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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】
第10章44 【決意の記憶】
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時の流れとは本当に早いもので、気づけばあの戦いから4ヶ月は過ぎ去っていた。
ヴァル達のところに駆けつけたはいいけど、結局私達ってなんかしたっけ?と未だに疑問に駆られている。ヒカリん曰く「あんたらがいなかったら、もしかしたらネイは目覚めなかったかもしれない」というから、まあ、意味はあったんじゃないかな、と納得してはいる。
そんなこんなで今日も私はギルドの扉を開け、果たして、今日はどんな喧嘩が見られるのだろうかと身構えていたら、かなり衝撃的な喧嘩を見てしまった。
ネイ「だーからなんで分かってくれないんですか!私、確かに体は17近づきの16ですけど記憶年齢だと6兆は超えてるんですよ!?ババアですよ?ババア!」
ウルガ「そういう問題ではない。お前は私の娘です。どこの馬の骨とも知らぬ猛犬に愛娘をやるわけにはいきません」
ネイ「17年育児放棄してたやつがなんで父親ぶってるんですか!」
イデアル「まあまあ、落ち着いてよ2人とも......」
ネイ「お姉ちゃんはこっちの味方しててくださいよ!じゃないとこのキモ親父ずっと帰りませんよ!」
ヴァルガ「おい、仮にも父親だというものに対してなんだその口の利き方は!ラクでもそこまでは言わんぞ!」
ヒカリ「クソ親父が、あんた私とは関係があっても、ネイとは一切何の関係もないでしょ!」
ユミ「あー、どいつもこいつもうるせぇよ。もっと静かに話し合えよ」
えーっと、あの戦い以降金髪になったネイにヒカリにヴァルと、ウルガ、ヴァルガ、イデアルの6人が向かい合って席を組み、ユミが怠そうに議長のような形で2組の間に座っている。
ミラ「あら、セリカ。いらっしゃい」
呆然とする私を見てか、ミラさんが近づいてきた。
セリカ「これどういうこと?」
ミラ「なんかねぇ、今朝突然ネイファミリーが訪ねてきて、どこから仕入れてきたのかあの子の結婚話を切り出して絶賛修羅場中」
なるほど、よく分からん。って、ネイの結婚!?
セリカ「え、ネイりん結婚すんの!?誰と?」
ミラ「あら?セリカなら気づいてると思ってたのだけれど......」
セリカ「いや初耳なんだけど......」
もしかして、1年とちょっと前くらいに見せたあの謎のウィンクがそれだったの?
ミラ「まあ、知らないのなら話すわね。ヴァルとよ」
なんとなく察してたけど、やっぱりヴァルとか......先越されちゃったけど、ネイなら仕方ないかって気持ちになる。
ミラ「本当、何があったのかまでは知らないけど、子供だと思ってた2人がよくあそこまで行けたわよねって感じ」
セリカ「はぇー......」
その程度の感想しか出ないくらいに私の心が落ち着きを取り戻させようとしている。ここにきて三者面談かーー人数ちょっと違うけどーーとりあえず、静観していようか、と思い、気づかれにくいと思う席に腰を下ろす。
ウルガ「とりあえず、結婚を認めることはできません。2人とも20歳になってから出直してきなさい」
ネイ「あんたに認められなくても勝手に結婚しますよ!式はこのギルドで上げて一生の愛を誓うんですよ!」
ヴァル「おい、そこまではまだ話してないだろ......」
ネイ「ヴァルももっと男を見せてください!じゃないとこいつらいつまで経っても引きませんよ!」
ヴァル「えぇぇぇ......」
ウルガ「とにかくです!私は認めません!はい、この話は終わりにしてこの街を案内しなさい」
イデアル「お父さん本音が漏れてるよ......」
ヴァルガ「そうだぞ。折角早めに話をつけて家族水入らずで観光でもしようかという計画を立てていたのに、それがばれたら大変だぞ」
ヒカリ「心の声と実際に言いたいことが逆になってるよ?クソ親父」
ヴァルガ「む、しまった」
なんだこの痴話喧嘩。ふだんのあれと違って平和すぎるし面白すぎるんだけど。ヤバい、笑いを堪えるのに必死で、背中が震えている。あれ?いつの間にかフウロが隣にいて私と同じように背中震わせてるんだけど。
