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第5章 【黒の心】
第5章16 【鏡は己を写す】
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「あぅー......」
火照った顔をして、苦しそうに横たわってる少女。
見間違いようもなくネイである。
なぜ、こんなことになっているのかと言うと、セリカ曰くのぼせたらしい。
確かに、温泉と言えば暑いのが常だが、のぼせるまで入るのもどうかと思う。と思ったが、セリカ曰く、シャワーしてる途中でのぼせたらしい。
「は?」
これは、その話を聞いた俺の第一声である。
温泉に浸かっていた時間は3分もないらしく、ただただシャワーを浴びてる途中でのぼせたらしい。ちょっと何言ってんのか分かんないです。
まあ、とにかくのぼせた事には間違いない。
「そういや、前に春でも熱中症起こすとか聞いたことがあんな......」
うちわでネイの体を扇ぎながらそう言う。
「春でもなるのか......。それは、のぼせても仕方ないな」
「温泉街に行くとか言ってた奴が、こんなんでどうすんだよ......」
流石のミイも呆れが出てるらしい。
「相手が上手でした......」
「お前が貧弱なだけだよ」
ここの風呂に入ってないから分からないが、多分、ここはそこまで熱くない。確信を持ってネイが貧弱だからと言える。
「こいつァ本当に神様って奴なのか?」
「狂っても神様らしいぞ。尚、戦いの時のみ」
「あぁなるほど。そういうことならァ、今は人間様モードってことかァ」
そういうことだろうな。戦いの時以外は殆ど人間。というか、人間より弱い。
体力はないし、熱いのは嫌いだし、お調子者だし、コミュ障だし......良いところ1つもねえな!
「こんな所で人間アピールしなくていいんだよ......」
「しあたないやあひまへんか。にんへんなんてふひ」
言語能力に障害が出てるな。
本当の本当に俺達が信じた神様ってこんなんだったんだろうか。絶対違う気がする。
「まあ、この様子なら明日には元気になっているだろう」
「むしろ、のぼせた程度で翌日も体調こじらせたらたまったもんじゃないんだが......」
「だいろうぶでふほ。ひっとなほってまふから」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして翌日。
「あー、また馬車か......」
「うっぷ......」
朝から気分が悪くなるような事言わないでよ......。ネイりんに関しては、もう吐き気がしてるし......。
「お前らは想像力豊かだな。もっと別のところで使え」
「本当だァ。ちったァ楽しいこと考えろよォ」
「し、仕方ねえだろ。どうしても馬車の方が先に出てくるんだから......」
想像する前に、前提の想像が出てくるのか......。想像力豊かじゃん。
「ほら行くぞ」
そんなこんなで、道中魔物が襲ってきたり、ネイとヴァルの胃袋から何かが襲ってきたりして、何とか朱雀へと入ることが出来た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
朱雀に入ってからは、聞き込みの連続。
知りもしない鬼族の人に声をかけては、『ユミ』と『強盗』の二言を聞く。それで、何か知ってる人がいるのなら良かったが、誰1人として知らないらしい。
「あー、もうクタクタ」
バスタオル1枚の体でベッドに倒れ込む。
収穫なしがここまで辛いものだとは思いもしなかった。
「流石は温泉街......」
経済的に発展しているのだろう。和の国であるはずの白陽なのに、高い建物がたくさん並んでいる。まるで、グランアークの王都みたい。
ここだって、宿じゃなくホテルと呼ばれる高層宿だし......。
同じ部屋になったはずのフウロは戻って来ない。仕事熱心な人達だと思うが、今何時だ?
まあ、どうでもいいや。寝よ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー、疲れてんのに、まだ動かし足りねえ気分......」
もう職業病なのだろうな。
もっと体を動かしておかないと、寝れない。なので、気分転換に散歩に出かけた。
「置いて行こうとするなんて酷いですよ......」
なーぜか、ネイも付いてきている。
「付いてくんのは構わねえんだが、角と羽は隠しておけ」
「大丈夫ですよ。この国は龍人差別とか、そういうのはありませんから」
確かに、こんだけ鬼が混ざっている街ならそんな心配はなさそうだな。
「つっても、お前疲れてんじゃねえのかよ」
「疲れてますけど、ヴァルが行くなら話は別です」
なんだその執念みたいなものは。ミイはそこまでベッタリじゃないのに、ネイのこのベッタリ具合は何なんだ?
