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Maledictio4章 【物語の罰】

Maledictio4章10 【終点の青薔薇】

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ヴェルド「クソ!倒しても倒してもキリがねぇ!」

シアラ「幸い別の人同士をぶつければ1発KOですけど、これは中々にキツイですね……」

レラ「2人とも!次が来るよ!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァハト「むぅ、若造にはまだ負けんと息巻いておったが、体力勝負となるとジジイにはキツイのう」

ネメシス「下がってろ親父!1発当てりゃいいってだけなら俺だけでどうにかなる!」

ヴァハト「バカを言うでない!お前はフェイを育てにゃならんじゃろ!……人生には順番というものがある」

ネメシス「……何考えてんだ親父」

ヴァハト「勝てよ!バカ息子共!光れ!神の記憶よ!『記憶の波動!』」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 戦局は既に終局を迎えたと言っても過言ではない。

 精霊界に挑んだ愚かな人間共は、物量という覆し難い壁を前に、限界を超える消耗を強いられその多くが命尽き果てる。

「そしてそれはお前も同じ。いくら神の器と言えど、無限のカラクリは解けておる」

「っ……!」

 1度捕らえたはずの小娘であったが、所詮肉体から離れた精霊の身であれば、その活動時間も普段より短めになる。ましてや、本体はこちらの手の中。こちらから本体に接触を試みれば、普段よりも消耗は激しくなる。

 故に、自信満々であった小娘の顔にも焦りが生まれ、並べる死体の数も徐々に徐々に少なくなってゆく。

「果たして、いつまで抗えるかな」

「っ……!いつまででも抗ってみせますよ!……私は、こんな誰も望んじゃいない未来を壊すために戦ってるんですから……っ!」

 難儀なものだ。

 どうせあと二月もすれば消えてしまうというのに、何をそんなに必死になる?

「世界はあるべき形のまま進めば良いのだ。例え、何度繰り返そうと、それが世の理であるのなら、それを受け入れるまで」

「それじゃあダメなんですよ……っ!」

「……」

「例え、救いのない未来だとしても!幸せになれた未来だとしても!消えてしまったら何も残らない!私が!私たちが生きた証はどこにも残らない!」

「……」

「そんなの嫌ですよ……。もう忘れてほしくないから!私は!私がいた世界のまま!未来へ!」

 ……分からんな。

 何をそこまで意地を張る必要がある?所詮、この先の未来に進んだところで、そこに小娘の姿は無いと言うのに、何故そこまで頑張る?

「……」

 ただ、意地を張ったところで届かぬ壁というものが存在する。

 肉体を失い、魂を欠落し、女神の力を失った小娘の攻撃など、我には届かぬ。

「お前の負けだ」

 最後に飛び込んできた拳は、それまでのどの攻撃よりも力強いものであったが、やはり根本的に足りない力を埋め切ることが出来ず、その拳は我の前を覆うヴェリアによって防がれた。