ネイ「もういいです。この分からず屋共」
ネイりんは諦めたかのようにして立ち上がるが、次の瞬間気を失ったかのようにして倒れた......ところをすかさずヴァルが抱える。おお、カッコいい。私にもやってほしいと思ったけど、私普通に健康な体だしなぁと諦めた。
ユミ「残念だが、今日はこいつの都合のいい電池切れで終了だ。まだなんかあるんだったら日を改めてから来な」
ユミはやっと終わったとばかりに欠伸をして外に出ていった。多分、その辺の森にいる魔獣狩りにでも行くのであろう。
ウルガ「まだです。娘の監視の下ではありますが、やっと認められた貴重な開放日なのです。ここで引き下がるわけにはいきません」
ヒカリ「いや、そこは引き下がりなさいよ」
ウルガ「時にヴァル君。こうなっては仕方ない。ここら辺に広々とした空間はありませんか?」
ヴァル「あーっと、ここら辺なら......って待て。ものすごく嫌な予感がするんだが!」
ウルガ「いいから教えなさい。認めませんがお義父さんとなるかもしれない存在。言うことは聞きなさい」
物凄い殺気で前髪がふわっと立ち、隙間から物凄い形相となったウルガの目が見える。話し方と娘2人の顔からして、勝手に優しそうな顔だと思ってたけど、どうやら2人とも目つきは母親譲りらしく、ウルガの目つきはかなり悪かった。
ヴァル「え、えーっと、この辺に噴水のある広場があるんだが......」
ウルガ「よろしい。ならばそこで決闘です」
やっぱり......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
イデアル「お父さん、あんまり調子に乗らないようにねー」
ウルガ「分かっています。ですが、これは負けられない戦い。少々本気を出させていただきます」
と、いうわけで、ヴァルさんの案内で本当に噴水のある広場へとやって来た。広いか?って言われると、ちょっとうーん?ってなるくらいだけど、まあ、全力を出して戦わなければ大丈夫でしょ、と安堵したい気持ちである。
セリカ「ヴァールー、出来るだけ地形変えないようにねー」
ヴァル「あー、なるべく努力する」
......どうしよう。嫌な予感しかしない。彼、やる気なさそうにしてるけど、目に火が灯ってるよ。あれ、やる気の目だよ。
せめて、ネイが起きててくれればまだ抑えられたのかなぁ?今は私の膝ですっごい気持ち良さそうに寝てるけど......。見れば見るほどに可愛い妹。これが神様だなんて信じられないよ。
ミラ「はーい、じゃあ勝負開始ー!」
ウルガ「それでは、行きましょうかヴァル君。私は全力でーー」
ヴァル「極龍王の咆哮!」
......
......
......
Oh......すっごい炎。見てるだけのこっちにまで飛び火するくらいに火花が散ってきたよ......。
ウルガ「無......念......」
ヴァル「とりあえず、これで良かったか?」
ヴァルさんがこっちを見てそう訊ねてくる。私はそれに対し、親指を立ててグッドサインを送る。
ヴァル「おらよ、全力でやれっていうから全力でやったぞ。これなら俺にはネイを守る力があるって認められるよな?」
ヴァルさんがお父さんの腕を引っ張り上げる。お父さんはどことなく不満そうな顔をしているが、やがて諦めたかのようにしてため息をついた。
お父さんには悪いけど、ここで負けてもらわないと、こっちとしてもネイとしても色々困るからね。これで良かった。うんうん。
ウルガ「......認めざるを得ないでしょう。いくら油断していたとはいえ、私は負けた。そしてあなたは強い......ですが、やはり、娘をやるわけにはいきません」
......お父さん。いい加減、諦めようよ。正直に言って物凄くめんどくさいんだけど。
ウルガ「私は、彼女を17年もの間放置し、更にはこうして正常になった今でもあまり触れ合うことが出来なかった。ええ、私が悪いのは分かっていますよ。ですが、それでも私は彼女、ネイとの時間を得たい。だから、今あなたに渡す訳にはいかないのです」
本音はそれか......。まあ、お父さんとネイは全然関わりを持ってないからな。というか、ネイが私達の世界に全然顔を出さないのが原因なんだけど。でも、今のを聞いてお父さんの気持ちもちょっとは分かる。まだ、何も親子らしいことをしてないのに、もう結婚して更に遠くに行くなんて、父親としては許せないことなのだろう。