可愛いから良しとするか。
「......1つ、話したいことがあるんですけど、良いですか?」
「......なんだ?そんな改まって」
「ミイの事についてです」
あいつの事でなんか話すことでもあったか?
「ミイは紛れもなく私から生まれた存在っていうのは知ってますよね?」
「そうじゃなきゃ説明がつかないからな」
「なぜ、800年前の私の体にミイの魂が宿ったのか、そもそも、なぜ、ミイという人格が現れたのか......」
「それは、邪龍のせいだろ」
「邪龍のせい、とミイは言ってますし、私も言ってます。でも、実際は違うんです」
「どういう事だ?」
「あれは、私に元々あった暗殺者の心。邪龍とは無関係です」
「......」
邪龍と、無関係だと......?だとしたら、あいつはなんだって言うんだ?
「ミイは私。でも、全てが反転している存在。私が嘘つき、隠し事多めなのに対し、ミイは正直で隠し事はしないように、私達は同じ存在でも違う存在なんです」
「あぁ、それは何となく察してたよ」
「それで、違う存在だからこそ、私達は分かり合えない......」
「......結局、何が言いたいんだ?俺には遠回しで何かを伝えようとしているのかすら分からない。結論を先に言え」
「......ミイが、消滅する可能性があるということです」
......。どういう事だ?
ミイが、消滅する......?なんで。そんな素振り、どこにも見えないのに。
「殺意と憎悪で作られた存在である者が、その感情を抑えれば、どうなると思いますか?」
「......俺には分からねえ」
「簡単な話、自分を形成している感情が消えれば、その存在は無くなるんですよ」
「全っ然意味が分かんねえ......」
「もっと簡単に説明すると、魂だけの存在であるミイは、その感情を消しつつある。それは、彼女自身を抹消する事とイコールなんです」
つまり、あいつは俺達と過ごしてる中で、自分を消そうとしてるってことになるのか......?
「この旅だって、彼女に思い出を作らせるため、彼女が自分という存在をみんなに覚えてもらうために考えたんです」
「じゃあ、鬼族の依頼に関しては......」
「いえ。それに関しては、もう情報は掴めました」
なんだ。そんなことなら安心......できるのだろうか?
ミイが消えてしまうかもしれないと分かり、それでもこの旅を楽しめるのだろうか?
「今、なぜこんなことを話したのかと言うと、ヴァルにだけは知っててほしかったからです。ミイの、契約者として」
「......俺は、どうすればいい」
「彼女と一緒にいてあげてください。彼女を幸せにしてあげてください。彼女の事を、覚えていてください」
「......」
「それで、鬼族の依頼に関しては、私達で解決してしまいましょうか」
「......?」
「ここです」
いつの間にか、鬼族の住宅街へと入り込んでいた。
「例のネックレスに関しては、この盗品蔵で見つけました」
「それが本物なのかも分からねえのにか?」
「私程度になれば、捜し物かどうかくらいは書庫で分かります」
そういや、そんな便利な能力を持ってたな。
「んで、見つけたのはいいが、どうやって取り戻すんだ?」
「無理矢理奪い返すと、私達も強盗になっちゃうので、お金で解決しましょうか?」
どこで手に入れたのか疑いたくなるほどの大金を持ってる。
「一応聞いとくが......」
「気にしないでください」
「聞いてーー」
「気にしないでください」
「......」
世の中知らない方がいいこともある。盗んでない事だけ祈っておこう。
「邪魔するぜー」
覚悟を決めて盗品蔵へと立ち入る。
真っ暗で何も見えない。
「営業時間外か?」
拳に炎を灯して、辺りを見渡す。
「おかしいですね......。昼間来た時は人がいたのに......」
そら、昼間だからな。営業時間だったんだろう。
「なら、そのネックレスだけ取り戻して、おさらばしちまおうぜ」
「......盗みは良くないかと」
いや、そもそもここにあるの盗品だろ。騎士団ーーそういや、ここ白陽だから違うなーーらしきところに言えば、簡単に抑えられるだろう。
「どれだ?例のネックレスは」
「......あ、これですこれ」
ネイが壁に飾ってあった青色のネックレスを取る。
薄暗くてもよく分かる輝きを放っている。結構な値打ちものだな。
「......?」
何やら、後ろから殺気を感じる。
振り向いて見るが、誰もいない。
「気のせい......か?」
「どうかしました?」
「いや、なんか殺気を感じただけだ」
「......?」
「多分、気のせいだ帰ろうぜ」
「......!ニルヴァーナ!」
「おわっ!」
突然、ネイが俺に向けて魔法を放つ。
「何すんだいきなり......」
「ヴァル、その殺気、気のせいじゃありません」
ネイが目線を向けた先、そこには女がいた。
「誰だお前」
「ヴァル、話すのは無駄です。ここは、退散するのが吉」
ネイにしては、臆病な策だ。でも、ネイがそう言うからには何かあるのかもしれない。
逃げると言っても、入口は向こうが押えている。天井にでも穴を開けるか?
