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IIIStorys 【勝利の女神】

第12章14 【助けを求める声】

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デン「弱いなぁ、弱いなぁ。やりごたえがねぇなぁ」

 断続的に鳴り響く爆発の音。鼓膜を打ち破るくらいにガンガンとうるさい音が響いてくる。

 王都の街並みは、かつてアポカリプスが襲来した時以上に酷い有様になり、そして今回はその事態を収めてくれる救世主的な存在はいない。否、元々はいたが、いなくなってしまったと言ったところだろうか。

「全く、勝手に死んでるんじゃないわよ……」

 崩れ落ちた建物の陰に隠れ、私はボソッとそう呟いた。舞い散る砂埃のせいでただでさえ悪い視界がもっと酷くなってる。音で敵の位置を特定しようにも、これだけ爆破音が鳴り響いたら相手の足音が掻き消されてしまう。

 セリカ達ともはぐれてしまったし、死なないでいてくれると助かるんだけど、何人かくらい死人が出てもおかしくなさそうなのよね。

「今からお姉ちゃん達を呼ぶにも間に合いそうにないし、せめてあのクソ親父がこっちの状況を何かしらの直感で知ってくれてたらなぁ」

「呼んだか」

「ええ、呼んだわ。クソ親父が現れてくれな……えぇ!?」

 後ろの方を見ると、ニカッと気持ち悪い笑みを浮かべるクソ親父がいた。

ヴァルガ「ラナとかいうお前そっくりな顔した奴に呼ばれてな、人数制限はあったが助っ人を連れて来てやったぞ」

 見れば、更に後ろの方にお父さんとお姉ちゃん、そしてテミがいた。

アルテミス「ちゃんと助けてって言われないと助けないよ」

「……バカね。死ぬかもしれない戦場にガキが出て来てんじゃないわよ」

ウルガ「私から見ればあなた達はまだまだガキですよ。強がってないでたまには私達のところに顔を見せに来なさい。後ついでに恋愛相談にでも来なさい」

「誰がするか!」

 邪魔にし来たのかなんなのかハッキリさせてほしいわ。

イデアル「とりあえず、あそこにいる爆弾魔を倒せばいい感じ?」

「そんな感じだけど、近付くだけで爆弾が懐に仕込まれてるわよ」

アルテミス「何それ怖っ」

ウルガ「まあ、どんなものか私が確認して来ますよ。あなた達はその後で来なさい」

 そう言うと、ウルガ余裕たっぷりな歩き方でデンの方に向かって行く。止めようかとも思ったけど、現状を打破出来るとすればあの人くらいしかいないので私はここで自分を治癒する時間に当てた。