......でも、父親なら娘の幸せくらい祝福してあげてもいいと思うけどなぁ。
ウルガ「............それでも、祝うしかないのでしょう」
ヴァル「......?」
ウルガ「いいでしょう。娘であるネイはあなたに任せます。ですが、私はあなたを認めた訳ではありません。ええ、決して。私は、ただ娘の幸せを邪魔するのは邪険かと思っただけです」
ヴァル「お、おう」
ヴァルさんの手を握ったお父さんだけど、まだ不満があるみたい。それを表すかのように、チラチラとこっちの方を見てはため息を幾度となくついている。
......そうだね。お父さんも、このまま何もなしで終わるのは悲しいだろうね。
イデアル「ネーイ。どうせもう起きてるんでしょう?」
ネイ「......気づいてましたか」
イデアル「さっき、火花が散ってきた時に若干眉がピクってなってたから」
ネイ「見逃しませんね。本当に......」
ネイが目を覚まして、お父さん達の方を見た。お父さんは一瞬こちらに気づいたっぽいけど、すぐに目を逸らしてヴァルから手を離した。
ウルガ「さて、私達は帰りましょうか。もうやるべき事は終わりました」
イデアル「......本当にこれだけでいいの?」
終わり終わり、と近づいてきたお父さんに対して、私はネイの顔を向けてそう言う。
イデアル「少し、デートでもして来たら?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
で、お姉ちゃんの提案で、私は渋々とお父さんとこの街を観光しています(今更見るものないけど)。
ウルガ「私達の世界とは随分と違ったものです。見てるだけで新鮮味しか感じられません」
ネイ「そう、そうれは良かったですねー」
あーあ、あのまま寝たフリでもしとけば良かったなぁ。まさか、お姉ちゃんがあんな提案をしてくるとは考えなかった。やっぱ、右目は常に黄金の瞳にしてた方がいいのかな?何かと便利なことが多いし、陰口とか聞こえたところで何も気にしないし、何よりゼラ達の幻影を映せる。
......いや、あれはいざって時にこそ使って意味があるものだ。普段使いするようなもんじゃない。
ウルガ「おや、これは何でしょうか?」
ふと、お父さんが八百屋の前で足を止め、赤色の果実に目を留めている。
ネイ「それはカラン。お父さん達の世界ではイブヤって呼ばれてたはずの果物」
ウルガ「ほう、あれですか。確かに、若干似てはいますね」
ネイ「似てるんじゃなくて全く同じものだったはずだけどね」
記憶は不確かだけど、この世にある農作物は大体全ての世界に存在している。名前とか使われ方は違えど、世界が繋がっていることの証になっている。
ウルガ「ふむ、土産に何個か買いましょうか。親父、これを10個」
「あいよ!カラン10個な。5ゼルだ」
八百屋のおっちゃんが金銭を求めるように手を差し出すと、お父さんはなぜか私に目を向けてきた。
ネイ「せめて、お金を携えてから話をしましょうか?」
ウルガ「異界から来た私が、この世界の金銭を持っているとでも?」
ネイ「......」
仕方ないので、私は亜空間から財布を取り出して金を渡す。
「世の中不思議な客もいたもんだ」
去り際、おっちゃんが小さくそう呟いていたのを私は聞き逃さなかった。
龍人嫌いが多かったこの街も、この間の戦いで、この世界を救ったのは金髪の龍人だという噂が広がり、すっかり龍人を英雄視するようになった。全く、歴史を学ばない者はすぐに手のひらをくるくるさせるんだな、と私はフードの位置を調整しながらそう思う。ん?なんでフードを被ってるのかって?そら、金髪の龍人なんて正に私のことじゃない。めんどうなことは極力避けるのが怠惰の魔女なのよ。
ウルガ「ふむ、病室の味がしますね」
ネイ「早速食べてる......ってか、病室の味って、やっぱ向こうにあるものと一緒じゃない」
ウルガ「そうですね。ですが、これには優しさという味があります。そう、娘が奢ってくれたというね」
ネイ「5倍にしてツケにするよ?」
ウルガ「生憎、私はまだまだ院内生活が続くので、返せるのは何年先になるか分かりませんよ」