「......ヴァル、カウンターの内側。そこに、死体が2つ転がっていたんです」
「......なんだと?」
「多分、殺した犯人はあいつでしょう。硬直具合から見て、殺されたのはほんの数分前。私達が来たから、慌てて逃げたといったところでしょう」
そうなのか。って事は、殺人鬼と対峙してるっていう何気に危険な状況じゃん!
「どうやって逃げるつもりだ?あいつ、あそこから全然動かねえんだけど」
「ここは、ヴァルがあの女の人に話しかけてーー」
「殺されるわバカ!」
「冗談ですよ。向こうが殺しにくる前に、こっちから殺してやりますよ」
そんな上手く行くか......?
「フィア・アンド・ウォタル・スクリーン・54・11・32・ディスチャージ!」
ミイ戦で見せた、例の技をあの女に向けて放つ。
これで、大人しく引いてくれると助かるのだが。
「喋りもしねえし、こっちにも来ねえし、気味が悪いな」
「しかも、攻撃を全部避けてますからね......」
ただただ気味が悪い。
「......どうやら、向こうも飽きたみたいですね」
「うぉっ!」
急にあいつが動き出した。前動作なんかなく、俺の目の前に一瞬で現れた。
「くっそ、黙りかよ!」
炎が灯ったままの拳で殴りかかる。
予想はしていたが、容易く避けられた。
「シズ、お願い!」
なんでここでシズなんだ。ラヴェリアの方が良い気がする。
「ヴァル殿、我が盾に身を隠してください」
「盾持ってねえじゃん!」
「今作ります。聖盾」
巨大なバリアが目の前に展開される。
あの女の攻撃は1ミリたりともこちらに入ってこない。
「龍血」
あの女から血を吸い取っている。ハッキリ言おう。気持ち悪い。
それを見てか、流石に分が悪いと思った女はこの蔵から立ち去って行く。
「......何だったんだ?あいつは」
「多分、このネックレスを狙っている者でしょうね」
「これに何の価値があんだよ。高そうではあるけど」
「それ、ただのネックレスじゃありませんよ」
どう見てもただのネックレスにしか見えないんだが。まさか、強力な魔力が秘められてたり、冥界への扉を開く鍵になってたりでもするのか?
「そのネックレス、かなり特殊な術式が編み込まれています」
「特殊な術式ねぇ......」
「未来を見通す魔法です......」
「へぇー......未来......ちょっと待て。今なんて言った?」
「未来を見通す力があります」
「マジで!?」
「はい。並の魔導士じゃ、気づくことすら出来ませんが、私くらいならその力を発動させることも出来ます」
「そうなのか......」
じゃあ、そんな力を秘めたネックレスを探し求めてたユミって奴は、一体何者なんだ?