デン「お?見慣れねぇ顔だな」

ウルガ「どうもこんにちは爆弾魔さーー」

《シュドーーーーンっ!!》

 ……元々視力は悪いからあんま見えなかったんだけど、それでも何だか出オチみたいなものを見てしまったような気がする。

デン「なぁんだ、雑魚じゃねぇかよ」

ウルガ「どうもこんにちは爆弾魔さん」

デン「……」

 だけど、あの親父はこれでやられるような雑魚ではない。爆発に乗じてデンの背後に回り、赤い瞳の圧をデンの背後に突きつける。

デン「おっさん。あんた何者だ」

ウルガ「あなた達が狙う神様とやらの父親です」

デン「……」

 突如としてお父さんがいた位置に爆発が巻き起こる。しかし、それもまた見切ったかのようにお父さんは空に逃げており、そこから波動をデンにぶつける。

ヴァルガ「さて、俺も行くか!」

 波動の衝撃で吹き飛んできたデンに対し、ヴァルガが凄まじい一撃をデンの溝落ちに打ち込む。

デン「がッ……!!」

イデアル「よし、私も!」

 これまたお姉ちゃんが吹き飛んだ方向に合わせて魔法陣を展開し、そこに天からの雷を降り注がせる。

アルテミス「フェイト・グラン・アロウズ!」

 最後に、ダウンしたところに合わせてテミが神々しい矢の雨を降らせ、トドメを刺した。

 ーーのだが、デンは平気な顔をして立ち上がった。

デン「だー、強ぇなぁ。でも俺の方がもっと強ーー」

《ドンッ!》

 変に目立つ感じで立っていたので、私はLoversOrbisを取り出して素早くメモリを装填し、相手の心臓部に狙いを定めて引き金を引いた。

 容赦ない一撃がデンの心臓部を貫こうとしたが、なぜか当たる寸前で弾の勢いが急速に弱まり、エネルギー弾はその場で消滅してしまった。

ネロ「デン。私に助けられるようなことはあってはなりませんよ」

 デンを庇うようにして、あの忌々しい男が現れた。

ネロ「やれやれ、この程度の雑魚を相手に何を苦戦することがあるのですか?デン。1度完膚なきまでに追い詰めた相手でしょう?しかも今は神が逃げ出してる状況です」

デン「分かってるよ!んでもなぁ、なぁんかこっちの気が乗らねぇって言うかなんつーか……」

ネロ「言い訳は結構です。では、そんなあなたに変わって私がこの状況を打破してみせましょう」

 ーーどこか、どこか懐かしい雰囲気がした後、辺りが真っ白に染まり、そして私の意識は絶えてしまった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ネイりん……」

 僅かな衝撃、急激に迫ってくる死の予感。

ヴェルド「どけオラァ!」

 横から氷の拳が通り過ぎ、私の命を奪わんとしていた白装束の集団を押し退ける。

シアラ「セリカさん、大丈夫ですか!」

「シアラ……に、ヴェルド……」

ヴェルド「危ねぇところだったな、セリカ」

「う、うん。助けてくれてありがと」

シアラ「例には及びません。それよりも今は皆さんと合流しましょう」

 シアラ達と共に走り出し、私達は王城の前広場に辿り着いた。

ゼイラ「あ、セリカ様、ご無事でしたか!」

「うん、なんとか。それより他のみんなは?」

ゼイラ「グランメモリーズの皆様はセリカ様で最後の1人です。ですが……」

 見た感じ、全員いるにしてはやけに人数が少ないような気がする。

シドウ「王都各地にて戦いが勃発し、更には王都の至る所に白装束の集団が現れております。今現在、ギルドの者と騎士団を各地に派遣し、その対処に当たらせております」

ゼイラ「ということです」

 なるほど。それであまり人がいないのか。

ヴェルド「後は、セリカみてぇに突然別の場所に転移させられた奴らの回収だな。んまあ、たった1人で飛ばされたのはセリカくれぇなもんだったが」

「……やっぱ私ついてないなぁ」

 そう呟いた直後に、視界の先で大爆発が起きる。そして、一瞬遅れて爆音が響き渡り、咄嗟に耳を塞ぎ、目を閉じた。

 そしてーー

ネロ「我ながら少しやりすぎてしまいましたかね」

デン「やりすぎだっつーの!あいつらはともかく俺らまで死んじまったらどうすんだよ!」

ネロ「大丈夫ですよ。全てが終わった暁には私が元通りにしますから」

 視界の先、爆破の中心からこちらに歩いてくる人影に私は見覚えがあった。

 こいつらは、ほんの数日前に私達のギルドを破壊し、ネイりんを殺しかけた人達。薄々気づいてはいたけど、やっぱりこの騒動は彼らによるものだったのか。

「……あ、ヒカリん!?」

 足元にドスッと何かがぶつかる感触があり、そちらを見てみると、そこには全身ボロボロで意識を失ってしまったヒカリんがいた。

デン「あー、そいつ多分死んだかもしれねぇわ。なんせ、ボスの攻撃全部1人で受け止めようとしてたからなぁ。それも無意識っぽかったし」

 嘲笑うようにして彼はそう言い、倒れたヒカリんに向けて追い打ちを放つかのように爆破させてきた。

シアラ「セリカさん!」

 近くにいた私もその爆破に巻き込まれ、ろくに受け身もとることが出来ずに後ろの方の壁へとぶち当たった。

「っ……!」

 自分の体のことよりも先に、腕の中に抱き止めたヒカリんの様子を見る。

「……息はある」

 ただ気を失ってるだけっぽい。それにしても、爆発は遠目から見ても相当なものだったのに、それを全部1人で受け止めて無事だなんて、やっぱりヒカリんも人間やめてるよ……。

