317 / 434
最終章 【創界の物語】
最終章14 【旅】
しおりを挟む
『少しだけ違いますね。私が死ぬことにはなんの意味もない。ネイさんが死ぬことには、意味がある』
ーー遠い記憶の中をさまよっていた。
追体験とは言えど、ただ出来事を客観的に見ているだけであり、俺が直接何かをするわけじゃない。でも、過去の俺を見ていると、少しずつ記憶の蓋が開いてきて、思い出せなかったことを徐々に思い出せるようになっている。
「ヒカリが戻ってくるまでの物語……。正直、俺に関係してる話じゃねぇな」
俺はそう呟いた。今は、どんな些細なことでも口にしていたい気分だった。
ネイ「そうじゃよ。これが、ヒカリちゃんが戻ってくるまでの過程。ここら辺は、あまりお主と関係してないのう。でも、聞いて損はない話じゃろ」
「ああ、そうだな」
俺が忘れていたヒカリのことを思い出した。ヒカリは、口が悪くて、演技力が高くて、だけど素直になれないバカで、最高の仲間だ。
まだ、忘れてることがあるんじゃねぇかとも思う。だけど、ヒカリについて、これだけ思い出せれば十分だ。
隣の席でヒカリは退屈そうに本を読んでいる。俺が全てを思い出すまで、こいつは何にも関わることが出来ないからだ。そんなこいつの為にも、早く思い出さなきゃな、全てを。
ネイ「ここまでを思い出せたのなら、次に行くか、ヴァル」
「……ああ」
ここまで読み進めた内容は、どれも楽な話ではなかった。とてもキツくて、海の中で溺れてるかのように息苦しいものだった。
自分のことではあるのだが、これを成し遂げてきたのは俺じゃないような気がしてならない。あんな出来事を、何をどうすればお前は乗り越えられるんだ。なぁ、『俺』。
……
……
……
そうして、また記憶の旅が始まる。次はどんな物語なのか、どこまで読み進めたら、俺は全てを思い出せるのか。……そもそも、なんで先の話から過去の話に向かって読み進めてんだろうな。本を差し出してくるのはネイだから、そこらへんの意図がよく分からん。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『お主にとって、ミイはそれほどの価値じゃなかろう!』
『私にとって、ミイさんは私を変えてくれた大事な存在なんです!だから、いいんです。私は、もう十分に生きましたから』
ーー2人の女の子が言い合いをしている。片方は鬼のような角を生やしていて、もう片方は龍の羽と尻尾を生やした人物。
見まごうことなき人物、ネイとユミだ。
記憶の蓋がまた1つ開き、俺にこの2人のことを思い出させる。
記憶がーー
ーー大切な記憶が
なぜ、俺は涙を流すのだろうーー
少女の叫び声が聞こえていた。
ずっと傍で聞き続けていた悲しくなる声だ。でも、今ではそれが唯一安心できる声になっている。
俺、まだ覚えてんだな。
思い出せないだけで、忘れたわけではなかった。ちゃんと、心に残っているんだ。どんな記憶だろうが。
「ユミって、今この場にいるのか?いるんだったら、会っておきたいんだけど」
ネイ「会いたいか?なら、会わせてやるぞ。綺麗になったもんじゃな。随分と女の子らしうなった。これも、ユミが変えてくれたお陰なのじゃろうかな?」
記憶の本から解放され、俺はハッキリとした記憶でユミの姿を想像する。
確か、最後に見たのはネイの誕生日あたりだったか……。あの時は、武人って程じゃねぇが、動きやすさに特化した薄い服装だったな。オマケに、ついさっき読んだ鬼のユミと違って、スラッと流れる髪の毛をポニーテールにしてたし……。一体、女の子らしくなったらどんな姿になるんだろうな、と想像しながら待っていると、ネイの後ろから黒髪ロングの和服美人が現れた。
「久し振りだな、ヴァル。つっても、お前の感覚じゃ1年程度か」
見た目からは想像出来ない男勝りな口振り。……変わってるのが見た目だけで良かったぜ。
ユミ「お前、ちゃんと思い出したんだろうな?俺のことも、こいつのことも」
「……ああ、思い出した。お前らは大切な人だ、それだけ知ってれば十分だろ?」