「......ユミさんは、鬼族でも、かなり特殊な部類に入るんです。今は話すことが出来ませんが、このネックレスは彼女の元にあるべき物です」
「そうか。じゃあ、さっさと帰って、報酬貰っちまおうぜ」
「そうですね」
火照った顔をして、苦しそうに横たわってる少女。
見間違いようもなくネイである。
なぜ、こんなことになっているのかと言うと、セリカ曰くのぼせたらしい。
確かに、温泉と言えば暑いのが常だが、のぼせるまで入るのもどうかと思う。と思ったが、セリカ曰く、シャワーしてる途中でのぼせたらしい。
「は?」
これは、その話を聞いた俺の第一声である。
温泉に浸かっていた時間は3分もないらしく、ただただシャワーを浴びてる途中でのぼせたらしい。ちょっと何言ってんのか分かんないです。
まあ、とにかくのぼせた事には間違いない。
「そういや、前に春でも熱中症起こすとか聞いたことがあんな......」
うちわでネイの体を扇ぎながらそう言う。
「春でもなるのか......。それは、のぼせても仕方ないな」
「温泉街に行くとか言ってた奴が、こんなんでどうすんだよ......」
流石のミイも呆れが出てるらしい。
「相手が上手でした......」
「お前が貧弱なだけだよ」
ここの風呂に入ってないから分からないが、多分、ここはそこまで熱くない。確信を持ってネイが貧弱だからと言える。
「こいつァ本当に神様って奴なのか?」
「狂っても神様らしいぞ。尚、戦いの時のみ」
「あぁなるほど。そういうことならァ、今は人間様モードってことかァ」
そういうことだろうな。戦いの時以外は殆ど人間。というか、人間より弱い。
体力はないし、熱いのは嫌いだし、お調子者だし、コミュ障だし......良いところ1つもねえな!
「こんな所で人間アピールしなくていいんだよ......」
「しあたないやあひまへんか。にんへんなんてふひ」
言語能力に障害が出てるな。
本当の本当に俺達が信じた神様ってこんなんだったんだろうか。絶対違う気がする。
「まあ、この様子なら明日には元気になっているだろう」
「むしろ、のぼせた程度で翌日も体調こじらせたらたまったもんじゃないんだが......」
「だいろうぶでふほ。ひっとなほってまふから」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして翌日。
「あー、また馬車か......」
「うっぷ......」
朝から気分が悪くなるような事言わないでよ......。ネイりんに関しては、もう吐き気がしてるし......。
「お前らは想像力豊かだな。もっと別のところで使え」
「本当だァ。ちったァ楽しいこと考えろよォ」
「し、仕方ねえだろ。どうしても馬車の方が先に出てくるんだから......」
想像する前に、前提の想像が出てくるのか......。想像力豊かじゃん。
「ほら行くぞ」
そんなこんなで、道中魔物が襲ってきたり、ネイとヴァルの胃袋から何かが襲ってきたりして、何とか朱雀へと入ることが出来た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
朱雀に入ってからは、聞き込みの連続。
知りもしない鬼族の人に声をかけては、『ユミ』と『強盗』の二言を聞く。それで、何か知ってる人がいるのなら良かったが、誰1人として知らないらしい。
「あー、もうクタクタ」
バスタオル1枚の体でベッドに倒れ込む。
収穫なしがここまで辛いものだとは思いもしなかった。
「流石は温泉街......」
経済的に発展しているのだろう。和の国であるはずの白陽なのに、高い建物がたくさん並んでいる。まるで、グランアークの王都みたい。
ここだって、宿じゃなくホテルと呼ばれる高層宿だし......。
同じ部屋になったはずのフウロは戻って来ない。仕事熱心な人達だと思うが、今何時だ?
まあ、どうでもいいや。寝よ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー、疲れてんのに、まだ動かし足りねえ気分......」
もう職業病なのだろうな。
もっと体を動かしておかないと、寝れない。なので、気分転換に散歩に出かけた。
「置いて行こうとするなんて酷いですよ......」
なーぜか、ネイも付いてきている。
「付いてくんのは構わねえんだが、角と羽は隠しておけ」
「大丈夫ですよ。この国は龍人差別とか、そういうのはありませんから」
確かに、こんだけ鬼が混ざっている街ならそんな心配はなさそうだな。
「つっても、お前疲れてんじゃねえのかよ」
「疲れてますけど、ヴァルが行くなら話は別です」
なんだその執念みたいなものは。ミイはそこまでベッタリじゃないのに、ネイのこのベッタリ具合は何なんだ?