「諦めろ。小娘ごときがどれだけ足掻こうと我らには届かぬ」

「……届かなくても!」

「最後の最後まで諦めないのが僕達だ!精神世界:月下の花畑に咲く終点の青薔薇クイーン・オブ・ザ・ラストリゾート

 世界に切れ込みが生じたかと思った次の瞬間、星々の土から際限なく青薔薇が咲き始める。

 いわゆる精神世界。今の小娘には出来ぬはずの所業を成したのはーー

「やぁ、精霊王」

「……ラナ。否、ネイと呼んだ方が良いか」

ラナ「どっちでもいいよ。ーーネ……今はサテラか。まだ戦えるかい?」

サテラ「自分自身に心配される日が来るだなんて、思ってもみなかったですね」

ラナ「繰り返した何万回かのうちに1回くらいあるんじゃないかな」

サテラ「さぁ。そんな細かいこと覚えてませんよ!」

 消えた時空の少女が2人。無謀にも、我に挑んできた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

セリカ「もー!何なのよこいつらー!」

ケンセイ「叫ぶのはいいが、それは無駄な体力の消費だ」

セリカ「別にいいわよ!どうせ私戦えないんだし!精霊のみんなもここじゃ何故か呼べないんだし!」

ゼラ「それは多分あのクソ精霊王のせいですね~。精霊王がこの空間への立ち入りを禁止してるんですよ~」

セリカ「精霊界も大変だねぇってぎゃぁぁぁぁぁ!!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 逃げても逃げても追いかけ続けてくる俺たちの偽物。時々撃退してはいるんだが、果たしてこれを撃退と言っていいのか疑うくらいには復活が早い。

 せめて、倒した後10秒くらいは復活に時間がかかるってなってくれたら、休む暇もあったってのに……。

ミカヤ「ここまで来て一向に親玉を見つけられないとは思いもしませんでしたね」

「右も左も分かんねぇ場所だぞ。気付かねぇうちに同じ場所回ってるってことくらいあるぞ」

ミカヤ「それはそれは、考えたくもない可能性ですね……」

 まああくまで可能性だけどな。

 たーだ、こんだけ探し回ってそれらしい音すら聞こえてこねぇってのはなんかおかしいと思う。そもそも、精霊王は愚か、ミカヤ以外の誰とも出会わねぇんだからな。精霊王はどっかに隠れてたとしても、他の奴らはミカヤみたいに合流出来たっていいはず。

 この世界、今更言うでもねぇ事だが、なんかおかしいな。

「ミカヤ、少し試してぇことがあんだけどいいか?」

ミカヤ「状況打破に向けたものですか?」

「実験だよ。出来たらラッキー、出来なきゃまたしばらく追いかけっこだよ」

ミカヤ「であればお好きにどうぞ」

 まあ、わざわざ聞く必要もねぇことだったが、ミカヤの許可も取れたことだし、少しやってみたいことをやってみる。

「精神世界:安らぎを求む夢の世界ドリームワールド・フォー・ピース!」

 母さんから託された夢の世界を拡げる。

 精神世界を繰り出した途端に、それまで好戦的だった偽者たちはその動きを止め、安らかに、眠るように消えていった。

ミカヤ「お見事」

「今やりてぇことから考えたら、副産物みてぇなもんだけどな」

 ただここで偽者をちゃんとした意味で撃退できたのは大きいかもしれない。どうせこの先も増え続ける奴らを、世界が開いている間だけとは言えど妨害を防ぐことが出来るんだからな。

ミカヤ「それで?やりたいことと言うのは?」

「もしかしたらって考えたんだよ。もしかしたら、俺たちが歩いてる場所、冗談抜きで繰り返してるんじゃないかってな」

 水車みたいな感じで、ぐるぐるぐるぐると同じところを周り続けてる。ただの勘だけど、そもそもあいつらの正体がこれまで繰り返してきた世界の残穢なんだ。そいつらが集まる場所がそういう仕組みになってたって不思議はない。

 だから、ただ歩いているだけじゃ一生抜け出せない。なら、まず別の世界に逃げ込んでから、座標をズラして別の場所に出る。そうすれば新しいところに出られんじゃないかと、根拠の無い自信だがそう考えたわけだ。

「ただ、この世界は何度も何度も使えるもんじゃねぇ。1日1回から2回くらいが限界だ」

ミカヤ「ふむ」

「当てずっぽうで移動し続けるなんて出来ねぇ。だから、無理矢理この世界を広げ続けて端っこ見つけ出す!」

ミカヤ「……端?」

「精霊王からしたら、俺たちと戦わなくていいんなら無駄に戦おうとしねぇはずだ。だから、無理矢理ループを突破したやつがいたとしても、自分がいるところには入ってこれねぇよう二重の守りがされててもおかしくない。なら、このまま世界を広げ続けてたら、いつかその守りがある部分に当たるはず!」

