、神代のこの態度を見るとまだ頑張りようがあるとは言えないな。

「どうするよ~暁」

「今聞屋に伊吹について嗅ぎ回ってもらってる」

「え、あの変人相手にか?」

 神代までそう言うか。本当にみんなから変な奴と思われてるんだな。

「ああ。明日くらいには色々と上がってくると思うんだが……」

「お前どうやって頼んだんだよ。え、まさか部室に行ったってか?」

「……その通りだが」

「あいつ、ずっと入部しねぇかって言ってくるだろ」

「さては経験者か」

「そう。弓道やめた時にさ、もう噂掴むのが早すぎてその日には入部!入部!って感じよ。まあ、あんときゃ憔悴しきってて、何も言葉が入ってこなかったし、それ察して向こうから帰っていいって言われたけどさ」

「なるほど」

 清水は噂を掴むまでが早い、と。性格が性格でなければ相当使えそうな奴だな。いわゆる、バカと天才は表裏一体というやつか。

 神代は「あん時流れで入ってなくて良かったな~」と独り言を呟いた。伊吹に恨み辛みを抱え続けるよりかは余っ程マシだったかもしれないと一瞬思ったが、こいつの性格上、それは無理だろうなとすぐに悟る。

「今日は解散しよう。また明日、聞屋の情報次第でどうするか決める」

「りょーかい。はー、あの世界使えば楽に追い詰められると思ったんだけどなー。意外と骨が折れそう……」

「地道にやるしかないな」

「だな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...