可愛いから良しとするか。
「......1つ、話したいことがあるんですけど、良いですか?」
「......なんだ?そんな改まって」
「ミイの事についてです」
あいつの事でなんか話すことでもあったか?
「ミイは紛れもなく私から生まれた存在っていうのは知ってますよね?」
「そうじゃなきゃ説明がつかないからな」
「なぜ、800年前の私の体にミイの魂が宿ったのか、そもそも、なぜ、ミイという人格が現れたのか......」
「それは、邪龍のせいだろ」
「邪龍のせい、とミイは言ってますし、私も言ってます。でも、実際は違うんです」
「どういう事だ?」
「あれは、私に元々あった暗殺者の心。邪龍とは無関係です」
「......」
邪龍と、無関係だと......?だとしたら、あいつはなんだって言うんだ?
「ミイは私。でも、全てが反転している存在。私が嘘つき、隠し事多めなのに対し、ミイは正直で隠し事はしないように、私達は同じ存在でも違う存在なんです」
「あぁ、それは何となく察してたよ」
「それで、違う存在だからこそ、私達は分かり合えない......」
「......結局、何が言いたいんだ?俺には遠回しで何かを伝えようとしているのかすら分からない。結論を先に言え」
「......ミイが、消滅する可能性があるということです」
......。どういう事だ?
ミイが、消滅する......?なんで。そんな素振り、どこにも見えないのに。
「殺意と憎悪で作られた存在である者が、その感情を抑えれば、どうなると思いますか?」
「......俺には分からねえ」
「簡単な話、自分を形成している感情が消えれば、その存在は無くなるんですよ」
「全っ然意味が分かんねえ......」
「もっと簡単に説明すると、魂だけの存在であるミイは、その感情を消しつつある。それは、彼女自身を抹消する事とイコールなんです」
つまり、あいつは俺達と過ごしてる中で、自分を消そうとしてるってことになるのか......?
「この旅だって、彼女に思い出を作らせるため、彼女が自分という存在をみんなに覚えてもらうために考えたんです」
「じゃあ、鬼族の依頼に関しては......」
「いえ。それに関しては、もう情報は掴めました」
なんだ。そんなことなら安心......できるのだろうか?
ミイが消えてしまうかもしれないと分かり、それでもこの旅を楽しめるのだろうか?
「今、なぜこんなことを話したのかと言うと、ヴァルにだけは知っててほしかったからです。ミイの、契約者として」
「......俺は、どうすればいい」
「彼女と一緒にいてあげてください。彼女を幸せにしてあげてください。彼女の事を、覚えていてください」
「......」
「それで、鬼族の依頼に関しては、私達で解決してしまいましょうか」
「......?」
「ここです」
いつの間にか、鬼族の住宅街へと入り込んでいた。
「例のネックレスに関しては、この盗品蔵で見つけました」
「それが本物なのかも分からねえのにか?」
「私程度になれば、捜し物かどうかくらいは書庫で分かります」
そういや、そんな便利な能力を持ってたな。
「んで、見つけたのはいいが、どうやって取り戻すんだ?」
「無理矢理奪い返すと、私達も強盗になっちゃうので、お金で解決しましょうか?」
どこで手に入れたのか疑いたくなるほどの大金を持ってる。
「一応聞いとくが......」
「気にしないでください」
「聞いてーー」
「気にしないでください」
「......」
世の中知らない方がいいこともある。盗んでない事だけ祈っておこう。
「邪魔するぜー」
覚悟を決めて盗品蔵へと立ち入る。
真っ暗で何も見えない。
「営業時間外か?」
拳に炎を灯して、辺りを見渡す。
「おかしいですね......。昼間来た時は人がいたのに......」
そら、昼間だからな。営業時間だったんだろう。
「なら、そのネックレスだけ取り戻して、おさらばしちまおうぜ」
「......盗みは良くないかと」
いや、そもそもここにあるの盗品だろ。騎士団ーーそういや、ここ白陽だから違うなーーらしきところに言えば、簡単に抑えられるだろう。
「どれだ?例のネックレスは」
「......あ、これですこれ」
ネイが壁に飾ってあった青色のネックレスを取る。
薄暗くてもよく分かる輝きを放っている。結構な値打ちものだな。
「......?」
何やら、後ろから殺気を感じる。
振り向いて見るが、誰もいない。
「気のせい......か?」
「どうかしました?」
「いや、なんか殺気を感じただけだ」
「......?」
「多分、気のせいだ帰ろうぜ」
「......!ニルヴァーナ!」
「おわっ!」
突然、ネイが俺に向けて魔法を放つ。
「何すんだいきなり......」
「ヴァル、その殺気、気のせいじゃありません」
ネイが目線を向けた先、そこには女がいた。
「誰だお前」
「ヴァル、話すのは無駄です。ここは、退散するのが吉」
ネイにしては、臆病な策だ。でも、ネイがそう言うからには何かあるのかもしれない。
逃げると言っても、入口は向こうが押えている。天井にでも穴を開けるか?