ネイ「時間巻き戻すか先に進めるかして万全な状態にしてあげることも可能なのだけれど、どうする?お姉ちゃんに話したら是非お願いって言われる内容なのだけれど」
ウルガ「おっかない能力です。遠慮しときますよ、まだしばらくはゆっくりしていたいですし」
ネイ「そう、じゃあ、まだ無職ヒモのニート生活を続けるんですね」
ウルガ「言い方が悪いですよ。結婚式には呼んでくださいね」
ネイ「っ!ゲホッゲホッ!」
あまりに急な話のせいで、思わず血反吐を吐いてしまった。
ウルガ「不意打ち成功、と言いたいところでしたが、大丈夫ですか?」
ネイ「誰のせいだと思ってるんですか......。今の私、超絶不健康体だってこと忘れてたんですか。というか、それが理由で結婚を反対されてると思ってたんですけどゲホッ!」
ウルガ「......ええ。あなたがただの人間ではないことを知っていますし、だからこそ、私の傍から離したくなかったのです。いつ、何になるかも分からない娘を、幸せになれるのかどうかも分からない場所に置き去りにしたくない。ずっと、私の傍で安定させておきたい。でも、どうやら私が間違っていたようです。私があーだこーだ言うことにより、あなたは却ってストレスを抱えてしまっている。あんな男に渡すのは嫌でしたが、それもまた運命。大人しく、父親らしく祝福してあげようと今思いましてね」
ネイ「......お父さん」
ウルガ「ただし、2日に1回のペースで帰ってくること」
ネイ「さっきまでの私の感動返せ」
ウルガ「ははは。冗談ですよ、冗談。あなた、いえ、ネイはネイのやりたいようにやれ。ユニバーなら、きっとそう言うでしょうから」
ネイ「......」
お母さん......。
忘れていたものが、まだ喉の奥につっかえていたようだ。散々涙を枯らしたのに、まだ泣きたいことが残っていたなんて......。
私、やっぱりこのお父さんは苦手だ。血が繋がっているといえど、私のお父さんはギリテアの他にいない。それでも、家族だと言うのであれば、話すしかないのか。
ネイ「......お母さんのことで、話さなきゃいけないことがある」
ウルガ「......そうですか。では、家族みんなで話でもしましょうか」
お父さんが俯いた私の肩を突っついて、前方を見るように促す。
全然気づかなかったけど、どうやらもうギルドの前にまで戻ってきていたようだ。お姉ちゃん達が手を振っている。
ウルガ「ちょっとだけ、過去の物語を漁るというのも、まあ、悪くはないですね」
ヴァル達のところに駆けつけたはいいけど、結局私達ってなんかしたっけ?と未だに疑問に駆られている。ヒカリん曰く「あんたらがいなかったら、もしかしたらネイは目覚めなかったかもしれない」というから、まあ、意味はあったんじゃないかな、と納得してはいる。
そんなこんなで今日も私はギルドの扉を開け、果たして、今日はどんな喧嘩が見られるのだろうかと身構えていたら、かなり衝撃的な喧嘩を見てしまった。
ネイ「だーからなんで分かってくれないんですか!私、確かに体は17近づきの16ですけど記憶年齢だと6兆は超えてるんですよ!?ババアですよ?ババア!」
ウルガ「そういう問題ではない。お前は私の娘です。どこの馬の骨とも知らぬ猛犬に愛娘をやるわけにはいきません」
ネイ「17年育児放棄してたやつがなんで父親ぶってるんですか!」
イデアル「まあまあ、落ち着いてよ2人とも......」
ネイ「お姉ちゃんはこっちの味方しててくださいよ!じゃないとこのキモ親父ずっと帰りませんよ!」
ヴァルガ「おい、仮にも父親だというものに対してなんだその口の利き方は!ラクでもそこまでは言わんぞ!」
ヒカリ「クソ親父が、あんた私とは関係があっても、ネイとは一切何の関係もないでしょ!」
ユミ「あー、どいつもこいつもうるせぇよ。もっと静かに話し合えよ」
えーっと、あの戦い以降金髪になったネイにヒカリにヴァルと、ウルガ、ヴァルガ、イデアルの6人が向かい合って席を組み、ユミが怠そうに議長のような形で2組の間に座っている。
ミラ「あら、セリカ。いらっしゃい」
呆然とする私を見てか、ミラさんが近づいてきた。
セリカ「これどういうこと?」
ミラ「なんかねぇ、今朝突然ネイファミリーが訪ねてきて、どこから仕入れてきたのかあの子の結婚話を切り出して絶賛修羅場中」
なるほど、よく分からん。って、ネイの結婚!?