ユミ「正解だ、ヴァル。はぁ~、お前が記憶喪失になってるとかうんとか聞いたから心配してたんだぞ?」
「その節はどうもだ。つっても、まだ1日も経ってねぇだろ」
俺の感覚では、かなり長い時間を過ごしたと思っているのだが、実際現実の世界は1日も過ぎていないとネイから聞かされている。ーーここ、現実の世界ではないよな?まあいいか。
ユミ「まあそうなんだが、こうしてる間にも向こうの世界はどえらいことになってる。お前には、もっと早くに全てを思い出してもらわなきゃならねぇんだが……」
ネイ「待てユミ。誰がそこまで話していいと言った?」
和やかに見ていたネイが急に割り込んできた。
ユミ「いいだろ別に。どうせ、思い出したら思い出したで話すつもりだったんだろ?なら、もう話してもいい頃じゃねぇかよ」
ネイ「まだじゃ。まだ見とらん記憶が1章分ある」
ユミ「へいへい」
2人が何を話そうとしていたのかは分からないが、数秒と経たないうちに、俺は再び本の中の世界へと潜り込むことになった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『なんで……助けに……来たの……』
悲しい声だ。誰も信じてくれない、誰も助けてはくれない。信じられるものが全て消え、掴む藁すらも無くなってしまったかのように溺れている。
龍人だったからという、ただそれだけの理由がこの子を苦しめる。龍人の何がいけないのか、当時の俺にはよく分からなかったし、記憶を取り戻してからも分からないままだ。でも、これに関しては分からないままでいいと思う。
だって、俺はーー
「お前のことが好きだ」
『俺がお前を見捨てるわけねぇだろ』
2つの声が反響するように響く。片方は俺の本音で、もう片方は恥ずかしさを包み隠した言葉。
『……怖かったんじゃ……ないの……』
「心が見えるとか言っておきながら、全然見えてねてぇよな、お前って。好きになった子を怖いと思うわけねぇだろ」
『お前、本当に心が見えてんのか?俺はそんな感情一切抱いてねえよ。今はお前を助ける。ただそれだけを思ってる』
ーー今だから言える本当の言葉。
「……ごめんな……さい……本当は、分かってた......。あなただけは......そんなことを......思って......ないって...... セリカも......そうだった......。なのに......私は......感情のままに......当たり散らして......」
ーー今だからこそ分かるネイの本当の気持ち。
"死にたくない"という言葉には、肉体的にではなく、記憶の方での意味も込められていた。記憶を無くし、一時は自分という存在を理解出来なくなっていた俺には、その気持ちがよく分かる。
自分という名の他人に自分を支配されていく恐怖。何事にも変え難いものだ。
あの時から、俺は分かったフリをしていた。口先ばっかで、俺は何も分かっちゃいなかった。だから、死にたくないと言った子を死なせてしまうんだ。
本当、どうしようもねぇ人間だと思う。本当のことを言えって偉そうに言うが、1番本音を隠してるのは俺自身だったんだ。記憶を取り繕っただけの俺がこう知ったげに思ってしまうのだから、お前は本当にバカな奴だったんだぜ。
「お前が望むなら、俺がずっと守ってやる。どうしたいかなんて聞かなくても分かる」
『お前は、一体どうしたかったんだ?』
『死にたく……ない……』
ーー本当の声など最初から聞こえていた。あえて、聞き直す必要なんてなかった。俺は、ただ一言「"俺が""ずっと""お前だけを"守ってやる」と言えば良かったんだ。なんて、後悔したところで過去は変わらねぇし、今が幸せに生きられているのだから何も問題はない。そんな考えもあるだろう、だが、もう少し言葉選びは上手くしておきたかったという小さな後悔がある。
「記憶なんざ関係ねぇ。俺がお前のことを好きで、お前も俺のことが好きで、それがずっと続けばいいだけの話だったんだ。何が神様相手だ、んなもんぶっ飛ばせばいいだけの話だろ」
記憶の旅人、深海の龍王、闇の魂、悪魔の科学者、龍の涙、黒の心、時の歯車。ーーそして記憶の結晶。