ネロ「さて、他が気になりますが、まずはあなた達を殺すことから始めましょう。特に、そこの神の片割れはまだ生きてますね。余計なことをされる前に殺しましょう」

 直後、瞬きをしただけの時間で奴が詰めてくる。

「っ……!」

「ダメです!」

 今度こそ死んじゃうと思ったが、一瞬で別の人物が私達の間に割り込んできた。

ネロ「……?」

「私が創ったギルドの者に手出しはさせません!」

 魔法陣が所狭しに並べられ、無数に現れた魔法という魔法が一斉にネロへと襲いかかる。ネロは後ろの方へと軽く飛び、広い場所で魔法を全て受け流した。

ネロ「誰ですかね?私が呼んだ人物の中に、あなたのような人はいませんが」

 ネロは真っ直ぐに私の前へ立つ金髪の少女へ問いかける。

「私の名前はゼラ。グランメモリーズの創造主にして、ヨミさんの1番の友人です!あと、強欲の魔女です!」

 そう言うと、また大量の魔法陣がネロを囲み、様々な属性の魔法が放たれる。

 あまりにも大量な魔法だが、それだけ打ってマナは尽きないのだろうかと心配になる。あのネイりんですら戦いが終わった後にはその戦闘量に応じて体調不良を起こすというのに、これだけ大量の魔法を放ったら、それこそ今この瞬間から体が持たなくなるはずだ。でも、見た感じ、ゼラの様子に変化はない。ただ必死にネロを追い詰めようとしている。

「そういや、ゼラって名前、どこかで……」

 そうだ。本人も名乗ってた通り、初代グランメモリーズギルドマスターのゼラ。ネイりんが話してた1000年前にいた魔女って呼ばれる人種のうちの1人。でも、話じゃとっくに死んでるって聞いてるのに、なんで私達の前に……。

「いや、今はそんなことどうでもいい。ヒカリんを何とかしないと」

 緑色の鍵を取りだし、アルラウネを召喚する。そして彼女に頼み、ネイりんの治癒を始めた。

ヒカリ「……セリ……カ」

「ひ、ヒカリん……」

 流石化け物みたいな力を持ったヒカリん。治癒を初めてすぐに起き上がった。

ヒカリ「……セリカ。ネイが死んだわ」

「……ぇ」

 起きて早々、あまりにも突拍子もないことを話し出したヒカリんだけど、その顔は嘘じゃないってことを表している。

ヒカリ「ダメね。あの子が何とかしてくれるんじゃないかって淡い期待を抱いてる自分がいるの。でも、その助けはもう来ない。神は私達を見放したのよ」

「ど、どうしたのヒカリん……。ヒカリんがそんなこと話すだなんて……」

ヒカリ「……相当参ってるのよ。流石に、あの子の死は想定外だったわ」

「……」

 誰よりも負けることが嫌いだったヒカリんがすっかり諦めてしまってる。体の傷のこともあるんだろうけど、それ程までにネイりんの死が、心に大きなダメージを与えているのだ。

 かく言う私も、その事実をスっと受け止めることは出来なかったが、ヒカリんの態度を見れば見るほどにそれが現実なんだって受け止めてしまう自分がいて、必死に否定しようにも私自身の心さえも曇ってしまう。