セリカ「え、ネイりん結婚すんの!?誰と?」
ミラ「あら?セリカなら気づいてると思ってたのだけれど......」
セリカ「いや初耳なんだけど......」
もしかして、1年とちょっと前くらいに見せたあの謎のウィンクがそれだったの?
ミラ「まあ、知らないのなら話すわね。ヴァルとよ」
なんとなく察してたけど、やっぱりヴァルとか......先越されちゃったけど、ネイなら仕方ないかって気持ちになる。
ミラ「本当、何があったのかまでは知らないけど、子供だと思ってた2人がよくあそこまで行けたわよねって感じ」
セリカ「はぇー......」
その程度の感想しか出ないくらいに私の心が落ち着きを取り戻させようとしている。ここにきて三者面談かーー人数ちょっと違うけどーーとりあえず、静観していようか、と思い、気づかれにくいと思う席に腰を下ろす。
ウルガ「とりあえず、結婚を認めることはできません。2人とも20歳になってから出直してきなさい」
ネイ「あんたに認められなくても勝手に結婚しますよ!式はこのギルドで上げて一生の愛を誓うんですよ!」
ヴァル「おい、そこまではまだ話してないだろ......」
ネイ「ヴァルももっと男を見せてください!じゃないとこいつらいつまで経っても引きませんよ!」
ヴァル「えぇぇぇ......」
ウルガ「とにかくです!私は認めません!はい、この話は終わりにしてこの街を案内しなさい」
イデアル「お父さん本音が漏れてるよ......」
ヴァルガ「そうだぞ。折角早めに話をつけて家族水入らずで観光でもしようかという計画を立てていたのに、それがばれたら大変だぞ」
ヒカリ「心の声と実際に言いたいことが逆になってるよ?クソ親父」
ヴァルガ「む、しまった」
なんだこの痴話喧嘩。ふだんのあれと違って平和すぎるし面白すぎるんだけど。ヤバい、笑いを堪えるのに必死で、背中が震えている。あれ?いつの間にかフウロが隣にいて私と同じように背中震わせてるんだけど。
ネイ「もういいです。この分からず屋共」
ネイりんは諦めたかのようにして立ち上がるが、次の瞬間気を失ったかのようにして倒れた......ところをすかさずヴァルが抱える。おお、カッコいい。私にもやってほしいと思ったけど、私普通に健康な体だしなぁと諦めた。
ユミ「残念だが、今日はこいつの都合のいい電池切れで終了だ。まだなんかあるんだったら日を改めてから来な」
ユミはやっと終わったとばかりに欠伸をして外に出ていった。多分、その辺の森にいる魔獣狩りにでも行くのであろう。
ウルガ「まだです。娘の監視の下ではありますが、やっと認められた貴重な開放日なのです。ここで引き下がるわけにはいきません」
ヒカリ「いや、そこは引き下がりなさいよ」
ウルガ「時にヴァル君。こうなっては仕方ない。ここら辺に広々とした空間はありませんか?」
ヴァル「あーっと、ここら辺なら......って待て。ものすごく嫌な予感がするんだが!」
ウルガ「いいから教えなさい。認めませんがお義父さんとなるかもしれない存在。言うことは聞きなさい」
物凄い殺気で前髪がふわっと立ち、隙間から物凄い形相となったウルガの目が見える。話し方と娘2人の顔からして、勝手に優しそうな顔だと思ってたけど、どうやら2人とも目つきは母親譲りらしく、ウルガの目つきはかなり悪かった。
ヴァル「え、えーっと、この辺に噴水のある広場があるんだが......」
ウルガ「よろしい。ならばそこで決闘です」
やっぱり......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
イデアル「お父さん、あんまり調子に乗らないようにねー」
ウルガ「分かっています。ですが、これは負けられない戦い。少々本気を出させていただきます」
と、いうわけで、ヴァルさんの案内で本当に噴水のある広場へとやって来た。広いか?って言われると、ちょっとうーん?ってなるくらいだけど、まあ、全力を出して戦わなければ大丈夫でしょ、と安堵したい気持ちである。
セリカ「ヴァールー、出来るだけ地形変えないようにねー」
ヴァル「あー、なるべく努力する」
......どうしよう。嫌な予感しかしない。彼、やる気なさそうにしてるけど、目に火が灯ってるよ。あれ、やる気の目だよ。
せめて、ネイが起きててくれればまだ抑えられたのかなぁ?今は私の膝ですっごい気持ち良さそうに寝てるけど......。見れば見るほどに可愛い妹。これが神様だなんて信じられないよ。
ミラ「はーい、じゃあ勝負開始ー!」
ウルガ「それでは、行きましょうかヴァル君。私は全力でーー」
ヴァル「極龍王の咆哮!」
......