"俺"という人物を象るための記憶が全て集まり、真の意味で完璧な"俺"へと戻る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーー全部、思い出した」
俺の意識は、再び真っ白な空間に所狭しと本棚が突き詰められた空間へと戻る。右隣にはなぜか頬を赤らめたネイがいて、真正面にはムスッとした表情のヒカリがいる。
「ーーあの……俺なんかした?」
ヒカリ「別にぃ。ただ、ちょっと羨ましいなって」
もしや、記憶の中だと思って呟いていたことが、全部寝言という形で筒抜けになっていた?え?マジで?だとしたら、独り言なら大丈夫でも、他人に聞かれると超恥ずかしいことを言ってた気がするんだが……
ユミ「お前も男だな、ヴァル。この1000年間、俺は1回もネイがデレるところを見たことはないってのに、こうも一瞬で落としちまうとはな」
ネイ「誰が同じ女相手にデレるか、バカもの!」
ユミ「な?ずっとこんな調子だったんだぜ、1000年間」
1000年もキャラがブレねぇってある意味すげぇな。お前らなんか魔法使ってんだろ。
ネイ「ーーヴァル、ちゃんと全部思い出してくれたんですよね」
「ああ、全部思い出した。ーーありがとな、ネイ」
俺はネイの頭を軽く撫で、目の前で相変わらずムスッとした表情を続けるヒカリに目を向ける。
「時間かかってしまってゴメン。だけど、俺はもう大丈夫だ。だからーー」
ヒカリ「分かってるわよ。手伝えばいいんでしょ、手伝えば。……はぁ、あんた、1つ言っとくけど、私は過去のヒカリであって、あんたが知る未来のヒカリじゃないんだからね。そこんとこ理解しておくように」
「ああ、分かってる」
とは言うが、正直過去とか未来とかあまり関係ないように思う。だって、こいつ過去も未来も性格一緒だろ。何1つとして変わらねぇ安心感がある。
ヒカリには言うことを言ったので、次はネイの方に顔を向ける。
「ネイ、話してくれ。未来で何があったのか。いや、何が起きるのかを」
ネイ「はい。少し長くなりますけど、ヒカリちゃんも聞いててくださいね」
ヒカリ「……」
ーー遠い記憶の中をさまよっていた。
追体験とは言えど、ただ出来事を客観的に見ているだけであり、俺が直接何かをするわけじゃない。でも、過去の俺を見ていると、少しずつ記憶の蓋が開いてきて、思い出せなかったことを徐々に思い出せるようになっている。
「ヒカリが戻ってくるまでの物語……。正直、俺に関係してる話じゃねぇな」
俺はそう呟いた。今は、どんな些細なことでも口にしていたい気分だった。
ネイ「そうじゃよ。これが、ヒカリちゃんが戻ってくるまでの過程。ここら辺は、あまりお主と関係してないのう。でも、聞いて損はない話じゃろ」
「ああ、そうだな」
俺が忘れていたヒカリのことを思い出した。ヒカリは、口が悪くて、演技力が高くて、だけど素直になれないバカで、最高の仲間だ。
まだ、忘れてることがあるんじゃねぇかとも思う。だけど、ヒカリについて、これだけ思い出せれば十分だ。
隣の席でヒカリは退屈そうに本を読んでいる。俺が全てを思い出すまで、こいつは何にも関わることが出来ないからだ。そんなこいつの為にも、早く思い出さなきゃな、全てを。
ネイ「ここまでを思い出せたのなら、次に行くか、ヴァル」
「……ああ」
ここまで読み進めた内容は、どれも楽な話ではなかった。とてもキツくて、海の中で溺れてるかのように息苦しいものだった。
自分のことではあるのだが、これを成し遂げてきたのは俺じゃないような気がしてならない。あんな出来事を、何をどうすればお前は乗り越えられるんだ。なぁ、『俺』。
……
……
……
そうして、また記憶の旅が始まる。次はどんな物語なのか、どこまで読み進めたら、俺は全てを思い出せるのか。……そもそも、なんで先の話から過去の話に向かって読み進めてんだろうな。本を差し出してくるのはネイだから、そこらへんの意図がよく分からん。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『お主にとって、ミイはそれほどの価値じゃなかろう!』