ミカヤ「根拠は無さそうですね」

「確証もねぇよ。だけど、やれることはやるだけだ!」

 そのまま数分くらい世界を拡げ続けていると、ふと不思議な感触を包み込んだような気がした。

 当てずっぽうだったけど、俺の考えが外れてなかった証だ。

「今僅かだけど感触があった!」

ミカヤ「ならばそこに向かいましょう!」

「ああ!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ラナ「全く、君という人間はどれだけ諦めが悪かったのか嫌になるよ」

「それ、自分自身にも言ってることになりますよ!」

 ラナの精神世界を利用し、青薔薇を巻き上げヴェリアを一体一体確実に片付ける。

 個々としての反応は消滅しても、消滅した傍からすぐに新しいのが湧いてくるため、状況は相変わらず膠着状態。何か新しい一手が欲しくなってきたところ。

「ヴァル達はいつ頃になったら合流するんですか」

ラナ「さあ。こればっかりは彼の機転が早めに利くことを願うしかないよ!」

 ラナが立てた作戦。それは、ヴァルの精神世界とラナの精神世界を衝突させ、彼にこの場所を伝え合流してもらうことである。側はこの時代のものでも、中身は英雄王となった彼なのだから、それくらいは思いついたっていいはずと、我ながら中々に人任せな作戦だと思ったけど今はそれに頼るしかない。

 ただ、それでヴァルが合流しても、その先がまた同じことの繰り返しになる可能性は否定出来ない。ヴァルの炎は確かに強力だけど、それも無限には続かない。

 こんなことなら、ここまで大事になる前に動き始めれば良かったと今更後悔するけどもう遅い。

「あとはヴァル以外のみんながどう合流するかにもかかってますけど……」

ラナ「……ヴァルが途中で拾ってくれたらいいけど、その前に死んじゃうだろうねぇ」

「……」

 フウロとグリードだけじゃない。またたくさんの命が消えてしまう。私が巻き込んだせいで、死ななくてよかったはずのみんなが死んでしまう。

 私がいなければ、私さえいなければ、こんな悲しい物語が生まれることもなかったのに……。ただ人並みの幸せを願った結果がこの始末。

「それでも、どうにかするのが私たちの役目!ラナ!まだ行けるよね!」

ラナ「同じ君だよ。君が行ける限りは僕も行けるさ。ーーそれに」

「黒炎!!」

 空に亀裂が走り、そこから真っ黒な炎と紫のモヤが一斉に飛び出してくる。

 黒い炎は辺りにいたみんなの偽物を容赦なく燃やし尽くし、そこに灰すら残しはしない。

ヴァル「悪ぃ!遅くなった!」

ミカヤ「私もいますよ」

 英雄と、……いや、今は味方なんだけど、どうしても憎い目で見てしまうミカヤが遅れながらに合流してきた。

ラナ「その様子だと、他のみんなは……」

ヴァル「ああ。同じ場所に飛ばされてたミカヤ拾うだけで精一杯だ。他は俺の体が持たねぇ」

ラナ「分かったよ。じゃあここは選手交代だ。僕が他のみんなを連れて来る。君はーー」

ヴァル「あの野郎ぶっ飛ばしゃいいんだろ!やるぜ!」

 ヴァルはそのまま全身に炎を纏わせながら空高くに飛び上がる。

ラナ「全く、英雄となっても落ち着きの足りない子だ」

「そうですね」

 でも、それが彼なんだ。

 彼が落ち着きを見せるのは後ろに誰もいない時だけ。でも、今は違う。きっと頼ってくれてるはずの私がいて、オマケだけどミカヤもいるから、彼は最前線に立って思う存分戦うことが出来る。

「ラナ、任せましたよ」

ラナ「ああ。なるべく五体満足息がある状態で連れて来るよ」

 ラナはそう言い残すと精神世界ごとこの世界から消えた。

「さあ、第2ラウンド開始です!」
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