......
......
Oh......すっごい炎。見てるだけのこっちにまで飛び火するくらいに火花が散ってきたよ......。
ウルガ「無......念......」
ヴァル「とりあえず、これで良かったか?」
ヴァルさんがこっちを見てそう訊ねてくる。私はそれに対し、親指を立ててグッドサインを送る。
ヴァル「おらよ、全力でやれっていうから全力でやったぞ。これなら俺にはネイを守る力があるって認められるよな?」
ヴァルさんがお父さんの腕を引っ張り上げる。お父さんはどことなく不満そうな顔をしているが、やがて諦めたかのようにしてため息をついた。
お父さんには悪いけど、ここで負けてもらわないと、こっちとしてもネイとしても色々困るからね。これで良かった。うんうん。
ウルガ「......認めざるを得ないでしょう。いくら油断していたとはいえ、私は負けた。そしてあなたは強い......ですが、やはり、娘をやるわけにはいきません」
......お父さん。いい加減、諦めようよ。正直に言って物凄くめんどくさいんだけど。
ウルガ「私は、彼女を17年もの間放置し、更にはこうして正常になった今でもあまり触れ合うことが出来なかった。ええ、私が悪いのは分かっていますよ。ですが、それでも私は彼女、ネイとの時間を得たい。だから、今あなたに渡す訳にはいかないのです」
本音はそれか......。まあ、お父さんとネイは全然関わりを持ってないからな。というか、ネイが私達の世界に全然顔を出さないのが原因なんだけど。でも、今のを聞いてお父さんの気持ちもちょっとは分かる。まだ、何も親子らしいことをしてないのに、もう結婚して更に遠くに行くなんて、父親としては許せないことなのだろう。
......でも、父親なら娘の幸せくらい祝福してあげてもいいと思うけどなぁ。
ウルガ「............それでも、祝うしかないのでしょう」
ヴァル「......?」
ウルガ「いいでしょう。娘であるネイはあなたに任せます。ですが、私はあなたを認めた訳ではありません。ええ、決して。私は、ただ娘の幸せを邪魔するのは邪険かと思っただけです」
ヴァル「お、おう」
ヴァルさんの手を握ったお父さんだけど、まだ不満があるみたい。それを表すかのように、チラチラとこっちの方を見てはため息を幾度となくついている。
......そうだね。お父さんも、このまま何もなしで終わるのは悲しいだろうね。
イデアル「ネーイ。どうせもう起きてるんでしょう?」
ネイ「......気づいてましたか」
イデアル「さっき、火花が散ってきた時に若干眉がピクってなってたから」
ネイ「見逃しませんね。本当に......」
ネイが目を覚まして、お父さん達の方を見た。お父さんは一瞬こちらに気づいたっぽいけど、すぐに目を逸らしてヴァルから手を離した。
ウルガ「さて、私達は帰りましょうか。もうやるべき事は終わりました」
イデアル「......本当にこれだけでいいの?」
終わり終わり、と近づいてきたお父さんに対して、私はネイの顔を向けてそう言う。
イデアル「少し、デートでもして来たら?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
で、お姉ちゃんの提案で、私は渋々とお父さんとこの街を観光しています(今更見るものないけど)。
ウルガ「私達の世界とは随分と違ったものです。見てるだけで新鮮味しか感じられません」
ネイ「そう、そうれは良かったですねー」
あーあ、あのまま寝たフリでもしとけば良かったなぁ。まさか、お姉ちゃんがあんな提案をしてくるとは考えなかった。やっぱ、右目は常に黄金の瞳にしてた方がいいのかな?何かと便利なことが多いし、陰口とか聞こえたところで何も気にしないし、何よりゼラ達の幻影を映せる。
......いや、あれはいざって時にこそ使って意味があるものだ。普段使いするようなもんじゃない。
ウルガ「おや、これは何でしょうか?」
ふと、お父さんが八百屋の前で足を止め、赤色の果実に目を留めている。
ネイ「それはカラン。お父さん達の世界ではイブヤって呼ばれてたはずの果物」
ウルガ「ほう、あれですか。確かに、若干似てはいますね」
ネイ「似てるんじゃなくて全く同じものだったはずだけどね」
記憶は不確かだけど、この世にある農作物は大体全ての世界に存在している。名前とか使われ方は違えど、世界が繋がっていることの証になっている。