「......ヴァル、カウンターの内側。そこに、死体が2つ転がっていたんです」
「......なんだと?」
「多分、殺した犯人はあいつでしょう。硬直具合から見て、殺されたのはほんの数分前。私達が来たから、慌てて逃げたといったところでしょう」
そうなのか。って事は、殺人鬼と対峙してるっていう何気に危険な状況じゃん!
「どうやって逃げるつもりだ?あいつ、あそこから全然動かねえんだけど」
「ここは、ヴァルがあの女の人に話しかけてーー」
「殺されるわバカ!」
「冗談ですよ。向こうが殺しにくる前に、こっちから殺してやりますよ」
そんな上手く行くか......?
「フィア・アンド・ウォタル・スクリーン・54・11・32・ディスチャージ!」
ミイ戦で見せた、例の技をあの女に向けて放つ。
これで、大人しく引いてくれると助かるのだが。
「喋りもしねえし、こっちにも来ねえし、気味が悪いな」
「しかも、攻撃を全部避けてますからね......」
ただただ気味が悪い。
「......どうやら、向こうも飽きたみたいですね」
「うぉっ!」
急にあいつが動き出した。前動作なんかなく、俺の目の前に一瞬で現れた。
「くっそ、黙りかよ!」
炎が灯ったままの拳で殴りかかる。
予想はしていたが、容易く避けられた。
「シズ、お願い!」
なんでここでシズなんだ。ラヴェリアの方が良い気がする。
「ヴァル殿、我が盾に身を隠してください」
「盾持ってねえじゃん!」
「今作ります。聖盾」
巨大なバリアが目の前に展開される。
あの女の攻撃は1ミリたりともこちらに入ってこない。
「龍血」
あの女から血を吸い取っている。ハッキリ言おう。気持ち悪い。
それを見てか、流石に分が悪いと思った女はこの蔵から立ち去って行く。
「......何だったんだ?あいつは」
「多分、このネックレスを狙っている者でしょうね」
「これに何の価値があんだよ。高そうではあるけど」
「それ、ただのネックレスじゃありませんよ」
どう見てもただのネックレスにしか見えないんだが。まさか、強力な魔力が秘められてたり、冥界への扉を開く鍵になってたりでもするのか?
「そのネックレス、かなり特殊な術式が編み込まれています」
「特殊な術式ねぇ......」
「未来を見通す魔法です......」
「へぇー......未来......ちょっと待て。今なんて言った?」
「未来を見通す力があります」
「マジで!?」
「はい。並の魔導士じゃ、気づくことすら出来ませんが、私くらいならその力を発動させることも出来ます」
「そうなのか......」
じゃあ、そんな力を秘めたネックレスを探し求めてたユミって奴は、一体何者なんだ?
「......ユミさんは、鬼族でも、かなり特殊な部類に入るんです。今は話すことが出来ませんが、このネックレスは彼女の元にあるべき物です」
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