『私にとって、ミイさんは私を変えてくれた大事な存在なんです!だから、いいんです。私は、もう十分に生きましたから』
ーー2人の女の子が言い合いをしている。片方は鬼のような角を生やしていて、もう片方は龍の羽と尻尾を生やした人物。
見まごうことなき人物、ネイとユミだ。
記憶の蓋がまた1つ開き、俺にこの2人のことを思い出させる。
記憶がーー
ーー大切な記憶が
なぜ、俺は涙を流すのだろうーー
少女の叫び声が聞こえていた。
ずっと傍で聞き続けていた悲しくなる声だ。でも、今ではそれが唯一安心できる声になっている。
俺、まだ覚えてんだな。
思い出せないだけで、忘れたわけではなかった。ちゃんと、心に残っているんだ。どんな記憶だろうが。
「ユミって、今この場にいるのか?いるんだったら、会っておきたいんだけど」
ネイ「会いたいか?なら、会わせてやるぞ。綺麗になったもんじゃな。随分と女の子らしうなった。これも、ユミが変えてくれたお陰なのじゃろうかな?」
記憶の本から解放され、俺はハッキリとした記憶でユミの姿を想像する。
確か、最後に見たのはネイの誕生日あたりだったか……。あの時は、武人って程じゃねぇが、動きやすさに特化した薄い服装だったな。オマケに、ついさっき読んだ鬼のユミと違って、スラッと流れる髪の毛をポニーテールにしてたし……。一体、女の子らしくなったらどんな姿になるんだろうな、と想像しながら待っていると、ネイの後ろから黒髪ロングの和服美人が現れた。
「久し振りだな、ヴァル。つっても、お前の感覚じゃ1年程度か」
見た目からは想像出来ない男勝りな口振り。……変わってるのが見た目だけで良かったぜ。
ユミ「お前、ちゃんと思い出したんだろうな?俺のことも、こいつのことも」
「……ああ、思い出した。お前らは大切な人だ、それだけ知ってれば十分だろ?」
ユミ「正解だ、ヴァル。はぁ~、お前が記憶喪失になってるとかうんとか聞いたから心配してたんだぞ?」
「その節はどうもだ。つっても、まだ1日も経ってねぇだろ」
俺の感覚では、かなり長い時間を過ごしたと思っているのだが、実際現実の世界は1日も過ぎていないとネイから聞かされている。ーーここ、現実の世界ではないよな?まあいいか。
ユミ「まあそうなんだが、こうしてる間にも向こうの世界はどえらいことになってる。お前には、もっと早くに全てを思い出してもらわなきゃならねぇんだが……」
ネイ「待てユミ。誰がそこまで話していいと言った?」
和やかに見ていたネイが急に割り込んできた。
ユミ「いいだろ別に。どうせ、思い出したら思い出したで話すつもりだったんだろ?なら、もう話してもいい頃じゃねぇかよ」
ネイ「まだじゃ。まだ見とらん記憶が1章分ある」
ユミ「へいへい」
2人が何を話そうとしていたのかは分からないが、数秒と経たないうちに、俺は再び本の中の世界へと潜り込むことになった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『なんで……助けに……来たの……』
悲しい声だ。誰も信じてくれない、誰も助けてはくれない。信じられるものが全て消え、掴む藁すらも無くなってしまったかのように溺れている。
龍人だったからという、ただそれだけの理由がこの子を苦しめる。龍人の何がいけないのか、当時の俺にはよく分からなかったし、記憶を取り戻してからも分からないままだ。でも、これに関しては分からないままでいいと思う。
だって、俺はーー
「お前のことが好きだ」
『俺がお前を見捨てるわけねぇだろ』
2つの声が反響するように響く。片方は俺の本音で、もう片方は恥ずかしさを包み隠した言葉。
『……怖かったんじゃ……ないの……』
「心が見えるとか言っておきながら、全然見えてねてぇよな、お前って。好きになった子を怖いと思うわけねぇだろ」
『お前、本当に心が見えてんのか?俺はそんな感情一切抱いてねえよ。今はお前を助ける。ただそれだけを思ってる』
ーー今だから言える本当の言葉。