ウルガ「ふむ、土産に何個か買いましょうか。親父、これを10個」
「あいよ!カラン10個な。5ゼルだ」
八百屋のおっちゃんが金銭を求めるように手を差し出すと、お父さんはなぜか私に目を向けてきた。
ネイ「せめて、お金を携えてから話をしましょうか?」
ウルガ「異界から来た私が、この世界の金銭を持っているとでも?」
ネイ「......」
仕方ないので、私は亜空間から財布を取り出して金を渡す。
「世の中不思議な客もいたもんだ」
去り際、おっちゃんが小さくそう呟いていたのを私は聞き逃さなかった。
龍人嫌いが多かったこの街も、この間の戦いで、この世界を救ったのは金髪の龍人だという噂が広がり、すっかり龍人を英雄視するようになった。全く、歴史を学ばない者はすぐに手のひらをくるくるさせるんだな、と私はフードの位置を調整しながらそう思う。ん?なんでフードを被ってるのかって?そら、金髪の龍人なんて正に私のことじゃない。めんどうなことは極力避けるのが怠惰の魔女なのよ。
ウルガ「ふむ、病室の味がしますね」
ネイ「早速食べてる......ってか、病室の味って、やっぱ向こうにあるものと一緒じゃない」
ウルガ「そうですね。ですが、これには優しさという味があります。そう、娘が奢ってくれたというね」
ネイ「5倍にしてツケにするよ?」
ウルガ「生憎、私はまだまだ院内生活が続くので、返せるのは何年先になるか分かりませんよ」
ネイ「時間巻き戻すか先に進めるかして万全な状態にしてあげることも可能なのだけれど、どうする?お姉ちゃんに話したら是非お願いって言われる内容なのだけれど」
ウルガ「おっかない能力です。遠慮しときますよ、まだしばらくはゆっくりしていたいですし」
ネイ「そう、じゃあ、まだ無職ヒモのニート生活を続けるんですね」
ウルガ「言い方が悪いですよ。結婚式には呼んでくださいね」
ネイ「っ!ゲホッゲホッ!」
あまりに急な話のせいで、思わず血反吐を吐いてしまった。
ウルガ「不意打ち成功、と言いたいところでしたが、大丈夫ですか?」
ネイ「誰のせいだと思ってるんですか......。今の私、超絶不健康体だってこと忘れてたんですか。というか、それが理由で結婚を反対されてると思ってたんですけどゲホッ!」
ウルガ「......ええ。あなたがただの人間ではないことを知っていますし、だからこそ、私の傍から離したくなかったのです。いつ、何になるかも分からない娘を、幸せになれるのかどうかも分からない場所に置き去りにしたくない。ずっと、私の傍で安定させておきたい。でも、どうやら私が間違っていたようです。私があーだこーだ言うことにより、あなたは却ってストレスを抱えてしまっている。あんな男に渡すのは嫌でしたが、それもまた運命。大人しく、父親らしく祝福してあげようと今思いましてね」
ネイ「......お父さん」
ウルガ「ただし、2日に1回のペースで帰ってくること」
ネイ「さっきまでの私の感動返せ」
ウルガ「ははは。冗談ですよ、冗談。あなた、いえ、ネイはネイのやりたいようにやれ。ユニバーなら、きっとそう言うでしょうから」
ネイ「......」
お母さん......。
忘れていたものが、まだ喉の奥につっかえていたようだ。散々涙を枯らしたのに、まだ泣きたいことが残っていたなんて......。
私、やっぱりこのお父さんは苦手だ。血が繋がっているといえど、私のお父さんはギリテアの他にいない。それでも、家族だと言うのであれば、話すしかないのか。
ネイ「......お母さんのことで、話さなきゃいけないことがある」
ウルガ「......そうですか。では、家族みんなで話でもしましょうか」
お父さんが俯いた私の肩を突っついて、前方を見るように促す。
全然気づかなかったけど、どうやらもうギルドの前にまで戻ってきていたようだ。お姉ちゃん達が手を振っている。
ウルガ「ちょっとだけ、過去の物語を漁るというのも、まあ、悪くはないですね」
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王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
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