ネロ「おや?後ろの2人は降参ですか」

ゼラ「え」

ネロ「ふむ。まあ、勝手に諦めてくれるのであれば私としてはやりやすくて助かりますね」

 瞬間、また私達足元が光り、爆破の前兆をゆっくりと感じとれた。でも、だからといって逃げる気にはなれない。なれなかった。

グリード「バカヤロォォォォォォ!!」

 ーーだけど、これまたボロボロな格好をしたグリードに抱えられ、私達は爆発に巻き込まれずに済んだ。

フウロ「セリカ、ヒカリ。何があったから知らんが、お前ららしくないぞ。特にヒカリ!」

ヒカリ「……」

 ヒカリんは完全に口を閉じてしまった。

ライオス「お前ら、本当にどうした?」

 続々とギルドのみんなが集まってくる。

 話すべきか否か、私には分かりかねない。だから私も同じように口を閉じたが、その直後にヒカリんがボソッと呟いた。

ヒカリ「ネイが死んだ……」

「「「 ……は? 」」」

ヒカリ「あ……」

 どうやら無意識に呟いていたらしく、ヒカリんはその直後にやってしまったというような顔をした。

ヒカリ「……死んだ。死んだのよ。心の繋がりが無くなっちゃったの……!もう、この戦いが始まる以前に、死んじゃったのよ……!」

 ーーだけど、ヒカリんはもう全てを諦めたかのような顔をして、その場に泣き崩れて言葉を吐いた。

ネロ「そんな言葉で、私がこの場を立ち去るとでも思っているのですか?」

 瞬間、物凄く怖い顔をしたネロが私達の目の前に立ち、ヒカリんの胸ぐらを掴んで問いかけた。

ネロ「神が死んだ?そんなわけないでしょう。私が相手にしていたのは、私以外に殺されることを許されない神です。あなたが今吐いた言葉は、私達を欺くための嘘にしか過ぎない。死ね」

 また、視界が真っ白に染まる。そして、今度はちゃんと痛みを感じている。

 死ぬ……本当に、死ぬ……。

ヒカリ「っ……させない!」

 真っ白な視界が急速に色を付けていき、痛みもすぐに収まった。

ヒカリ「死んだってのを認めないならそれでいい……!私だって認めたくないからっ……!」

 ヒカリんの背後に現れた大量の銃火器。その数々が一斉にネロへと照準を合わせ、デンが放つ爆破音に負けず劣らずの爆音を鳴らす。

ヒカリ「っ……!」

 ネロを引き剥がすことに成功したものの、ヒカリんは力を使った反動でその場に倒れてしまった。

ネロ「やれやれ、女神の力というのは恐ろしいものです。ですが、その代償は大きい。もう諦めたらどうですか?そうすれば、潔くあなた達を殺してあげますよ」

ヒカリ「誰……が……」

ネロ「やれやれ。諦めの悪い人達だ」

 そう言うと、ネロはなぜか私達から離れるように後ろへと下がった。

 ーー直後、空から何かが落ちてきた。

「がはッ……!」

「ネイ……じゃなくてラナ!?」

「やれやれ、危ないところでした」

 ラナが降ってきたところから変な格好をしたおっさんが降ってきた。

ネロ「助けが欲しい時はちゃんと言うんですよ。タハルカ」

タハルカ「ええ分かっております。お陰様で助かりました」

 あのネロという男、まさかラナを退けたって言うの?

ネロ「おや、まだ助けが必要ですか。ならば」

 直後、周囲の建物を薙ぎ倒すように龍が4体吹き飛んできた。

ラナ「クソ……なんという力だ……」

ゼラ「ヨミさん!」

ラナ「僕はいい。アイリはどこだ!」

 アイリ……?

 ラナの必死な顔を見て、私も辺りを見渡す。すると、建物の陰で横たわっている女の子の姿を見つけた。

「ラナ!もしかして、この子……」

 私が女の子を抱えてラナのところに行くと、ひったくるようにラナが女の子を取り上げた。

ラナ「っ……まさか、まさかだ……」

ネロ「予定外の人物が何人かいるようですが、どれも私の手にかかればこんなものですよ」

ラナ「クソ……」

 あのラナが諦めたかのようにガックリと腰を落としてしまった。あのラナが……

 ラナが……ヒカリんが……みんなが……

 もう、この場には誰も戦える人はいなかった。みんな、敵の圧倒的な力を前に憔悴しきっていた。

ネロ「やっと諦めましたか」

デン「手間のかかる奴らだったな」

タハルカ「ええ。ですが、後は仕上げをするだけ。ネロ様。よろしくお願いします」

ネロ「分かりました」

 また、あの攻撃が来るのだろうか。

 視界が真っ白に染まり、急速に死の実感が訪れるあの世界。ーーでも、一瞬で死ねるのなら、それでいいのかな。

ゼラ「皆さん!まだ終わってはーー」

ネロ「いいえ、終わりです。全員、終わりです」

 ……でも、やっぱり死にたくない。死が迫るだけであんなに怖いんだから、本当に死ぬだなんてしたくない。

 お願い……。お願いだから助けて……。

「ネイりん……ヴァル……」
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