「……ごめんな……さい……本当は、分かってた......。あなただけは......そんなことを......思って......ないって...... セリカも......そうだった......。なのに......私は......感情のままに......当たり散らして......」
ーー今だからこそ分かるネイの本当の気持ち。
"死にたくない"という言葉には、肉体的にではなく、記憶の方での意味も込められていた。記憶を無くし、一時は自分という存在を理解出来なくなっていた俺には、その気持ちがよく分かる。
自分という名の他人に自分を支配されていく恐怖。何事にも変え難いものだ。
あの時から、俺は分かったフリをしていた。口先ばっかで、俺は何も分かっちゃいなかった。だから、死にたくないと言った子を死なせてしまうんだ。
本当、どうしようもねぇ人間だと思う。本当のことを言えって偉そうに言うが、1番本音を隠してるのは俺自身だったんだ。記憶を取り繕っただけの俺がこう知ったげに思ってしまうのだから、お前は本当にバカな奴だったんだぜ。
「お前が望むなら、俺がずっと守ってやる。どうしたいかなんて聞かなくても分かる」
『お前は、一体どうしたかったんだ?』
『死にたく……ない……』
ーー本当の声など最初から聞こえていた。あえて、聞き直す必要なんてなかった。俺は、ただ一言「"俺が""ずっと""お前だけを"守ってやる」と言えば良かったんだ。なんて、後悔したところで過去は変わらねぇし、今が幸せに生きられているのだから何も問題はない。そんな考えもあるだろう、だが、もう少し言葉選びは上手くしておきたかったという小さな後悔がある。
「記憶なんざ関係ねぇ。俺がお前のことを好きで、お前も俺のことが好きで、それがずっと続けばいいだけの話だったんだ。何が神様相手だ、んなもんぶっ飛ばせばいいだけの話だろ」
記憶の旅人、深海の龍王、闇の魂、悪魔の科学者、龍の涙、黒の心、時の歯車。ーーそして記憶の結晶。
"俺"という人物を象るための記憶が全て集まり、真の意味で完璧な"俺"へと戻る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーー全部、思い出した」
俺の意識は、再び真っ白な空間に所狭しと本棚が突き詰められた空間へと戻る。右隣にはなぜか頬を赤らめたネイがいて、真正面にはムスッとした表情のヒカリがいる。
「ーーあの……俺なんかした?」
ヒカリ「別にぃ。ただ、ちょっと羨ましいなって」
もしや、記憶の中だと思って呟いていたことが、全部寝言という形で筒抜けになっていた?え?マジで?だとしたら、独り言なら大丈夫でも、他人に聞かれると超恥ずかしいことを言ってた気がするんだが……
ユミ「お前も男だな、ヴァル。この1000年間、俺は1回もネイがデレるところを見たことはないってのに、こうも一瞬で落としちまうとはな」
ネイ「誰が同じ女相手にデレるか、バカもの!」
ユミ「な?ずっとこんな調子だったんだぜ、1000年間」
1000年もキャラがブレねぇってある意味すげぇな。お前らなんか魔法使ってんだろ。
ネイ「ーーヴァル、ちゃんと全部思い出してくれたんですよね」
「ああ、全部思い出した。ーーありがとな、ネイ」
俺はネイの頭を軽く撫で、目の前で相変わらずムスッとした表情を続けるヒカリに目を向ける。
「時間かかってしまってゴメン。だけど、俺はもう大丈夫だ。だからーー」
ヒカリ「分かってるわよ。手伝えばいいんでしょ、手伝えば。……はぁ、あんた、1つ言っとくけど、私は過去のヒカリであって、あんたが知る未来のヒカリじゃないんだからね。そこんとこ理解しておくように」
「ああ、分かってる」
とは言うが、正直過去とか未来とかあまり関係ないように思う。だって、こいつ過去も未来も性格一緒だろ。何1つとして変わらねぇ安心感がある。
ヒカリには言うことを言ったので、次はネイの方に顔を向ける。
「ネイ、話してくれ。未来で何があったのか。いや、何が起きるのかを」
ネイ「はい。少し長くなりますけど、ヒカリちゃんも聞いててくださいね」
ヒカリ「……」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる